魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第75話 正義の名の元に

 その街は、陰惨な暴力に溢れていた。

 複数の派閥に別れた者達は、互いの利益や思想の違いによって対立し、日夜抗争が繰り返された。

 連日、死者が量産された。

 死人となるのは、歳が十八にも至らない少女ばかりだった。

 頭を割られる、首を切断される。全身が焼けて炭化し、胸の起伏程度で性別が分かるほどに破壊された少女。

 白かった肌をミリ単位で切り裂かれ、朱線で体を覆った少女は無念と苦痛の叫びの形で顔を硬直させて息絶えている。拷問の果てに死が訪れた結果であった。

 

 だがよく見れば、その表情には違和感があった。

 苦悶に過ぎる表情を浮かべた少女の顔には、複数の針が刺さっていた。

 皮膚を引っ張り、それを裁縫針で顔に縫い止めている。

 少女達の遺体には、演出を施されたものが数多く存在していた。

 ブルーシートの上に並べられた物言わぬ少女達は、水揚げされた鮪のようにも見えた。

 ただし上下もバラバラで手足を重ねられていたり、遊びとしか思えない様子で口や鼻に指や手を突っ込まれていたり、挙句には卑猥な落書きまで施されている様は資源として消費される命とは比較にもならない冒涜さで満ちていた。

 

 死しても尊厳を破壊されている少女達の前に、レインコートを羽織った少女が立っていた。

 顔は見えないが、半透明のビニールの奥には青い髪が見えた。

 手には長い棒が握られている。垂れ下がっていた腕が上がり、棒の先端も持ち上がる。

 それは、長い柄を持つ斧だった。

 紫色の花を思わせる装飾が、斧の湾曲部の窪みに据えられている。

 レインコートの少女の体は震えていた。

 頭上高く迄持ち上がっていた斧も僅かに下がる。

 

 そこで少女へと向けて何かが投げられた。

 胴体に激突したそれは、切断された遺体の頭部だった。

 中学校低学年か、或いは小学校高学年程度の幼い少女の首だった。

 そして更に、捩じ切られた手や足が投げつけられる。

 斧を持つ少女はそれを受け続ける。

 数十秒が過ぎた頃、レインコートは血と体液で濡れていた。

 少女の周囲には人体の部品が転がっている。少女は視線を落とした。切断死体の眼が、虚ろな視線で虚空を泳いでいた。

 少女にはそれが、自らを見上げているように見えた。

 

 そこで、少女の理性が弾けた。

 斧が振り上がり、死体の頭部を砕いた。

 眼球が弾け、頭蓋骨が砕け散り、灰白色の脳髄が飛散した。

 次に斧は、並ぶ死体へと突き刺さった。

 胴体に複数回振り下ろされ、腹部に詰まった内臓が挽肉となって宙に舞う。

 手足や首、骨に臓物に肉や毛髪が、無意味な物体となって散乱していく。

 

 レインコートは血肉の赤黒と脂肪の黄色に塗れていた。

 少女の青髪や顔もその色で濡れていた。

 もっとも血を浴びている斧だけが、黒銀の光を保っていた。

 赤黒い顔で狂気の表情となって死体損壊を繰り返す少女の、最後の正気の輝きのように。

 数百回目の斬撃を放つ瞬間、少女の姿は停止した。

 噴き上がる血肉の飛沫でさえも。

 

 

 

 

「まこと、痛ましい話でありました」

 

 

 凛とした少女の声であった。

 

 

「二木市における魔法少女同士の抗争。そしてその際の死体処理を撮影した動画の流通」

 

 

 淡々とした口調で、陰惨な事象が語られる。

 

 

「まさかそれが、我らマギウスの構成員の仕業であったとは」

 

 

 声に感情が混じった。嘆きと、怒りであった。

 

 

「しかし悪が必ず滅びるように、正義は為されるのであります」

 

 

