魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第59話 闇の恋慕⑨

 パタパタと、コンクリの地面をスリッパが踏む音が鳴る。

 パジャマ姿でかずみは拠点の廃ビルの階段を歩いていた。

 階段を下っていくかずみは二人の少女を左右の腕で抱えていた。

 彼女の背後から見て右に杏子、左にキリカを抱えている。

 

 しかし前から見た場合、左にキリカで右に杏子となっていた。

 それぞれの胴体の首が、挿げ替えられているのだった。

 首の断面には朱線が浮き、細い糸で縫われていた。

 糸の色は黒と赤。

 それぞれの髪の毛であった。

 

 通常人類なら死亡しているだろうが、魔法少女の不死性ゆえにキリカも杏子も生きている。

 互いの首が挿げ替えられているという現状に、二人の魔法少女は極大の嫌悪感を顔に滲ませていた。

 それでいて一声も発さず、呼吸さえもしていない。

 憎々しい相手の肺を使いたくなく、更に言えば血の巡りすら感じたくない。

 体内の鼓動は忌まわしい音と振動であり、手足の感覚を認識するだけで相手に強姦されているような気分にすらなる。

 性に関する体の部位や内臓の疼きなどを、二人は完全に無視していた。

 意識したら気が狂うに違いないと思ったからだ。

 

 つまり今の現状が続くだけで、両者には多大なストレスとなっていた。

 苦痛に耐えながら、二人は沈黙を貫いていた。

 やがてかずみの歩みは生活空間のフロアへと達した。

 微妙に開いた隙間に足先を差し込み扉を開く。

 

 

「はい、トドメ」

 

 

 開きながらかずみは言った。

 何事かと二人は思い、その理由を知った瞬間に叫びを上げた。

 絶望と怨嗟の叫びだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君との戦いは私にとって子作りである』

 

 

 朱音麻衣はそう言った。

 言いながら、彼女は記憶を巡らせた。

 

 戦った回数は、正直それほど多くない。

 彼に纏わり付く二匹の淫売な雌獣どもは、寝ても覚めてもおぞましい暴力の交差を繰り返している。

 対して自分は二回きり。 

 だがそれで十分だった。

 好きな漫画の言葉に、「中身のないヤツが数を誇る!」という台詞があった事を麻衣は思い出していた。

 数ではなく質が大事であり、そして数はこれから重ねていけばいい。

 

 刃の交差、溢れる鮮血、弾ける血肉。

 殴打によって抉られる肉、砕ける骨、爆ぜる内臓。

 マウントポジションを取られて顔面を殴られ続けて、眼球が破裂し歯は奥歯まで砕かれた。

 反撃で彼の腕を斬り飛ばし、頭突きを見舞って額を割った。

 傷つけて傷つけあう、素晴らしい思い出の数々。

 尊い記憶が駆け巡り、麻衣の心に安らかで温かい風を送った。

 

 噴き出す血。

 爆ぜる肉の感触。

 生あたたかくて心地よい、香しい生の香り。

 

 ああ、素晴らしい。

 そしてそういったものに、価値を見出すとは…自分は何て卑しいんだろう。

 光と闇が麻衣の心の中で混ぜ合わさる。 

 何が光で何が闇かは分からない。

 いびつな感情であると分かりつつ、真摯な愛である事が自覚される。

 他の相手には、絶対に抱かない感情であることは確かだった。

 だから、という訳では無いが、自分のこの感情は愛である事は紛れも無い事実だと麻衣は思った。

 

 そんな想いを込めて、麻衣は告げたのだ。

 戦いは子作りだ、と。

 

 彼がどう思っているのかは知らないが、少なくとも自分にとっては、彼との殺し合いは全ての子作りなのだから。

 彼の体に自分の愛を刷り込む行為であり、じぶんの肉体に自分を刻みつける作業であり、彼に対する愛情の表現方法でもある。

 言葉も交わしたいし、肌を重ね合って粘膜を擦り合わせたい。

 大きな胸を揉まれ、尻を撫でられて愛撫されたい。

 激しく愛されて、愛から滲んだ体液を交わらせたい。

 そして……そして……。

 

 

 本能と理性から、麻衣は未来の光景を幻視する。

 膨らんだ大きなお腹。

 一面の草原を眺めながら、木の影の中で並んで座る。

 小高くなった腹部に、少年の手が添えられ命を宿した腹部を優しく撫でる。

 

 その動きが途中で止まる。

 彼女の元へと、少年の身体が崩れ落ちる。

 その首は根元近くから切断され、断面からは墨のような血が噴き上がる。

 落下してきた首を恭しく受け止めて抱き締め、全身を愛する者の血で染める。

 

 胎内の我が子も何かを悟ったのか、幼い手足で母親の子宮の内側を触れる。

 命の鼓動と、血の流れと共に死滅していく愛する者の身体を抱き締めながら、命を宿した少女は微笑む。 

 それは聖母の笑みだった。

 母性に満ちた優しい笑みで、育まれる命と消えていく命を見つめている。

 そして、 ────── 妄想に浸っていた麻衣の意識が現実に引き戻される。

 彼と同じ寝床に潜り込んでから、幾度も繰り返された事だった。

 

