魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第39話 あすなろ④

「疲れたな」

 

「ああ」

 

 

 闇の中でナガレと杏子は会話を重ねる。

 常人なら黒一色の世界であるが、例によって二人は視界を確保している。

 杏子は魔力で、ナガレは素の視力で。

 散策と観光、そして魔女退治を終えた風見野のストリートチルドレンはあすなろ市内の廃ビルの一室にいた。

 

 夜の隙間を縫って街を歩き、手ごろだと見定めた場所であった。

 四階建てのビルは外見は真新しく、中は壁が剥がされてコンクリートが剥き出しの状態。

 造ってすぐに用無しとなったようだ。

 その有様に三人は思わず胃袋の疼きを感じた。

 

 求めてやって来たはいいが、無人のビルへと成り果てたバケツパフェの店を思い出したのである。

 代用品としてクレープや大判焼き、普通のパフェやアイスクリームなどを散々に貪ったが、欲求は完全に満たされなかったらしい。

 我慢することも大切だと各々で欲望を納得させながら、天辺の階に足を踏み入れた三人は拠点の整備に掛かった。

 とはいえ、やることは簡単である。

 

 ナガレが武器としている牛の魔女の中に格納した家具を展開し、簡易の住処をこしらえる。

 床の清掃を含めて一時間程度で全ては終わった。

 無機質な床面には少し前にゴミ捨て場で拾ったカーペットが敷かれ、椅子や机などがその上に置かれる。

 窓から離れた場所にはテレビや冷蔵庫までが置かれている。

 電気は魔女が魔力で供給している。実に便利である。

 窓にはブラインドが下ろされ、窓自体にも黒い布が貼られて内部の様子を晒すことを拒絶する。

 

 

「じゃ、私もう寝るね!」

 

 

 元気よく言ったかずみは、地面に置かれた牛の魔女の斧の中央に開いた穴へと爪先を触れさせた。

 キリカ母から貰ったパジャマ姿に身を包んだ姿は、一瞬にして内部へと消えた。

 先の戦闘の際、かずみは牛の魔女の中に潜んでいた。

 敵への奇襲とかずみの保護を目的としたものだった。

 

 魔女の中には家具が用意されていたように、割といい感じの部屋が出来ていた。

 居心地もいいらしく、かずみは今頃ベッドの中で眠りに落ちている。

 ならば他二人もそこで暮らせばいいし、拠点を用意する意味合いも謎ではあるが、このあたりは気分の問題なのだろう。

 

 かずみが消えて数分間、二人は無言のままに長いソファに座っていた。

 拳一つ分程度のスペースを開けた、隣りあわせ。

 

 

「あんたさぁ」

 

 

 沈黙を破ったのは杏子であった。彼の反応を待たずに杏子は次の言葉を紡いだ。

 

 

「疲れてるよな」

 

「分かるか」

 

 

 彼は素直に認めた。杏子は横に身体を右にスライドさせた。

 体重を彼に預ける、というか圧し潰すように彼に身を寄せる。

 

 

「どうやって分かった?態度とかは変わって無かったハズなんだけどよ」

 

「どんだけ一緒にいたと思ってたのさ。雰囲気で分かるよ」

 

「本当か」

 

「悪い、カマかけてみただけ」

 

「なんでカマかけた?」

 

「雰囲気」

 

 

 なるほどと彼は言った。

 普段と変わらないが、僅かな変化を杏子は感じ取ったのだろう。

 それが何かと言われたら、彼女が今言ったとおりに「雰囲気」となるに違いない。

 

 

「同情でもしたのかい。挽肉にされちまった奴らにさ」

 

「そうなるな」

 

 

 彼は頷く。

 魔法少女の紛い物と甲冑姿の騎士に連れ去られ、生きたまま挽肉にされた挙句に同類へと加工される、恋人同士と思しき少年少女達。

 魔女が見せたその光景が彼の脳裏に浮かぶ。

 元凶たる魔女はかずみが抹殺した。

 しかし当然、被害者が生き返る訳では無い。

 

 撃破した使い魔の数は八十近い。

 その全てが人間を素体としているのなら、同数の犠牲者がいる筈である。 

 親類や友人たちは、帰らぬ家族の帰りを待ち続けるのだろう。

 最悪の最後と末路を知らない事が、救いになるとも思えない。

 

 

「気ぃ使わせちまったか?」

 

「別に。そいつは寧ろこっちの台詞さ。態々確認する必要も無ぇ事だった」

 

 

 杏子は溜息を吐いた。

 このあたり、自分はまだガキだと彼女は思った。

 年下で先輩な、金髪の魔法少女ならどう接したのだろうかと思い、あいつなら上手くやったのになと思っていた。

 

 

「でもさ。そう思えてるってことは、あんたがまともだって証拠だよ。あたしは…」

 

 

 魔女が見せた光景を思い出す。

 ミキサーにより挽肉にされる寸前でも、自分よりも少し幼い少年少女達は互いを思い遣っていた。

 彼女にはそう見えていた。

 それに対し、自分は何を想っているのか。

 

 魔法少女生活は長い。

 その間で眼にしてきた死の数は数えていない。

 それがまた増えた。

 正直に言えばそんな感想だった。

 

