魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第11話 かくて流れ者達は風見野を巡る③

自販機を前にして、ナガレは少し悩んでいた。

茶にすべきか、コーヒーにすべきかという事に。

魔法少女と切り結び、この世界の邪悪の権化である魔女を屠る戦士の悩みとしては、

それは酷く凡庸であった。

 

「うし」

 

本能の赴くままに、彼はボタンを押した。

ガタゴトンという音と共に排出されたのは、異国の霊峰より湧き出たという水であった。

要は喉を潤せばいいという結論からの選択だった。

 

自分の分を確保した後、彼は要求されていたブツを二つ購入した。

振ってやろうかと一瞬だけ思ったが、あまりにもしょうもない嫌がらせだと思い直した。

それに第一、無駄になる飲料水が勿体ない。

持参していた布袋にそれらを入れると、合流のために歩を進ませた。

 

風見野市でも最大級の規模を誇るゲームセンターの中は、

耳が痛くなるほどに喧騒で、様々な色の光が跳ねる混沌の坩堝だった。

機械や対戦相手への勝利による歓声と、敗北者の怒声が入り混じる。

 

惜しげもなく投入される硬貨たちが、装填された弾丸のような金属音を鳴らしていく。

こういう雰囲気を、彼は嫌いではなかった。

恐らくは、育った環境に似ているためだろう。

 

そして彼は、そこでよく生じていた音を聴いた。

 

「喧嘩か」

 

殺意の籠った怒声と悲痛な鳴き声が挙がり、何かが破壊される音が連鎖する。

闘争の音だった。

但し、構成される成分は彼の知るものとは少し異なっていた。

悲鳴を挙げているのは主に男であり、怒声の大半は女の声で出来ていた。

 

吸い寄せられるように、彼はそこへと進んでいった。

闘争の場には格闘技のリングのように人垣が生じていたが、彼は難なく最前列へと辿り着いた。

低身長と、細い身体の為である。

内心に沸き立った紛い物への怒りを黙らせながら、彼は開けた空間の中央を見た。

生じていた声からある程度は察したが、漫画のような光景が広がっていた。

 

床に倒れているのは、一見すれば普通の男子高生から大学生程度といった男達だった。

だがその顔立ちには険が立ち、眉間には亀裂のような皺が寄っている。

よく見れば歯が欠けていたり、露出した筋肉質の腕には、

刃物によるものらしき傷跡が刻まれていた。

 

揃いも揃って、暴力的な雰囲気を身に纏わせていた。

それらがみな、先に連ねたように床に倒れている。

腹や顔を抑え、傷を与えられた芋虫のように床の上で苦痛に喘いでいる。

 

人型の芋虫達の中央に、凛々しく聳える雄姿があった。

 

「どうした、もう終わりか」

 

毅然とした口調でそう告げたのは、薄紫色の髪の少女であった。

身長は百六十ぴったりほどで、歳は十四から十五程度。

倒れた者のどれよりも若く、そして小さな体躯である。

 

縦線の入った灰白色のパーカーを羽織り、黒いミニスカートを履いている。

年頃の少女らしく細い手足であったが、

スカートから覗く長い脚には健康的な筋肉の形が見えた。

肩にゆったりともたれ掛かるセミロングヘアーにはどこか、

何処ぞの道化に似た部分があった。

 

だが彼女から噴き上がる精悍な気配と鍛えられた肉体は、

何もかもが道化とはかけ離れていた。

ある意味、道化のアンチテーゼを成しているかのような少女だった。

それに追い討ちを掛けるかのように、無に等しい道化の胸とは対照的に、彼女の乳房は豊かであった。

 

「来ないのか?」

 

強い意志を感じさせる太い眉を僅かに歪めながら、不愉快さを宿した冷たい声で少女は問うた。

問いの先には、ただ一人残った長身の青年がいた。

一目でそれと分かる凶暴さが、短髪の若者からは感じられた。

それを証明するかのように、彼の手には刃物が握られていた。

だが誰も、それに反応を示していなかった。

そんなものが、何の意味も成さない事を予め知っているかのように。

 

獣のような怒声と共に、青年が少女の下へと突進した。

なんの躊躇いもなく、紫髪の少女は銀光を右手で掴んだ。

その直前、彼の身体に震えが走っていた。

 

僅かな停滞を挟み、青年の動きは完全に停止していた。

驚愕と恐怖が入り混じった狂人の顔で、青年は少女を見た。

血のような色の眼が、彼を見ていた。

 

「押すなり引くなりしたらどうだ?相手は女の細指だ。

 貴様の腕が未熟でも、刃の本分は果たせる筈だ」

 

少女は右手に力を込めた。

皮膚が裂け、熱い血が滴り落ちた。

 

「確かに私の言葉遣いも荒かった。恥ずかしながら、異性というものには慣れてなくてね。

 それに言葉の通り茶を飲み交わすくらいなら、付き合ってやってもよかった」

 

血を流しつつ、少女は諭すように静かに語る。

 

「だが人を売女と嘲り、挙句拉致しようとした事は流石に許せない」

 

血色の眼に、怒りの炎が掠めた。

余っていた左手が振られた、と見えた者は少なかった。

ただ青年が吹き飛ばされていく光景だけが、周囲の者らに見えていた。

丁度人のいない場所へと、青年は落下した。

凶暴ながら整った顔は、半分ほどが真っ赤に腫れ上がっていた。

膨れ上がった形には、少女の華奢な掌の面影があった。

 

沈黙。

 

そして歓声が挙がった。

歓喜は連鎖し、原始的な声が各所で連鎖し始めた。

中には理由もわからずに叫んでいる者もいることだろう。

 

だが勝者たる少女は、自らに注がれる歓喜に対して無関心であった。

いや、正確にはそれを装っていた。

嬉しいというよりも、恥ずかしさが込み上げていた。

 

無視するように、少女は倒したばかりの不届き者の顔を見た。

衝撃で裂けた唇の奥に、銀色のきらめきを見た。

丸く、指輪に似た形状。

缶ジュースのプルトップだった。

 

そういえばこいつが突進してきた際に、何か光ったものを見たような気がした。

そしてそれは、口のあたりで生じていたように思えた。

鳴りやまぬ歓声の中、薄紫髪の勇猛な少女は周囲を見渡した。

熱病に浮かされているかのような、少年少女の群れだけが見えた。

 

「同業者か?余計な事を」

 

彼女の悔し気なつぶやきも、湧き上がる歓声の中に飲まれていった。

 

「っと、そろそろ合流時間か」

 

腕時計を眺め、少女は苦笑した。

 

「暇だからとは言え、慣れない場所には来るものじゃないな」

 

苦痛の最中にある者達と、そして緩やかになりつつ歓声を背に、

少女は悠然とその場を後にしていった。











「鉄のララバイ」と「炎のバイオレンス」を聴きながら書きました。
後者は特に過激な歌詞で構築された歌ですが、この二曲はなんとなく、
おりこ☆マギカやかずみ☆マギカと親和性があるような気がします(自分の勝手な感想です)。

また自分の稚拙な文章からで分かりにくいと思いますが、今回の主役はあの方です。
正直なところ、スピンオフを描いてほしいくらいに好きな人です。

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