魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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三つ目です。
とりあえず、いろいろと頑張ります。



プロローグ3 彷徨う紅、訪れる黒

気分次第で自由気ままに、宛どころもなく街をさすらう。

ゲームセンターで時間を潰し、朝早くに寝て夜に起きる。

それが彼女の主なライフサイクルであったが、それすら頻繁に乱れがあった。

 

その日は午後の六時に目覚めた。

放り投げていた衣類を手繰り寄せ、指でしわを引き伸ばす。

下着も「まだ」大丈夫だと自分自身を納得させて、引き続き着用を決意した。

 

本来であれば中学生のはずだが、そんな所に行く理由は無かった。

夢も希望も、とうの昔に捨て去っている。

ならば、将来のための行為などに意味はない。

自分には「今」しか無いと、少女は心に決めていた。

 

行き際に、昨晩の場所にふらっと足を向ける。

交通を阻害しない場所のためか、未だにテープが貼られ、警官達が蠢いている。

 

「(あんだけ死んでりゃ、当然か。お仕事ご苦労さんっと)」

 

賛美ではなく、皮肉だった。

警察ごときが幾ら調べたところでどうにもならない。

 

「…ゲーセン行こ」

 

自分でも、何故そこに足が向いたのかは分からなかった。

ただいつもの通り、心は虚無感に支配されていた。

 

まだ夜になって浅いためか、行き付けのゲームセンターには多くの学生達がいた。

ネクタイやボタンの戒めを外し、思い思いに楽しんでいる。

連れ合いと人目もはばからず触れ合っている者さえいた。

 

「(ウザッてぇ)」

 

心中で吐き捨て千円札を数枚、両替機に食わせる。

吐き出された大量の百円玉を拾い、そのまま緑のパーカーのポケットに突っ込んだ。

適当にシューティングゲーム等で減らした後にでも、ダンスゲームで浪費させようと思っていた。

楽しむ気は余り無い。

時間が過ぎればそれでよかった。

 

目当ての筐体の前には、何人かの男子学生がたむろしていた。

揃いも揃って体格がよく、少女よりも身長が頭二つ近く大きい。

何が面白いのか、矢鱈と騒ぎ立てるそいつらの様子は少女の不快感を誘った。

 

少女は近くの筐体を軽く蹴飛ばした。

それだけで、「廃棄予定」の札が貼られた筐体の側面が歪み、画面に薄い罅が入った。

物騒な騒音に、大柄な男子高生たちが小動物じみた挙動で体躯を縮ませた。

そのうちの一人が音源に気付き、集団に少女の存在を知らしめた。

互いに顔を合わせ小声で数言交わすと、学生達は足早に立ち去った。

 

通路の都合上迂回が出来ず、連中は彼女の傍らを通り過ぎた。

少女の背中に幾つかの視線が突き刺さる。

それは恐怖と、侮蔑の眼差しだった。

 

「詐欺師の娘」

 

大分離れた後で連中の中の一人がそう言った。

距離が離れたことで恐怖感が薄らいだのか、明るい声が少女の鼓膜に届いた。

細かい内容までは確認しなかった。

何を言っているのか、見当はついている。

 

それに、彼女は敗者ではなかった。

すれ違い様に体表に指を這わせた事を誰も気付いていなかった。

五人分の財布が、彼女の小さな手に掴まれていた。

薄っぺらいことから、札の方を入れるための財布らしい。

 

「バァカ」

 

ほくそ笑み、財布どもをパーカーの内ポケットに仕舞う。

嘲りを言ったことで、気分が幾らか良くなった。

ポケットから取り出した板チョコを噛み砕きつつ、筐体に小銭を入れる。

一プレイ二百円という要求が腹立たしい。

派手な音楽が鳴り、ゲームが開始する。

 

未知のエネルギーが地球に降り注ぎ、人類の多くがゾンビになった。

君は弱い者を護るヒーローで世界を救う義務がある。

なのでゾンビどもを皆殺しにして世界を救おう。

 

と、いうのが大まかなストーリーだった。

 

