魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第40話 獣性⑥

「で、キリカ。こいつらは一体何なんだ?」

 

 

 ゴリゴリと口内の物体を咀嚼しながら彼は言った。 

 言い終えると同時に飲み込む。口内に溜まるのは独特の味。

 サルミアッキと彼は評した。

 

 彼とキリカの、佐倉杏子の身体を乗っ取った呉キリカの前には動物を模した巨大な複数の異形が並んでいた。

 大蛇にレイヨウにサイに虎にと、全長五メートルにも達するそれらは全てが仰向けになり、開いた腹部を見せている。

 虎だけは両腕が無い。彼が喰ったからである。

 

 ナガレの横顔をキリカが見ると、少し残念そうな表情をしていた。

 まだ喰いたいらしい。

 やれやれとキリカは思った。

 表情が綻んでいるところをみると、可愛いとか思っているのだろう。

 確かに彼の外見は可愛いが、行っている行動はやや異常である。

 

 

「魔女モドキ」

 

「こういうのもなんだけどよ、改めて女らしさ皆無だな」

 

「まー、そのあたりは多少はね?元々の魔女からして大体は女要素皆無だし」

 

 

 自らの末路に対し、キリカは平然とそう言った。

 ナガレが心苦しそうな言い方なのに対し、彼女はむしろ楽しそうですらある。

 

 

「それで、何なんだよ。魔女モドキってのは。ああ、言葉の意味そのままってのはナシでな」

 

「やるな友人。私の無駄話に対応して先手を打つとは」

 

 

 満足げにキリカは言った。

 

 

「これだよ」

 

 

 そう言ってキリカは、彼に向けて右手を伸ばした。

 広げられた繊手の中央に、黒い物体が置かれていた。

 形状と大きさはグリーフシードに近い。

 が、針状の部分が捩じれ、根の様な形になっている。

 

 

「ああ、こいつら倒した時に出てきたやつか……ん、見覚えがあるな」

 

「287話」

 

「はい?」

 

 

 謎の数字に彼は怪訝な声を出した。

 

 

「いやね、話数にしたらそのくらいぶりの登場かと思ってね」

 

「???」

 

「ああすまない、自分語りが過ぎたな」

 

 

 左手を軽く握って頭を叩き、てへっ☆とでもいうような仕草をした。

 いつもの黒い魔法少女服を着たキリカ=杏子の姿でのそれは尋常ではない可愛さだった。

 こういうのを見る度に、彼は疑問を抱くのであった。

 なんでこの連中は、今に至るまで彼氏とかがいなかったのかなと。

 この世界の連中は去勢されてるのかと、時々思う彼であった。

 

 

「実は私は、君と会ってから今までの出来事を絵日記として物語の形にして書いているんだよ」

 

「そうなのか」

 

「そうなの。創作行為してるの。えっへん!」

 

 

 キリカは胸を張った。

 普段なら生地を盛り上げるどころか張り裂けんばかりに押し上げられる胸は今はなく、ただ虚無である。

 

 

「それでねそれでね。今メモ帳に溜めてるんだけど、それで言えば今から287話前に出てきたなって。ホラ、さささささが食べてたやつがコレだよ。あいつが言ってたと思うけど、アレを渡したのが何を隠そう私でね」

 

「たしか名前は」

 

 

 ある種の犯罪の告白に対し、彼は全く気にしなかった。

 過去の事よりも、今の関係が大事だと言わんばかりに。

 

 

「『イーブルナッツ』。悪意の実だよ」

 

 

 そう言ってキリカは投げ寄越した。受け取ったそれを、ナガレはしげしげと眺めた。

 

 

「で、これが人に、というか女に触れると」

 

「こんな感じの化け物になる……のとは、合ってるけど少し違うハズなんだけどね」

 

「そういや、沙々の奴はこれ喰って腕を変形させてたな」

 

「そう、それ。これに触ると肉体自体が変容する」

 

「なるほどな。だとすりゃ妙だ」

 

 

 そうそう、と言ってキリカは右手から斧を一本生やした。

 そしてそれを下方に向けてステッピングファングとして打ち出した。

 仰向けにされた虎の頭部を撃ち抜いた。

 これを見ろ、という事だろう。

 態々そうやった理由は不明である。

 意味も無いのだろう。

 

 

「こいつらはまるで着ぐるみだ。どいつも人が入れる空洞があって、その中に人が入ってた」

 

「気配で分かったけどよ、ぞっとしねえな」

 

 

 彼は記憶を辿る。

 サイの中からは飼育員の女性、他のものからは女学生やら観光客か、スーツ姿の社会人もいた。

 

 

「飼育員の人は、多分サイの飼育担当員だったんだろうね。死体が盗まれたニュースは聞いてるから、それでストレス抱えてたんだろね」

 

「やっぱそういうのに反応するのか」

 

