魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第43話 発見

「はいよ、回想終了っと」

 

「おう、ありがとな」

 

 

 焚火を挟んで、ナガレと杏子が向かい合う。

 まだ夜も深く、周囲には闇が満ちている。

 月と星々を除けばほぼ唯一の光源である炎と火花が二人の顔を照らす。

 闇の中で赤く浮かび上がる様は、生者にも死者にも見える。

 そのどちらでもあるかもしれない。

 この二人の頑強さは異常に過ぎていて、生と死の狭間に常にあるとしか思えない。

 

 

「で、あの後は『温泉で暴れるのはやめよう』ってコトで、山の斜面で野外プレイと洒落込んだんだよな」

 

 

 顔を赤く染めながら杏子は言う。

 炎の輝きもあるが、自前で染まっているのもある。

 言ってて恥ずかしいのだろう。

 態度と言動が過激な時もままあるが、杏子の本質は純粋でまだ幼い事の証明であった。

 幼いが故に加減が分からず、行為がヒートアップしていくのもある。

 

 

「楽しくなかったってワケでもねぇけど、水着着ての殴り合いは俺としてはあんまやりたくねぇな」

 

「あんたさぁ、嫌な事はちゃんと否定しなよ。そういうコトすっから、纏わりつく雌の害獣共が調子に乗るんだからさ」

 

 

 杏子は不愉快そうに吐き捨てる。

 彼女の意思の中で、その害獣共には自分は含まれていない。

 

 

「それで、そん時のバトルで巻き添えになった猪を使って飯にしたんだよね」

 

「あの後結局、半日は戦ってたからな」

 

「かずみ、怒ると怖いんだな」

 

「ああ」

 

 

 二人は黙った。

 少し肩が震えたようだった。

 それは寒気か、恐怖か。

 ナガレが記憶を辿ると、杏子が精神崩壊した惣流母のような状態になったのは、半日も放置されたかずみの怒りを目の当たりにしてからだった。

 

 

「それから…ああ、回想と思い出しが混じるからややこしいな。このやり方は色々と不親切だ」

 

「誰に言ってる?」

 

「あたしの観測者なあんたに。それでだ、昨日の夜に母親ごっこやってかずみを寝かせたら……まぁ、アレさ。いつも通りムラっとしたから、さ…」

 

 

 話を聞くナガレの眉が跳ねる。

 あれは演技だったという自白に反応したのだった。

 ついでに母親というか、幼児にしか見えなかった。

 

 そう思いながら喉を撫でる。

 先程まで杏子に噛み付かれていた場所である。

 喉に喰らい付かれてからのデスロールに、よって大きく抉られ大量の血を飲まれた。

 魔女に命じて治したが、治癒したばかりのむず痒さによる違和感が拭えないのは仕方ない。

 

 

「寝るか」

 

「そうだね」

 

 

 火を浴びながら二人はそう言った。

 そうして焚火の前でうつらうつらと眠った。

 起きた時、寝ているナガレの腹の前に杏子が背中をもたれ掛けさせて眠っている事以外は普通だった。

 牛の魔女の内部で寝て、起きた際にその様子を発見したかずみは

 

 

「セミみたい」

 

 

 と言った。

 それは幹にしがみ付いている様子なのか交尾している様なのか。

 かずみは特に考えず、朝の支度を始めた。

 昨日の猪の肉はベーコンに加工済みであり、朝食はそれを使おうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう……うぁ……うあーーーーーー!」

 

 

 朝の山道を裸足の少女が歩く。

 朝日を浴び、絶え間なく口から泣き声を出しながら。

 少女が纏っているのは数枚のバスタオル。

 水に濡れ、体表にぴったりと張り付いている。

 身体で隠すべき部分の最小限を隠し、泣きながら歩いていく様は強姦被害者にしか見えなかった。

 か弱くとぼとぼと、その少女は山頂を目指しながら歩いていった。

 泥まみれとなった足で進む先に、白煙を立ち昇らせる何かがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい天気だなぁ」

 

 

 歩きながら杏子は言う。

 坂道の先頭に立ち、両手を普段のパーカーのポケットに両手を突っ込んでいる。

 登山という行為をナメ腐っているかのような歩き方である。

 その少し後ろに、ナガレとかずみが並んで歩く。

 二人の前では、杏子の赤い長髪が彼女の歩みによって左右に揺れる。

 ポニーテールという名前にある通り、獣の尾のようだった。

 

 

「そうだな」

 

「うん」

 

 

 ナガレとかずみの返事も杏子と似たようなものだった。

 三人は揃って、晴れ渡った空を見上げていた。

 

