魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
空には星が満ち、少し欠けた月が浮かんでいた。
遠くに聞こえるのは、鳥獣と思しき鳴き声に咆哮。
風によって揺れる葉の音。
そして間近では、焚火が燃える音が鳴っていた。
くべられた薪の中央では、オレンジ色の炎が燃えて揺れている。
その光に、黒髪の少年が照らされている。
森の中、拾った丸太を横倒しにして即席の椅子にし、ナガレはそこに座っていた。
火が僅かに弱まったと見えたか、足元に置いてある薪を数本継ぎ足した。
新たに切ったものではなく、森の中で拾ったものを使っている。
自然に配慮しているといい事だろうか。
火に向かって落とされていた視線が上に向かう。
炎を挟んで、正面にあるものを彼は見た。
そこにいたのは、炎に照らされる二人の少女。
「はぁい、かずみちゃん」
佐倉杏子の声である。しかし言葉が表すように、普段の様子ではなかった。
声も猫なで声で、甘ったるい響きがある。
それでいて、性的な要素はない。
まるで生まれたばかりの子を持つ母親か、新しく妹が出来た姉のようである。
「かあさん、きょうはあなたのだいこうぶつをつくったの」
ゆっくりと、丁寧に杏子は言う。
魔法少女姿の杏子はナガレと同じく丸太に座っている。
その両膝の上に、杏子の普段着を纏って身を横たえたかずみがいた。
赤ん坊を膝の上で抱く、または猫でも抱えているような体勢だった。
当然ながら、小柄とはいえ身長150センチの少女でそれを行っている為、外見的には違和感を禁じ得ない状況だった。
かずみは黙ってその状態を受け入れている。
赤い瞳には困惑の色があったが、仕方ないという諦念、または受容の意思が伺えた。
そこに向けて微笑み返す杏子。形で見れば聖女にも見えるが状況が異常だった。
かずみを膝の上に置いたまま、杏子は両手を伸ばした。
開いた手の間に赤い光が溜まり、次の瞬間に実体化する。
真紅の十字槍が二本召喚されていた。
それを握り、切っ先を横に揃える。
その間には既に用意が出来ていた。
火の上にはだし汁と野菜が敷き詰められた鍋が、鉄棒で組んだ支えによって設置されていた。
溶かれた味噌が沸騰する水分の泡によって、液体の中を循環していく。
その鍋を挟んで、二本の槍が突き出されている。
槍の下には抗菌プラスチックの白いまな板があった。
裏面をナガレの両手が支えている。
白い板の上には、赤桃色の肉塊が置かれている。
大体、人間の首くらいの大きさだった。
ナガレの足下には、それの出処が転がっている。
黒茶色の剛毛を全身に生やした獣、猪の成獣が転がっていた。
生やしたと言っても皮は既に身から剥がされ、近くの木に吊るされている。
内臓も取り出されて処置をされ、あとは餌食となるだけである。
肉突きの良い腿部分が切り取られ、まな板の上に置かれていた。
それに向けて、二本の槍が下ろされた。
「チタタプチタタプチタタプチタタプチタタプチタタプチタタプチタタプチタタプチタタプチタタプチタタプ…」
呪文のように唱えながら、杏子は槍を肉に叩き付ける。
頑丈である筈の肉が簡単に切断されて見る間に挽肉となっていくが、槍穂はまな板に接触する音を立てない。
ただ、杏子が唱える呪いの声と肉を切断し、潰していく音だけが響く。
槍が止まって消えた。呪文詠唱も途絶える。
微塵となったそれを、ナガレはスプーンで整形して鍋に投じた。
手際が良すぎ、五キロ分の肉が鍋に消えるまでそう時間は掛からなかった。
「ちょっとまっててねぇ。おとしゃんがいまつくってるからねぇ」
杏子が言う。
そう言えばそんな名前で呼ばれてたなと思い返す。
ここ最近はナガレ呼びで、普段の行動を鑑みると使用頻度は高くない。
そんなものでいいだろうと彼は思っていたし、父親の紛い物から友達としての呼び方になった事にはかずみの成長を感じていた。
程なくして肉に火が通った。
お玉で具材を拾って、器に入れる。
それに多節となった槍が触手の様に巻き付いて引き寄せる。
強引な取り方なのに、汁の一滴も弾けない。
杏子はそれを、器に入れていたレンゲで具材を掬って
「ふー、ふー」
と息を吹きかけて冷やしていた。
