魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「宿敵ゲームはっじまるよー」
キリカとアリナが消えてすぐ、一人の白ローブ魔法少女はそう言った。
周囲からは拍手が上がり、黄色い悲鳴も幾つか上がる。
いるだけで面白い存在であるアリナが消え、新しいネタを出そうという考えなのだろう。
その理由は勿論、賓客たちを退屈させない為である。
「それでは朱音麻衣さん」
「はい」
生来の勘の良さで、自分に話を振られるのだろうなと考えていた麻衣は自分でも驚くほど冷静に唐突な声掛けに対応していた。
「早速質問ですが、あなたの宿敵は誰ですか?」
「例えるなら、あなたがキリカさんならアリナさんは誰です?」
白と黒のローブ魔法少女二人に左右を挟まれながら、麻衣は歯を食い縛った。
的を得てはいるが嫌すぎる例えに対する不愉快さを顔に出さないように、麻衣は必死に堪えていた。
そうしていると、キリカから聞いた事を思い出した。
マギウスは構成員を「羽根」と称しているという事である。
となればそれぞれ白羽根と黒羽根かと麻衣は認識した。
「私の宿敵は」
言いながら麻衣は視線を走らせる。
その先には
「どうぞ。あーん、してください」
「…あーん」
「こぼしても大丈夫ですよ。私達にお任せください」
左右を二人の白と黒の羽根に囲まれ、世話をされている佐倉杏子がいた。
今の彼女の左腕は、肘より少し前から肉が消失し隻腕となっている。
羽根達は眼端が効くようで、杏子のそんな様子を放ってはおかずに宴会の開始から即座にサポートを開始していた。
先程までの、アリナと羽根達の様子を見ていると、アレに合わせる為にしている努力がこういうところで役立っているのだろうと麻衣は納得した。
しかしそれはそれとして、彼女の宿敵は決まっている。
少なくとも、今この場での。
「分かりました」
「お口に出すのは辛いでしょうから」
「その意図を我々が汲ませていただきます」
「え」
言うまでも無く、麻衣は「佐倉杏子」と言う積りだった。
数時間前に彼女に対して欲情した事など、今となっては忘れている。
今後思い出す際には、幼少時に描いた黒歴史ノートを再び見た時のように悶絶するのだろう。
「あれですね」
「正に」
「あの黒髪の」
「ナナチみたいな声と口調の」
「サディストで」
「美少女顔のショタとかいう」
「オリ主みたいな奴」
黒髪と言われた時点で分かっていた。
この場の面々は、麻衣達賓客を除けば全員ローブを被っているからだ。
それと、羽根達の声に宿る警戒心と敵愾心で。
「あれが麻衣さんの宿敵ですね」
そう言われた時、麻衣は顔を両手で覆っていた。
指の隙間を少し開け、血色の瞳で宴会場の端を見る。
隅っこの場所で周囲に空白を作った状態で、料理を食べつつジュースを飲んでいるナガレが見えた。
表情は穏やかであり、一人の時間をリラックスして楽しんでいた。
そんな彼を見て、麻衣は緩やかに微笑んだ。
心地よい春風を身体に浴びて、新しい季節の訪れを喜ばしく思うかのような、健全で穏やかな笑顔。
「ああ。その通り」
そんな表情で、麻衣は羽根達の言葉を肯定した。
羽根達は一斉に黙った。
その沈黙は麻衣の周囲だけではなく、会場全体で生じた。
羽根達は各々の話をしつつ、麻衣の言葉に傾聴していたようだ。
表面上だけかもしれないが、変わらないのは杏子の世話をしている羽根二人と話の渦中の存在となったナガレ。
それと、佐倉杏子である。
「やっぱり」
「あの外道」
「アリナさんほどじゃないけど」
「悪魔」
「サディスト」
「邪悪」
