魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「ただいまーっと」
「おかえりー」
ナガレが廃ビルに帰宅したのは午後一時半の事だった。
かずみが買い物袋を受け取り、生活用品を収めた棚や冷蔵庫に手際よく放り込んでいく。
ナガレが手伝う間もなく、買い物の片づけは完了した。
「まだ戻ってねぇのか」
「うん。だからとっても平和」
若干の呆れがあるナガレに対し、かずみは極めてリラックスした様子だった。
連中を嫌ってる訳でも無いが、今の静穏が心地いいらしい。
「しゃあねぇな」
「いってらっしゃーい」
一言だけでナガレの意図を察し、かずみはバイバイと手を振った。
彼女の隣に並ぶ護衛用の使い魔達も、蛇のような胴体から生やした小さな手をかずみと似た調子で振っている。
外出している間、随分と仲が良くなったようだ。
振り返って頷き、牛の魔女を呼び出して異界を開かせ内部へ入る。
形式が移ろい、現世と切り離される。
普段の戦場としている牛の魔女の結界が見えた。
が、彼は違和感を覚えた。
変わりゆく景色の先に、三人の姿が無い。
神殿を模したような異界の造形物も破壊されておらず、違和感を覚えた。
探す必要があると思った時、その光景もぼやけて消えた。
次の瞬間、彼は別の場所に降り立っていた。
足裏が感じたのは、ぐにゃり、にゅるりという柔らかさ。
鼻孔が捉えたのは血と潮と悪臭。
そして視界一面に広がる、赤黒い大地。
大地を形成するのは、破壊された武具を握り締めた少女達の骸。
真っ二つにされた、握り潰された、そのその首や上半身が消え失せているなどが多数あったが、転がっている首の中には顔が無事なものもあった。
血に染まって転がる首は、どれも感情の一切が感じられない能面のような表情だった。
僅かに開かれた口から血が垂れ、極小の滝となって地面に接触したまま硬直していた。
地面は少女達の遺骸で埋め尽くされていたが、広がる血の奥には青い輝きが透けて見えた。
それを見るまでも無く、彼には正体が分かっている。
海の深層のよいうな昏く青い輝きが一面に広がる空、そして無数の魔法少女。
ここは鏡の結界であった。
風見野の結界と異なり、複製魔法少女達は顔が鏡となっていない。
「強かったよ。そいつら」
声がしたのは、血肉が広がる奥からだった。
闇から出でた悪夢のように、真紅のドレスを着た魔法少女が顕れた。
左肩に担いだ十字槍の刃は、死者たちの怨念のように血脂で汚れていた。
「顔も鏡じゃねえし、ここの方が神浜のミラーズに近いのかもねぇ」
そう言った杏子の右脚が霞んだ。
足元の遺骸が蹴飛ばされ、ナガレへと砲弾となって放たれる。
斧槍が迎撃し、手足と首を喪った胴体が切断される。
紅く染まってはいたが、身体のラインがくっきりと分かる焦げ茶色のインナーを纏った少女だった。
その肉体に変化があった。
切断され、曝け出された臓物を押し退けて無数の針が牙のように生えた。
別れた胴体は再び一つになるかのように針を伸ばした。
その間にはナガレがいる。
斧槍を旋回させ、二つになっていた肉を皿に四つの破片へと変えて弾き飛ばした。
旋回させた斧槍を、彼は背後に振った。
金属音が鳴り響いた。
斧槍と噛み合うのは、長く伸びた白刃だった。
「やぁ、ナガレ」
「よぅ、麻衣」
刃を重ねながら、朱音麻衣とナガレが言葉を投げ合う。
口調は平然としたものだが、刃には剛力が乗せられている。
互いに少しでも力を抜けば押し切られ、敗者の首と胴体は寸断されるに違いない。
「突然失礼」
鈴のような美しい声。
麻衣とナガレの横合いからは声と共に黒い禍風が押し寄せた。
去来した赤黒い刃を、白刃と斧槍が迎え撃つ。
二人分の剛力が乗せられた斬撃を、左右五本ずつの斧爪が受け止めた。
「よしよし。朱音くんも空気を読む事を覚えたのだね」
「黙れ悪鬼」
丸靴の踵を血肉で覆われた地面に沈ませながらも、呉キリカは二つの斬撃を受け切っていた。
呉キリカは元々、パワーとスピードを兼ね備えたハイスペックな魔法少女であったが更に強化されたようだ。
ナガレは強引に斧槍を横に滑らせ、麻衣とキリカを撥ね飛ばした。
バックステップで後退すると、寸前まで彼がいた場所に複数の十字架が突き刺さった。
掌サイズの紅い十字は遺骸を引き裂き、塊から挽肉へと変えた。
斧槍を構えた先には、右手を突き出した杏子がいた。
「久々に使うな、サザンクロスナイフ」
魔法の調子を試した。そんな口調だった。
そんな彼女の左右へと、麻衣とキリカが跳躍する。
「邪魔だテメェら。身体から出てる体温とか他は…ああもうめんどくせぇ。存在が邪魔」