それを見て、少女の口から苦笑が漏れる。

 

「厄介者に居場所はない、か」

 

その通りだな、と続ける少女。

無論、駆逐されるために生まれた空想の怪物に抱く慈悲の心は無い。

納得したつもりだが、苛つきを覚えた。

その鬱憤は、画面内に蠢く怪物どもに向けられる。

細かい細工が施された悪趣味な拳銃が銃口から光を放ち怪物達が砕かれていく。

画面一杯にバラまかれる電子の死骸の色が、彼女には心地よかった。

 

現実の臓物の色もこんな風だったら少しは楽なのに。

そう思いつつ、彼女は玩具の銃を振るい、怪物どもを砕いていく。

そうして、時は過ぎていった。

 

 

 

今日は大漁だった。

成果を見下ろし、少女は満足げな笑みを浮かべた。

閉店間際ということもあって油断をしていたのか、店員の監視は手薄だった。

カメラの配置も完全に把握していた。

彼女にとって、そのスーパーはカモ以外の何者でもない。

 

所詮、この世界は騙すか騙されるか。

当りかハズレかどちらかに別れる。

ならせめて、奪う方がいい。

そうに決まっている。

 

「さぁて、どれにしようかなっ~と」

 

月光の降り注ぐ中、【棲み家】にて、少女は多数の紙袋を漁る。

袋一杯に詰められていたのは、夥しい数の菓子だった。

起きてから意識が続いてる中で、一番楽しそうな表情をしていた。

 

深夜にとても広い室内で、少女が独りでお菓子を前にしてはしゃぐ。

異様な光景だった。

 

棒付きの飴からセロハンを引き剥がし、食らい付く。

 

「ん~~なかなか」

 

気だるい身体に、飴の甘味が染み渡る。

自分の腕で手に入れたという充足感もある。

思わず、天井を仰ぎ見る。

 

そして、思い出してしまった。

少女の笑顔が、歪な形を浮かべて硬直した。

 

「……」

 

宙吊りになった男の姿が、少女の脳裏に浮かぶ。

首元に深々と食い込むのは、太い縄。

唾液が滴り、顎髭を穢している。

 

「……………」

 

次にそれは喉元を赤く染めて、床に倒れる女の姿に変わった。

 

そして、その次は……。

 

「……っ!!!」

 

口内の丸い飴が、バラバラに砕け散った。

一噛みにし、刃のように尖ったそれらを強引に飲み下し、唾液にまみれた棒を投げ捨てる。

そして次々と強引に袋を破り、箱を砕き、内容物を喰らっていく。

行儀も何も無い。

獣の動きに近いことは彼女自身も自覚していた。

自分の家で何をしようが勝手だと強く思い、無理矢理納得させていた。

 

塩味も甘味も区別なく、可能な限り詰めるだけ、小さな口内に詰め混んでいく。

それでいて、一欠片も床には落としていなかった。

自分が得たものを、残らず摂取していた。

ただひたすら、喰っていた。

 

一袋目の菓子はあっという間に食い尽くされ、少女は二袋目に手をかけた。

満腹感は無かった。

内臓が圧迫される感触だけがあった。

喰っている間は忌まわしい光景が薄れる。

それだけのために、彼女は菓子を喰らっていた。

 

「……ちくしょう」

 

そう吐き捨て、取り出した菓子袋に裂け目を入れた。

その時だった。

 

鼓膜が足音を捉え、精神が気配を感じ取ったのは。

接近に気付くのが遅れたのは、摂取に心血を注いでいたためだった。

 

かつては無数の椅子が並んでいたそこは、今はもう何もない。

なので、とてもよく見えた。

彼女の領域に、侵入してきたものの姿が。

 

「なんだ、先客かよ」

 

女の声だった。

少なくとも、彼女はそう判断した。

 

「ガキが出歩く時間じゃねぇだろうに。全くよ」

 

