魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第45話 開戦②

「うう……」

 

 

 呻き声を上げながら、少女は、浅海サキは眼を開いた。

 眼鏡越しに見える世界は白一色であり、それがゆっくりと色彩を取り戻し始めた。

 知性を感じさせる優美な造詣の眼鏡に紺色のベレー帽に赤い衣装。

 騎手であるジョッキーを思わせる風貌の魔法少女衣装を纏った彼女の周囲には、彼女の左手が握る、これもまた乗馬鞭の形状をした武具から発せられる銀色の雷による障壁が展開されていた。

 それを解除するサキ。瞬間、熱風が彼女を叩いた。

 サキを取り囲む周囲の様子は、数秒前とは一変していた。

 

 黒を基調とした地面が、硝子の様な質感へと変化している。

 超高熱の雷撃によって溶かされ、凝固したのだった。

 同じく電撃を用いる魔法少女であったことが幸いし、サキは同質の力を用いることで破壊の力に耐えた。

 

 

「みらい……」

 

 

 仲間の名前をサキは呟く。

 周囲を見るが姿は無い。

 探さなければ、と思ったのも束の間。

 彼女の前、約二十メートルの距離を隔てて黒い影が地面に降り立った。

 地面に触れた黒い靴が、地面が変じた硝子を踏み割り乾いた音を立てた。

 

 

「っ…」

 

 

 視認した存在に、サキは唾液を飲み込んだ。

 もう何度も見ているし、先程から交戦状態にある存在。

 それでも緊張感は拭えず、胸の痛みは消え失せない。

 むしろ時間の経過によって増大していく。

 それはまるで、彼女の心に生じた黒々とした癌細胞。

 

 

「ぐる…るるるるる……」

 

 

 唸り声を上げるのは、黒い魔法少女であるかずみ。

 紅の瞳は瞬きもせずにサキを凝視している。

 口は開かれ、噛み合わされた歯が見える。

 口元からはガチガチという音。

 歯同士の隙間からは唾液が溢れて顎に滴っている。まるで狂犬病を発した猛犬である。

 

 異様な状態で、かずみはサキを見続ける。 

 最初の遭遇から今に至るまで、この状態が続いている。

 眼に宿る感情は、幾重にも血が塗られた様な憎悪の色。

 それがサキを射竦め、彼女の身動きを封じていた。

 

 サキは口を開いた。しかし、何も発せられなかった。

 掛ける言葉が無い。

 彼女はそう思ったのだった。

 

 

「おまえ、たち、が」

 

 

 そんな彼女に声が届いた。

 

 

「おまえたちが」

 

「オマエタチガ」

 

「お前達が」

 

 

 言葉が唱和されていく。かずみの口は、ガチガチと牙鳴りを続けつつもそれ以上は動いていない。

 しかしサキの元へ届くそれは思念ではなく、空気を震わせて生じる声だった。

 反射的に、サキは声の発生源を探した。

 合わせたように、かずみが羽織った黒いマントが翼の如く広がった。

 その瞬間、サキは気付いた。

 黒いマントの裏側で、何かが蠢いている。

 

 

「ひ…」

 

 

 サキは短い悲鳴を上げた。その顔は恐怖に引き攣っていた。

 かずみのマントの内側にあったのは、顔、顔、顔、顔。

 眼があり口があり、鼻がある。人の顔の表面を輪郭に沿って黒い布で覆ったような形。

 ゆえにやや朧気だったが、その形はマントの主であるかずみの顔の形に酷似していた。

 

 酷似どころか、それは同一の存在に見えた。

 どれもが眼から黒い流動体を零し、口々に怨嗟の声を漏らしている。

 マントの揺らめきに合わせてかずみの人面も蠢き、弾ける泡のように沸き立っては消え、そして増えていく。

 顔の裏にもまだ複数の顔があり、それが次々に現われて苦痛の顔で怨嗟を告げる。

 今のかずみを評するならば、生きた悪夢という表現ですら生易しい。

 地獄が人の形を取ったかのようだった。

 

 

「おおおおまあああええらああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 かずみは叫び、そして駆けた。

 地面が爆ぜ割れ、無数のガラス片が宙に舞う。

 迫るかずみを前に、サキは左手を強く握り込んだ。

 鞭の柄が手の肉に喰い込み、爪が肉を切り裂いた。

 

 手の中で血が溢れ、口内でも歯が舌を噛み千切って鉄潮の味を充満させた。

 自らの命の味と痛みを得ることで、サキは漸く体の自由を取り戻した。

 迫る地獄の姿を前に、サキは臨戦態勢を取った。

 その表情には、悲痛さと恐怖、そして色濃い罪悪感が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷撃の白光が消え去った時、異界の地面の一角に黒い球体があった。