その様子に、彼は改めて「これは重症だ」と思った。
「はーい、あーん♡」
ううむ、と彼は思った。
意外と堂に入っていたので、良い母親になるのかもしれないなとナガレは思っていた。
「あーん」
拒む様子も無く、かずみは口を開けた。
その中に、丁寧に丁寧に具材を注ぐ。
その様子はまるでニトログリセリンを扱うようだと、彼が思ったかどうか。
かずみの口が閉じられる。
彼女は笑顔になった。
杏子も同じく。
火に照らされながら、ああ、平和だなと思いながら彼は息を吐いた。
炎が彼の息に揺れ、小さな火花を散らした。
自分も食べるか、そう思った時に、彼は背中と首筋に冷気が掠めるのを感じた。
物理的なものではなく、それは直感であった。
前を見ると、杏子は二掬い目を用意しており、かずみは眼だけをナガレに向けていた。
彼女も同じものを感じたようだ。
『佐倉杏子の事は私に任せて。手伝えなくてごめんね』
『こっちもな。その役は俺に出来ないとはいえよ』
思念で意思を交わす。
方針が決まった。
「悪い、ちょっと外すわ。山菜でも採って来る」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃーい!」
似たような言葉を背後で受け、それに対して右手を振って彼は答えた。
そして夜の森を歩く。
比較的平坦な道から、下り坂へと移行していく。
下降の最中に、不意に地面が平坦となった。
周囲の景色も変わる。
木々が消え失せ、広大な空間が広がる。葉の擦れる音や、生き物たちの息遣いも消え失せる。
風も無く、音も無い世界だった。
白い靄が立ちこめる場所の中に彼はいた。
上空に輝くのは先程と同じく夜空ではあるが、月は満月に変わり、星の配置も異なっていた。
その夜空を横切る影を彼は見た。
それも一つではなく、複数の影を。
彼は地を蹴って跳んだ。
乳白色で覆われた地面が砕け、地を構成する黒い破片が舞った。
滞空中に、彼は腕を振った。
瞬時に呼び出していた牛の魔女が斬撃として放たれ、彼に向けて飛翔していたものを切断した。
着地と同時に、彼の背後の二か所で地面が抉れた。
着地の瞬間にも横薙ぎの斬撃を放った。
背後の地面が大きく抉れ、細い三日月のような傷が刻まれる。
「衝撃波か」
彼は呟く。
放たれた不可視の攻撃に対し、彼は本能と経験で迎え撃った。
威力の大半を薙ぎ払ったが、微細なものは刃と化して彼の衣服と肌を浅く切り裂いた。
滴る血液に吸い寄せられるように、複数の黒影が舞い降りる。
横に広がった黒い翼。
羽根は無く、闇色の膜が広がっている。
巨大な翼に反して胴体は小さく、爬虫類のように口吻を尖らせた頭部があった。
頭部には縦長の耳が立てられている。
身体を構築する全ての部分が闇色で染めた、翼長にして6メートルに達する巨大な蝙蝠達が彼の前に広がっていた。
一体一体が大きいゆえに、視界の大半が闇の翼で覆われている。
吸血を目的としたと見える牙を剥き出しにし、金切り声を上げて吠えている。
それらの一体一体に、ナガレは視線を走らせる。
外見上の差異は特に無し、そして内部から感じる気配にも人のそれはない。
残る気配は異形の気配。
異界の様子からしてほぼ確定ではあったが、魔女モドキとキリカに教わったものと同一と認識。
「なら、遠慮はいらねぇな」
異形達に挑む様に彼も牙を見せて嗤う。
右手に握った斧槍から、黒い波濤が広がっていく。
それは彼の体表を覆い、更なる力を彼に与える。
頭部からは左右に突き出た槍穂の様な黒い角が生え、肘に膝にと漆黒の装甲が覆う。
「ちょうどな、てめぇらみたいなのが欲しかったんだ」
告げた瞬間、彼の背から闇が弾けた。
広げられたのは、闇の翼を広げた蝙蝠達よりも更に巨大な蒼黒の翼。
真ゲッターロボタラクと呼ばれる機体を模した、ナガレの強化形態。
翼の根元からは、龍の尾の化石の様な黒い鞭が生え、試し打ちとばかりに地面を打った。
打たれた地面が波打ち、切っ先が深々と地面を貫いて抉り抜く。
「じゃ、やるか」
彼は斧槍を構えて言った。
それを合図に、闇の翼で宙を舞う者達が金切り声を上げ、彼に向かって襲い掛かった。
佐倉さんの様子のモチーフは惣流さんの母
なおこの人の名前は…