「何故だい?スペースは十分に開けてある。この距離なら、君の粘ついた雌臭さも我慢できないこともない」
「社交辞令で合わせたが、既に離れたくなってきた。方法は問わないから、せめてどちらか片方でも滅んでくれないか?」
互いを見ようともせず、軽蔑と罵詈を重ねる三人。
視線は唯一つ、先に立つナガレを見ている。
「随分と長い話し合いだな」
「まぁね。何話してたか忘れたし、そもそも会話なんてしたっけって感じだけど」
彼の言葉に杏子が応ずる。
左右の二人も口を開いてはいたが、真ん中というポジションである杏子が優越すると見たか口を閉ざした。
敗北感が表情に滲んでいないのは、何か失言したら愚弄してやろうとでも思っているからだろう。
「で、この地獄みてぇな光景は?」
「ちょっと考えがあって、結界を弄ってみた。そしたらここに繋がったのさ」
「弄った?」
「魔法少女が三人もいるんだ。鏡の結界はあたしらにとってのカラオケみてぇな場所だし、なんかコツを掴めたのさ」
「私の魔法で繋いだんだ。こいつら二人は役立たずだ」
「ありがとう朱音麻衣。勤勉な様子に私も安心している。君は社会に出てもやっていけるかもしれない可能性があると思われる」
杏子の謎マウントに反論する麻衣、そして愚弄するキリカという三連コンボが決まる。
効果はナガレのイラつきである。
どうせこの後戦うことになりそうだし、さっさと話を進めたいのだった。
「安心しな。この話はそろそろ終わりだよ」
「ああそうだ。私も言う事は無い」
「そこは気が合うな」
八重歯を見せて嗤う杏子、朗らかに微笑するキリカ。
礼を述べるような丁寧な表情を見せる麻衣。
瞬間、三人の体表から光が迸った。
杏子は真紅、キリカは黒、麻衣は紫色。
それぞれの髪の色と同色の光は、膨大な魔力の発露だった。
光の中には黒々とした闇が溜まっていた。
それを見て、ナガレはこの連中が何をやろうとしているのかを悟った。
一面の魔法少女の残骸は戦闘の跡。
傷は治して服も修復していたが、これだけの戦闘を行って無傷である筈が無い。
大量の魔力を消耗した筈だった。
それは双樹に魂を奪われている現状でも変わらず、三人は大きく消耗していた。
ならば、あれが使える。
そして今目の前で展開されているのが、それの発露であった。
「お前ら、無茶しすぎだろ」
苦々しく吐露したナガレ。
その視線は上に向いていた。
赤を主体とした、極彩の模様が彩られた巨体。
着物のように見える姿の前に、獣の趣を持つ四脚を生やした盆の上に立つ杏子がいた。
豊満な乳房を爆ぜ割りながら、血塗れになって伸びた管蟲。
シルクハットを被り、身体の各所から針を生やした異形。
胸から血を溢れさせながら、キリカは柔らかく微笑んでいた。
二つの巨体に影を落とす、更なる巨体。
異界の蛇龍を模した、全長五十メートルにもなる鋼の姿。
肉食魚にも似た頭部の上には、朱音麻衣が立っていた。
血色の瞳をした彼女であったが、今は眼全体が赤く染まっている。
彼女の下腹部、ちょうど肉を隔てた先に子宮がある場所からは三本の黒い糸が伸びている。
それが蛇龍の頭部に触れ、装甲の隙間から内側へと伸びている。
外見はウザーラであるが、何かが違う。
巨大な口の中には、杏子が操っていたウザーラの時には無かった何かが潜んでいる。
顕現したのは、魔法少女の限定的な魔女化であるドッペル。
それが三体。
大気を圧する存在感と、放たれる魔力によって空気の組成さえもが毒に変わっていくかのようだった。
理由も語らず、味方である筈の、更に言えば恋慕の対象であるナガレに自らの放つ最悪の戦力を向ける。
魔法少女達の行っている行為は、度し難いに過ぎている。
対して、彼もまたそれを問わない。
最早言葉は意味を為さず、答えが知りたければ闘争の中で出すしかない状況となっている。
ナガレは魔女に命じた。
魔女は即座に従った。
自らの生存の為に、そして食欲を満たす為に。
血に満ちる血肉を、魔女は中央に開いた孔からの激烈な風と魔力を以て引き寄せた。
赤黒い大渦が血臭を巻いて形成され、魔女はそれらを喰っていく。
喰われた血肉は魔力となり、魔女に力を与える。
それをナガレが受け取り、力に変える。
彼の背で巨大な黒い翼が形成され、頭部からは彼の愛機を模した角が生える。
翼の根元から多節の鞭が生え、彼の背後で長大な尾となって揺れる。
これで互いに準備は出来た。
ならば。
「来い」
ナガレが招き、三人が応ずる。
血肉が取り払われた異界の中で、破壊と狂気の嵐が吹き荒れる。
◇この三人の目的は…!?(龍継煽り文感)