「そうそう。他の人らは特撮好きなのかなんなのか知らないけど、魔女モドキはその人が強い執着や感情を抱いたものにある程度影響された姿になるんだ」

 

 

 ほんと禍つ式みたいだね、とキリカは繋げた。

 

 

「さっき言ってたけど、お前がこの実を持ってきたんだったよな。でもお前が作ったって感じじゃねえけど」

 

「ああ。私はこいつを拾ったり奪ったりしたのさ。さあ、回想モードいくよ?」

 

「いいから話せよ」

 

「がっつくねぇ、友人。寝台を共にする時が楽しみだよ」

 

 

 微笑むキリカ。形は極めて美しい。

 危険な毒を孕んだ、闇の中で輝く漆黒の花の様に。

 

 

「私が持ってたのは、それの持ち主由来のものさ。変態的な肌露出をした金髪ツインテ女で、戦ってる時に色々聞いたりしたんだ」

 

 

 なるほどと彼は思う。

 キリカと話しているとよくあるのだが、彼女の言葉に先導されて情報を引き出されている時がある。

 多分そんな感じに、毒の言葉や嘲弄を交えた言葉を放ち、相手の感情を揺さぶり話を引き出したのだろう。

 いつもの不死身ぶりを発揮して、やられたフリをしてその際に聞き出したのかもしれないと。

 

 

「その時にパクったり拾ったりしたのさ。あいつボスキャラっぽい外見の癖に、割とドジっ子だったなぁ」

 

「てこたぁ、その変態ドジ女がバラ撒いてるってコトかよ」

 

「いや、それがどうもそうでもなさそうなんだよなぁ、これが。何でか知りたい?」

 

「教える積りはねぇってか?」

 

「うん」

 

 

 八重歯を見せて、朗らかな笑顔でそう言った。

 

 

「言っても現状無駄そうだしね。それと性質が変化してる以上、私の知るイーブルナッツとは大分異なっているみたいだ。先入観を持つのは危険だろ?」

 

「それもそうか。心配してくれてんのか?」

 

「いや、この理由は今考えた」

 

「おい」

 

「君と会話するのが好きでね。正直、これもセックスの一環だと思ってる」

 

 

 愛し気な表情で、キリカは舌で上唇を淫らに舐めた。

 ぷにっとした唇の上で唾液を纏った舌が躍り、照り光る唾液が宙を舞った。

 それは雄を求めて粘性を孕んだ雌の器官の暗喩であったのだろうか。

 

 

「んじゃ、心惜しいがそろそろ行くよ。ありがとね友人、今日は楽しかった」

 

「俺もだ。色々とありがとよ」

 

 

 肝心な事は言わないキリカであったが、彼は礼を言う事は欠かさなかった。

 楽しかったのは事実だし、自分では何も分からなかったからだ。

 そもそも、友達との別れ際である。

 利害云々を、今の彼は全く考えていなかったに違いない。

 

 

「ふふふ。礼を言うなら態度で示し給えよ」

 

 

 そう言って、キリカは唇を小さく尖らせた。

 求めているのだろう。

 

 

「なーんてね!」

 

 

 しかしすぐにそれを崩してキリカは言った。

 その瞬間、その体が手前に引かれた。

 悲しそうな顔をする演技を挟むつもりだった時の、不意の動作にキリカは戸惑った。

 腰に回された左手が引かれ、彼の身体の前面と彼女の前面が密着する。

 右手がキリカの後頭部に添えられ、二つの顔が重なる。

 

 

『ゆ、友人!?』

 

『礼が欲しいんだろ?こんなのでよけりゃ、たまにはやってやるさ』

 

 

 思念で意思を交わす。

 キリカは硬直した。

 彼の口内に舌を入れたいし、抱きしめたいが動けない。

 巨大な獣の口内にいるような、そんな感じがした。

 

 そして全身が痺れていた。

 それを誘発しているのは、彼から求められたという現状による思考の麻痺。

 心に染み渡る多幸感。

 それによって思考が千々と乱れる。

 

 消えていく意識、その奥から顕れるもう一つの意識。

 この肉体の本来の持ち主、真紅の魂。

 黄水晶の瞳がその魂と同じ色に輝く。

 同時に全身が発光、黒い衣装が弾け、真紅のドレスへと変わる。

 

 

『お゛』

 

 

 くぐもった悲鳴の意思。

 重なり続ける唇。眼の前の光景を認識する瞳。溢れる涙。

 

 

お゛ぎ゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!

 

 

 赤子の産声と断末魔を合わせたような叫びの意思。

 彼の意識に突き刺さる、悍ましく痛々しい思念の音が彼の魂に鳴り響く。

 キリカに意識を奪われているその背後では、さぞ異常な理不尽が彼女を襲ったらしい。

 杏子の叫びから、それに対する憎悪と怒りも感じながら、彼は杏子の唇に自分のそれを重ね続けた。

 

 

 

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