 停止している少女の姿が消え、別の存在へと変わった。

 そこにいたのは、白いドレスを纏ったポニーテールの少女だった。

 手に持つサーベルが振るわれる度、鮮血の大河が宙に広がった。鮮血の奥にいる少女の姿は、白から赤に、そして白と赤へと変化していた。

 多種多様な、そして煌びやかな衣装を纏った複数の少女達を相手に、白赤のドレスの少女は大立ち回りを演じていた。

 繰り出される斬撃や刺突を卓抜した剣技で薙ぎ払い、放たれる十数条の魔の光を、更なる破壊で塗り潰す。

 二つのサーベルから放った極大の破壊魔法は戦場となっていた廃ビル一棟を瓦礫に変えた。

 下肢を喪い、這いずり回る一人の少女に赤白の少女はゆっくりと近付き、その首を両手で掴んだ。

 

 

『『『あなたの魂、輝きが実に美しい』』』

 

 

 同じ声で、異なる口調が三つ重なっていた。

 花を愛でるような優しい顔で、赤白の少女は、双樹は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

「双樹さん…彼女達は類稀なるマギウスの羽根でありました。マギウスの方々が直々に選抜した、逸材中の逸材」

 

 

 微笑む双樹に変化が生じた。

 映像が変わり、今度は別の少女達と交戦中の彼女の姿が見えた。

 放たれた火炎を冷気が吹き散らし、振り下ろされた棘付きの棍棒を灼熱の光が溶解させる。

 そこに殺到した複数のチェーンソーを、放たれた対消滅魔法が鎖の唸り声ごと消滅させた。

 

 

「過酷な精神強化プログラムを乗り越え、更には自動浄化システムの被検体としても名乗りを上げてくださった。その勇気と献身に、彼女は皆の尊敬を集めておりました」

 

 

 声のトーンが低下した。

 そして言葉は過去形となっていた。

 

 

「しかし彼女は力を得ると、用済みとばかりにマギウスを抜け、放浪の身となってしまったのであります」

 

 

 嘆きの声と共に、映像が消えた。

 残ったのは、一面の闇であった。

 その闇の奥に、茫洋と浮かび上がる影があった。

 そして先ほどからの声は、その影の正面で生じていた。

 

 

「この裏切り行為は、万死に値するのでございます」

 

 

 静かな声音だが、声は憤怒で彩られていた。

 声の主は小さく頷いた。

 その背後で気配が動いた。それは、二つあった。

 二つの気配の内の一つから、青白い光が放たれた。生き物の尾のような後を引く、奇妙な光だった。

 例えるならば、怪奇を思わせる人魂のような。

 そして人魂を彷彿とさせる光によって、闇の一部が駆逐された。

 青白い光で照らされたのは、赤錆で覆われた金属の椅子であった。

 手すりや脚の部分には、無数の棘が生えている。まともな用途に用いられるものではないのは一目瞭然だった。

 そして、その椅子の上には

 

 

「そろそろ罪を自覚されましたか?双樹さん方」

 

 

 液体の滴る音と、僅かな呻き声がその声に対する返事であった。

 声の通りに、そこには双樹がいた。

 赤と白のドレス、は今は僅かな色の面影を残す程度となっていた。

 衣服の端は焼け焦げ、また溶解して肌に張り付いている。

 ぴちゃんという水音が鳴った。

 音は双樹の肩から生じていた。

 彼女の肩から先は、存在していなかった。片方だけではなく、両方が。

 更に言えば、脚も膝から下が無い。

 関節の辺りで肉が外され、そこからは血と体液が滴っている。

 肉の断面は、赤紫色となっていた。

 滲む体液は赤黄色く変色し、骨の断面からは絶え間なく黄色い膿が垂れ流されている。

 

 

「ふむ…気付が必要でございますか……では、お願いします」

 

 

 傍らに声を掛けると、

 

 

「ぎっ」

 

 

