魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第66話 三魂

「よぉ、相棒」

 

 

 その声は、炎の息吹のようだった。

 声の調子としては平静。

 されど声によって震える大気は糖蜜の甘さを孕んだ。

 熱に焙られ、焼けた皮から香ばしい香りと共に溢れる甘露な蜜。

 それはそんな声だった。

 

 相棒と呼ばれた者は振り返った。

 真紅の衣装を纏った少女がいた。

 斑模様の紅とでもすべき着物を羽織ったその者の名は。

 

 

「よぉ、杏子」

 

 

 ナガレは相手の名を告げた。

 杏子は微笑んだ。唇の間からは、彼女のチャームポイントである八重歯が覗いた。

 

 

「どう?似合うかい」

 

「ああ」

 

 

 彼は素直に肯定した。

 彼女が発現させたドッペル。

 今の杏子はそれを衣装化して、身に纏った姿をしていた。

 キリカの例を鑑みると、ドッペルバージョンとでも言うべき姿だろう。

 また可憐さと妖艶さが交じり合ったその姿は、

 

 

「ちょっと未来を先取りして、花魁っぽくもあるかなぁ」

 

 

 小悪魔のような悪戯めいた表情で杏子は言う。

 金の輪で絞められた長髪を左手で弄びながら。

 

 

「可愛いじゃねえか。別にそう言うほどやらしくもねぇしよ」

 

「ホント?」

 

「ああ。冗談とか皮肉抜きで似合ってる」

 

「じゃ、もう一回言ってくれよ。可愛いってさ」

 

「可愛い」

 

 

 繰り返された言葉に、杏子は「くぅぅ…」と喘鳴の様に呻いた。

 宙を見上げ、胸を両手で抑え、両脚をジタバタとさせている。

 嬉しさの表現だが、そうなっている時の自分の顔を見せたくないという意地が出ていた。

 数分が経った。杏子は漸く落ち着いた。

 承認欲求は満たされた。

 だから、別の欲望が湧いてきた。

 

 

「じゃ、さ…」

 

 

 そう言って襟袖に手を掛ける。そして左右に引いた。

 衣装に覆われていた、杏子の素肌が露わとなった。

 慎ましい双球が見えた。下着で覆われてはいなかった。

 

 

「シよっか」

 

 

 赤の着物の下にある、普段の桃色のスカートの端を上に引きながら彼女はそう言った。

 光源の少なさと、逆光により輪郭だけが見えた。

 下着を履いていない事と、空気に漂う香りからは雄を受け入れる用意が整っている事が分かった。

 認識した時に、針が刺したような感覚が意識を一瞬貫いた。

 彼は左の眉を一瞬跳ねさせた。

 そうか、と彼は理解した。

 

 

「何度目かだけど十年待てよ。あと、セコい真似すんな」

 

 

 切って捨てるように言う。

 ナガレの言葉に、杏子は再び笑みを見せた。

 可憐な形だが、それは口を開いた毒蛇の笑みだった。

 それを合図に、風景が蕩けて消えていく。

 彼をしてそうと気付かせるのに時間を要した幻影の世界が、虚無へと向かい崩れ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 爆音、衝撃、暴風。

 

 その中をナガレは飛翔した。砕け散る異界の地面は逆さまの滝となって破片を宙に撒き上げた。

 舞い上がる破片の奥に、彼は輝く姿を見た。

 それは巨大であった。

 脚、腰、腹、胸、そして頭部。

 上昇の中で、彼は形状を確認した。

 見覚えはあるに過ぎていた。

 名前は口から自然に出ていた。

 

 

「ゲッター1か。お前も好きだなぁ」

 

 

 悪魔翼を広げて飛翔し、滞空する。

 聳える巨体の前でそう言った。

 

 

「まぁね。前より似てるだろ」

 

 

 巨体は杏子の声を発した。

 ナガレは呻くような表情となる。

 感情を暴走させ、異形のゲッターロボとでも言うべき紛い物の姿を纏った杏子との死闘は彼にとって記憶に新しい。

 

 

「確かにな。嫌になるくらいに似てやがる」

 

 

 彼の言葉に杏子は愉快そうに笑った。

 杏子が生み出したのは、赤い光子の塊とでも言うべき存在であった。

 輪郭は揺らめく炎のように曖昧だったが、見間違えようもない。

 そして輪郭が揺れていようと、彼には鮮明に見えた。

 腕から生えた刃、槍穂のような二本の角。

 人に似た姿、覆われた装甲。

 ゲッター1によく似ている。彼が嘗て愛機としていたものに。

 

 

「懐かしくなったかい」

 