 雲一つ無い青空。

 その青さを遮るものは何も無かった。

 視線を前に向ければ、山道の傾斜の角度で遠くに海が見える。

 この辺り一帯の標高が高い所為で、海面までの距離が近いのだ。

 水平線の彼方から太陽が顔を出していた。

 朝日に照らされる光景は、絵画の如き美しさを持っていた。

 

 

「…………」

 

「ん?どうしたの?」

 

 

 ふと、ナガレは杏子が背後を振り返っているのを見た。

 それに対し、かずみが問い掛ける。

 

 

「いや、なんでもねぇよ」

 

「ふぅ~ん」

 

 

 かずみにそう返す杏子。

 興味を失ったのか、かずみは景色を眺めながらてくてくと歩いていく。

 杏子は再び振り返ってナガレの顔を見る。

 表情はニヤけていて、楽しげだった。

 すぐに顔を前に戻して進む。

 

 

『なんなんだよ』

 

 

 ナガレは思念で尋ねた。

 ロクでもない言葉が返ってきそうだが、期待されてそうだと思ったからだ。

 

 

『あんたさぁ、さっきからあたしの尻ばっか見てるよなぁ』

 

『そうなのか』

 

『そうなんだよ」

 

 

 杏子は腰に手を当て、歩きながら小さく左右に振る。

 ホットパンツに包まれた小振りな尻が揺れる。

 

 

『あ、今また見たな?』

 

『え?』

 

 

 まだ続くのか、と彼は思った。

 

 

『見たいなら言えば良いじゃん。減るもんじゃないしさぁ』

 

 

 舐め廻すような思念で以て彼女はその言葉を送る。

 見たい、という欲望はない。

 単に杏子が先導しているのでその後ろ姿を見せられているだけだ。

 

 ふと彼は気付いた。

 杏子のこの様子に既視感があり、その原因がキリカであると言う事に。

 同じ場所に魂を格納され、時々人格を乗っ取られるせいか、魂が混じってるのだろうかと彼は思った。

 実際は彼への執着心が暴走し、ヒートアップしているが故であるが、彼には自分が好かれているという自覚が足りない。

 

 

『何度も言ったけどさ、ヤらせてやるって言ってんのにあんたも頑固だよなぁ』

 

『何度も言ったけどよ、まだそういう時期じゃねぇんだよ』

 

 

 朝早々から不健全、見ようによっては健全な思念を交わす。

『今日はいいお天気ですね』『何をして遊ぼうか』

 二人にとって、多分こんな感じの遣り取りなのだろう。

 杏子は脈無しとは思いつつも、一応という形で彼を誘う。

 

 もしも何かの拍子で彼が同意すれば、その時はナガレを貪れる。

 減るものじゃないとは彼女の言葉だが、尋ねることに何のコストもない。

 例によって今回も脈無しだった。

 

 彼の言葉を見れば、時間の問題のようだったが、彼女としてはさっさと経験したいらしい。

 欲望に素直という事だろう。

 ともあれ、未来があると再認識できた事は彼女に活力を与えた。

 後続が付いてこれる速度で、快活に進んでいく。

 

 しばらくすると、山頂の近くの山肌が見えた。

 その麓に、見覚えのある建物が建っていた。

 前日に立ち寄った温泉小屋、それを少し大きくしたような感じの施設だった。

 

 同様に施設内からは白煙が昇っている。

 振り返ってにっと笑い、杏子は一気に駆け出した。

 ついて来いと言わんばかりの態度だった。

 

 顔を見合わすナガレとかずみ。

 かずみは肩を竦めた。

 ナガレは頷いた。

 進むしかないのであった。

 

 歩きながら、ナガレは先程から気になっていたことを思っていた。

 自分たちが歩いていく山道。

 そこに前以て生じている足跡に。

 大きさは自分達と同程度だが、土に刻まれた形は裸足。

 何が起こってんだろなと彼は思った。

 

 

「おーい!」

 

 

 その建物の手前で、杏子は後ろを歩く二人に向かって叫んだ。

 

 

「おーい!こっちだぞー!!」

 

 

 両手を振り、大声で叫ぶ。

 分かってるよと思いつつも、彼はふっと笑った。

 元気になって何よりだと思ったのだった。

 

 だが次の瞬間、その笑みが氷結した。

 杏子の背後、小屋の玄関の扉が開いたときに。

 ナガレの表情を見て、杏子もそれに気付いた。

 振り返る。

 

 そこにいたのは、白い浴衣に身を包んだ少女の姿。

 杏子と同じポニーテールの髪型だが、髪の色も栗毛色であり、外見の印象は大分異なっていた。

 深い蒼緑の瞳が、振り返った杏子の顔を見ていた。

 次の刹那、咆哮が木霊した。

 佐倉杏子の叫びだった。

 その叫びには敵意と殺意、そして獲物を見つけた喜びがあった。

 

 

 

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