魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
そこは薄暗い路地裏。
空には黒々とした曇天が広がっている。
なのに薄い闇程度で済んでいるのは、多少の光がある為だ。
電線が切れかけ、明滅を繰り返すも一向に修繕のされない街頭。
不景気ながら、破滅に抗って夜遅くまで業務に勤しむ業者の入っている雑居ビルから漏れる光。
路地の隙間の奥、風俗店や居酒屋が放つ眩い光の残光。
それらが寄り集まって、僅かな光となって路地裏に届いていた。
ゴミや吐瀉物、暴力沙汰でもあったのか血痕が残る混沌とした路地の裏では、荒い息が生じていた。
苦痛と快感、それらが等配分にされた声だった。
落書きが一面に施された壁に両手を付いた赤い髪の少女の背後から、黒髪の少年が身体を重ねていた。
少女の肩に顎を乗せ、両手で腰を掴んで身体を前後に揺り動かしている。
その度に、少女は苦痛と快楽の悲鳴を上げた。
可愛らしく、そして凄惨な声だった。
声に一切の耳を傾けず、少年は激しく動いた。
「ああっ!!」
少女が叫んだ。その叫びは、快感よりも苦痛の方が勝っていた。
路地裏の闇の中、紅い液体が迸った。
発生源は少女の首筋。
少女を陵辱する少年の口が開き、彼女のうなじの肉を喰い千切ったのだった。
うなじの肉が爆ぜ割れたようになり、血の溢れる肉の谷間からは背骨の一部が見えた。
彼はそこにも牙を立てた。その瞬間だった。
「ああああああああああああ!!!!」
犯され続ける少女が絶叫し、首を前に倒して噛み付きを回避。
今度は逆に後頭部で、空振りをした彼の顔を迎撃した。
激突の寸前、背後からの気配が消えた。空ぶりを見舞った勢いのままに背後に向き直る。
振り返る間に少女の全身を真紅の光が包む。
路地裏の暗黒も、一瞬とは言え消し去るほどの光であった。
少女は真紅のドレスを纏った姿となった。
手には長大な十字槍。矛先は背後の闇に向けられている。
その闇から、闇よりも黒い影が飛来した。
迫る影に少女は、佐倉杏子は自らの得物で応えた。
刃が噛み合い、続いて乗せられた力同士が激突する。
全身の骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。
治癒したばかりの首の傷が痛み、杏子は歯を食い縛って耐えた。
十字の槍は彼女の胸の前に掲げられていた。
真紅の柄は黒い柄に重なっていた。
その上、彼女の顔の前には黒髪の少年の顔があった。
黒い髪に覆われ、表情は分からない。
だが口元は半月となり、噛み合わされた牙の様な歯が並んでいた。
獲物を前に笑う、飢えた獣の表情だった。
そしてそれはもう一つあった。
少年と相対している少女もまた、同じ表情を浮かべていた。
彼女も彼を獲物と見做しているのだった。
次の瞬間、二人は離れた。
噛み合わされた得物を激突させ、背後へと跳ぶ。
そして次の刹那には地面を蹴って前へと飛んでいた。
再び一つとなる為に。
殺意と闘志と愛欲を同時に纏い、命を育む器官を疼かせながら、佐倉杏子は斧槍を携えて迫る少年へと襲い掛かった。
ちゃぷちゃぷ、ぴちゃぴちゃ
闇の中、水音が重なっていた。
昏い世界で、一人の少女が仰向けに倒れていた。
闇のように黒い髪と衣装を纏った少女だった。
少女は手を伸ばした。
豊かな胸の間に、乳房とは異なる隆起が見えた。
またよく見れば、細く華奢な身体の輪郭には乱れが見えた。
なだらかな腹は膨らみ、その膨らみは胸にまで達している。
胸の間、彼女の手が乗せられた場所には黒い衣装と黒い髪が見えた。
それを彼女は、呉キリカは愛おし気に撫でていた。
右手で髪を、左手では隆起した腹を撫でている。
何処までも優しく、労わる手付きだった。
まるで我が子を慈しむような。
そして彼女の表情も慈母のそれだった。
黒い眼帯で覆われていない左目で、手の先を優しく見つめて慈しんでいる。