「まぁな」

 

「ついでに聞きたいんだけど、ワンってのはイチってコトだよな」

 

「ああ」

 

「さっきキリカとバトってる時の会話聞いちまったんだけど、ツーってのもいるんだよな」

 

「3もいるぞ」

 

「必要に応じて乗り換えんのかい?」

 

「いや、その場で変形する」

 

「あー…手足を細くしたり太くしたりとか?ジャキンジャキンて装甲盛り上げたりとか、部品交換とかするんだよな」

 

「そんな複雑じゃねえよ。一回三つの戦闘機んなってから玉突き事故みてぇに激突させて変形させんだよ」

 

「…はい?」

 

 

 彼の説明に杏子は困惑した。

 魔力で構築させたこの巨体の中に座しながら、この存在の元ネタの異常さに理解が追い付いていなかった。

 

 

「激突の順番、まぁ頭になる奴だな。それで形態が変わるんだよ」

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

「これ造った奴、頭おかしいんじゃねえの?」

 

「俺もそう思う」

 

 

 深く頷きながらナガレは答えた。

 そうとしか思えないからだ。

 

 

「で、やるんだろ?」

 

 

 この遣り取りを断ち切る様に、頷きが終わらない内に彼はそう切り出した。

 

 

「勿論」

 

 

 巨体が応えた。杏子の声では無かった。

 

 

「やっぱお前もいたか、麻衣」

 

 

 ナガレが返事をすると、嬉しそうな感情が思念となって彼に届いた。

 その直ぐ傍らでは、怨念のような気配が渦巻くのが感じられた。

 恐らく戦力増強として、杏子は麻衣を取り込んだのだろう。

 どうやったかは知らないが、魔法少女はすげぇなと彼は思った。

 もう少し考えるということをした方が良さそうであるが、異世界に来てもあまり変わらないこの男の事なので考えるだけ無駄だろう。

 

 

「で、お前はどうする?」

 

「んー…」

 

 

 ナガレは両手を掲げ、顔の前に持ち上げたそれに話し掛けた。

 呉キリカの首である。後頭部を抱え大切そうに持っている。

 その様子を見て、無数の針で刺されるかのような感覚を彼は感じた。

 針は熱と冷気を帯びている。呉キリカへの嫉妬だろう。

 

 

「このまま君のバディをするのが好ましいが、ここは空気を読むべきなのだろうな」

 

「そうか。投げるぞ」

 

「おk。あ、ごめんちょっと待って」

 

 

 投擲に入ろうとした時にキリカは待ったをかけた。

 幸いにして、その願いは間に合った。

 

 

「正直、あいつらの事は兎も角としてあのシチェーションは悪くない。前々から、一つ思う事があってね」

 

「何だよ」

 

「赦せなかった…第一部のラスト・ボスが佐倉杏子だったなんて……!」

 

「第一部?」

 

「うむ。佐倉杏子大暴れが解決してから、色々と変わっただろう。そこで一区切りかなと思って。あいつ基準なのは癪だけど」

 

「変わったって言えば、お前も結構変わったじゃねえか。最初は俺らの事殺しに来てたけど、今は仲良くやれてるしな」

 

「ふふん。そうそう、今は仲良しこよしでセックスも視野の仲さ」

 

 

 何処か誇らしげな様子でキリカは言う。首だけになっても元気に過ぎている。

 

 

「じゃ、投げるぞ」

 

「うん。じゃあね友人」

 

 

 言葉を交わした直後に投擲。

 キリカの首が巨体の胸元へと吸い込まれる。

 弾き返されたら気まずいなと彼は思っていたが、それは杞憂に終わった。

 それにしても奇妙に過ぎる遣り取りである。

 過去の敵対を懐かしみ、現状は仲良くやれていると言っておきながら、彼女の望みを叶えるとは。

 即ち、敵対の道を。

 

 キリカを受け入れた真紅の光子で出来た紛い物のゲッター1は、色彩に黒と紫を足した。

 それはキリカと麻衣の魔力を取り込んだ事の証だろう。

 伸ばされた腕の先にある手が開き、直後に握られる。

 巨大な五指が握るのは、斧と日本刀の意匠を有した槍だった。

 それが左右の手に握られている。

 全長はこの紛い物の大きさの倍、百メートルにも達するだろう。

 

 

「来い。纏めて相手になって遣る」

 

 

 怯えた風など全くなく、普段と同じく相手の招来を促した。

 三つの魂が宿った、真紅と黒と紫の色を纏う巨体は彼に応えた。

 最後の戦いが、今ここに幕を開けたのだった。

 

 

 

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