魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第25話 濡れ草の上で

すぴー 

 

すぴー

 

すぴー

 

 

 ほぼ等間隔で、その音は響いていた。寝息である。

 その主は、二つのソファを向かい合わせて足をロープで繋げた即席のベッドの上で毛布を体に重ね、仰向けになって安らかに眠っていた。

 前髪の中、渦を巻いてピンと伸びたアホ毛が寝息と共に揺れていた。

 そのアホ毛の下、彼女の額には絆創膏が貼られていた。

 

 二枚の絆創膏を×の字に重ねて貼っている。

 漫画でしか見たことが無い使い方だった。

 絆創膏からは赤く腫れた皮膚が見えた。殴打によるものである。

 その加害者は今、廃教会内にいなかった。

 

 月も隠す、黒く分厚い雲の下にいた。

 

 

 

 

「ちゅ…ん……ちゅぱ」

 

 

 甘ったるい響きの音が夜の大気に触れる。

 音源は廃教会から少し離れた場所。

 教会前の広場の隅の草むらであった。

 雨により濡れた植物と土の上で、重なり合う二つの身体。

 

 治癒は済ませたが、感覚的にまだ火照っている背中に冷たい水気と泥の感触が心地いい。

 杏子に圧し掛かられ、唇を貪られているナガレはそう思った。

 ここ最近の通例となった、いつもの光景である。

 異なるのは彼の背にある泥濘が、血液か泥かというあたりか。

 

 

「あんた…今日はやけに無抵抗じゃねえの」

 

 

 ま、そういうのも良いけどよ。

 そう言って杏子は彼に額を自分の額で軽く小突いてクスリと笑った。

 彼女の額には赤い腫れが浮いていた。

 

 

「誰の所為だよ」

 

 

 口内を蹂躙する舌を自分の舌で押し退け、ナガレは言葉を送る。

 

 

「決まってんだろ。もちろんあたし」

 

 

 彼の舌に自分の舌を巻き付ける杏子。

 更に彼の肩と腹に触れていた手を、彼の背に回して抱き締める。

 重なり合う胸と胸。

 薄い脂肪で隔てた奥に、彼の頑強な筋肉で覆われた胸がある。

 その奥には彼の命の証である鼓動。

 

 その脈動は、彼女を大いに欲情させた。

 自分が求める永劫の地獄。

 それはそこにあるのだと、彼女に実感させる命の輝き。

 ナガレの鼻先を掠めるのは、雄を狂わせる雌の匂い。

 しかしながら、例によって彼はそれに反応しない。

 

 

「元気そうだな。安心したぜ」

 

 

 そう、安堵と皮肉を返すのみである。

 抱かれている、という状況がそもそも好きでないせいもある。

 

 

「みたいだね。上と下で引き千切れたのは初めてだったから、ちゃんと繋がるかは正直不安だったけどさ」

 

 

 彼を抱き締めながら、杏子は下腹部を彼の腹に擦りつける。

 ホットパンツは既に水気を含んでいる。濃密な雌の臭気が彼に押し付けられる。

 

 

「調子良いね。ホントにさ」

 

「………」

 

 

 無言の彼。

 良すぎんだよ、と言いたかった。

 だがそう言ったら、今以上の行為を求めてくるに決まっている。

 好意を向けられるのは嫌な気分で無いが、彼にとって今の佐倉杏子はどこまでいっても16歳の子供なのであった。

 

 

「調子っていやぁよ……凄かったな、あいつ」

 

「………ああ」

 

 

 露骨に顔を不快さに歪める杏子。

 声に纏われるのは嫉妬の音色。

 別の女が彼の関心を得ることを、彼女は不快と感じるようになっていた。

 あいつらのせいだな、と杏子は思った。

 

 言うまでも無くキリカと麻衣の事である。

 ヤンデレ成分と言えば道化もその属性の持ち主だったが、最早彼女のそれは健全さに限りなく近いものと化している。

 杏子、キリカ、麻衣が彼に向ける感情は確かに愛ではあるが、不健全どころではないのであった。

 