撫でる度に、水音が鳴った。
隆起の内側で、または彼女の胸から覗く毛髪と、彼女の肉の間で。
「君は」
キリカは呟く。
声は歓喜に震えていた。
「私の肉の中で育まれ、私の中で一つになっている。君と私の境目が消えて交わっている」
言葉を紡ぐキリカの眼からは涙が零れた。
黒い眼球の裏側からも溢れて頬を濡らす。
「とても嬉しい事だが、同時にとても寂しい。だから、友人」
そう言って、キリカは自分の身体を抱き締めた。
その身体の中にある、愛おしい者ごと。
「だから友人、もう一度」
声を聞かせて。
姿を見せて。
次に続く言葉は、恐らくこの二つのどちらかだったのだろう。
結論から言えば、彼女の願いは叶った。噴き上がる鮮血と共に。
キリカの脇腹が弾けた。血塗れの手が彼女の体外へと滑り出た。
血と脂に濡れた右手は、キリカの首を掴んだ。次いで左脇腹が弾けて左手が出た。
それもまたキリカの首を掴んだ。
苦痛を与える手を、キリカは見つめた。
黄水晶の瞳の中には危機感や恐怖はない。
ただ、涙に濡れて輝く感情が見えた。
それは、
「ああ………愛してるよ、友人」
愛という感情だった。
その言葉と共に、キリカの胸が弾けた。
そして腹も。
肉が引き裂けて血飛沫が上がり、体内の内臓が肉の隙間から溢れ出した。
その上に、彼女の体を引き裂いて彼女の内より生じた少年の身体が重なっていた。
そんな彼の顔に、キリカは優しく手を添えた。
今にも壊れそうな、硝子細工を扱うような恭しい手付きで。
「おかえり、友人」
血塗れの少年の両頬にキリカは優しく手を添える。
白い手袋が血を吸って、一瞬にして深紅に染まる。
その様子はまるで、生まれたばかりの赤子を抱く母のようだった。
それと相反するように、少年は一気に身体をキリカから引き剥がした。
肋骨が外側に向けて折れ、彼の衣服の表面に癒着していた内臓が悍ましい音を立てて千切れる。
両脚もキリカから抜かれ、闇色の地面に足が着く。
「友人……大好きだ」
少年に吊り上げられたまま、キリカは言った。
次の瞬間、キリカは地面に背中から叩き付けられていた。
地面を陥没させつつ、全身で隈なく苦痛を味わいながらキリカは鮮血を吐きながら言った。
その顔に、血塗れの拳が突き込まれた。
前歯が全て叩き折られ、顔が陥没する。
引き付かれた直後に左の拳が叩き込まれた。
顔は陥没どころか貫通し、後頭部からは粉砕された脳味噌が漏れた。
その状態で、キリカは地面を蹴って跳んだ。
三撃目を繰り出そうとしていた彼の身体が弾き飛ばされ、後退する。
優雅に弧を描いて、呉キリカは着地した。
全身に傷を負い、腹部と胸は全壊、挙句に顔は粉砕されかかっている。
そんな破損個所の断面から、黒い触手が溢れ出した。
無数の微細な斧を連ねて形成された触手は傷口から伸びて絡み合い、密度を上げていく。
すると黒い蠢きは赤みを帯びて肉となり、肌色となって更に衣装となって体を覆った。
見る影も無く破壊されていた顔が再生し、美しいに過ぎる顔が形成される。
最後に右眼を黒い眼帯が覆う。
輝く闇の様な美少女、呉キリカが完全再生していた。
生まれ変わったかのようなキリカの前で、血で染まった少年は漆黒の斧槍を召喚して切っ先をキリカに向けていた。
対するキリカは優しく微笑み、両手首から赤黒い斧を生やした。
片手につき五本、計十本。
獰悪な凶器を下げたまま、キリカは朗らかに笑っている。
心から楽しそうに、我が子のように扱っていた彼を傷付ける武器を出現させた。
緩く微笑む鮮血色の美しい唇の間から、牙の様な八重歯が見えた。
愛に満ちた笑顔であったが、それは殺戮への歓喜を孕んだ魔獣の笑みだった。
次の瞬間、少年は走った。
禍々しい風のように自らに迫る少年に、キリカは両手の斧を構えた。
唇の端は耳まで裂けたように広がり、美しくも禍々しい笑みを顔に刻んだ。
そして、二人の時間が始まった。