魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第54話 解き放たれた悪鬼ども③

「テメェだけは…」

 

 

 滴り落ちる毒のような声が漏れた。

 声には金属音が覆い被さっている。

 

 

「テメェだけは!テメェだけはぁああああああああ!!!!!」

 

 

 毒の悍ましさと炎の苛烈さを同時に宿した声で、佐倉杏子が吠え猛る。

 外套を燃焼させて飛翔しながら、杏子は十字槍の連打を放っていた。

 秒間数十発にも昇る刺突を、巨大な機械龍の頭部が受け続けている。

 大型トラックにも匹敵する白い蛇龍の頭は小動もせず、槍の猛打を受け続ける。

 頭部の先の長い首も、それより更に長い胴体や尾も、平然としながら異界の空高くを滞空し続けている。

 

 

『退屈だな』

 

 

 機械龍、ウザーラの口の隙間から声が漏れた。朱音麻衣の声である。

 退屈そのものと言った声であり、言い終えた後には「ふぁぁ…」という欠伸の音さえ聞こえた。

 

 

『飽きもせずによくも、まぁ』

 

 

 声は続く。蛇龍の頭部からは火花が上がるが、それは龍の装甲が削れて生じるものでは無かった。

 

 

『こっちは飽きた』

 

 

 蛇龍は軽く首を振った。それだけで杏子は弾かれて吹き飛び、手にした十字槍の穂は乾いた音を立てて砕け散った。

 

 

『これで少しは楽しませてくれ』

 

 

 蛇龍が口を開いた。次の瞬間、視界を埋めるほどの広範囲に広がる雷撃が放たれる。

 

 

「ふざけんな!!」

 

 

 雷撃を回避し、また再生成した槍で刻みながら杏子は蛇龍に、いや、その体を乗っ取った朱音麻衣に向けて飛翔する。

 ドレスの裾や肩に頬を雷が掠めて消し炭にするが、杏子の勢いは止まらない。

 

 

『ほう。雷を避けるのが巧いじゃないか』

 

 

 皮肉ではなく、その声には関心があった。

 強さというものに意識の重点を置く、麻衣らしい言葉だった。

 

 

「使う奴が多いからな!!」

 

 

 杏子が叫び返す。

 確かにそうである。

 

 

『なら難易度を上げよう』

 

 

 雷撃に加え、麻衣は巨大なプラズマの光球を複数放った。

 杏子は悪罵を放ちながら、魔力を籠めた槍で迎撃する。

 

 

「ざけんな!!」

 

 

 槍が乱舞し、火球を微塵と消し飛ばす。続く二発目三発目を回避し、杏子は再び麻衣へと肉薄した。

 

 

「さっきからイキりやがって!あたしの魔法をパクってる癖に自慢げにしてんじゃねえ!!」

 

『それもそうだが、お前だと使いこなせていなかっただろう』

 

 

 言い様に巨大な尾が一閃。

 杏子へと日本刀状の尾の先端が叩き込まれる。

 

 

「うっせ!!」

 

 

 杏子は巨大槍を生成し、麻衣の尾を受け止める。

 ついでに試してはみたが、巨大槍をウザーラへと変貌させる魔法それ自体が奪われたらしく、槍は蛇龍へと変性しなかった。

 しかし杏子は、蛇龍の尾を受け止めて切り刻まれる巨大槍の破片の中で微笑んでいた。

 獲物を見つけた獣の、無邪気で残忍な笑みだった。

 麻衣もそれに気付いた。

 蛇龍の外見に変化は無いが、恐らく麻衣も同じ顔で微笑んでいた事だろう。

 巨大な口が開き、佐倉杏子を食い潰そうと巨体が一気に迫る。

 

 

「バァカ」

 

 

 杏子は嘲り、右手を開いた。そして強く握り締めた。

 瞬間、蛇龍の身体が硬直した。

 

 

『な』

 

 

 予期せぬ事態に、麻衣も驚き呟いた。

 そして次の瞬間、異様な現象が発現した。

 蛇龍の全身、頭部に首に胴体に尾にと、至る所で装甲が爆ぜ割れたのだった。

 割れた装甲の下からは、真紅の鋭角が覗いていた。

 それは一気に伸び、蛇龍の堅牢な装甲を内側から破壊しながら姿を顕した。

 

 

「どうだい?結構効いたみたいだね」

 

『貴様……!』

 

 

 嘲る杏子、苦鳴交じりの言葉を吐く麻衣。

 ウザーラの体の各部の内側から生じたのは、多数の十字槍だった。

 サイズは杏子が持つ得物とほぼ同じ。

 

 個人が持つには長大な得物だが、五十メートルを超えるウザーラの体格からすれば針の様な代物だった。

 だがそれが、巨体の至る所から生えている。

 そしてそれは、見る間に数を増やしてその体を覆い尽くしに掛かっていた。

 

 

『が…ああああああああああああああああ!!!!』

 

「ははははははは!盗人には手痛い仕置きをしねぇとなあ!」

 

 

 巨体を捩りながら苦痛の叫びを上げる麻衣。

 喉を仰け反らせ、麻衣の様子を指で差しながら嘲る杏子。

 その間にも槍は増え続け、ウザーラの全身は

 

 

「まるでサボテンだなぁ!結構お似合いじゃん」

 

 

 杏子の言葉通りの姿となっていた。

 槍が生えていない場所を探す方が困難であり、槍の密集した隙間の奥に辛うじて蛇龍のシルエットが分かるといった有様と化している。

 

