魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「いかがですか。キリカさん」
「ん……」
宴会場の一角。席に座したキリカは広げた両掌に視線を落としていた。
衣服は手製の魔法少女服であり、ローブ少女だらけの宴会場の中では大分目立ってはいた。
が、その前方左右背後をぐるりと囲まれているのであまり関係は無かった。そういう問題では無さそうだが。
「特に問題ないかな。重くもないし軽くも無い」
広げた掌に普段の白手袋は無く素肌が見えていた。
だが白い肌の部分はたなごころのみであり、そこから続く五指は黒一色となっていた。
「魔女モドキとウワサ、魔女の肉片を煮詰めて造った義指です」
「急造ですが、案外うまく出来たようで」
「因みに素材には魔女モドキですと紫の蛇が二十、赤い龍が五十、黒い龍を七十五、白銀の虎が四十九、蝙蝠が八十、不死鳥みたいなのが三十六」
「あとは、ええと、犀ベースで頭が蛇で……ああめんどい。ジェノサイダーみたいなのが四十八体」
「魔女は宝石をジャラジャラさせたウツボカズラが八、砂場で遊んでる無駄にデカいいかにも魔女って感じのが三」
「ウワサはクッソキモいフーセン犬みたいな黄色い歯車付きが四」
「そいつらを捕獲して」
「皮や鱗に装甲を一枚一枚丁寧にゆっくり時間を掛けて引き剥がして」
「慎重に慎重を重ねて生きたまま解体し、そうして得た新鮮な素材を加工したものを」
「以前アリナさんがやらかした時に入手した、キリカさんの骨をベースに肉付けしたものです」
「………」
自分を取り囲む羽根達からの言葉を、キリカは手をくるくると廻したり、握ったり離したりをしながら聞いていた。
「うん、悪くないね」
改めてキリカは指を見る。太さも長さも変わらず、よく見たら微細な皺や指紋まで完全再現されている。
「おい、腐れ蛆虫達の死骸から湧いた腐れ肉汁から自然発生したファッキンクソゲス腐れ外道アリナ」
「yes,my sweet hart」
長いに過ぎる罵倒絡みの呼び名を終えた時、アリナは既にキリカの正面に座っていた。
三回も用いられた『腐れ』の内の一回目を言われた瞬間から、彼女は移動していたのだった。
「これの形を整えたのはお前だね」
「イエス。お馬鹿なアリナは難しい事は出来ないから、素材の調達と皮剥ぎに鱗削ぎ、そして最後の粘度遊びしか出来なかったんだヨネ…」
「死ね」
沈痛そのものといった面持ちのアリナ。
その姿を見ず、指を眺めながらキリカは何の感情も込めずに言った。
爪の長さまでぴったりか。と思った時にはさしものキリカも秀麗な眉間に嫌悪感の皺を小さく刻んでいた。
「それにしても、さっき言った数を一人で狩ったのか」
「yes.神浜のミラーズ結界が拡大シてて、その中の一つでこの連中が喰ったり喰われたりしてるsweetでemotionな場所があったんだヨネ」
恍惚とした表情で語るアリナ。
その場所がとても気に入ったというのもあるのだろうが、キリカと会話しているという事が嬉しくて堪らないのだろう。
なお、キリカは相変わらずアリナの顔を見ていない。
それすら、全く気にしていないようだ。
「答えになってない。お前ひとりで、さっきの適当に考えたみたいなふざけた数の獲物を狩ったのかと聞いてるんだよ」
「yes」
右手を突き出し、サムズアップしながらアリナは答えた。誇らしげな様子であった。
「ドッペルか?」
そう言ったキリカの視界に、奇妙なものが映った。
「やぁ熱病のドッペルくん。相変わらず不細工なズングリムックリ野郎だね」
それは白と黒の縞模様をした芋虫、とでもいうべき存在だった。
緑髪の子供の顔を模した縫いぐるみの顔が頂点にあり、頭からはトナカイのような角が生えている。
胴体から生えた細長い手が、手をパタパタと振っていた。
「nonnon.傷付けちゃ不味いから」
熱病のドッペルと呼ばれたそれをアリナは手で脇に退け、
「シュッ、シュッ、シュシュシュ!」
そう声を含ませた息を吐き、息と共に短いパンチ…ジャブを複数放った。小学生辺りがよくやりそうな感じである。
うぜぇ、とキリカは思った。