 眼が覚めた時、麻衣は身を包む圧迫感を感じた。

 その正体を察した瞬間、

 

 

「ぴゃっ!?」

 

 

 彼女の口は、彼女を知るものであれば信じられないような悲鳴を上げた。

 そしてそれは悲鳴でもあり、嬌声でもあった。

 

 

「な、ナガレっ!?」

 

「なんだ、麻衣」

 

「な、ななな、な、なに、なに、を、して、るの、かかかなな?」

 

 

 バグった機械のように声を震わせる麻衣。

 声を出しつつ、背中と腹、というか身体の前面に感じる感触を全ての感覚で味わっていた。

 今の彼女は、ナガレにその身を抱かれていた。

 体勢も寝転がりではなく、ソファに座る彼の身体の前で抱き締められていた。

 

 下着とシャツ一枚の姿の麻衣は、ナガレの膝に尻を置き、彼の右肩に顎を乗せていた。

 性的な体位で言えば、対面座位の形だった。

 無論、ナガレにそう言った意図がある訳ではない。性の部分を重ねている訳でもない。

 抱き締めたらこういう形になっただけである。

 

 

「お前を抱いてる」

 

 

 現状をシンプルに、彼は口にした。

 

 

「だだだだだ、だだ、抱い、抱いて…」

 

 

 抱っこ。抱き締める。抱く。

 言葉が無数に脳裏に流れる。

 現実を認識できず、視界が霞む。

 その瞬間、触れた部分の圧迫が強くなった。

 

 

「ひゅんっ!」

 

 

 閉じられていたナガレの五指が開き、麻衣の背に触れたのだった。

 仰け反って倒れそうになった麻衣の身体を抑えたに過ぎない行為であったが、触れる面積が増えた事で麻衣の刺激は強まった。

 

 

「なん、なん、なんで…こん、な、こと」

 

「お前、俺が欲しいって言ったじゃねえか」

 

 

 そう言ってナガレは麻衣を更に抱き寄せる。

 接触は密着となり、相手の鼓動がより深く感じられるようになった。

 彼の体温や皮膚の呼吸、身体の内側を巡る血の流れさえも麻衣には聞き取れた。

 彼の生を感じ、彼女は胎内の奥が熱を帯びるのを感じた。

 そこは幻想の中で、自分が命を宿した場所だった。

 

 

「くぁぁっ!!」

 

 

 熱い疼きに耐え切れず、麻衣は叫んだ。

 途端に湧き上がるのは、欲望の渦。

 愛欲や性欲の奥から去来するのは、漆黒に輝く闇の感情。

 愛する者を殺したいという、度し難い欲求。

 

 彼の背に回っていた麻衣の手に、魔力で形成された愛刀が握られる。

 普段の半分程度の長さのそれの柄を両手で握り、切っ先をナガレの背に向ける。

 絶対に外さず、絶対に逃がさない距離と意思が込められていた。

 

 自分の心臓ごと、彼の心臓を貫く。

 刃で貫かれた彼の心臓が動きを止めていくのを、愛刀は自分の心臓へと振動で伝えてくれるはずだった。

 その様子に彼女は興奮し、また彼を喪う喪失感に身を焦がしていた。

 戦いの最中では無いが、今は幸福の絶頂に近い状態。

 その中で、自らが渇望するものが今手に入る。

 躊躇いもなく、麻衣は刃を振り下ろした。

 その瞬間に

 

 

「強情な奴だ」

 

 

 という言葉を聞いた。

 そして唇が何かに触れた。

 触れたものは、自分の唇と似た形をしていた。

 それは、つまり。

 

 途端に、麻衣の手から刃が消えた。

 紫色の魔力の粒となって消えていく。

 それが彼の背後に見えた。

 麻衣の眼は、黒く渦巻く彼の瞳を見ていた。

 瞳の中に、麻衣は自分の瞳を見た。

 渦に囚われ、飲み込まれていくかのようだった。

 それを見て、そして今の自分の現状を察して麻衣は叫んだ。

 叫びはくぐもっていた。

 重ねられた唇の間で震え、幸福と恐怖の慟哭となって響いた。

 

 

 

 

 

 

「はい、トドメ」

 

 

 麻衣はその声を聞かなかった。

 直後に上がった二つの絶叫さえも。

 今の麻衣は、彼に抱かれて口付けをされ、そして彼という存在に意識を縛られ飲み込まれていた。

 それは心地よく、決して逃げられない闇の坩堝であった。

 この存在から自分は逃げられない。

 そして逃げる気も無い。

 

 君は私のもので、私は君のもの。

 

 そう思いながら、麻衣は彼を強く抱き締め自ら唇を強く重ねた。

 その近くでは、今も絶叫が続いていた。

 

 

「ふぁぁああああ」

 

 

 とかずみは場違いに平穏な欠伸を放った。

 もう少ししたら荷物二つを気絶させて、朝ご飯を作ろう。

 彼女の関心は眼の前の事ではなく、朝の献立へと移っていた。

 















それはそうと、龍継のトダー再登場が嬉しいんだ
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