魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「度し難い…」
人見リナはそう呟いた。
視線の先には人だかりが出来、歓声が上がっている。そしてその奥からは
「死ね!変態!死ね!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええええええええええ!!!!」
という叫びが、肉を殴打する音と共に響く。
前者は呉キリカ、後者は黒江である。
キリカは嘗て自分がされた残虐行為への、黒江は主君に苦痛を与えた事への報復を行っていた。
仰向けに倒れているアリナの顔に向け、二人は全力による蹴りの連打を見舞っているのだった。
秩序を尊ぶリナとしては、争いが行われている事に心の痛みを覚えていた。
そして暴力を受けているのが自分達のリーダーであるというのに、加害者側を応援している羽根達も理解しがたい存在であった。
眼を背けるリナ。だが、逸らした先にも度し難いものがあった。
「はぁい、麻衣ちゃん。これ見てみて!」
「あ、ああ…」
座布団に座る麻衣と京。
京は麻衣に寄り掛かり、何かを手渡していた。
「これは……私か」
「うん!とってもよく出来てるでしょ!」
輝く笑顔の京。彼女が麻衣に渡したのは、魔法少女姿の朱音麻衣を模した人形だった。
「大きいな…」
両手を使い、腕に抱えるほどのサイズ。そして四キロ近くあるずっしりとした重さ。
まるで、と麻衣は言い掛けた。
続く言葉は「赤子のようだ」であった。それは脳内で思い描くに留められていた。
口に出さなかったのは、麻衣の直感。不吉な気配を覚えたのである。
上質な生地と綿を用いて作られた人形に触れていると、腹の辺りに違和感を覚えた。
柔らかさの中に、しこりのような硬さを感じた。
場所は腰の少し下。下腹部である。人体であれば、子宮が有る辺り。そこで麻衣は正体に気付いた。
この人形の下腹部、胎内には赤子を模した人形が埋め込まれていることが手触りで察せたのだった。
新しい命を宿し、育む妄想を麻衣はよく行っている。
その度に尊い気持ちが胸を満たし、我が子の遺伝子の半分を自分に分け与えてくれた最愛の存在を殺害したいという欲求が彼女の内部に恋慕の炎となって燃え盛るのだった。
客観的に言えば狂気以外の何物でもないが、麻衣は自分のその欲求を真摯で尊いものと感じていた。
だが京からのプレゼントに施された仕掛けは、麻衣に恐怖を与えていた。
自分で思い描く狂気は兎も角、与えられる狂気の愛に、麻衣は耐性を備えていなかった。
怯えを必死に隠し、引き攣りながらも微笑みながら麻衣は京を見た。
一点の曇りも無い青空のような、輝く笑顔の京の顔がそこにあった。
それを見ているリナは、深い苦悩の最中にあった。
脳裏に浮かぶのは、今はここに居ない道化姿の少女。
彼女の肌の熱い質感を思い出すことで、リナは狂気に耐えていた。
リナのこれも一種の狂気であるのだが、当の本人は気付いていない。
そこは白一色の部屋だった。
子供部屋程度の面積で、壁の床も天井も雪のように白かった。
白で覆われた部屋で、それ以外の二色が折り重なっていた。
一つは黒、もう一つは赤。
それぞれ、黒髪の少年と赤い髪の少女である。
壁に背を預け、足を延ばして座るナガレに、手製の魔法少女服を着た佐倉杏子が覆い被さっていた。
二人の顔は重なり、接合点からは水音が鳴っている。
ナガレの唇に杏子は自身のそこを重ね、彼の口内へと舌を這わせていた。
ちゅぱ、れろ、れろ、くちゅ、ぐちゅ
軟体動物が這いまわる様な、粘着質で淫らな音が室内に響いている。
「…ハハッ!」
不意に唇を離し、杏子は笑った。唇は、ナガレから啜ったものと彼女自身のものが混じった唾液で濡れている。
「なんだよ、急に」
「なにさ、その不躾な口調。中断されたのがそんなに嫌かい?」
生意気な口調と表情の杏子に、ナガレはがるるという喉の呻きで応えた。
