魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第32話 仮初の身で目覚めし禍つ者

 闇に満ちた部屋。

 その闇よりも黒いボンデージを着用した杏子。

 必要最小限の部分しか体を覆っていない姿。

 

 その状態の杏子は、彼と畳一枚程度の距離を隔てて彼と向かい合いながら、春風のように微笑んでいた。

 闇の中で、杏子の瞳が輝いていた。

 その色は炎のような紅ではなく、光る風のような黄水晶。

 佐倉杏子でありながら、彼女ではない表情と瞳の色。

 杏子は口を開き、空気を吸い込んだ。その瞬間だった。

 

 

「よぉ、キリカ」

 

 

 言い淀む事も無く彼は確信と共に名を告げた。

 キリカと呼ばれた杏子は硬直した。

 開かれていた唇が震えた。

 

 

「お……」

 

 

 震えながら声が出た。

 

 

「お、お、お、お、お、お、おまままま、おま、お前えええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 杏子は叫んだ。

 

 

「おま、友人お前!主人公だってのにネタバレするなよぉぉぉおおおおおおお先行最終回じゃないんだからさあああああああ!!!!」

 

 

 声の大きさとしては大したことが無いが、それは叫びだった。

 この無駄な配慮の良さと彼への二人称。正体が確定した瞬間だった。

 

 

「なにさ!折角今から奇襲的に君にダイブして絡み合う中で耳元か胸元で正体を明かそうと思ってたのにってなんだこれえええええええええええええ!?」

 

 

 杏子、いや、キリカか。

 仮にこれを佐倉キリカとしよう。

 彼女は自分の姿に気付き、狼狽し始めた。当然だろう。

 

 

「なんで私のを着てるんだよこのメスガキ!うわぁ、デリケートな部分も触れちゃってるよ!奪われた!この衣装の処女は佐倉杏子に奪われた!うわああああああああああ!!!!」

 

 

 うわぁ。とナガレは思った。

 表現が生々しいなと思ったのだ。

 それ以外にも突っ込みどころは沢山、どころか突っ込みどころしかないのだが、やはりというか彼の思考もどうかしている。

 ついでに語尾を伸ばしまくるキリカの口調に、最近読んだ漫画の台詞回しを思い浮かべていた。

 キリカの母の事もあり、人妻って凄いんだなと彼は思い返していた。

 そういえば衣装も似ている。

 

 

「あ、ちょっとタンマ」

 

 

 そう思っていると、仮称佐倉キリカはベッドに戻り蒲団を被った。

 一秒後、布団を捲ってベッドから立って元の位置へと戻った。

 

 

「ごめんね友人。唐突に異常行動しちゃって」

 

「いいよ、別に」

 

 

 言葉の通り特に気にしていない。

 彼の感覚でも、以上と正常の境は曖昧である。

 尤も、その境界線などそもそも存在していないのかもしれない。

 

 

「くぱぁって開いて見るまでも無かった。歩く感じで分かったよ。私と同じで、処女膜に今の歩き方を強いられている」

 

 

 杏子の姿と声と舌で不健全な台詞を平然と言い、佐倉キリカは笑う。

 

 

「君、やっぱり主人公なだけあって紳士だね。お母さん、そこが嬉しいんだか寂しいんだか」

 

 

 哀切と慈愛の視線で彼女は言う。

 姿だけで見れば美しいが、衣装は不健全であり発言は意味不明極まりない言葉である。

 つまり、彼が知る何時ものキリカだった。

 その様子に安堵を覚える。これも何時もの事か。

 

 

「元気そうじゃねえか。安心したぜ」

 

「あたぼうさ、友人。こいつの身体というのがかなり不愉快だが……ああそうそう、ちょっと貸して欲しいものがあるんだけど」

 

「あ?俺の血か?」

 

「それだと借りるじゃなくて譲渡になるぞ。まぁそれでもいいけど…いや、こいつに君の血を飲ませるのは惜しいに過ぎる」

 

 

 ほんの少しの会話だが、聞くものの正気を疑わせそうな会話を繰り出す二人だった。

 

 

「今私が欲しいのは、ナイフだね。刃物が欲しい」

 

 

