魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

28 / 455
第6話 紅黒乱舞⑦

熱風が舞い、それに乗って火の花が宙で渦を巻く。

熱の発生源から少し離れた場所に、佐倉杏子は立っていた。

傷だらけの細指が握る槍は、穂先が消失していた。

柄の半ばまで溶解し、彼女の手に握られた部分にも高熱が宿っていた。

指と柄の接触面からは、少女の肉が焼ける甘い匂いが生じていた。

 

だがそれも、全身に隈なく行き渡っている痛みの一つとしては

大したものではないのか、杏子の表情に変化は無かった。

疲労の影に覆われた、虚無的な表情が彼女の顔にへばり付いている。

すり鉢状に穿たれた異界の孔の底に、真紅の魔法少女の紅い瞳が向けられていた。

熱はそこから生じているのだった。

 

「まだ生きてるのか」

 

声は、小さな池ほどに開いた陥没へと投げられていた。

 

「残念ながらね」

 

声が返された。

陥没の底には溶解した異界の泥が、今なお沈み込んでいく。

声は、未だ融解の生じていない場所から返されていた。

硬さを残した縁の部分に、複数の赤黒い刃が突き立っている。

その根元に、黒い魔法少女がいた。

両腕は肘の部分から欠損しており、刃はその肉の断面から伸ばされていた。

 

「本当、楽に死ぬこともできないよ」

 

彼女の豊かな胸の部分から下は、既に存在していなかった。

炭化した胴体の断面からは、内臓か肉の炭がはらはらと剥離していく様子が見えた。

杏子が放った熱線は、彼女の下半身を一瞬にして消失させ、

異界の孔へと叩き落していたのだった。

 

巧い具合に熱の安全地帯にいるためか、顔の部分の損傷は軽い。

また黒髪ゆえに、炭化による色の変化もやや少ない。

自分の尊厳を守り通したが如く、彼女の姿は未だ美しいままだった。

 

「ま、流石にもう時間の問題だね。処で、友人は生きてるかい?」

 

杏子は右側に顔を向けた。

彼女のすぐ横には、黒髪の少年が立っている。

今来たばかりなのではなく、杏子が最初にキリカに声を掛けた時から

彼も一緒にそこにいた。

率直に言えば、これは問い掛けではなく単なる嫌がらせによるものである。

 

「お前ほど元気じゃねぇけどな」

 

嫌がらせに、彼も皮肉で応えた。

その様子は、まさに友人同士の会話だった。

 

「やぁ友人。君ときたら、強いんだか弱いんだか分からないから忘れていたよ」

 

一応は瀕死のようだが、彼女の言葉には相変わらずに毒が混じっていた。

それは彼の急所を抉ったらしく、彼の顔には今日生じたあらゆる苦痛を凌駕するような

苦悩の意思が表れていた。

 

「ほっとけ。これから色々取り戻してやる」

 

今度はキリカが困惑する番だった。

不可解な言い回しに、不思議なものを感じたのだろう。

彼女は杏子へと視線を向けた。

 

「何言ってんのこの子」

 

という言葉がキリカの視線に宿っていた。

杏子はそれを無視した。

明確な答えなど知らないし、知りたくもない。

そして、知りたい事柄は他にある。

 

「くたばる前に、質問に答えな」

「なんなりと」

「テメェがあたしらに喧嘩を吹っ掛けてきた理由を教えな。こいつの為って訳でもねぇだろ」

 

杏子は槍を消し、空いた手を伸ばした。

そこにナガレが一本の白帯を手渡した。

杏子の手がそれを引き、帯がピンと張られ、物体が吊り上げられた。

四肢を包帯で雁字搦めにされた優木であった。

亀甲縛りにされた道化の口には、相も変わらずに不運な魔女が突っ込まれている。

 

恐怖感に支配された表情の道化は、瀕死の相方に視線を向けさせられていた。

キリカの顔が歪んだ。

道化に返された表情には、恨みや軽蔑の色は無かった。

ただ、相変わらずの朗らかな笑顔だった。

 

「悪いね」

 