 表面に亀裂が入り、球体が開いていく。

 中から現れたのは、美少女じみた顔の造形の少年だった。

 魔女と融合することによって生み出した黒翼を退避シェルターとし、かずみの雷撃から身を守ったナガレであった。

 同じく吹き飛ばされた杏子も覆う予定だったが、余りの衝撃に引き離され黒翼の中には彼だけがいた。

 ダメージカットの魔法を杏子に渡した為、無事でなくとも即死はしない筈だと彼は思った。

 

 

「………ぐぅ」

 

 

 苦鳴を漏らし、黒翼を解除して斧槍へと変える。

 ダメージカットの力を半分以上杏子へと渡した故に、彼も無事では無かった。

 治癒したばかりの身体には火傷が刻まれ、高熱の空気を吸い込んだ故に胃の内側が焼かれていた。

 軽く呻いただけで苦痛は見せず、ナガレは周囲を見渡した。

 一面に硝子化した地面が広がる。

 杏子の姿は無い。代わりに、異様な物体が見えた。

 

 

「…ぬいぐるみ?」

 

 

 彼の言葉通り、それは尻を地面に着けて足を延ばした熊の縫いぐるみだった。

 テディベアというやつである。

 ただしその大きさは家一軒ほどもある超巨体。

 大きさと言い形といい、何かの野外イベントで見かける、キャラクターを象ったバルーンドームを彷彿とさせた。

 

 表面が焼け焦げ、焦げ茶色となったそれの額から腹部までに縦の線が入った。

 線は亀裂となり、左右に開いた。

 倒れていく途中で輪郭が崩壊し、魔力の光となって消え失せる。

 光の中に、一人の小柄な少女がいた。

 

 

「…………」

 

 

 その姿を前に、彼は言葉を失った。

 巻き毛となっているピンク色のロングヘア、身長は低く、かずみと同程度。

 纏っているのは髪の色よりも明るいピンクのドレス。

 と、そこまではいい。問題はその肌面積である。

 身体の前が大きく開き、胸と股は極めて際どいブラとパンツに覆われていた。

 欲情などしないが、思わず、反射的に彼はこう思ってしまった。

 

 

「(…風俗かよ)」

 

 

 何を意図しているのか不明だが、性の要素を剥き出しにしたような衣装に対し彼はそう思った。

 何故こんな姿に、と彼は思った。カルチャーショックを受けているようだ。

 これまでに遭遇した魔法少女の中で、比肩するのがミラーズで遭遇した、着物+黒パンツの魔法少女の疑似個体か女子レスラーのような姿をした魔法少女くらいである。

 肌露出で考えれば、殆ど尻を剥き出しにした後者が近いか。

 そこで彼は思考を切り替えた。

 彼がその少女を見ているように、少女もまたナガレを見ていた。

 

 面倒なことになる前に、と彼は直ぐに動いた。

 手に持った斧槍を地面に突き刺し、両手を掲げる。

 敵対の意思はない、と示したのだった。

 

 かずみの久々の暴走、状況を見ると原因はこの連中にありそうだが、それならそれで次に進む指標になる。

 争う理由はその先で生じるかもしれないが、今はその時ではないと。

 もちろん、争わずに済むなら何よりだと思っていた。

 彼は戦闘は嫌いでは無いが、闘いに狂った存在ではないのである。

 

 

「う……うあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 彼が言葉を発しようとしたとき、少女が叫んだ。

 怒りと憎悪に狂った声だった。

 口の端は切れそうなほどに開かれ、少女の薄桃色の瞳は血走り、声に乗せられたのと同じ感情に満ちた視線をナガレに送っていた。

 直後、彼は斧槍を握った。

 刹那の後、金属の絶叫が鳴り響いた。

 

 

「ボクのサキを、傷つけやがってええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 少女は小柄なその姿に合わない、巨大に過ぎる両刃剣を召喚し彼に叩き付けていた。

 横に倒した斧槍の柄で受け止めるも、刃渡りだけで三メートルに達する大剣に魔法少女の剛力が乗せられた一撃は彼の両足の踝までを地面に埋めさせた。

 全身の骨と肉が軋む超衝撃。受け止められるとは思っていなかったのか、少女の顔に一瞬驚きの色が映える。

 しかし直後に怒りの表情に変わる。

 

 斬撃が縦から横に変わり、受けた彼が木の葉のように吹き飛ばされる。

 着地の瞬間に再度飛来した大剣に、今度は彼もまた斬撃で返した。

 言葉を発する間もなく、次の瞬間に大剣と斧槍が乱舞を開始する。

 共に巨大な得物でありながら、秒間に数十、数百の交差が繰り返され無数の火花が弾ける。

 斬撃の衝撃が硝子化した地面を切り刻み、互いの脚捌きによって砕け散っていく。

 

 

「死ね死ね死ね死ね!ボクのサキを傷付ける奴は!その仲間もみんな、みぃんな死ねええええええ!!」

 

 

 狂乱のままに少女は斬撃を繰り出し続ける。

 なんでこうなる、と彼は思ったが直ぐに納得した。

 これまで、言葉だけで物事が穏便に解決したことなど、殆ど無かったためである。

 

 

 

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