 という悲鳴が上がった。

 四肢を喪った双樹の身体が、地面へと投げ出されていた。

 椅子の背もたれにも配されていた棘が一気に伸び、双樹を椅子から落としたのだった。

 当然、双樹の背中は棘によって傷付けられ、焼けた肉が抉られていた。

 

 

「御目覚めはいかがでしょうか、双樹さん方」

 

「……は、ハハハハハハ!」

 

 

 問い掛けに、双樹は笑い声で応えた。

 芋虫のように這いずりながら上を見上げる。

 肉体は破壊され切っていたが、彼女の顔は元の美しいままであった。

 這いずる双樹の周囲には彼女の手足が転がっていた。

 手が握るサーベルは、柄の近くで刃が粉砕されている。

 

 

「お元気そうでなによりでございます」

 

「うん、君達の様子がおかしくってね」

 

 

 笑いながら双樹は言う。

 彼女の眼には三人の少女の姿があった。

 一人は、青白い燐光を帯びた羽根付きの杖を持ち、ローブ状の衣装を纏った長い銀髪の少女。

 もう一人は、騎士風の意匠を持った服装の緑髪の少女。

 そして最後に、その二人を従えるようにして立つ、赤をベースとした奇術師風の衣装の少女であった。

 鮮やかな赤いリボンが、朱を帯びた黒髪を結んでいる。

 

 

「なんなのさ、揃いも揃って仮面なんか被っちゃって。陰キャ感全開だよ」

 

「ああ、これでございますか」

 

 

 揶揄の言葉に対し、奇術師姿の少女は事も無げに言った。

 右手の人差し指で、自らの顔に触れている。

 双樹の言葉の通り、そこは白い仮面で覆われていた。

 眼の位置が丸い黒で塗り潰された、感情移入を拒絶する様な不気味な仮面だった。

 

 

「私共は恥ずかしがり屋でありまして、相手に失礼のないようにこれを被っているのでございます」

 

「そう、でございますか」

 

 

 相手の口調を双樹は正確に真似をした。

 しかし、仮面の少女達は一切の反応を示さない。挑発が無意味である事に、双樹は諦念を覚えた。

 

 

「それでは、さらばでございます」

 

 

 そう言うや、少女はどこからか一本の笛を取り出した。笛には、赤い布が巻き付いていた。

 

 

「我らマギウス司法局による、鎮魂の調べをご堪能くださいませ」

 

「その人数で、何が」

 

 

 司法局だ。そう言おうとしたのだろう。

 だがその前に、少女は笛を顔に当てた。

 口元が僅かに開き、赤い唇が笛の孔に触れた。

 旋律が紡がれた。

 双樹は動きを止めた。

 言葉は紡がれず、されど口は大きく開いていた。

 眼も限界まで見開かれ、双樹の顔には極限の苦痛が浮かんでいる。

 やがて、音が途絶えた。

 少女は笛を口から外して身を屈めた。

 そして手を伸ばし、双樹の胸元に触れる。

 手が戻った時、少女の手には双樹のソウルジェムが握られていた。

 しかし魂の宝石には、色というものが消えていた。

 穢れの黒すらなく、ただ透明の石となっていた。

 

 

「さて、では次は貴女の番でございます」

 

 

 立ち上がり、少女は右を向いて言った。

 他の二人も同じ方向を向いていた。

 そこには、地面に横たわる一人の少女がいた。

 それは、全身を鎖で縛られた、黄色い衣装の道化であった。

 猿轡を嚙まされた口からは唾液が、眼からは涙が、鼻からは鼻水が。

 そして、彼女の周囲には失禁によるアンモニア臭が漂っていた。

 それら全ての無惨さを、道化は、優木は気になどしていなかった。

 

 ただ、マギウス司法局…別名、『MJD(magius justice division)』への恐怖と絶望だけがあった。

 




























書き手的な元ネタはDJD(ディセプティコン司法局)でございます
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