魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「いい雰囲気だな」
「確かにね。熱気っていうか活気も凄いわ」
左右に出店が並ぶ祭り会場をナガレと杏子が歩く。
お好み焼き、たこ焼き、焼きそば、焼き鳥、チョコバナナにアイスクリームに綿菓子などの料理にお菓子。
特撮ヒーローに加えてクラゲの趣のある怪物を面が並んだお面屋、ヨーヨー掬いに射的、くじ引きの店が並んでいる。
耳をすませばどこからともなく太鼓や笛の音が響き、肌に触れる大気は夏の夜の熱を帯びていた。
「暑くねぇのかな」
綿あめを齧りながら、ナガレは屋台で店番をしている羽根を見ていった。
「実際暑いっぽいね」
フランクフルトを咥えながら杏子は返した。
齧った事で、手元である棒が刺し棒のように揺れた。
その先に視線を送ると、歩いている羽根達は顔に汗を浮かべている。
杏子の言葉通り、実際に暑いのだろう。
しかしながら誰もローブを脱ごうとせず、鼻から上を露出させないようにしていた。
「取り決めか何かか?」
「役割の全うです」
「うぉう!?」
ナガレの発した言葉への返答は、杏子の隣からした。
黒羽根の不意の乱入に、杏子は思わず喉にフランクフルトを詰まらせかけた。
急いで飲み込んでいる間にがちりという音がした。それは杏子の左腕で鳴っていた。
「遅くなって申し訳ありません。いかがですか?」
「………」
黒羽根の問いに、杏子は無言で左腕を掲げた。
そこには肉ではなく、紅い色の鋼で出来た腕と手があった。
装甲は無く、内部の機構が露出した無骨な機械の腕だった。
腕は欠損していた杏子の肘の断面に極めて自然に接続されている。
腕を曲げ、手を開閉させるが作動音一つせず滑らかに動く。
「うん、完璧。形も注文通りだな。ありがとさん」
「それは幸いです。では失礼」
一礼し、羽根は踵を返した。
奥の方には二人の黒羽根が立っており、そちらと合流すると揃って屋台に向かって歩いていった。
その様子を見送ると、ナガレは杏子を見た。
正確にはその腕を。
「なぁその腕」
「ああ。あの格闘漫画の最強ロボを参考に造ってもらったのさ」
誇らしげに言う杏子。
形で察しがついていたが、彼女の言葉で確定した。
突如として左腕が腐り落ちるという異常事態に見舞われている杏子だが、義手を貰った事は嬉しいようだ。
その腕のモチーフとされたロボは、スパーリング相手の神戸弁が移って変な喋り方になった挙句にぽっと出の生身キャラに敗北するという事態に陥っている事をナガレは言わないことにした。
「んー…」
「どうした?」
親指から順に指を動かしながら呻く杏子にナガレは尋ねた。
「いやさ、宴会からのキリカん家への移動といいこのお祭りといい、超展開っていうか謎展開っていうか、猿展開みたいなのの連続だなぁと」
「平和だからいいじゃねえか」
「ま、そっか」
率直過ぎるナガレの言葉に杏子は何の違和感もなく同意した。
ここしばらく、アリナ以外の流血を見ていない。
確かに異常に過ぎるくらいに平和な時間が流れている。
「じゃ、その平和を享受しようか」
そう言って杏子が歩きだす。
やけに聞き分けが良いなと思いながら、ナガレがその後を追う。
すぐに横に並ぶ、と思ったのだが。
「ん」
一歩歩むと、杏子は既に更にその前にいる。足を速めると彼女もまた歩を進める。
横に並びたいが、追い付けない。
新しい遊びか?とナガレは思った。
対する杏子はと言えば、その顔を真っ赤に紅潮させていた。
ずかずかと歩きながら、杏子の脳と意識は沸騰していた。その想いとは。
「(…手、繋ぎてぇぇぇええええええ!!!)」
であった。そして。
「(でも、恥ずぃいいいい!!)」
身を焦がす恋心と願望、そして気恥ずかしさが彼女の歩みを速くしていた。
「追い付いたぞ」
「ぴゃっ!?」
右隣からずいと顔を出したナガレに対し、変な声を上げる杏子であった。
「いいから行くぞ」
そう言って彼は左手で杏子の右手を掴んだ。
高熱を帯びた金属が赤熱するように、杏子の顔も赤みが増した。
『朱音麻衣』
『なんだ、呉キリカ』
その様子を、別の屋台の列が伸びる道から店越しにキリカと麻衣が見ていた。
恋敵を見ているというのに、二人は冷静だった。
『今は邪魔しちゃ悪いって、君でも分かるよね』
『莫迦にするな。そしてどの道動けないし動く気も無い』
「行こう!キリカ!今度はあれ!焼きそば一緒に食べよ!」
「麻衣ちゃん!一緒に型抜きやろ!二人の共同作業しよ!」
キリカと麻衣はそれぞれ、えりかと京に纏わり付かれていた。
それでも悪い気がしていない様子であり、二人ともこの状況を楽しんではいた。
彼を想う気持ちは三人とも同じであるが、杏子は孤独に過ぎている。
彼女にナガレを一歩以上譲っているのもその為であった。
「顔赤いな。楽しみなのか?」
前を見て、彼女と手を取って歩きながらナガレは言う。
「そういうあんたも、ちょっと頬が赤いよ。恥ずかしいのかい?」
「うっせ」
杏子の言葉通り、彼の頬も僅かに朱色に染まっていた。気恥ずかしいのだろう。
その様子を羽根達は作業をしつつ、友達と談笑しつつ眺めていた。
ナガレの事は正体不明で、二次創作のオリジナル主人公みたいなものだと彼女らは思っている。
正直言って存在が気に喰わず、部外者なのだから出て行って欲しいというのがこの連中の共通認識だった。
リーダーであるアリナの事は愚弄してはいるが内心では誰もが慕っている。
そんな彼女と仲がいいのも実に気に喰わない。
何かの事故で死なないかなとは少なくない数が思っていた。
だが今は、並んで歩く少年と少女の姿に魅せられていた。
嫉妬と願望が入り混じる感情は、自分もいつかああなりたいという欲望からだという事が誰にも分かった。
そして今は、この光景を見ていたかった。
少なくともあと少し、数分または数十分は。
だが歩き出した二人の前に、横からふわりと孤影が顕れた。道を塞ぐかのように見えた。
姿を見た者の大半が、背骨を氷に変えられたかのように体が凍えた。
夏の夜を再現した暑さなど、一瞬にして消し飛んでいた。
「佐倉杏子さん……取材、させていただけませんか……?」
奇妙な人形を抱いた、花の蕾を彷彿とさせるドレスを纏った少女はすまなそうに、おずおずと言った。
魔法少女の記録者、『死の記録人』または『ネクロボット』と呼ばれている魔法少女。
佐鳥かごめである。
逢瀬を邪魔された杏子の額には青筋が浮かんだ。
杏子の周囲では、恐怖以外のもので空気が凍えていた。
その気持ちは羽根達にも伝播し、恐怖は徐々に消え去っていく。
そして代わりに、この想いが伝染していくのであった。
その想いを、佐倉杏子は口にした
「…空気読めよ……」
と。
佐鳥かごめは、更にすまなそうに身を縮めて頭を垂れた。
彼女が抱えた人形も主に合わせて首を垂れる。
その様子が不愉快な道化とそのお気に入りの魔女を彷彿とさせ、杏子の不愉快さは増した。