魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第40話 獣性

「暑い」

 

「分かってる」

 

「確認の為に言ったんじゃないよ。反応すんな」

 

「へいへい」

 

 

 欠伸をしながら会話を重ねるナガレと杏子。

 二人の言葉が表すように、空には燦燦と輝く太陽があり、熱せられた空気が風によって運ばれていく。

 風に撫でられながら、二人は今の現状を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 結局昨晩は一睡もせず、身を寄せ合ったままぼーっとしていた。

 朝になった辺りで身を離し、少し寝とくかと思った瞬間、

 

 

「朝だよ!」

 

 

 と、牛の魔女の内部で寝ていたかずみが魔女の内部から飛び跳ねて現世へと戻った。

 三角頭巾をかぶり、エプロンを巻いた姿。

 右手には山盛りのスクランブルエッグが乗せられた皿。

 

 左手には山盛りのパスタが入った深皿が握られていた。

 魔女の内部にある調理器具と食材を用いて朝食を作ったらしい。

 

 寝る訳にも行かず、出来立ての食事を食べない理由も無く、二人は朝の準備を整えた。

 焼きたてのパンに前述の料理、コンソメスープが机の上に並ぶ。

 数分で全てが平らげられた。

 

 

「ここ行きたい!」

 

 

 魔女の内部で皿洗いも済ませたかずみは、再び魔女の外へ出るやそう叫んだ。

 手にはキリカの母が持たせたあすなろ市の観光案内書があり、開かれたページには…。

 

 

 

 

 

「『あすなろ市立動物園』か」

 

 

 歩きながらナガレは呟く。

 

 

「なんだよ、妙に足早に歩きやがって。あんたも結構おこちゃまだな」

 

「お前こそ、結構楽しそうじゃねえか」

 

 

 彼を煽る杏子であったが、彼女の姿は彼の背後でも隣でもなく前にあった。

 

 

「その服も似合ってるしよ」

 

 

 本心のままに彼は告げる。

 杏子は微笑んだ。八重歯を牙のように見せての、猛獣の様な笑顔だった。

 

 

「お褒め頂きありがとさん。あたしの『方が』似合うだろ?」

 

 

 杏子が今着用しているのは、普段のパーカーにホットパンツに丈長のブーツではなかった。

 肩が剥き出しの、スカートの丈がやや短い黄色のワンピース。

 裸足を覆うのは彼女のイメージカラーでもある真紅のローファー。

 更には普段のポニーテールは解除され、拘束を外れた長い髪が熱い風の中で揺れていた。

 外見のモチーフは、言うまでも無さそうである。

 

 

「お前『も』似合ってるよ」

 

 

 架空の美少女である惣流アスカへの対抗心を燃やす杏子に、彼は怯まず自分の意思を伝えた。

 睨み返してきた杏子の視線にも、真っ向から挑む。

 数秒が経過した。

 

 

「わー!すっごーい!たーのしー!」

 

 

 杏子の背後から、楽しそうにはしゃぐかずみの声が聞こえた。

 遊園地の時と同じくデジャヴを感じる様子だったが、状況が似ているので仕方ない。

 彼らがいるのは園内に設けられた広場であり、その周囲に展開された檻を見て回りながらかずみははしゃいでいた。

 鳥類に爬虫類に哺乳類にと、動物の種の隔てなくかずみは見て回って楽しんでいる。

 

 動物は広く、全体の半分も来ていないが二人も少々疲れていた。

 理由は簡単で、二人もまた檻に入れられた動物たちを前にはしゃぎ回っていたからである。

 遊園地の時と同様、疲れ知らずで現状を楽しみまくっているかずみを確認できるベンチへと、二人は隣り合わせで座った。

 

 

「にしてもこのスカート、短すぎる気がすんだよねぇ。やっぱあの女は売女だな」

 

 

 嫌いなキャラクターそのものの服を着て、愚弄の言葉を彼女は語る。

 まるで馬鹿にするためにその作品を視聴し、アンチ発言を繰り返すような行為だった。

 下手に刺激すると不愉快な言葉を続けそうなので、彼は話の矛先を逸らすことにした。

 

 

「そういやよぉ。少し前に新聞で読んだのを思い出したんだけど」

 

「なにさ。このメスガキが綾波に人気投票で負けたってコトかい?」

 

 

 うぐ、と彼は呻いた。悔しいらしい。

 敗北の痛みを堪えてナガレは再び口を開いた。

 

 

「違ぇよ。この動物園であった、変な話だ」

 

「怪談話みてぇな?」

 

「そんな感じだな。なんでも、老衰で死んだ犀の死体が檻の中から消えてたんだとよ」

 

「角でも狙ったんじゃねえの?高いらしいじゃん、あれ」

 

「らしいな。でもな、誰にも気付かれずにあんなデカい生き物の死体を消せるってこたぁ…」

 