杏子の言葉の肯定ではなく、そもそもこの接吻が嫌だという意思表示である。
音こそ小さいが、血に飢えた獅子ですら怯えるような迫力があった。
猛獣どころか魔獣に等しい杏子は平然と笑っている。
自分の挑発にナガレが乗った事が、嬉しくて堪らないのだった。
ここ最近、ナガレに好意を抱く少女達は彼のリアクションを引き出すだけで嬉しさを感じている。
依存の深刻さが、取り返しのつかない領域に至り掛けている証拠だろう。
尤も、普段からして血みどろの戦闘を性行為と捉えているので、今更健全も不健全もないのだが。
「じゃお望みに応えて再開っと」
言い終えるが早いか、杏子はナガレの唇に吸い付いた。
情欲に燃えた相貌は、普段よりも色濃い真紅に染まっている。
右腕を彼の背に回し、五指は彼の背中を這い廻っている。
胸も腹もナガレに密着し、腰はナガレの両膝の上に置かれている。
心臓は破裂しそうなほどに高鳴り、体温と鼓動は上昇と加速の一途を辿っている。
自分の雌が既に潤いきっている事を、杏子はとうに自覚していた。
この部屋に来て、ナガレに抱き着いた瞬間から彼女の雌は彼を求めて濡れていた。
だが行為に及んでくれないのは、杏子も不承不承ながら納得していた。
成人になれば相手をしてくれるという言質は取っているし、それまでのカウントダウンの時計も用意しているのだが、それでも欲しいものは欲しい。
だからこうして唇と身体を重ねている。邪魔な雌二匹と離れた今、彼は自分の物だと証明するかのように、杏子は自分の身体を彼に擦り付ける。
丹念に丁寧に、愛おしさを示すように。
「その腕、痛まねぇのか」
口づけの中、ナガレが思念で言った。
問い掛けというよりも、謝罪のような痛切さがあった。
「別に。それとあんたのせいでもねぇさ」
同じく杏子も思念で返す。今の杏子は左腕が無く、隻腕となっている。
当然ながらいつもの唇と身体の重ね合いよりも杏子は軽く、触れる身体の面積も少し狭い。
その軽さと狭さが、彼に杏子の喪失を突き付けるのだった。
「思い当たるフシがあるとすれば、双樹の奴に何かあったんだろうさ。というかそれしかねぇか」
ナガレの歯を舐めながら杏子は言った。
少し前なら双樹と言わず、変態と言っていた。
その称号は、更に相応しい存在へと移り変わっている。
これは出世か、或いは降格なのか。
「まぁいいさ。波風立つのは悪くねぇ……だろ?」
杏子の思念に、ナガレは苦さを帯びた貌となる。
その言葉は、嘗て自分が言った言葉だからだ。その言葉を選んだのは、杏子に自分の記憶を見られたからだと彼も察している。
客観視することで、自分は結構考えなしだということが自覚させられていた。
彼の過去を鑑みれば、結構どころではないだろう。
「ま、いつも通りなんとかするさ。何が相手だろうが」
残っている右腕で、杏子は彼を強く抱いた。
「あんたとあたしが組んで、負けるわけねぇだろ?」
顔を離し、杏子は彼に向き合ってそう断言した。
対する彼もまた頷いた。敗戦が無いわけでは無いが、これ以上負ける気は無いのである。
そこでふと、二人は気付いた。
周囲の環境が、前触れもなく変貌していることに。
部屋の面積はほぼ変わらないが、地面には絨毯が敷かれ、彼が背を預けているものは寝台の側面になっていた。
隅には本棚とテレビ、そしてゲーム機が置いてある。
その配置と内装に、彼は見覚えがあった。それは杏子も同じだった。
二人の脳内に、困惑が渦巻いていた。
かちゃりという音が鳴る。
ナガレと杏子は視線を送ると、開いていく扉が見えた。
開いた扉の先には、黒を帯びたブラウンカラーのポニーテールの女性がいた。
美しい顔の造詣には、とある少女の面影が見て取れた。
その女性は、室内の光景を見て垂れ目気味の可愛らしい眼を二度三度と瞬かせた。
そして数秒後、頭を下げて退室した。
杏子とナガレは顔を見合わせた。
「どゆこと?」という意思の交差である。全く分からなかったので、杏子はとりあえず、彼へのキスとマーキングを再開した。