それが崩れた。

キリカの頬が、物理的に溶け崩れた。

皮膚が蕩け、その下の桃色の肉が露出する。

熱に炙られ、桃色は直ぐに黒へと変わった。

 

「残念ながら、質問の受付時間は終了だ」

 

刃が突き立つ土台が崩れ、キリカの身体が異界の重力に引かれて堕ちていく。

熱の根源たる坩堝へと。

 

「さらばだ友人、そして真っ赤な同胞よ」

 

白と黒の衣服に炎が宿った。

服に留まらず、黒い魔法少女の全身が炎へと変わっていく。

 

「因果の果てに、また相見えようぞ」

 

何もかもが炎に塗れていても、その顔に浮かんだ表情は読み取れた。

楽しそうな、童女のような笑顔だろうと。

彼女を死に追い遣った者たちは思った。

 

そして黒い魔法少女は、泥濘と化した坩堝の底へと消えていった。

最後の最期まで、芝居掛かった口調だった。

ひどく落ち着いていた声色には、焦燥感や敗北の悔しさ、そして苦痛の欠片すらなかった。

 

粘ついた泡を噴かしてる灼熱地獄をしばし見つめ、

 

「勝った気がしねぇな」

 

と、魔法少女が言った。

いい様、右手の荷物を放り投げた。

右側の方へと。

 

「あぁ。いいように遊ばれたって感じだ」

 

軽く身を逸らして飛翔物を回避しつつ、少年が応える。

その状態で、両者はしばし硬直した。

疲労と苦痛は頂点に達している、どころか限界をとっくに越えている。

 

互いに、相手が倒れるのを待っているのだった。

その後に、自分が膝を折るために。

 

他に見るものもなく、両者は強敵を飲み込んだ灼熱の渦を眺めていた。

何を想いつつ視線を送るのかは、当然ながら彼ら彼女らにしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

今だ。

 

今しかない。

 

拘束から解放された道化は、真っ先に口中の親友兼奴隷を吐き出した。

唾液に塗れるそれが、悲鳴をあげつつ地に転がる。

気にした風も無く薄い胸元に手を伸ばし、乳の先に当る丸形を取り出した。

一息に噛み切ると、莫大な魔力が全身に駆け巡るのを感じた。

 

力の充足と共に、道化の思考にありとあらゆる罵詈雑言と淫虐の思考が駆け巡る。

その矛先は、黒い魔法少女に向けられていた。

 

役立たず、という言葉が数千回ほど脳内を巡り、

この気狂い、との評価が数万回ほど木霊し、それらを補足する悪意が汚泥のように

それらの言葉を濡らしていく。

 

道化の腕が、先にナガレに見せた形に変化していた。

全身に満ちる魔の力を前に、そして手に宿る、

先程触れた肉の感触が道化の意識を鮮明に且つ更に邪悪にさせていく。

 

細くも逞しい腰つきは、今までに触れたどんな男のそれよりも男らしさを感じさせた。

なお、今までにというより、異性の腰に手が触れたのは、

そもそも先程が生まれて初めてだったという意識は道化の中には既にない。

これもある種の現実逃避だろう。

 

今、眼の前の連中は自分に背を向けている。

そして完全に憔悴しきり、戦える状態に無い事が見てとれた。

 

ならば、為すべきことは一つしかない。

 

妄想は後回しにしつつ、道化の足が地を蹴った。

飛翔と同時に、親衛隊長の魔女も本来の姿へと巨大化させる。

 

「死ねっ!この間抜けな簒奪者ども!!!!!!」

 

絶叫と共に、優木が異形の手を振った。

鉤爪状の手の先には、傷と血に塗れた少年の姿があった。

 

 

 

 







流石に、これが今年最後の投稿ですかな。
自分の勝手な妄想が入っていますが、沙々にゃんてむっつりスケベな感じがして
ならない気がします。
なんというか、やっぱり服装が絶妙にエロく、あとあの卑しい表情見てると
R-18な行為や事柄に興味持ってそうな気がしてしまうというか。
完全な妄想の垂れ流し、失礼しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。