魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
どうしてこうなった。
ナガレは思った。
視界に広がるのは、列を成して座したローブ姿の魔法少女達。
畳が敷かれた広い室内で、座布団の上に座っている。
彼女らの前には小さな机が置かれ、その上には焼き魚に刺身に豆腐、汁物に白米、そして一人用の鍋と着火剤が置かれていた。
宴会、という文字が脳裏に浮かんだ。
「えー、それでは我々ネオマギウスと……」
マイクで拡張された声が響き渡る。音源は、会場の奥。壇上の上に立つ少女から発せられている。
腰まで伸びた幅広の緑髪を垂らした少女。ネオマギウスのリーダー、アリナ・グレイである。
今の彼女は桃色の浴衣を纏い、マイクを握っていた。
ちら、と深緑の瞳が宴会場の一角を見た。
室内だというのに頭まで覆った白と黒のローブ姿の中、黒いセミショートヘアの少女がいた。美しい、という言葉で出来たような美少女だった。
陶然とした表情で、アリナは黒髪の少女を見た。
そうやってしばらく韻を踏んでから、アリナはこう続けた。
「この地球と時間軸、宇宙が生んだ美の奇跡…例えるならカオス・MAX・VWXYZ・ハイパー・アルティメット・beautiful美少女……呉キリカの未来永劫の栄光を祈って……乾杯!」
びく、とキリカは肩を震わせた。
恐怖とは無縁である筈の、強靭なメンタルを持つ呉キリカが怯えていた。
形容しがたい評価を帯びて名前を呼ばれれば、無理も無いだろう。そもそも彼女は、この声の主から筆舌に尽くしがたい暴虐を受けている。
反対に、アリナの祝杯の叫びは活気で満ちていた。
反応に困るが、部下たちはそれに答えようとした。
「先輩」
新たな、そして同じ声でありながら異なる口調と雰囲気の声が聞いたものの全ての動作を止めた。
それは、アリナの口から発せられていた。
「すっっっっっっっっっごく、マジの、ガチの、本気でキモいの。ドン引きなの」
しんと宴会場が静まり返った。掲げられたコップたちが、緩やかに下がり始める。
「…アリナさん、ちょっとやり過ぎです」
白ローブの一人がそう言った。
少し前に、アリナをアリナ様と呼んだのと同じ少女であった。認識のランクが少し下がったらしい。
一人が窘めを言うと、後は決壊した川のように次々と続いた。
「同じく」
「うん…」
「…キモい」
「というか」
「気持ち悪い」
キモい、気持ち悪い、吐きそう。
そんな言葉が続いた。すると
「……ぇぐっ………」
嗚咽の音が会場に響き渡った。
再び、しんという静寂が訪れた。
「ご、ごめんなんですケドぉぉぉおおおおおおおおおお!」
大声の謝罪はマイクで増量され、音の衝撃となっていた。
「ヴぁあああ!ヴぁああああああああああああああああ!」
奇妙な叫びを上げながら、アリナは泣いていた。
膝を折り、美しい顔をくしゃくしゃにしながら壇上でのた打ち回っている。
それでいてマイクは離さないので
「うっさいの!先輩、黙るの!シャラップなの!!」
同じくアリナが言うとおり、とても五月蠅かった。
「アリナさん!」
「ごめんなさい!」
「キモいってのは変わらないけど」
「気持ち悪いは言い過ぎました!」
「ヴぁああああああああああみんなぁぁあああああごめんナノぉぉぉおおおおおおおおおお!」
あたふたするローブ姿×五十。泣きじゃくりながら転げ回って叫びまくるアリナ。
「だからうっせぇって言ってるの!黙るの!黙って!黙れ!!」
泣きじゃくりつつ同じ声で別の台詞を発するアリナ。
異常に過ぎる、そして居心地が最悪の雰囲気が宴会場の中に満ちていった。
それを沈めたのは、立ち上がった孤影であった。
黙ったまま、右手にコップを掲げていた。
蛍光灯による反射で、杯に満たされたコーラは黒く艶やかに輝いた。
その色よりも遥かに美しい黒髪と、その髪ですら美を引き立てる一要素でしかないほどの美の結晶のような少女が立ち上がっていた。