 しかし相棒は死を悼み、理不尽さに憤っているらしい。

 それは正しい怒りであり、恐らくは正義という概念に限りなく近いものなのだろう。

 杏子はそう思った。

 

 対して自分はどうなのだろうか。

 答えは出ない。それが答えのように思えた。

 

 クズ。

 

 そんな言葉が心の中に浮かぶ。

 黒い文字で描かれた文字は解け、コールタールのように蕩けて心の中に広がっていく。

 そんな気分がした。

 

 

「良い奴だよ。お前は」

 

「何でさ?」

 

 

 ムッとした口調で杏子は返した。

 お世辞のように思えたからだ。

 

 

「俺を心配してくれてんだろ」

 

 

 ぽかんと、頭の中が空虚となったような気分がした。

 

 

「だから、良い奴だって?あたしが?」

 

「ああ」

 

 

 無意識の内に杏子の手は伸びていた。

 シートの上に置かれたナガレの手に重ねる。

 指先が熱い体温に触れる。

 貪るように、杏子はそれを掴んだ。

 

 

「買い被り過ぎだよ」

 

「どう思おうが俺の勝手だろうが」

 

「そりゃそうだね」

 

「だろ」

 

 

 二人は互いに笑った。

 歯が尖っている故に、その様子は闇に深く蠢く、飢えた獣同士の威嚇にも見えた。

 笑いながら、杏子は背中を浮かせた。

 そして右手で掴んだ彼の左手を軽く引いて、自分の身体をくるりと半回転させる。

 ソファに座す彼の両膝に尻を置き、自分の膝の動きで更に前へと進む。

 

 薄い生地且つ、膝の付け根近くまで切り込まれたホットパンツゆえに、彼の体温と体の質感を彼女は如実に感じていた。

 普段なら、この時点で懊悩と性欲が心の中に渦巻いている。

 しかし、今回はそれが薄かった。

 

 

「あたしの体温、温いだろ?」

 

「ああ」

 

 

 彼は聞かれた事に答えた。

 炎を操る魔法少女と謂う事もあるのか、彼女の体温は温かいと云うよりも熱かった。

 

 

「しばらくあたしの身体を貸してやるよ」

 

 

 ただ、こうしたかった。

 純粋な善意のままに、彼に寄り添ってやりたい。

 杏子はそう思っていた。

 

 

「好きにしろ」

 

 

 彼はそう言った。

 遣り取りとしては妙である。

 しかし、そこに矛盾も無いのだろう。

 左手は今も杏子に握られている。

 残る右手で、彼女の腰を抱くように腕を動かした。

 

 付き合ってやるかと、彼は思ったようだ。

 手が腰に触れた時、杏子の胎の奥で熱が疼いた。

 命を次に繋ぎたくない杏子ではあるが、本能は別なのだろう。

 

 懊悩から逃げるように、彼女は彼の肩に頭を乗せた。

 そのまま頬を彼の顔に摺り寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い薄闇。水のせせらぎ。

 そして氷のような冷気。

 巨大な室内の左右に、筒状の物体が並んでいる。

 液体で満たされた容器の中に浮かぶのは裸体の少女達。

 

 その内の一つの前に、蒼緑の衣装を纏った少女が立っている。

 見上げた視線の先にも、筒の中に入れられた裸体の少女がいた。

 液体の中に浮かぶ少女の姿は、それを見る少女にとてもよく似ていた。

 完コピといってもいい。

 

 

「また、ここにいたのね」

 

 

 蒼緑の衣装の少女、神那ニコの背後から凛とした声が届いた。

 ニコは一瞬、眼だけを背後へと動かしたがすぐに前へと戻った。

 コツコツと、ヒール状の靴が水に濡れた床を叩く音が響く。

 そして停止。

 二コの隣に立つのは、白い衣装を纏った青く長い髪の、眼鏡をかけた少女だった。

 

 

「やぁやぁ海香先生。我が愛しの共犯者」

 

 

 見上げたまま、口角を僅かに吊り上げてニコは言った。

 皮肉に歪む笑みにも、泣き笑いにも見える様な顔である。

 

 

「そのフレーズは中々ね。今度小説のネタに使わせてもらうわ」

 

「おーこわ。迂闊に冗談も言えないねぇ。でもまたこれで、ベストセラー確定かな。報酬は出るのかい?」

 

「あなたから罪悪感を薄れさせられることなら、何でも」

 

「残念、そりゃ無理だね……お互いに」

 

 

 虚無の顔で笑うニコ。

 頷く海香の顔にも虚ろさが張り付いていた。

 

 

「麗しの神託者様の力を借りて、私達は悲しい物語を閉じた」

 

 

 その表情のままにニコは言う。

 声に滲むのは、虚無感と陰惨さの影。

 

 

「しかしながら…この光景はココロにクるね…」

 

「…ええ」

 

 

 ニコの言葉を肯定し、海香は上を見上げる。

 ニコに酷似した少女の右隣の容器にもまた、裸体の少女が入っていた。

 しかしそこには、他には見られない特徴があった。

 一つの容器の中に、二人の少女が入れられていた。

 

 金髪の長髪の二人の少女。

 その二人もまた、ニコの前にある容器の中の少女のように、互いに酷似した姿をしていた。

 繊手同士を絡ませ合い、寄り添いながら眼を閉じて、ただ静かに水の中を漂っている。

 

 

 

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