「うぜぇ」
そして実際に声に出ていた。
アリナはそれを聞こえているのだが、熱が入ったらしく立ち上がって距離を取り、
「aieeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!」
叫びながら蹴り技を披露していた。爪先で畳みを蹴って数センチ飛び、落下するまでにアリナは宙で二回の回し蹴りを放っていた。
その後何事も無かったように着地し、元の位置に座る。周囲からはおざなりな拍手が上がった。
thaks,thanks、とアリナは拍手に応えていた。なお、拍手には奇怪な人形である熱病のドッペルも加わっている。
自演乙と、そして「会話が成立しないな」とキリカは思った。
「全部素手で倒したってのは、いくらお前でも無理があるだろう」
「ソーリー、magiaも二回くらい。あとchargeしてからblast技を十発。accelも嗜み程度にネ」
「ふーん」
気のない返事をしながらキリカは脳内で言葉の意味を探る。
マギアは分かる。疑問なのは後の三つだ。
多分ソシャゲ的な用語というかイメージなのだろうなとアタリを付け、それとなく察する。攻撃の際の気構えみたいなものだろう。
そして謎の単語を出すことにより、アリナは自分と会話をしたいのだろうなと予測をする。
視線を落としつつ、料理が盛られた陶器の器に反射されているアリナの顔には、キリカからの質問を待ちわびている笑顔が見えた。
今すぐ、頭上で核弾頭が炸裂しねぇかな。
そう考えたキリカであったが、その程度で死ぬ気がしないので現実に向き合うことにした。
「その数を、宴会場作る間の数十分くらいの時間で集めたっての?」
「non.流石に魔女やウワサは探すの大変だカラ、保存してたのを使ったんだヨネ」
「ふうん」
となると消去法で、魔女モドキは素の数ということである。
「流石に無事じゃ済まなかったけどネ」
「ふーん、死ぬの?今?じゃあ死ねよ」
「ココ」
そう言ってアリナは左頬を指差した。キリカはそれを見なかったが、空気の動きでそれが察せた。
「腐れメッシュのバナナ部分が欠けてるね。喰ったの?」
「惜しい。喰われたんだよネ」
「悪食もいたもんだ」
「イエス。なんか銀色に光ってるsnake?rhinoceros?stingray?なんかseetな外見したのがお腹にblack holeみたいなの作って、アリナってばそこに吸い込まれちゃんたんだヨネ」
「ならちゃんと死んどけよ」
「たくさんのお布団に圧し潰されたような、badな気分だったんだヨネ」
「だから、死ねって」
「でも中で暴れて、バタフライみたいに泳いダラたらなんとかなったんだヨネ。脱出した後は逆にそいつの首をdooms dayに押し込んで粉砕玉砕大喝采してやったんですケド」
「元ネタ知ってるんじゃねえか。勿体ぶってほざくんじゃないよ。とりあえず死ね」
「whats?適当に言っただけなんだケド……よかったら無知なアリナにそれを教えて欲しいんだヨネ…」
「にしても狩った数からして、運ぶの大変だったろうなぁ。貴様の部下にはなるもんじゃない」
アリナの言葉を無視し、キリカは別の切り口で会話を続けた。
戦闘力に関しては先程の会話で既に済ませてある。
この女なら可能だろうと身をもって、文字通り骨の髄まで、細胞の一片や体液の一滴に至るまで思い知らされているからである。
事実、今もブラックホールらしきものから泳いで抜け出すという異常な事を聞いたばかりだ。
「そうなんですよ!キリカさん!!」
「おぉう!?」
アリナからの謎会話に繋がるだろうと身構えていた時、会話を引き継いだのは隣にいた白ローブだった。
悲鳴のような驚きの叫びを上げるキリカであった。完全に予想外であり、面食らったのも無理はない。
「アリナ…さんったら、色々と無茶を押し付けるんですよ!」
「そうなんです!最近なんてキリカさんが心配だから、見滝原中学校をスパイするようにその為の部隊まで編成させやがったんですよ!」
「!?」
左右に座る羽根からの言葉にキリカは言葉を喪った。
これは異常事態である。
何故なら普段はキリカの発言によって他者が言葉を喪う。
