魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第26話 会合②

すぴー 

 

 

 

すぴー

 

 

 

すぴー

 

 

 

 

 

 ほぼ等間隔で、その音は響いていた。寝息である。

 その主は、二つのソファを向かい合わせて足をロープで繋げた即席のベッドの上で毛布を体に重ね、仰向けになって安らかに眠っていた。

 前髪の中、渦を巻いてピンと伸びたアホ毛が寝息と共に揺れていた。

 そのアホ毛の下、彼女の額には包帯が巻かれていた。

 

 二昔前の少年漫画の主人公のように、まるで特攻に赴く際のサラシを思わせる巻き方だった。

 

 

「…前にも、こんな感じじゃなかったかな」

 

「タフのコピペみてぇなもんだろ。病室の使い回しとかみてぇによ」

 

 

 憔悴しきった様子で言葉を交わすのは杏子とナガレ。

 寝床を貸しているが故に、祭壇までの斜面に腰掛けて会話をしている。

 顔や腕には包帯が巻かれ、内部から漏れる赤い液体を白地に滲ませている。

 

 

「回想、するかい?」

 

 

 杏子は言った。

 ナガレは頷いた。

 魔女の中から白丸と名付けたキュゥべぇを呼び出した後の状況は、これまで混沌の渦中で死闘を繰り返してきたナガレと杏子をして、混沌に過ぎていた。

 疲れた様子で、杏子は幻惑魔法を使った。

 実体としての視界の手前に、杏子が発した魔法による映像が投影される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは……あははは……アハハハハハハハハハ!!」

 

 

 店内を哄笑が貫いた。悲鳴のような声だった。

 全ての客と、表に出ていた店員の全てがそちらを向いた。

 音を聞いてから振り向くまでの時間差は殆ど無かった。

 にも関わらず、全員が見たのは空皿と食べかけの料理をテーブルの上に残した空席だった。

 異界への誘いを担った魔力の残滓など、誰も見ることが無かった。

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 異界に木霊する咆哮。

 地面は溶け落ち、構造物は蕩けて崩れる。

 主に黒を基調とした、肌面積の極めて多い衣装を纏ったかずみが杖から熱線を連射し、動くもの全てを破壊しようと試みていた。

 身を焼かれ、手足を引き千切られ、腹を破られながらも魔法少女達は応戦した。

 杏子は巨大槍を異界の機械龍、ウザーラへと変貌させてかずみを襲撃し、京は武装した人形達の集団を差し向け、リナは雷撃の嵐を見舞った。

 

 

「があああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 雷撃を掻い潜り、人形が放つ猟銃や弓矢を杖で振り払って駆けるかずみ。

 一気に跳躍し、巨大な蛇龍の顎にかずみは肥大化させた左拳を打ち込んだ。

 大型車よりも大きな顎は一瞬で圧壊され、破片となって宙に舞った。

 墜落する巨体を足場に、かずみは龍の背にいた杏子を襲った。

 黒い十字杖を剣として振るうかずみ。

 

 力任せの剣戟だが、その力は杏子を遥かに上回り彼女の防御ごとその両腕を斬り飛ばした。

 そして既に切り裂かれ、内臓をちらりと見せている杏子の腹へとかずみは左手を突き込んだ。

 

 

「ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 敏感な内臓の表面を強く掴まれ、更には引き摺り出される。

 桃色の腸が湯気を立てながら外気に触れる。

 その背後から迫る、京が放った人形集団。 

 幼稚園児程度の大きさ、偽りの生命を与えられた非生物達は手にハサミや槍、剣に弓矢を以てかずみへと襲い掛かった。 

 攻撃の軸線上には杏子もいたが、全く構っていなかった。

 

 

「くひぃっ」

 

 

 血泡を吐く杏子の身体を、かずみは弓矢の盾にした。

 背中に突き刺さる無数の矢。

 その切っ先は杏子の腹や胸から突き出ていた。

 

 

「この……ガキっ……」

 

 

 血を吐きながら告げた言葉は、京へと向けられていた。

 かずみに対しては、杏子は敵意を抱いていない。

 少し前にナガレと交わした、「母親ごっこ」という言葉を彼女は守っていたようだ。

 かずみは確かに杏子を盾として使ったが、杏子もまたかずみを庇っていた。

 

