魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第38話 偽りの物語へ 

「がたん♪ごとん♪がたん♪ごとん♪」

 

 

 揺れる電車の中、周囲に迷惑を掛けない程度の小声にて小さな歌が奏でられていた。

 腰まで垂れた黒い長髪、白いシャツにピンク色のミニスカート。

 呉キリカの私服の予備を着たかずみは、電車の横シートに座りながら今日も楽しそうに生きている。

 

 そんな彼女を真ん中に置き、真紅髪の少女と黒髪の少年が座っている。

 ナガレの前には大きなキャリーバッグが置かれ、その上には膨らんだリュックサックが置かれていた。

 

 

『遊び過ぎたね』

 

『色々とな』

 

 

 欠伸を噛み殺しながら、元祖風見野ストリートチルドレンズの二人は思念を交わした。

 欠伸をしないのは、新参のかずみが二人の欠伸から歌を止めないようにという配慮だった。

 かずみの小唄を聞きながら、杏子はナガレの前の荷物に視線を送った。

 

 

『何から何まで、世話になっちまったなぁ』

 

『全くだ』

 

 

 古びていたが頑丈そうなリュックサックはキリカ母が昔使っていたものらしく、キャリーバッグは少し前にナガレが買った物だった。

 キリカと見滝原を散策することになった際、

 

 

 『友人と一緒にいるといつ強姦されて下着破られるか分かったものじゃないから穿いてこなかった』

 

 

 という度し難いに過ぎる理由で下着を未着用で普段のミニスカを穿いてきたキリカを運ぶために買った物だった。

 色々あって見滝原市内を疾走し、ビル同士の隙間に落下した筈だったが何時の間にか回収していたらしい。

 それら二つの、呉家由来の鞄には大量の生活用品が詰められていた。

 缶詰などの食料、下着を含む衣類に生理用品、人数分の歯ブラシにラジオ、果てはランプや小型の焚火台までが用意されていた。

 メタリックな銀の光沢を放つそれを、ナガレは

 

 

「なんだこれ。メタル賽銭箱か?」

 

 

 と呟きかずみは腹を抱えて笑っていたのが印象深かった。

 キリカ母から聞いた使い方によれば、これを使えば焼肉も出来るそうなので後々楽しみだと杏子は思った。

 

 それにしても、と彼女は考える。

 年季の入ったリュックサック、キャンプ用品としても使える道具や必需品の用意や収納の手際など、どうにも良すぎるに見えてならなかった。

 おっとりとしたお嬢様風の佇まいだが、昔は色々とあったのだろうか。

 そう少し考えたが、杏子はそこで考えを止めた。

 

 他人の過去を遡るのは、どうにもいい気がしない。自分と結びつくからだと、彼女も理解していた。

 しかしながらと、もやっとした思いが脳裏に浮かぶ。

 キリカ母からの親愛の眼差し、そこに既視感があるのだった。

 

 形としては娘であるキリカと似てはいる。

 だがそれは可憐な花と美しい毒花ほどに異なるもの。

 キリカと似て非なるものだと認識している。

 

 となるとこの感覚は何だろう。

 渦巻いた疑問を、杏子は小さな溜息と共に拭った。

 

 それらの過去よりも、今は気にすべき過去の存在がある。

 すぐ隣で感じる体温、その持ち主の過去。

 

 

「あ、そろそろみたい」

 

 

 車窓から外をみつめるかずみがそう言った。

 程なくして車内にアナウンスが流れる。

 アナウンスが告げた地名は「あすなろ市」であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でっけぇ街だな」

 

「ほんとだね。風見野の不景気さを分けてやりてぇよ」

 

 

 小学生並みの感想と、少しの郷土愛のような何かが混じった皮肉を投げ合うナガレと杏子。

 その少し先では、新しく見る景色に興奮しはしゃぎまわるかずみがいた。

 キリカと同じ衣服を着ているが、はしゃぎつつもスカートが短いところを意識しているところがキリカとの違いに見えた。

 

 

「さて、早速」

 

「『バケツパフェ』だな」

 

 

 ナガレの言葉を杏子の言葉が遮る。

 右を向くナガレ。その頬がぷにっと凹んだ。杏子が前以て伸ばしておいた、左手の人差し指によるものである。

 無害なカウンターが成功し、杏子はひひっと笑った。ナガレはイラっとしたが堪えた。引っ掛かる自分の間抜けさに対してである。

 

 

「なぁに真面目ぶってんのさ。んなもん、観光してからゆっくりやりゃあいいだろ?」

 

「んなもん、てお前」

 

「現状は特に不自由してねぇんだ。あたし的には腐れ紫髪をブチのめしてぇけど、そんなのも後でいい。だから観光が先でいいんだよ」

 

 

 ホラ行くぞ、とナガレの返事を待たずに杏子は歩き出した。

 他に選択肢も無く、彼はリュックを担ぎ、キャリーバッグを引きながら彼女の背に続いた。

 あすなろ市に入ってから感じる、妙な違和感に警戒しつつ普段の通りに歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷気、薄闇、水のせせらぎ。

 それらが籠った場所だった。

 洞窟を思わせる構造の室内の左右には、縦三メートルほどの容器が並んでいた。

 液体で満たされた容器の中には、一つに付き一人の全裸の少女達が浮かんでいる。

 どれもが眼を閉じ、眠りのままに揺蕩っている。

 彼女らの首には細い鎖が巻かれ、胸の前に浮かぶ小さな銀のプレートに繋がれていた。

 その内の一人のプレートには『KAEDE HINATA』の文字が刻まれている。

 名前という事だろう。

 それはまるで、美しい蝶を収集し、標本にして飾っているかのようにも見えた。

 

 見えている範囲だけでも数十人にも及ぶ、眠り姫となった少女達。

 その内の一つの前に、蒼緑の衣装を纏った少女が立っていた。

 見上げられた視線。それを見る瞳の中に宿るのは、緑色の瞳の輝き。

 されど、色はあってもそれ以外の何も無い。

 虚無を宿しながら、少女は容器とその中身を見ている。

 

 

「眠りの姫に」

 

 

 少女は言葉を紡ぐ。

 

 

「愚かなる道化たる、卑しき我が名を捧げよう」

 

 

 その声は、陰惨さと陰鬱さで出来ていた。

 

 

「我が名は神那ニコ。無意味な生を紡ぐ、愚かなる道化。紡いだ物語を、二度も終わらせた愚か者」

 

 

 瞳を全く動かさず瞬きもせずに、ニコと名乗った少女は呟く。

 

 

「神那ニコ……いとをかし」

 

 

 そこで彼女は言葉を閉ざし、ただ視線の先の存在を見続けた。

 視線の先には、他と同じく全裸の少女が浮かんでいる

 腰に触れるくらいの、白金色の長髪を背に靡かせた少女だった。

 

 この少女にも他と同じく、銀の鎖と名を記したプレートが添えられていた。

 

そこに記された名は、『KANNA HIJIRI』と読めた。

 

 自らに酷似、どころか同一としか見えない少女を、ニコは虚無の眼差しで見続けていた。

 

 

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