 とある諺にあるように、それは危険な要望だった。

 

 

「悪いな。手持ちがねぇ」

 

 

 彼はすまなそうな様子で断った。

 刃物なら牛の魔女がいるし、その内部には無数の武器弾薬が格納されているが、魔女を出したらかずみが暴走しかねないと今は自由行動を与えている。

 無論、人食いは厳禁であり禁を破ったら即座に滅ぼすと告げてある。

 以前に精神的に融合からの支配をしたので、その気になれば何時でも呼び出せるしある程度意識も共通している。

 今の魔女は、川に潜って小魚やカニ、ざざむし等の小動物の捕食に勤しんでいた。

 戦闘中に生じた血肉を喰らいはするが、彼と一緒にいる事で食性も変化してきているのだろうか。

 

 

「で、それで何すんだよ」

 

「リスカ」

 

 

 佐倉キリカの返事に彼は露骨に顔を顰めた。

 常日頃からの殺し合いに明け暮れているくせに、それには忌避感を示すらしい。

 

 

「何でだよ」

 

「絶望からの逃避。あと佐倉杏子への報復」

 

「苦しいんなら話位なら聞いて遣る。俺相手に吐き出しな。それとセコい真似すんな。やるならいつも通り正々堂々、互いに武器持つか素手で戦いやがれ」

 

 

 火のような口調で彼は言う。

 それを真に受けしばし黙り、佐倉キリカはううむと唸った。

 

 

「今度は何だ」

 

「やっぱりさぁ。君って主人公だなぁって。それと前にもここに来る前にしてきた事を聞いてたけど、行動とか言動がナチュラルに英雄的に過ぎる」

 

「俺が主人公で英雄?キッツい冗談言いやがる」

 

「冗談じゃない、本心だ。それとも何かい、私の思考までもが君が思うままになるとでも?私は君に惚れてはいるが、狂ってなんかいないぞ。思い上がりも程々にするんだな」

 

 

 糾弾の眼付と口調の佐倉キリカ。

 美しき断罪者であるが、思考は人間のそれではなさそうだった。

 

 

「私の認識では君は主人公で英雄だ。不満なのかい?」

 

「そんなガラじゃねえし、なんかムカつく。そういう連中は理由を付けて人を殺したり傷つけるからな」

 

「それは解釈の仕方による。そもそもこれらは曖昧で、立場によって変わるだろうからね。敵からしたら悪鬼羅刹、味方から見たら英雄。そんなものだろう」

 

「なるほどな」

 

 

 キリカの発言に彼は一定の理解を示した。これまでの、ここに来るまでの経験とキリカの発言を重ねたらしい。

 

 

「そしてそれらを定義するのは英雄だの主人公だのと呼ばれる存在本人ではなく、周囲の存在。つまりは観測者だ」

 

 

 佐倉キリカは歯を見せて嗤う。

 杏子もキリカも八重歯が特徴的ではあるので、似た感じの笑顔だった。

 

 

「つまりはそういった概念は当人が為るものではなく、称号として突き付けられるものだ。私が君に抱く想いのように」

 

 

 へぇ、とナガレは呟いた。

 そして自分なりに考えた。

 

 

「わぁったよ。勝手にしな」

 

 

 折れたのではなく、そう認識されることを認めたのだった。

 十字架を背負わされたとも言える。

 

 

「うん、そうする。だからあの女の魔手から私を助けておくれよ。君の物語の主人公であり、私の物語に顕れし英雄(ヒーロー)

 

「ああ」

 

 

 顎を引いて、彼は力強く頷いた。キリカの言い回しについては彼女の勝手だ。

 しかし自分にはやるべき事がある。その思いのままに、彼の身体は動いた。

 他人に見せるためのものではなく、ただ彼の心を表しただけの動作だった。

 その様子に、佐倉キリカは「嗚呼」と呟いた。懊悩の呻きにも聞こえた。

 

 

「だから…そういうトコなんだよ」

 

 

 縋り付く相手であり、愛の対象である彼へと黄水晶の眼を潤ませて言った。

 ドロドロとした執着心に彩られた、狂依存とでも言うべき感情に満ちた一言だった。















相変わらずのキリカさん
デストワイルダーたすけて
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