魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第63話 電磁の鏃、天空の剣

 炎、雷撃、暴風。

 異界の空を、赤と紫電の光が染め上げ、それらが巻き上がる風によって拡散されていく。

 一つの都市が壊滅するであろう、異常なまでの破壊は一体の巨大な龍によって齎されていた。

 紫を基調とした鋼の龍。

 異界で「ウザーラ」と呼ばれた存在の模倣体。

 元は佐倉杏子が使役していた存在であるが、今は朱音麻衣によって所有権を奪われ彼女のイメージカラーである紫に染められていた。

 杏子が召喚していた頃よりも倍近く巨大となり、その口から吐き出す炎や雷撃も威力を増し、更には機動力も向上している。

 蛇のような巨体は空気抵抗などものともせずに飛翔し、襲撃の際となれば音速を遥かに越えた速度で獲物へと迫る。

 そして、今が正にその時だった。

 

 

「ナガレっ!!」

 

 

 麻衣が叫んだ。

 雷撃と炎を纏わせた牙を生やした口が大きく開き、麻衣が名を叫んだ者へと襲い掛かる。

 

 

「喰われてはやれねぇなぁ!!」

 

 

 口が噛み合わされる寸前、死の顎からナガレは抜け出ていた。

 漆黒の翼を翻し、蛇龍の頭部へと迫る。

 そこには麻衣がいた。

 武者風の衣装を纏うのは普段通りだが、血色の瞳を有した眼は、今は白目も含めて血色となっていた。

 また彼女の下腹部、ちょうど衣装と肉を隔てた先に子宮がある位置からは、衣装の表面から三本の黒い糸が伸び、彼女の足下である蛇龍の頭へと繋がっている。

 魔法少女の最終兵器とも言えるドッペル。

 このウザーラの模倣体が、彼女にとってのドッペルのビジョンとなっていた。

 

 だがそれは正しいようで正しくないと、ナガレと麻衣は知っていた。

 蛇龍が開いた口の奥に、何かが蠢いているのをナガレは見た。

 しかし今は、向き合うべき者は他にいる。

 

 

「麻衣いいいっ!!!」

 

「ナガレぇぇえええ!!!」

 

 

 ナガレは麻衣の名を呼んだ。戦うに値する戦士に敬意を表して。

 麻衣はナガレの名を叫んだ。自らが渇望する存在の全てへの、愛欲と殺意を声に変えて。

 刃と斧槍が激突し、異界の空に金属音が鳴り響いた。

 莫大な衝撃に互いの腕が痛み、筋肉が悲鳴を上げる。

 

 だが、刃の交差は止まらない。

 互いの肉を削って跳ねた血が空中で混ざり、それが交差する斬撃によって限りなく無に近い極小になるまで切り刻まれる。

 時間にして一瞬だが、一瞬で互いに相手の血を浴びるほどに負傷が生じた。

 その状態で、ナガレと麻衣は嗤い合う。闇に深く蠢く、飢えた獣の笑みだった。

 

 笑いながら、麻衣はナガレの首目掛けて斬撃を放ち、ナガレは刃を掻い潜って麻衣の胸に蹴りを打ち込んだ。

 肋骨を破壊され、吐血する麻衣からナガレは蹴りの反動を利用して退避する。

 空いた隙間を埋めるように、雷撃と炎が去来した。

 

 掠めれば一瞬で炭化、どころか消滅するほどの超破壊力に対し、ナガレは逃げずに翼を広げて滞空し、悠然と斧槍を構えた。

 その瞬間、麻衣は「やられた」と感じた。それは本能と、彼に対する信頼からのものだった。

 距離を取ったのは、雷撃と炎を誘発させるためだと。そして、これで仕留められる訳が無いと。

 止めるのも間に合わず雷撃と炎がナガレへと着弾した。

 

 ウザーラが放った攻撃は、斧槍で受け止められた。

 斧槍、牛の魔女からは膨大な魔力が発生。

 熱と雷撃に対して全力で抗う。

 通常の魔法少女の必殺技ならば無力化できるが、異常なまでの破壊力に対しては一瞬の拮抗状態が精一杯だった。 

 そしてそれが、彼が求めたものだった。

 彼はにやりと嗤った。

 

 

「面白いものを見せてやる」

 

 

 力が拮抗となった瞬間、彼は斧槍を振った。

 その時に起こった現象に、麻衣は眼を見開いた。

 放った炎と雷撃が、大渦となって自身へと向かってきたのである。

 まるで、扇の一閃で紙吹雪が散らされるかのようだった。

 自らの分身に等しい存在が放ったそれを自らで受けた時、麻衣はそんな想いを抱いた。

 

 

