魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第58話 短い平和は終わりを告げて④

「それでは」

 

 

 ニコと名乗った少女は、それを口火として語り始めようとした。

 かずみという存在の正体。

 自分達との関わり。

 そしてこの周囲の状況。意識を失った裸体の少女達が液体で満たされたカプセルに入れられ、眠り姫の如く沈黙している異様な光景。

 それら全てを、彼女は語る積りだった。

 ナガレも杏子も、それを黙って聞こうとした。

 異変はこの時に起きた。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 苦しみの呻きを上げる杏子。

 身を折りそうなほどに身体が前へ傾き、両膝を突く。

 

 

「ぐ、あ、あ、ああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 苦痛のままに杏子は叫ぶ。

 ナガレはニコに注意しつつも片膝を突いて杏子の傍に寄る。

 そして彼女の名前を呼び、大丈夫かと声を掛け続ける。

 

 

「…どゆこと?」

 

 

 当然、ニコは困惑した。

 その一方で、これは相手の罠かとも疑っている。

 この二人のデータはある程度揃えてある。

 今、苦痛に呻いていると見える佐倉杏子は要危険人物としてニコの脳内に記録されている。

 風見野最強の魔法少女であり、一家心中の生き残り。

 家族を喪った後は軽犯罪行為を繰り返して生き延びている。

 

 敵対者には容赦なし。

 魔女は皆殺しで敵対した魔法少女はほぼ例外なく半殺し以上の目に遭っている。

 ニコはそこに警戒しつつも、奇妙な親近感を覚えていた。

 近しい存在の命が失われているという点にである。

 

 しかしながら、警戒心も怠らない。

 佐倉杏子が危険人物である事に変わりはなく、情報を得る為なら自分の手足の指を切断する拷問も厭わなそうだと思っていた。

 

 

「でも、これは…」

 

 

 思わず呟いていた。

 杏子の様子は、どう見ても演技には思えない。

 隣の少年も杏子を必死に心配している。

 そんな彼を、ニコは複雑そうな視線で見つめていた。

 彼に関するデータが、彼女の脳内で展開されていた。

 

 

「(こいつ…一体何者なんだろうねっと……む、ちょっと二次創作っぽい台詞だな)」

 

 

 自らの混乱を、茶化した思考でニコは誤魔化した。

 再び視線を杏子に移す。

 

 

「む」

 

 

 その時にニコは気付いた。

 杏子の中に、見知った魔力のパターンを感じていた。

 それは杏子の血管の中を流れ、全身に行き渡っているように見えた。

 

 

「なるほど」

 

 

 ニコは納得の声を呟いた。

 

 

「何がだ」

 

 

 ナガレはそれに反応した。

 ニコのそれは空気が掠れるような声であり、彼は大声で叫び続ける杏子の傍にいる。

 その状況で聞き取れたというのは、彼が異常極まりない地獄耳であることを示していた。

 

 

「その子、私の説明はいらないみたいだ」

 

 

 お手上げ、といわんばかりにニコは両手を掲げた。

 

 

「どうやったかは知りたくも無いけど、佐倉杏子に取り込まれたかずみの魔力が自分の物語を佐倉杏子に教えている。多分、私に会った事がトリガーになったんだろう」

 

 

 淡々とニコは語る。まるで風景でも見ているかのように。

 ナガレに怒気が芽生えたが、今はそれを押さえる必要があった。

 今注意すべきは相棒の安否と、今の現状が終わった時の感情の炸裂だった。

 彼が緊張感を漲らせている中、杏子の震えと叫びが止まった。

 荒い息が、急速に鎮まっていく。

 

 

「そうか」

 

 

 安定した呼吸の元、呟かれたのは冷ややかな声だった。

 冷たく燃え盛る、炎のようだった。

 しかし。

 

 

「そういう事だったのか」

 

 

 次いで言葉として吐き出された吐息は、まるで炎の様な熱を帯びていた。

 

 

「テメェら…」

 

 

 顔を上げ、立ち上がる杏子。

 ニコを見る真紅の双眸は、瞳の中に地獄が描かれているかのような悍ましさを帯びている。

 その瞳でニコを睨む杏子。

 

 ニコはその視線を真っ向から受け止めた。

 十数秒が経過した。

 杏子は溜息を吐いた。沈黙の時よりも、長い長い溜息だった。

 体内の空気を、全て絞り出してしまったかのような。

 そして息には、酷い疲労感がこびり付いていた。

 

 

「プレイアデス聖団、か」

 

 

 呪いでも紡ぐかのように、杏子はその名を口にした。

 

 

「大した連中だな」

 

 

 愚弄してるとも、その言葉のままに評価しているとも、または何も感じていないとも取れる杏子の言葉だった。

 

 

「その気持ちは分からなくもねぇさ。辛かったってのも、当事者じゃねぇけど察せはする」

 

 

 杏子は言葉を選んでいるようであった。 

 脳裏では、かずみという存在が誕生するまでの経緯が浮かんでいる。

 

 

「でもな。お前らも知ってるだろうけど、あいつは怒ってる。何故かも分かるよな?」

 

「勿論」

 

「だから、失敗作か」

 

「………その言葉は、ココロにクるね……」

 

 

 杏子とニコ、両者の間で沈黙が雪のように降り積もる。

 殺意も闘志も無く、ただ虚しさがあった。

 

 

「帰るぞ、相棒」

 

 

 杏子は踵を返し、入ってきた扉へ向かった。

 

 

「帰ったらあんたにも話してやるよ。この」

 

 

 次の言葉を、杏子は紡げなかった。

 

 

「…くそったれ」

 

 

 弱弱しい悪罵でしか、今の気分を表せなかった。

 ナガレも杏子の歩みに従い、後を追った。

 ニコもそれを黙って見送った。

 閉じられていた大きな扉を、杏子は押して開けようとした。

 だが、扉は勝手に開いた。

 扉の背後にいる者が、扉を手前に引いて開けた事で。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 来訪者と杏子の眼が合った。

 扉の奥から来たものは、黒い衣装を纏っていた。

 頭をすっぽりと覆い、膝裏まで伸びた黒いローブ。

 剥き出しになった腹と、黒と紫、そして桃色の薄い布で構築されたスカート。

 

 眼にも鮮やかなピンクのストッキング。

 外見の変化はあったが、その姿に杏子は見覚えがあった。

 そして、相手もまた同じく。

 

 

「貴様ぁぁぁあああああああああ!!!!!」

 

 

 黒い少女は叫びを上げた。

 憎悪と殺意に溢れた、怒りの咆哮だった。

 少女の全身から黒い波濤が溢れ、佐倉杏子を包み込んだ。

 蠢く黒の中、

 

 

「テメェェェェエエエエエエエ!!!!!!」

 

 

 という、佐倉杏子の叫びが聞こえた。

 闘志と敵愾心に満ちた絶叫だった。

 

 

 

 










超展開(いつもの)
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