魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
金属音が異界で鳴り響く。
斧槍の一閃を、呉キリカは刃ではなく腕で受けた。
激突の際に鳴ったのが、先の金属音である。
金属の立てる耳障りな音と、爆音を合わせたような音だった。
音だけで一閃の威力の凄まじさを感じさせるが、普段よりも広がった衣装の裾は弛みもせずにナガレの攻撃を受け切った。
空中から地上へと戦場を移して、両者の戦いは続いている。
形勢は相変わらずナガレが劣勢のようだった。
「うんうん、凄い威力だね。以前君が葬った、オナホに卑猥なパールを付けたような形した魔女でも難なく切断するだろう」
「慰めのつもりかよ」
「事実を言った迄さ。あと慰めが欲しいなら、私の身体を貸してあげるから存分に肌を重ね合おうよ。どこを舐めてもいいし、何時間でも何日でも何年でも相手してあげるよ」
「ふざけんな」
言い捨て、再び斬撃を見舞う。
首、胴体、脚。
一閃したとしか見えないのに、斬線は複雑な軌道を薙いでいた。
関節と柔らかい部分を狙ってのものだったが、結果は変わらなかった。
岩だろうが魔女の甲殻だろうが破壊する斬撃は、硬質の音を虚しく立てただけに留まった。
「そうだね。慰めは君には不要だ」
衝撃すら感じていない様子でキリカは微笑む。
ふざけんな、という彼の発言も慰めを拒否しているものなので、意味は通じている。
また肌を重ねたいというのは本心である。
だから、彼女は動いた。
「だが、私には必要なんだ」
燕尾の翼が拡大し、壁面のように広がる。
裏地の赤は膜で覆われた肉の色。
キリカ曰く、赤子を育む肉の袋の内側と同じ色であるとのこと。
そして彼女の欲望は。
「君を取り込んで胚へと戻し、私の子宮で育てて産んであげよう」
度し難いに過ぎる、人間どころか生物かすら疑わしい、一方で生物であるが故に抱いた欲望であった。
「今の君に私の血肉を分け与えて、新たな命を授けてあげる。君と私の輪郭が限りなく重なり合って、それでも交わらずに別の存在として愛し合える」
慈母の顔でキリカは微笑む。
形で見れば、彼女の表情は救いの聖女そのものだろう。
「君は私の子供で、更には伴侶なのだからこうするのが」
正しい、とでもいう積りだったのだろう。
そのキリカの左右から、躍り掛かる影があった。
煌びやかな衣装を纏った二人の少女。
顔に浮かべた表情は虚無。
「邪魔だ雌共!!」
怒号を放つキリカ。
それに追随し、彼女の燕尾が左右へと伸びた。
瞬時に少女達へ到達。
右の少女は赤紫色の和風のドレスを纏った赤髪の少女、左は縦長の帽子を被った軍人風の少女だった。
それらを肉色をした燕尾の内側が包んだ。
包んだ次の瞬間には開いた。
脈打つ赤の奥に、二人の少女の面影が霞んで、そして消えた。
キリカの衣装の厚みには一切の変化がない。
極薄の紙に描かれた絵の上に別の絵を重ねたように、二人の魔法少女の複製体は消え失せた。
「そんでもって君らはいらん」
その言葉と同時に、赤の表面が波打ち二つの物体が投擲された。
それは二人の魔法少女の肉体だった。
但し、顔を除いて全身の皮が消失していた。赤い筋線維を剥き出しにした無残な姿であり、唯一残った顔も獣の爪か牙に襲われたかのように大きく抉れている。
肉が泡を噴いている所を見るに、キリカの衣装に取り込まれると瞬時に溶解されるようだ。
キリカから邪魔者として排出され、ついでのように質量兵器とされたそれらを、ナガレの斬撃が斬り払った。
ミラーズ魔法少女の表情は一貫して虚無であったが、少なくともキリカからは解放された。
そして彼女らは報復の機会を得た。
切断された魔法少女の亡骸を、牛の魔女が分解して吸い取り体内で魔力へと還元。
自ら及び操り手であるナガレの力へと変えたのだった。
「あちゃあ、失敗」
そう告げたキリカの首の左側面へと、斧槍の分厚く巨大な刃が吸い込まれた。
肉の切れる音がした。
それはそれよりも遥かに大きな金属音によって塗り潰された。
斧槍はキリカの首の皮一枚を切断していた。
そして切り裂かれた皮膚の奥には、金属の光沢を持つ小さな線が幾つも見えた。
「懐かしいな、それ」
「覚えててくれたのか。流石は友人、感心感心」
言う間に更に斬撃が乱舞する。
結果はすべて同じ。
多少の傷の深さの差はあれど、斬撃はキリカの体表を薄く裂いたに留まった。
「痛くねぇのか、それ」
「痛いに決まってる。ああ、君の攻撃の方は超痛い。痛すぎて脳内麻薬的なのがドバドバ出ててえっちな気分になってくる。多分、生命の危機だから命を繋ぎたいんだろう」
人間ってよく出来てるね、とキリカは語る。
以前一度見た、キリカの防御魔法のような何か。
自ら体内を針で貫き、皮膚の内側を覆って肉体の強度を強引且つ飛躍的に向上させる。
その頑丈さは先に示した通りであり、逆に斧槍の刃の方が痛んでいた。
刃が部分的に潰れて歪みが生じている。
それは即座に回復するが、キリカの頑丈さは異常に過ぎていた。これでは痛打を与えられそうにない。
「じゃ、攻守交替といこう」
言い様、キリカの姿が霞んだ。
激突の音は後からやって来た。
朱の線を曳きながら、ナガレは後方へと吹き飛ばされていた。斧槍の柄が大きく歪み、背中と両腕からは大量の出血が生じていた。
「くっ…」
苦痛を感じる間も無く、右足を地面に着ける。
高速で背後に跳ばされている故に、地面と接触した苦痛らからはゴムが焼ける異臭が生じた。
「うへぇ、やっぱゴムって嫌な匂い」
背後で生じたキリカの声。右脚を軸に回転して横薙ぎの一閃を見舞う。
「再確認できたが、こんな匂いのするものを胎内に入れる訳にはいかないな」
キリカの声は、振り切られた斧槍の上から響いた。
横に倒された斧の腹の上に両脚を乗せ、体育すわりのように身を屈めてナガレを見ている。
垂れ下がった燕尾の鮮紅色の裏地へと、彼の背と腕から滴る血液が吸い込まれている。
即座に翻って上へと薙ぎ払われる斧。
血が吸われていく僅かな残像を残して、黒い影はナガレの隣へと瞬時に移動していた。
「だから友人。私とする時は絶対にゴムはしないでね。あと」
耳打ちのように、恋人に囁きかけるようにキリカは言う。
「最初はキスからお願いね。あと…ぎゅっと優しく抱いて、私を君の手と身体で包んでおくれ」
優しく淫らに呟きながら、キリカは左腕を振り抜いた。
普段よりも膨らんだ袖が、ナガレが反射的に掲げた斧槍の柄に触れる。
触れた瞬間に柄が砕け散り、ナガレの両肘は逆方向へと折れ曲がった。
柄を砕いた腕は止まらず、彼の胸板へと激突する。
次の瞬間には、ナガレの姿は背後にあった鏡色の岩塊へと吸い込まれていた。
家一軒ほどの鏡の岩が砕け散り、無数の破片となって散る。
輝く破片に混じり、血と肉の粒が星屑のように舞い散っていた。