「ぐぅぅ……あ、ああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 叩き付けられた力の奔流。

 その中で麻衣は叫ぶ。

 苦痛に満ちた響きは、熱によって身を焼け焦がされるものからではなかった。

 蛇龍の巨体が軋み、尾の先端などの末端部分が砕け散る。

 麻衣本人も腕がねじれ、指が根元から千切れ落ちる。

 

 

「こ、れは……!」

 

 

 血色の眼の中に更に色濃い赤の瞳を浮かべ、麻衣は首を強引に動かして周囲を見た。

 ベキベキと首の骨を折りながら周りを見ると、ウザーラを中心に巨大な二つの渦が巻いているのが見えた。

 それが彼女らを拘束し、肉体を破壊しているのであった。

 

 

「ちょっと違ぇけどな、こんな感じだったか。『超電磁竜巻』ってやつは」

 

 

 ナガレの声が遠く聴こえた。

 愛する者の声が、麻衣に力を与えた。

 彼を殺す為の力を。

 

 

「う、がぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 

 螺子のように捩じれた腕を、肩を強引に動かして一刀を振った。

 そこには麻衣の魔力と、彼女と子宮で繋がった存在の力が宿っていた。

 振るわれた斬撃の範囲は、その刃の長さだけに留まらなかった。

 それが振られた先の存在、彼曰くの超電磁竜巻と吹き荒れる炎と雷撃の残滓までもが振るった刃の厚さ分だけ切断されていた。

 虚空を斬って破壊する。彼女はこれを虚空斬破と名付けていた。

 

 拘束を振り祓った後、麻衣は再び愛刀を振ろうとした。

 先の斬撃も、大渦の先にいたナガレを狙ったものだった。

 虚空斬破は次元そのものに作用し、射程内の万物を硬度を無視して切断する。

 躱された事は、虚無そのものの手ごたえを通して伝わっていた。

 次は斬る。

 拘束が切れかけているその時に、麻衣はそれを見た。

 

 漆黒の円錐が、凄まじい速度を伴って回転しつつ、こちらへと猛然と接近している事を。

 麻衣が斬撃を振り切るより早く、それはウザーラの口内へと達していた。

 漆黒の円錐とは、翼で全身を覆って自らを巨大な鏃と化して突撃したナガレである。

 その彼へと、麻衣によって高次元から召喚され、ウザーラの中に潜んでいる者達は一斉に牙を立てた。

 全身を棘で覆った龍のような存在は、牙で触れた存在を虚無へと変える。

 

 だが翼に牙を立てた次の瞬間、龍達は一斉に口を離した。

 自らが触れた存在が何であるかを悟り、怯えたのだった。

 怯えて後退る高次元存在へと逆に追い縋ると、漆黒の鏃はその鋭利さと破壊力を以て龍達の身を千々と切り裂いた。

 その一秒後には、ウザーラの胴体をぶち抜いて鏃は宙へと躍り出ていた。

 口と首と胴体の半分以上が、内部からの破壊によって見るも無残に破壊されていた。

 蛇龍の破片を伴侶として出でた鏃が広がり翼へと戻ろうとした時、それは真横一文字に切断された。

 麻衣の一刀の力である。

 

 辛うじて浮遊しているウザーラの上で、麻衣の心は恍惚となっていた。

 

 

「これで私の」

 

 

 「勝ちだ」。或いは「物だ」。

 どちらかを言おうとしていたのだろう。

 だがその言葉を

 

 

「負けだ」

 

 

 という言葉が引き継いだ。

 それは、麻衣の真上から生じていた。

 振り返った麻衣が見たものは、宙から自分へと舞い降りてくるナガレの姿であった。

 掲げた両腕は、斧槍ではなく刃を握っていた。

 刃には斧の面影があった。鍔の中央には穴が開き、穴の中央にある黒い物体が眼球のように瞬いている。

 牛の魔女を変形させて造った日本刀だった。

 何故と一瞬思い、直ぐに分かった。

 面白いものを見せてやる、という言葉はまだ続いているのだと。

 

 振り下ろされた斬撃は、麻衣の左肩から入って臍の辺りに達し、そこで捩じられ右肩へと抜けた。

 相手の身体にVの字を描く斬撃。

 一瞬で繰り出されるにしては複雑で残忍。

 そして両腕と内臓を手ひどく破壊するという、不死身の魔法少女さえも無力化に至らせる剣技。

 両の肺も破壊されている為に声は出なかった。

 だから思念で問うた。

 これは何という技なのだと。

 

 

『天空剣。Vの字斬りって、昔の仲間に聞いた』

 

 

 お前の技の参考になればいいんだけどな。

 そう彼から告げられたところで、麻衣は意識を失った。

 意識が消え去る寸前、不敵に笑えたのが満足だった。

 自分の強がりを、彼が好ましそうに見ていたからだ。

 
















ZERO様この人に余計な事教えんといてください…
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