「外道」
「外道」
麻衣が肯定したことにより、羽根達の敵意は膨れ上がっていた。
元々警戒心を持たれており、そもそも少し前にここの連中は全員がナガレにボコられた事もあって心象は今や最悪に近くなっている。
シュプレヒコールが声を押し殺した物なのは、彼に対する怯えだろう。
しかしこの現状を生み出した原因の半分を担っている麻衣は、羽根達の声を聞いていなかった。
「…宿敵」
麻衣は小さく呟いた。途端、雷撃が背骨を奔り、脳の中で火花となって弾けた。そんな気がした。
宿敵。運命の敵。ずっと前からの敵。
相対し合う定めの相手。
言葉の意味が麻衣の心を駆け巡る。
「ああ」
麻衣は小さく呟いた。その声を聴いたのは、聞き耳を立てていた杏子だけであった。
「なんて、なんて素晴らしい関係なんだろう」
言い終えた時、麻衣の両眼からは涙が零れていた。
恋慕の想いが籠った熱い液体が、彼女の両頬を静かに濡らした。
滴り落ちた涙が盆に当って弾けた時に、羽根達は麻衣の落涙を知った。
「麻衣さん!?」
「どうなされましたか!?」
「何処か痛むのですか!?」
「治療班!」
「MJDの攻撃の可能性も考えられる!警戒態勢!」
麻衣の涙を異変と捉え、即座に対応するネオマギウスの面々。
水際だった各員の動きと伝令の素早さは、日ごろからの苛烈な否応なしに戦歴を伺わせた。
「違う……違うんだ」
麻衣は涙を拭い、首を左右に振った。
一瞬の騒然が、ぴたりと止んだ。
「………話を、聞いてほしい」
誤解を解く為に麻衣は話す必要があると考えた。
涙の理由を。
麻衣の周囲には、人だかりが出来ていた。杏子のサポート要員二人を除き、会場中の羽根達が麻衣の周囲に集っている。
「勿論です。聞かせてください」
羽根の中のリーダー格らしい白羽根はそう言った。
残りの羽根達は一斉に頷いた。
「私にとって……彼との戦いは………」
そこで麻衣は言い淀む。
頬は紅潮し、鼓動が跳ね上がる。
一方で、腹の奥には冷気が蟠る。
胎内にある肉の袋。子を宿す器官。
それ自体は変わらない。
だがその中には、虚無が宿っていた。
ドッペルを発現させたあの日から宿っていた、彼方の存在が放つ鼓動が消えている。
自らが我が子らと呼んだ、虚空の彼方から来た者達の気配が今は無い。
その喪失感を思い出し、それを否定するかのように麻衣は思いを口にした。
「彼との…私の宿敵との戦いは……セックスなんだ」
それから、麻衣は滔々と話し始めた。
戦うことによる苦痛と快感。
浴びた血の味と熱さ。甘美さと淫らな熱。
互いの命を差し出す事は命の交差。
互いの命を混ぜ合って、生と死を紡ぐ尊い営み。
それと淡々と、それでいて熱を持った口調で麻衣は続けた。
時間にして、ほんの三分ほど。
だが言い終えた時、麻衣は疲弊しきっていた。
彼以外の誰かに想いを伝えた事は、これが初めてだった。
麻衣が話している間、羽根達は沈黙していた。
話が終わり、麻衣の呼吸が落ち着くのを見計らってから、代表の白羽根は口を開いた。
「…頭、おかしいんですか?」
真っ向からの否定の言葉であった。
そうだろうな、と麻衣は思った。
怒りは湧かず、疑問も無い。
異常な思考と性癖である事は、麻衣自身が最も分かっている。
「あのオリ主は」
白羽根はそう言い、そして黒羽根達は頷いた。
彼女らの言葉と動作には、彼女ら曰くの「オリ主」への怒りが宿っていた。
ん…?と、麻衣は首を傾げそうになった。
自らが異常と考えている思考と性癖を理解されたことが、理解不能であるために。
この場合客観的に見て、誰が一番狂っているのだろうか?
ええ…(困惑)