いわばキリカは加害者であり、しかもこう言った場面だと最強だった。
それが今、覆されたのだった。
「日中キリカさんがイジメられてないかとか、ハブられてないかとか」
「もしそうだったら然るべき処置を与える必要があるとかで」
「あの変態は虐めっ子の説得の方法とか会心のさせ方、洗脳についてまで勉強しくさってたんです」
「……詳しく」
指を眺めながらキリカはぽつりと言った。周囲の少女達は「畏まりました」と唱和した。
頭を深々と下げてのそれは、指導者であるアリナにすら見せない最敬礼の姿であった。
キリカは覚悟を決めた。
もしも地の底の地獄に向かうのなら、必要とあらば彼女は微笑みながら深淵の孔に飛び込むだろう。
今がその時なのだと、心を平静に保とうとキリカは強く思った。
「特に問題が無いと分かった後は、同じ学年の連中が何を思って自慰ってるのかを調べるように命じてきまして」
その覚悟は、キリカの背後にいた黒ローブがそう言った瞬間に砂上の楼閣となって崩れ落ちた。
「結果としましては、約四割がキリカさんに関連することで自分を慰めてから眠りに落ちている事が分かりました」
「これは全体では二位の数字であり、複雑な心境かと存じますが凄まじいスコアであると考えられます」
「因みに一位は三年生の金髪巨乳な方です。残念ながら僅差で抜かれて…失礼、これは言葉の綾です」
「最近不登校になられたことが心配ですが、キリカさんを上回るこのスコアは驚異的です」
「なおこの捜査対象は男女共通となっております」
「女性部門だとキリカさんが1位となっており、感服いたしました」
「他に興味深い点ですと、キリカさんとどことなく髪型が似てる別クラスの青髪の人は11位で、ワースト1位はその方の同クラスのピンク髪の子です」
「どうやら罪悪感を感じるらしく、性の対象として思う事に抑制が掛かるみたいですね」
「番外編ですと、これも同じクラスですが現在入院中のピアニスト君はキリカさんらしき姿が精神的外傷になっている上に」
「どうやら女性恐怖症も患ってしまったようですな」
「そのせいなのか、あの変態が連れてきたオリ主みたいなショタに抱かれる妄想で励んでます」
キリカは途中から言葉を聞いていなかった。
指を見ていた視線が上がる。
上がる過程で、左右の白ローブ達の人差し指が見えた。見えていないが、背後の黒ローブも同じだろうと思った。
「あの変態」を魔法少女達は差している。
そして指の先には、そろりそろりと、まるで古めの漫画に出てきそうな様子でその場から撤退しようとしているアリナが見えた。
視線に気付いたアリナは背後に向けて首をゆっくりと廻した。ギリギリ、という音が出そうな、そんな古めかしい動きだった。
「アハッ…」
アリナは力なく笑った。
言葉にして言われた事で、己の愚行を悟ったのだろう。
逃げているのが、罪悪感を覚えているという証拠である。
「ねぇ君達。この指って、戦闘用にも使えるのかな」
無表情で尋ねたキリカに、製作者の魔法少女達は懇切丁寧に説明した。
この時既に、アリナは左右の腕を二人の白ローブに掴まれて拘束されていた。
「勉学に励む呉キリカ……ホント素敵なんだヨネ…」
その様子を慈母のような表情で見つめるアリナ。
そうしている間に、説明が終わった。
「おいアリナ」
「yeah!」
歓喜の叫びをアリナは上げた。対する呉キリカの声に宿るのは、絶対的な虚無であった。
「この指の性能を試すから、手伝え」
「!yeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeees!!!!!!!」
「…変態、うるせぇの」
『>五月蠅いです。変態』
一も二もなく、四の五の言わずにアリナは従った。
叫びの後には同じ声で別の口調の声がアリナの口から出た。そして腕に巻いた端末からの人工知能の叱咤が入った。
それを聞いて大人しくなったアリナであったが、歓喜に輝く表情で拘束されたまま宴会場の外へ連れていかれ、その後をキリカが追った。
しばらくして宴会場に絶叫が響いたが、最初に一瞬不愉快そうな表情になっただけで誰も気にせず、食事と歓談を続けていた。