魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第90話 奇妙ながらの平凡な日常④

 祭り会場から遠く離れた場所で、会場から漏れる光が壁に背を預けて座る少女の影を闇の中から照らしていた。

 その周囲には幾つものゴミ箱が置かれ、脚を投げ出して座る少女の足元には空になった瓶が何本も転がっていた。

 

 

「んくっ」

 

 

 そんな音を立てて、少女は新しい瓶を口に含んだ。

 喉が小さく動き続け、やがて中身が空になった。適当に放り投げると、先に放られていた瓶に触れて硬い音を出した。

 瓶は転がり続けたが、三回転した辺りで止まった。

 

 

「探したぞ」

 

 

 足で瓶を止めた、少女のような声の少年は足の爪先で瓶を器用に蹴り上げ、落下してきたそれを右手で掴んだ。

 

 

「酒かと思ったけど、ラムネかよ」

 

「うっせぇな。昔少し飲んだけど、飲むとなんかイライラするし臭ぇから嫌いなんだよ。それにんなもん売ってるわけねぇだろ」

 

「それもそうか」

 

 

 転がっている瓶を片付けながらナガレは答えた。近場にあった瓶用のゴミ箱に放り込む。

 

 

「今更だけど、こうなるとは予想外だな」

 

 

 遠くに見える祭りの風景を眺めながらナガレは言った。

 

 

「それはこっちもさ」

 

 

 空間が操作された際、その場にいたであろう杏子も疑問の声を出した。

 

 

「要約すると、佐鳥かごめってやつの歓迎だとさ。あと定期的にやってるんだってさ。この縁日ごっこ」

 

「レクリエーション?つうんだっけか。ネオマギってのはそういうのに積極的みてぇだな」

 

「加入してるメンバーが家庭の内外に問題抱えまくりで、こういうのの経験が無いから失くした時間を取り返そうって意図らしよ。さっきの宴会みたいに」

 

「ん…」

 

 

 ナガレが唸る。

 子供が抱えた闇という存在は世界が罹患した病のようなものだろうが、減りはしても無くなりはしない。

 理不尽な災厄に、彼もまた思う事があるのだろう。

 そして彼の相棒もまた然りであった。

 杏子はそれを口にするか迷った。

 言った処で過去は変わらない。だが見上げた先には、薄闇の中でも更に色濃い黒が見えた。

 彼の双眸に嵌る黒い瞳は、真っすぐに杏子を見ていた。

 何があっても受け止める。彼女はその瞳にそんな意思を見た。

 それが自分の妄想であることは分かっている。

 しかし、彼女の口は動いていた。紡がれた言葉は、縋りつくような響きを孕んでいた。

 

 

「あたしもこういうのにはいい思い出があまり無ぇんだ。あまりってのは、まだうちの教会が普通だったころには楽しい思い出があったからさ。母さんからもらった千円札握り締めて、妹の手を繋いで祭りの中歩いて金のやりくり考えたりしてた」

 

 

 思い出を語る杏子は、自分の顔が笑みと寂寥の混じった泣き笑いのような表情となっている事を感じていた。

 ナガレの視力なら闇の中でもそれが見えているだろうが、それでも顔を隠してくれている闇がありがたかった。

 

 

「その後は…んなとこ行く余裕は無くなっちまった。教会が……繁盛するようになったらなったで気軽に出歩けなくなったしね」

 

 

 言い淀みながらも杏子は言い切った。喉奥が粘つき、焼けつくような痛みが走った。

 その感覚が消え去る気配も無いままに、杏子は言葉を続ける。

 

 

「それからは、祭りとは無縁さ。全部が終わってから、ふらっと会場に行くことはあったんだけど、なんでそこに行ったのかはあたしでもよく分からねぇんだ」

 

 

 杏子は記憶を反芻する。早朝に至る前、朝焼けが訪れる前に祭り会場の跡地を訪れた事が何度もあった。

 地面に刻まれた屋台の跡や人々の足跡などを、朝になるまで眺めていたことがある。

 散歩の一種と言えばそうだが、この行為は奇行であるという認識は杏子にもあった。

 

 

「祭りに参加したかった…のかもな」

 

 

 俯きながら杏子は言う。

 季節毎に訪れていた疑問の答えが出た瞬間だった。

 本当はとっくに気付いていたが、人に話す機会が無かった。

 杏子が孤独を伴侶としていた期間はあまりにも長い。

 一時共闘した者がいたが、その少女とは祭りに行った事は無かった。

 

 

「普通に参加するってワケにもなぁ…」

 

 

 一家心中以降、佐倉家はカルト宗教を広めた詐欺師一家であるという見解が凡その風見野市民の認識だった。

 今でもなお、街中を歩くと陰口の囁きが聞こえる。

 数年前であったなら、四方八方から罵詈雑言と物を投げつけられていただろう。

 杏子にはそう思えてならなかった。

 

 

「楽しんでるとこ、悪いしな」

 

 

 思考を打ち切る様に杏子は告げる。

 自分への憎悪も自分の境遇も理解しているが故の言葉であった。

 

 

「おい」

 

 

 彼の声がしたので、杏子は顔を上げた。

 こちらに向けて、伸ばされた右手が見えた。

 

 

「行こうぜ。一緒に楽しもうじゃねえか」

 

 

 祭りからの影を左半身に浴びた彼は、不敵に笑っているように見えた。

 不器用な奴だなと杏子は笑い。伸ばされた腕の手首を握った。

 それを彼は、力強く引き上げた。

 光の中へと杏子の身体が引き摺り出される。

 そして互いに顔を向き合わせて小さく笑うと、二人は祭り囃子へと歩き出した。

 時間を取り戻したいという願望は、この両者の共通点でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

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