「魔法だな。魔法少女か魔女かは知らねぇけど、変な事しやがるな。変態に違いねぇぜ、そいつ」

 

「ほんと。何がしてぇんだろうな」

 

 

 奇妙な出来事に対する結論を出し、二人はぼーっと景色を眺めた。

 かずみは相変わらず笑っている。

 入り口付近のショップで買った、ライオンの鬣を模した帽子が気に入ったらしく、ふわふわの感触を時折手で確かめている。

 

 

「ライオン、ていやぁよぉ…」

 

「なんだい?昔話?」

 

「よく分かったな」

 

 

 弄ぶための言葉であったが、彼はそれを肯定した。

 杏子は興味が湧いた。

 

 

「邪魔しねえから、続けてくれよ。気になる」

 

「じゃあお言葉に甘えるか。昔な、アフリカに送られたことがあってよ」

 

「待て」

 

 

 数秒前の言葉を、杏子は自ら裏切った。

 

 

「アフリカ…ってのは、まだいい。『送られた』…ってのは?」

 

「言葉通りだよ。親父の野郎、修行だとかぬかして空手着の俺を箱詰めにして飛行機に俺を密輸させやがった。寝て起きたら新宿から外国にいたんだぜ?しかもサバンナ?いや、さばんなちほーっつうんだっけか。どうやったんだかそのド真ん中に置かれた箱の中にいたんだよ。冗談キツいってレベルじゃねえだろ」

 

「あー、うん。そうだね。ほんとにそう思うよ」

 

 

 冗談キツい、と杏子は思った。

 話す言葉の全てが冗談にしか聞こえないし思えない。

 最近感覚が麻痺していたが、そもそもこの少年の姿をした存在そのものが冗談じみていることを思い出していた。

 

 

「ったくよぉ…10歳の子供にさせるコトじゃねえだろってんだ」

 

「おいおいおいおいおいおいおいおい」

 

「ああ、悪いな。愚痴になっちまうところだった」

 

 

 ちゃんと話は進めるよ、と彼は言った。

 そうじゃない。

 そうであるが、そうではない。

 杏子はそう叫びたかったが、その気持ちを堪えて彼の話に耳を傾けた。

 

 

「まぁ最初にやったのは水の確保だな。これは幸いなんだが、別に困らなかった。泥水飲むのは山籠もりとかでも慣れてたからよ」

 

 

 泥水…と杏子は呻いた。

 流石に泥を喰ったことは無い。父親と一緒に、教会に来なくなった信者の元を回る中で泥をぶつけられた事はあったが。

 そういえば昔、何気なくテレビを観ていたら泥を喰ったとか言う場面が出てきたのを見た事がある。

 

 記憶を辿ると特撮番組だった気がする。動物っぽい感じの外見になった連中が殺し合う内容だっけかなと彼女は記憶を辿った。

 となると泥を喰うってことは蟹か何かに変身するのかなと杏子は思った。

 それっきり自分の過去への興味を無くした。

 今気になるのは彼の過去である。

 

 

「でも困ったのは動物どもだったな。そりゃああいつらからしたら俺は余所者で、気に入らねぇってのは分かるさ。犬猫でも縄張り意識は高いんだからよ」

 

「魔法少女もそうだね。つまりあたしらは畜生以下か」

 

「人間も動物だからな。でだ。ワニやカバやらが襲い掛かって来やがった」

 

「うげ」

 

 

 空手着の少年に襲い掛かる猛獣の群れの様子が、杏子には鮮明に想像できた。

 現実では、かずみがカバの檻の前で相手の大口に張り合っているのか口を大きく広げて笑っている。

 肉厚の巨大な口の中の巨大な臼歯。

 異形さでは部分的とはいえ魔女にも似た獰悪さがある。

 カバは大人しい動物ではなく、現地では人間を除いて最も人間を殺戮している生物なのである。

 

 

「そいつらを掻い潜ったり、なんとか頑張ってカバの眉間殴ったり、ワニの尻尾掴んで振り回したりしてブチのめして…まぁ、良い修行になったよ」

 

 

 笑う彼だが、当時を思い出しているのか疲れが見えた。

 どっちが猛獣、どころか化け物なのか分かったものではない。

 

 

「なんていうか…あんた……ほんとにロボット乗りなのかい?仮面ライダーとかの方が似合うんじゃねえの?」

 

 

 と、杏子は思ったままに口にした。

 言ってから思った事は、素の状態で変身ヒーローみたいな存在なのだから変身する必要は無く、寧ろロボットに乗る方が自然なのではないか。

 という事だった。

 

 なんか何もかもがおかしいな。

 言った後でそう思い、口角を尖らせて杏子は笑った。

 笑いながら「早く次を話せよ」と言い、彼に続きを促した。

 

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