魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第84話 炎貫く稲光

「プロミスドブラッドにより、第三次防衛ラインが突破されました!」

 

「迎撃用トーチカ、一番から五番までが崩壊!」

 

「大庭樹里のマギアによるものと思われます!」

 

「マギウス本部との通信、なおも回復しません!」

 

 

 室内は騒然としていた。

 明治時代から設けられた政治犯収容所の神浜監獄。

 その趣を今にも残した古風な室内では、黒羽根達が足繁く動き上司である白羽根達に報告していた。

 数にすれば白羽根が五、黒羽根が四十五。

 室内の中央には大きな机が置かれ、その上には最新の情報が映像や文字となって浮かび上がる。

 その机の前で、一人の白羽根が視線を落としていた。

 ローブに包まれてはいたが、裾からは眩く輝く金色の髪が見えた。

 

 

「トーチカ、半数が沈黙!」

 

「大庭樹里のマギア、接近!」

 

 

 次の瞬間、魔法少女達の足元が僅かに震えた。

 机の上には、炎で出来た東洋龍が要塞に牙を立てた瞬間が映っていた。

 今は微かな震えであったが、各々が所属する学校の校舎よりも巨大な要塞が個人の攻撃で振動をさせられた事が、魔法少女達の間に動揺を走らせていた。

 

 

「はーい、ちょおっと落ち着こうね」

 

 

 動揺する羽根達の間を、落ち着いた間延びした声が通った。

 その発生源へと、羽根達は一斉に視線を送る。

 声を発したのは、机に視線を落としていた白羽根だった。

 前屈みの体勢が直立へと変わる。

 並ぶ羽根達の身長は百五十から百六十五センチ程度であったが、その白羽根は他の者達よりも群を抜いて身長が高かった。

 

 百七十センチは軽くあり、他と比べたら子供と大人の差があった。

 身長差によって、他の羽根達は彼女を見上げる形となる。

 自分の高身長によるその視線をおかしく感じたか、その白羽根はくすっと笑った。

 その様子に、周囲の羽根達の緊張感が和らいだ。

 それを見越して、この白羽根は微笑んでいた。人心を操作することに対して思う事が無いわけでもなかったが、この場の指揮官であるという自覚を以て、ほろ苦い感情を飲み込んだ。

 

 

「さて、言葉だけじゃなくって」

 

 

 言いながら、白羽根は壁際へと歩いていく。

 

 

「看守長、それは」

 

 

 静止しようとした黒羽根が背後の白羽根に肩を掴まれて静止される。

 振り返った黒羽根に白羽根は頷きで応えた。信頼に満ちた力強い頷きだった。

 看守長と呼ばれた白羽根が壁に達すると、古い石造りを模した壁が歪み、切り取られたかのように壁面が消失した。

 三メートル四方に渡って壁が消えた先には、熱風渦巻く戦場があった。

 

 真紅の空を蛇行する炎の龍が異変を察知し、そこへ向けて一気に飛翔した。

 背後で幾つかの悲鳴が上がったが看守長は動じず、右手を前に突き出した。

 ローブの裾から出た五本の繊手は、黒い柄の銀の斧を握っていた。

 優美さを備えた魔法少女の武器の中でも特に美しい代物だった。

 

 右手に持った斧が斜め上方に向けられる。途端に、矛先が向けられた天空から雷撃が迸った。

 それは接近する龍の傍らを通り過ぎ、掲げた斧へと着弾した。

 看守長の全身が雷撃で覆われ、彼女の身体は女体の形をした稲妻となった。

 そして身に受けた雷撃の力を、身体を通すことで更に魔力を増強させて斧へと集中。

 極大の雷撃を宿した斧を空高くへと投じた。

 

 

「ま、ざっとこんなものかなぁ」

 

 

 そう告げたのと、投擲された斧の着弾によって真紅の龍が弾け飛んだのは同時であった。

 羽根の多くは、何が起こったのかを認識できていない。

 魔法の発露から樹里のマギアの撃破まで、要した時間は二秒と掛かっていなかった。

 

 そしてこの時、羽根達は空中で爆散した龍型のマギアを見てはいなかった。

 雷撃によって燃え尽きていく白いローブ。

 その中から顕れたものの姿を見つめていた。

 

 金の長髪、女性としての魅力に溢れた肢体と豊満な胸。

 その身を包むのは、物語の中に住まう妖精のような衣装。

 

 

「家族の為にも、頑張らないとねぇ」

 

 

 のほほんとした口調を崩さずに少女は言う。

 圧倒的な力を発した事で部下に与えていた恐怖も和らぐ。

 支配の為に恐怖を利用する大庭樹里とは真逆の性質を持つようだ。

 

 

「葉月様…」

 

「そこ」

 

 

 陶酔しきった白羽根の声。

 その唇に、葉月は人差し指をそっと重ねて直ぐに離した。

 二人の距離はかなり隔てられていた。

 間には複数の羽根もいた。

 だがその誰にも触れず、触られるまで白羽根は葉月に気付かなかった。

 驚異的に過ぎる速度であった。

 羽根の何人かは、彼女の体表で弾けた雷撃の残滓を見る事が出来た。

 自分の身体を弾丸と捉え、電磁を纏って超加速を行ったのだろう。

 本来ならかなりの消費を被る力であったが、葉月に疲弊した様子は全く無い。

 

 

「様なんていらないよぉ。呼び捨てか、精々さん付けで十分」

 

 

 子供に言い付けるような言い方で優しく告げる。

 身長差も相俟って、それこそ大人と子供、ひいては親子の対比にも思えた。

 

 

「敵は強大でマギウス本部と連絡が取れないのは心配だけど、この場のメンツでどうにかしよう」

 

 

 葉月は現状を認めた上で、独力での解決を宣言した。

 強い口調は微塵も無く、どこまでも自然な言い回しだった。

 

 

「君達となら、勝てる」

 

 

 その上で、勝利を断言した。これも穏やかな口調だった。

 羽根達は次々に頷いた。勝利への声高な叫びは上がらない。

 全員が勝つために動こうと決意し、命を掛けることになんの疑いも持たなくなった。

 上手くいったと葉月は思った。部下たちを命を惜しまぬ死兵へと変えたことによる胸の疼痛は、実際に心臓を刺し貫かれたようであったが顔には出さないように努めた。

 ここで死ぬわけにはいかない。職務はやり遂げねば。

 非情さと心の痛みを覚えながら、葉月は現実に向き合うことを改めて決意した。

 

 

「苦戦なさっているようですね」

 

 

 部下たちへと指示を出そうとしたその時に、その声は投げ掛けられた。

 月光を浴びて青々と輝く、澄んだ水のような声だった。

 

 

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