小さな囁きだったが、彼女にはよく聴こえていた。

最初の二文字に、「かちん」ときていた。

天井付近の割れかけたステンドグラスが浴びる月光によって、

深夜にも関わらず建物の内部には光があった。

少女が立つ場所から声の主が立つ建物の入り口までを、月の光が繋いでいた。

 

互いの姿が、互いの網膜に浮かび上がる。

 

緑のパーカーと、青色のジャケット。

方や黒、方や赤のアンダーシャツ。

青味が強めのホットパンツ、くすんだ白色のカーゴパンツ。

色の違いこそあれ、構成している服の種類はよく似ていた。

 

そして気付いた。

互いに。

恐らくは、同時に。

互いの顔と、髪の色を見たときに。

 

「…てめぇ」

「テメェ…」

 

お前、ではなく「手前」ときた。

敵対心と挑発のためか。

 

互いに互いの顔と姿を、品定めのように眺めている。

この後に、恐らくは起こるそれのために。

 

「……実はな」

 

少女で無い方が口を開いた。

 

「色々と聞きてえことがある」

「…へぇ」

 

『何だ?』ではない。

拒絶の意に他ならない。

 

「悪いが協力願えねぇか?」

「嫌だね」

 

即答だった。

彼もそれは予測はしていた。

互いに、相手をまともな奴とは思っていない。

 

「それより、テメェは何者だ?」

 

今度は少女が問うた。

威圧感の溢れる声色だった。

 

「どうやって生き残ったんだ?っていうか…どこから涌いてきた?」

「そいつは俺も知りてぇんだ」

「…へぇ」

 

面倒そうだ、という思いが少女の胸中で渦巻きはじめていた。

こういう事は、稀にあるらしい。

一種の記憶障害という形で。

それを教えてくれた者を思い出し、更に不快な気分になった。

 

「ついでに、てめぇらが何者なのかもなぁ」

 

豊かな黒髪の奥で、渦巻く瞳が少女を捉えていた。

恐ろしいほどの、ギラついた光を湛えた眼光であった。

 

「…そうか」

 

一瞬だけ、その光に少女が戸惑う。

だが、それだけだ。

少女もまた、数多の修羅場を潜り抜けていた。

 

「なら丁度良い。そいつにゃ先に応えてやるよ」

 

言いつつ、距離を詰めていく。

 

「そうだねぇ…どっから話そうか…」

 

ゆったりとした足取りをしつつ、着実に。

 

「まずは…あたしは……」

 

言いかけと、紅の炸裂は同時だった。

両者の間に閃光が走る。

閃光は実体を持っていた。

 

人間の眼には光として映るそれを、彼女だけが己の得物であると認識出来ていた。

そのはずだった。

 

「…何だ?『あたしは』の続きを言いな」

 

槍が、心臓まであと数センチというところで先端を停止させられていた。

しなやかな五指が、槍を握り締めている。

 

「まさか、これで本気じゃねぇだろうな?」

 

相手が挑発をしている事は分かっている。

だが、見透かすような言葉に、少女の心に火が灯る。

 

「……うぜぇ」

 

憎悪と言う名の炎が心中で産声を上げ、拒絶の意志が渦を巻く。

戒めを強引に払い、槍を「縮めて」暴風の様に振り回す。

彼女なりの威嚇行為だった。

 

槍の長さは、刃を含めて二メートルを優に越す。

軽く握ればへし折れそうな細腕で軽々と振り回した彼女に対し、

相手は敵対心以外の感情を覚えたが、戦いの熱気がそれを打ち消した。

少女の実力は、彼の予想を越えているようだった。

 

「超うぜぇ!!この…」

 

胸中から込み上げる感情を言葉にして、少女は叫んだ。

 

「この『クソガキ』がぁ!!!」

 

 

叫びを構成する言葉が表す通りだった。

少女と対峙する黒髪の人物は、「少年」の姿をしていた。

 

破壊されて穢された、神の家たる教会の中央で。

廃墟にて、紅髪の少女は黒髪の少年へと襲い掛かった。

それは月光を浴びて輝く、紅色の美しい獣のようだった。

 

 

 

 




ここまでで。
この作品では廃墟住まいです。

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