 杏子の思考の中、恋敵二匹の顔が浮かんだ。

 キリカは朗らかに微笑み、麻衣は道端の犬の糞でも見るような顔で杏子の方を向いていた。

 それを払拭すべく、杏子は先の戦闘の事を思い出すことにした。

 

 食事の後、魔女の気配を感じた。 

 ナガレと杏子は気配で、かずみはアホ毛で。

 本人がそう言うのだからと、二人は疑問に思わなかった。

 

 そして現場へ急行。

 よく二人が用足しやら暇潰しに訪れる公園だった。

 馴染みの場所を潰されても困ると、アスレチックに生じた結界から中に侵入。

 

 したその瞬間、視界を真紅の熱線が埋めた。

 獲物を待ち構えていた魔女と使い魔は全貌どころか一端すら分からない内に消滅。

 その後、殺戮に狂ったかずみは杏子を奇襲して瞬殺。

 トドメを刺す寸前に割って入ったナガレと交戦を開始したのだった。

 

 結果的に杏子の頭突きにてかずみを制圧。

 気絶したかずみを、胸を貫通されたナガレが抱えた。

 魔女に無茶を言っての応急措置だが、心臓の機能が復活していた。

 

 

「頑丈過ぎんだよ、あんたは」

 

 

 と言った杏子の身体もナガレが抱いた。

 彼を頑丈と言ったが、杏子も大概に過ぎていた。

 杏子はその時、上下半身を寸断されていた。

 残っているのは左手のみ。

 かずみの攻撃で吹き飛んだ下半身は、魔女の使い魔に回収させた。

 

 溢れる血潮と破壊された内臓の臭気が漂うが、灼熱地獄となった異界の中ではさして目立たなかった。

 上半身だけとなった状態で、杏子はナガレの顔を目指した。

 

 こんな時の口づけも一興と思ったのだろう。

 キリカが似たような状態で彼と唇を重ねた事も、彼女にその行動と欲望を促した。

 あと数センチ、というところで杏子は意識を失った。

 

 あ、そっか。

 その中で杏子は思った。

 牛の魔女の、角を持つ蛇状の使い魔が運搬する自分の下半身を見ながら。

 

 下半身がぶっ千切れてるから、力(性欲)が失せてたんだな。

 と。

 

 

 

 

 そこで回想を終えた。

 自らの幻惑魔法を用いて、その様子を彼にも見せていた。

 こいつ、あの時んなコト考えてやがったのかと彼は思った。

 まぁいいや。と気分を切り替える。

 この思い切りの良さは彼の美徳の一つだろう。

 

 

「ますます手放せなくなっちまったな…あんなの世に放ったが最後、少なくとも風見野は根こそぎ消えちまう」

 

 

 その指摘に彼は頷いた。

 その首筋を杏子は舐めた。

 ざらついた熱い舌が、細くも頑強な首筋を舐め上げる。

 

 舌の奥にあるのは太い血管。

 心臓の時と同じく、彼の命の源泉を舌で味わう。

 湧き上がるのは支配欲と独占欲。

 しかしその奥に、もう一つの感情が湧いていた。

 命というものに向き合う行為に、彼女はそれを見出だしていた。

 それをどう扱うか、彼女は決めかねていた。

 

 

「あいつの力、制御してやらねぇとな」

 

 

 ナガレは言い切った。

 その言葉には責任感。

 

 

「父親のつもりかよ」

 

「そう言われちまったからな」

 

「あだ名だって言ってただろ。あんたが責任感じる要素がどこにあんのさ」

 

「あいつを見つけたのは俺で、関わったのも俺だ」

 

 

 その言葉に杏子は両手を掲げた。

 降参、のポーズである。

 彼の身体から離した手を、杏子は彼の両手に重ねて握った。

 恋人繋ぎのスタイルだった。

 

 

「そいつはあたしもさ」

 

 

 決めた。と杏子は思った。

 

 

「だから、あたしもあんたに付き合ってやる」

 

 

 あんたのせいだからな。

 といういう意思を込めた眼差しでナガレを見詰める。

 

 

「やってやるよ。最初で最後の母親ごっこ」
















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