魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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先話と同じく、テンポを優先させていただきました。




第11話 かくて流れ者達は風見野を巡る②

皮膚は蕩け、肉が血と共に液体のように滴り落ちる。

裂けた腹から零れる臓物は腐敗が進み、赤緑色となっていた。

だが白濁した眼球の中で、瞳が真っ赤に輝いていた。

頬が削げ落ち、剥き出しとなった歯には刃物の鋭さが宿っている。

歯の間から滴るのは、血が混じった唾液による赤銀の滝。

 

血と涎と細かい肉を飛ばしつつ、異形達…俗にいうゾンビの群れは一斉に叫びを挙げた。

 

「喧しい」

 

女に似た少年の、冷えた声と共に光が奔る。

光が触れた途端、数体の異形達が破裂した。

極彩色の破片となり、凄惨無残な様を見せつけ散っていく。

 

「一匹も通すんじゃねぇぞ。金を無駄にしたかねぇ」

「分かってらぁ」

 

少年と魔法少女は、互いに背を向けていた。

両者の両手には、一対の厳めしい銃器が握られていた。

俗にいうマグナム銃とやらの形を模した玩具の銃であったが、

それが銃口から無害な光の火を噴くたびに、

幻想の異形達は地獄を垣間見たかのような絶叫を挙げて砕け散っていく。

 

二人の眼の前にある、巨大な壁のような画面には地獄絵図が描かれ、

足場には荒れ地が広がっていた。

床面から数十センチほどの厚さの機械の上に、彼らはいた。

 

ガラス状の足場に描かれていたのは、CGで造られた異界の地面であった。

彼らの歩みに従って荒野は進む。

その過程で、地獄が量産されていく。

 

巨体の異形は、その表面積を覆い尽くす弾丸の連射によって虚空に空いた穴となり、

細身の異形は上半身と下半身を分離させられ、

挙句滞空中の両者は執拗な追撃を受けて粉微塵へと変えられた。

胸のふくらみが、嘗ては女であったと物語る個体は顔面を粉砕された。

一撃で葬った事は、彼なりの慈悲だったのかもしれない。

 

だが手間という一瞬の隙を突き、倒れ行く女の異形を踏み潰しながら四足の異形が彼へと迫る。

あと一秒で接触、即ち即死という瞬間、二つの光が異形を貫いた。

一つは闇のような黒。

彼の銃器が撃ち出す、退魔の光の色だった。

そしてもう一つは陽よりも明るい、真の紅。

 

「油断すんなって言ってんだろが」

「余計な援護ありがとよ」

 

一瞬背後へ悪罵と視線を送った後に、ふんと粗めの鼻息を吐いて両者は殺戮へと戻る。

近頃近隣の新興都市で開発されたというこのゲームの面白いところは、

相方の方へと振り返り何時でも援護射撃が可能というところだった。

背後の画面は、メインとなる画面上部に設けられた小型のディスプレイにて確認可能である。

 

援護の様子は視覚的にも効果があり、互いの一体感が感じられるという事から、

学生や兄弟、または恋人同士で人気を博しているゲームであった。

映像も派手であり、クオリティの高い映像から、ギャラリーが絶えにくいこともまた、

この遊戯の人気の礎となっていた。

 

少年と魔法少女の周囲にも既に十数人ほどが立ち並び、

少年少女による殺戮模様を観戦している。

 

だが、その誰もが一声も発していなかった。

銃器を振り回す年少者二名の動きが、同じ人類であるはずの自分たちよりも

遥かに高度に感じられることへの驚異と、二人から放射される不可視の何かが、

主に中高生で構成されたギャラリー達を彫像へと変えていた。

 

何かによって麻痺していく脳が、ある種の結論を出した。

その場にいた誰もがそれを理解した。

幻想の世界で異形相手に共闘する、この二人の仲の悪さを。

刻一刻と張り詰めていく不可視の力は、

眼の前よりも背後の存在に向けられていく敵対心からの戦意であると。

 

「おらよっ!」

 

裂帛の叫びと共に、少年が両手を神速の速さで振った。

振り切られた先の手で握られた銃は、グリップの底が短い刃状に変形していた。

直後、画面内で破壊の乱舞が見舞われた。

数体の異形の首が飛んだだけに留まらず、

背後に控えていた第二陣から四陣までの身体を真っ二つに引き裂いた。

 

銃刀の破壊力は、振られた速度に比例する。

彼の一閃は、プログラミング上での最大火力を叩き出していた。

射撃と疑似格闘を行えることも、この遊戯の醍醐味の一つだった。

 

「風の噂に聞いた、ブレストリガーってのに似てるな」

 

死の斬線を見舞いつつ、少年が愉し気に呟いた。

疑似的とはいえ破壊衝動の幾つかを満たされ、彼は上機嫌だった。

 

「こんな時にも昔話か。確か、マジン何々とかいう奴の事だっけ?」

「そこまで言ったら残りも言えよ。たった二文字だろうが。

 まぁそうだな、そいつらの一種の武器だ。にしても魔神どもは数が多過ぎて面倒くせぇ」

 

俺も人の事は言えねえけど、と彼は続けた。

また物騒な単語が出たと、杏子は心中で罵倒しつつ思い出す。

魔神というのは、あの鉄塔猫の親戚らしいと。

また、彼は偉大な勇者とやらが気に喰わないらしいという事を。

本人も何故そう思うのかは分からないそうだが、

今はというか彼女にとってはどうでもいい事柄だった。

 

「あ」

 

殺戮方法を再び射撃に切り替えてすぐ、彼が間抜けな声を挙げた。

何事かとサブ画面を見た杏子は、

 

「…バカが」

 

と罵った。

彼の前で、緑色のワンピースを着た童女が、胸に風穴を開けられていた。

小さな膝を折りゆっくりと倒れ伏した直後、彼の画面は暗転した。

そして「GAME OVER」との文字が、血に彩られた刺々しい筆記で画面に描かれていた。

 

「何やってんだ、テメェ」

「ミスった」

 

銃を所定の位置に戻し、彼は潔く認めた。

だが先の図書館の時のように顔には悔しさが滲み、

耳には若干の赤色を浮かび上がらせていた。

 

「急所だったぞ」

「…分ぁった、ああ、狙ってやったよ」

「何で?」

 

口調には嘲りと怒りが混在していた。

怒りの原因は、彼女の境遇によるものだろうか。

 

「こんな化け物まみれの荒野に子供がいる事なんざ、どう考えてもおかしいだろうが。

 だから敵の一種だと思っちまったんだよ」

「…まぁ、分からなくもねぇな」

 

真っ当な言い分を返してくることは、最近の彼らの定型文ではあったが、

それでも杏子自身も納得し、怒りは急速に引いていく。

それが作用したためか周囲の数人の呪縛が解け、ゆっくりと後ずさりしつつ撤退していく。

だがそれでも、十人近くが残っていた。

彼女の相方は不慮の事故で逝去したが、彼女はまだ殺戮の只中にいた。

彼が消えた分、敵の数は倍となっていたが、

全く怯まずに勇猛果敢に亡者達を蹴散らしていく。

 

「じゃ、飲み物買ってくるわ」

「あたしはコーラ二本な」

「たまには茶とか飲めよ」

「うるせぇ、負け犬が」

 

今もなお殺戮を続けつつ、杏子は敗者に言葉の槍を放った。

胸を貫く不快感を受け止めたまま、彼は足早に自販機を目指して歩いていった。

 









最近多忙となったため、一気に書き貫いた形になります。
作中の武器は魔神皇帝の一体から拝借させていただきました。

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