 

「ジャマ……」

 

 

 そんな杏子をゴミのように投げ捨て、かずみは迫る人形へと杖を向けた。

 先端に灯る光。

 そして炸裂。

 光に触れた瞬間、人形の体表は消滅してフレームが剥き出しになり、そして塵も残さず消え失せた。

 放たれながら、熱線の矛先が下方へと向かう。

 熱線は首を喪った蛇龍の胴体を貫き、地上の京へと迫った。

 その前に立ち塞がる、軍人風の姿。

 

 

「させません!!」

 

 

 熱線に向けてリナは極大の雷撃を見舞った。

 自警団長の渾身の一撃はかずみの熱線とさえも拮抗した。

 真紅の光と白光の雷撃が喰らいあう。

 

 

「……ウザイ」

 

 

 かずみはボソッと呟いた。

 そして微笑む。

 

 

「リーミティ・エステールニ」

 

 

 かずみの両肩と胸の白い装飾が発光。

 真紅の輝きが連結し、胸と肩を繋ぐVの字となる。

 そしてそれもまた熱線として放たれ、かずみが杖から発する光と合流する。

 膨れ上がった力を前に、雷撃は濁流にのみ込まれる小川と化していた。

 

 リナと京が熱線の贄となる寸前、その輝きは上空へ向けて放たれた。

 一瞬先の死が回避され、リナは京を庇いながら前を見た。

 

 

「落ち着けかずみ!こいつらは敵じゃねえ!!」

 

 

 かずみの背後からナガレが抱き着き、彼女を羽交い絞めにしていた。

 熱線の範囲ギリギリに腕を絡め、輻射熱で皮膚と肉を焦がしながらもかずみの動きを止めに掛かる。

 暴れ狂う彼女をどうにか押さえつけ、熱線の矛先を魔法少女達から外しに掛かる。

 その身体は既に傷に覆われていた。

 

 魔法少女の真実を知った京が暴走し、緊急回避で異界へ赴いた瞬間、かずみが真っ先に襲い掛かったのはナガレだった。

 今の今まで、彼は吹き飛ばされて貪り食われた肉の修復を行っていた。

 

 

「があああああ!!!」

 

 

 叫びと共に一際強い力が放たれた。

 ナガレの左頬が深々と裂け、内部の舌までが刻まれた。

 身を転がして回避した先で、ナガレは巨大なねじれた円錐を見た。

 かずみの右腕は長く巨大なドリルとなっていた。

 指の面影を残した先端から根元に滴る彼の血を、かずみは舌でぺろりと舐めた。

 

 

「…おいし」

 

 

 童女のように微笑むかずみ。

 その表情のままに彼女は右腕をナガレへと向けて突き出した。

 彼の血は美味しい。

 だから、もっと欲しい。

 傷が出来ればまた飲める。

 そう考えているのだろうか。

 

 迫る死に向け、ナガレは前へと進んだ。これは何時ものことだった。

 交差する円錐と拳。

 交差は一瞬だった。

 

 走り抜けた彼の背後で、かずみは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 少し遅れて、彼の胸が引き裂けた。

 噴火した火山のように血が迸り、膝が折れかかる。

 耐えているときに、血塗れの身体に燐光が纏われた。

 白金色の光だった。

 

 

「貸し借り、などという事は言いません。当然のことですから」

 

 

 自らを律する心のままに、感情を抑え付けてリナは言った。

 彼女から与えられる魔力を喰らい、ナガレと半共生状態の魔女が彼を癒す。

 自分も片腕をかずみにもぎ取られ、右目を潰されていると云うのにリナも気丈なものだった。

 

 

「真面目過ぎんだろ」

 

 

 かずみの手で引き出された内臓を体内に戻しつつナガレに歩み寄りながら、杏子は自警団長を皮肉っていた。

 杏子への魔力提供は行わず、リナはナガレに添えていた魔法の警棒を引いた。

 その様子に杏子は好感を抱いた。

 もしもリナから治癒をされたとあっては、その場で戦闘に入っていたに違いないと杏子は思っていた。

 

 集まる三人の様子を、呪い殺すような視線で以て京は見ていた。

 栗色の眼は、全てを憎んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

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