 

「魔法少女も魔女も、ワケ分からねぇ奴ばっかりだからな。こちとら対策だってするんだよ」

 

 

 苦痛の叫びを聞きながら、杏子はドレスのポケットから菓子を取り出した。

 袋を噛み千切り、チョコレートでコーティングされた棒状の菓子を口で含む。

 

 

「折角だから少し相手してやったけど、こうなっちゃ勝負もクソもねぇ」

 

 

 今も槍の発生を止めずに杏子は告げる。

 槍は外側だけでなく、蛇龍の内部も切り刻んで貫いている筈だ。

 

 

「で、どうだい?さっさと返すってんなら、今すぐ槍を爆発させて楽にしてやるけどさ」

 

 

 解除ではなく破壊による苦痛からの救済、であるのが彼女らしいか。

 しかしここで変化があった。

 

 

「あああああああ………は、ハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 麻衣の上げる叫び声の変化だった。

 苦痛の叫びは、哄笑へと変わっていた。

 杏子は舌打ちをした。

 

 

「やっぱりか」

 

 

 吐き捨てながら槍を構える。

 杏子も麻衣の意図を理解していた。

 苦痛や肉体の損傷程度で、こいつは動きを止めたりしない。

 何故なら自分もそうだからで、相手はその自分とこれまで死ぬほどやり合ってきたからであった。

 友情などは微塵も無い。

 ただ、悍ましいほどの殺意の重ね合いの中で相手を理解しているのであった。

 

 

『感謝するぞ。佐倉杏子』

 

「なんだって?」

 

 

 しかしながら、その言葉は予想外だった。

 

 

『丁度な。欲しかったところなんだ』

 

 

 イカレたのか?と杏子は思った。または新たな性癖に目覚めたのかとも。

 だが次の瞬間、杏子には麻衣の意図が分かった。

 発生した槍が、更に伸びていった。

 ウザーラの輪郭を破壊しながら、内部から溢れ出る。その様はまるで、腐肉の中身を喰らい尽くして外部に湧き出た蛆虫を彷彿とさせた。

 そしてウザーラの中から飛び出た槍は、真紅の色をしていなかった。それは、毒々しさを湛えた紫色となっていた。

 麻衣に乗っ取られた蛇龍の色と、同じ色だった。

 それが何を意味するのか、杏子には分かってしまった。

 即座に槍の生成を止めるが、

 

 

『もう十分だ。これだけあれば足りるだろう』

 

 

 麻衣はそう言った。そして槍の群れが変化を始めた。

 触手の様に曲がり、或いは伸びて新しい形を造っていく。

 足りるとか、欲しかったとはこう言う事か。

 

 

「気色悪ぃな!!」

 

『少し待て。もうすぐだ』

 

 

 絡み合う槍の奥で麻衣の声が鳴る。

 音源の近くには、血色の二つの光が見えた。

 杏子はそれを、朱音麻衣の眼光と見た。

 

 

「待つ気はねぇ」

 

 

 杏子は言い捨て、全身に魔力を満たした。

 主の魔力に反応し、十字槍が形を変えていく。

 左右に突き出た叉は巨大化し、大斧へと変じた。

 トマホークランサー。その状態を嘗て杏子はそう呼んだ。

 

 そして燃えるような長髪を束ねるリボンにも変化があった。

 左右に伸びたリボンの裾が尖り、角か獣の耳のように変化する。

 ナガレの記憶の中で見た、異界の兵器の頭部を模した形状となっていた。

 武器は兎も角、リボンに手を加えたのは彼女なりのゲン担ぎなのだろう。

 

 

「今のうちにぶっ潰させてもらうよ」

 

『お前、空気を読まない奴だな。普通、相手がパワーアップとか覚醒からの変態中なら黙ってジっと見てるとかするものだろう』

 

「黙れ変態。あたしは相手に合わせる気なんかねぇんだよ。それで負けたら元も子もねぇしな」

 

『楽に勝てるのならそれで良い、か』

 

「ああ」

 

『獣と変わらないな』

 

「バケモノの外見になってる奴がほざいてんじゃねえ」

 

 

 そこで杏子は飛翔した。

 斧槍となった十字槍は眩く輝き、一撃必殺の威力が込められていた。

 対する麻衣も、全身を覆う槍の隙間からそれを見ていた。

 彼女の公算なら、新たな姿が出来るのと杏子との激突は同時。

 ならば負ける要素は無いとした。

 

 その麻衣の眼が、驚愕に歪んだ。

 杏子もそれを見た。

 接触の寸前、杏子は思わず振り返った。

 その瞬間、彼女の視点は反転していた。

 

 飛翔は落下に変わり、視界が激しく揺れ動く。

 その中で彼女は、切断された槍と、腹あたりで生じた断面から内臓と鮮血を零す自分の下半身、そして触手状となった槍で覆われた巨大質量が上下で真っ二つになって落下する様子を見た。

 地面に激突する寸前、

 

 

「よそ見注意ッ!」

 

 

 と叫ぶ声が聞こえた。

 麻衣にも聞こえた事だろう。

 それは二人にとっては、相対している相手以上に極めて不快な、そして春に流れる清らかな風のように朗らかとした声だった。

 意識が途絶える寸前、二人は黒い魔法少女の嘲笑の声と笑顔を見たような気がした。

 

 

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