すらりとした小柄な体型ながら、尻や胸、太腿にはそれ自体が強力な重力を発し、視線を釘付けにする様な魅力を持っていた。
そして彼女の纏った衣装もまた、黒を基調としたものだった。
「あの外ど………おバカがいつか更生することを願って………乾杯」
静かな声。微かな声と言ってよかった。
だがそれはよく響いた。
直後に、乾杯の声が一斉に上がった。
杯が掲げられ、グラスが触れる音が次々と鳴る。
先程までの光景を払拭するように、料理に舌鼓を打つ音や談笑が聞こえ始めた。
「…あんたはよく頑張ったよ」
「…ゥゥ……フレンズ……」
倒れているアリナに肩を貸し、席へと戻るナガレ。座る前に、彼は離れた場所にいるキリカに視線を送った。
必死に何かを堪えているキリカが見えた。やがて平静を装い、周囲から伸ばされた杯に対応し始めた。
様子を見るに歓待されているようだ。外道と言いかけてよく止めたなと、後で誉めてやろうと彼は思った。
彼の席は壇上から見て右側の最端であった。左隣には誰もおらず、右隣にはアリナがいる。
「Hey,フレンズ」
着席した瞬間、アリナは彼に声を掛けた。
掠れ切っていた筈の喉は、快活そのものの声を出した。
「カンパーイ、なんですケド」
「ん、乾杯」
コーラが入った杯同士をかち合わせる。黒い水面が揺れ、両者はそれを口に含んで一気に干した。
「醤油だこれ」
「ぶはっ」
苦い顔をして飲み終えた彼の顔に、黒い液体がブチ撒けられた。
アリナの口内に溜まっていた液体である。それもまた、醤油であった。
因みに、彼が飲んだのは関西風で、顔に掛けられたのは砂糖醤油だった。
「キョーキョキョキョ!キョーキョキョキョ!」
奇怪に過ぎる不気味な笑い声を上げ、その場で転げまわるアリナ。
二種類の醤油で顔を濡らしたナガレは、その様子をじっと見ていた。
「フレンズってば引っ掛かったんですケド!キョーキョキョキョキョキョ!」
笑い続けるアリナを見るナガレは、自分の額に皺が刻まれているのを感じた。
自分の容姿を馬鹿にして舐め腐る街の連中に腹が立つ、と言う事はよくあるが、ムカつくという事はあまり無かった。
アリナはその怒りを誘発させているのであった。主に、この奇怪な笑い声が。
「ソーリーソーリー、ケアしてあげるから許してヨネ」
そう言うとアリナは躊躇なく浴衣の上着を脱いだ。その下には下着が無かった。
眼も醤油に覆われているが、ナガレにはその色も普通に見えていた。
白い肌、ほどほどに膨らんだ胸、赤みの強い桃色をした二つの突起が見えた。
アリナが平然と肌を見せたのは、彼の眼が塞がっていると思ったからだろう。
今更捕捉する必要も無いが、彼は未成年の肉体になんらの欲情もしないし興味も無い。
そしてアリナは脱いだ浴衣をタオル代わりにして彼の顔をゴシゴシと拭いた。
肌に直接触れていた浴衣は、アリナの身体の匂いが移っていた。
食虫植物のような、獲物を誘う甘い匂いだった。
視界が塞がれている彼は、自分に向けて複数の、数にして五十三の気配が注意を向けている事を感じた。
アリナの配下五十人による警戒心、そして仲間の魔法少女三人の、嫉妬と憎悪と、人間の心とは思えない悍ましい何かを。
先程のアリナのスピーチの結果による最悪の雰囲気の、数次元異なる最悪の雰囲気が宴会場を包んでいた。
本人は何もしていないというのに、理不尽な状況だった。
だが彼は
「(おいかずみ)」
「(ごめん。あの変態さんから、絶対に盛り上がるからって泣いて土下座して頼まれたから…)」
「(いや、いい。それよりお前も頃合い見計らって休みな)」
「(りょーかーい)」
と、かずみと思念で会話するくらいに落ち着いていた。
つまり、気まずいとさえ思っていないのだった。
顔を拭かれる間、彼は最初の疑問に戻ることにした。
つまり、如何にしてこの状況となったか、という疑問の解明である。
どうしてこうなった→俺(書き手)も知りたい
最早この作品は、自分の手から離れている感がある
大体アリナ先輩のせい、というかお陰というか