魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第91話 罪禍

「では……佐倉杏子さん」

 

「…」

 

「…」

 

 

 佐鳥かごめ、魔法少女の記録人が杏子に問いかけ、逢瀬を邪魔された杏子は不機嫌そうにしていた。

 取材に応じるとも言っていないが、かごめの接近を拒絶しなかった。

 かごめはそれを取材に応じる構えと取って、杏子の近くの椅子に座った。

 休憩用のパイプ椅子が並ぶ祭り会場の一角でのやりとりを、少し離れた場所に座るナガレは無言で眺めていた。

 視界の隅では櫓を中心として盆踊りまでが行われている。

 ローブ姿の魔法少女らが躍る姿は奇妙であったが平和な光景だなと彼の心は和んでいた。

 耳を澄ませると

 

 

「みふゆさんは?」

 

「迷子センターで保護されてますから大丈夫です」

 

「ついでにあの変態は?」

 

「キリカさんが磔にしてました。煮え滾る油の中に突っ込まれこんがり揚げられたのですが残念ながら生きてます。衣の中からエンターティナーじみた挙動で復活しくさりました」

 

「タフって言葉は…あの変態の為にある、という訳だね」

 

「はぐむさん、それ言いたかっただけですよね」

 

 

 という平和な会話が聞こえる。

 現実を見ようとナガレは思って視線を戻した。彼の眼に再び、佐鳥かごめと佐倉杏子の遣り取りが映る。

 

 

「では改めて」

 

「あたしのコトが知りてぇんなら」

 

 

 言葉を断ち切る杏子の声。

 

 

「佐倉杏子、風見野って単語を検索しな。詳しいのがネットの大百科に載ってるからさ」

 

 

 杏子は退屈そうに欠伸をしながらそう言った。

 

 

「誇張というかネタ要素も多いけど…例えばあたしが妹を人質にして親父と母さんを脅して性行為を強要させて、二人がヤってる最中に煮え滾った油をぶっかけて泣き叫ばせて、手足を切って動けなくしてから妹を犯して殺してまた犯して、抉り出した内臓を瀕死の二人に無理矢理喰わせたとか」

 

 

 額に右の人差し指を当て、思い出しながら語った記事の記憶は最悪の上の最悪の事象であった。

 当の杏子の表情は、書物で調べ物でもしているような平常そのものだった。

 

 

「あたしの言葉の表現だと拙くなっちまうけど、実際はちゃんとしっかり人様に読んでもらうってことを意識された書き方で書いてあるから読みやすいよ。魔法少女の記録人やってるんなら、文章力?っていうのかな。そういうのが参考になるんじゃねえの?あたしが家族を殺す様子は他にも何パターンかあったし文体や視点も違った風に書かれてたから退屈しねえと思うよ」

 

 

 かごめは黙って杏子の話を聞いていた。

 だが不意に立ち上がり、踵を返した。そのままふらふらと歩き、近場の壁にもたれかかった。

 そして身を折り曲げ、胃の内容物を一気に吐き出した。

 濃厚な酸の匂いが、夏の熱気を再現された大気に混じる。

 三度四度と、吐瀉物が地面に落ちて跳ねる音が続いた。

 それでもかごめは戻ってきた。

 口元には拭われた唾液の跡が見え、少女の目元は湿り気を帯びて腫れていた。

 

 

「わた、わたし、も、その」

 

「うん」

 

 

 たどたどしく喋るかごめに杏子は頷いた。続けろと言っているのである。

 

 

「その、その、記事は、読み、ました」

 

「予習済みってことかい。偉い偉い」

 

 

 杏子は拍手を送った。

 

 

「おい」

 

 

 乾いた音を貫く声。黙っていたナガレが口を開いた。

 杏子は拍手を止めた。対してかごめは再び口を開く。

 

 

「わたし、は、あなたが、そう、だとは、お、おもえま、せん」

 

「あっそ」

 

 

 必死に言い切ったかごめの一言を、杏子は斬って捨てた。

 そして立ち上がると、かごめの前へと歩み寄った。

 速度はゆっくりな筈なのに、かごめは後退る事すら出来なかった。

 

 

「あたしが今何を考えてるか、教えてやるよ」

 

 

 杏子は笑った。青空の下で青い海へと向かって走る童女のような、快活で無邪気で、朗らかな笑顔で。

 

 

「殺せ」

 

 

 その表情で杏子は言った。殺意も何もなく、ただ単語として。

 かごめは小さな悲鳴を上げた。

 

 

「潰せ、破壊しろ、引き裂け、殴れ、踏み殺せ」

 

 

 ゆっくりと確実に、意味を相手に伝えるように丁寧に杏子は言う。

 表情は変わらない。意味を伝えようとしている一方、物騒な言葉の一つ一つに対して杏子は何も思っていなかった。

 何故なら。

 

 

「こんなこと考えてるけど、別にあんたを殺したいとかじゃない。頭の中でいつも、あたしはあたしを殺してる」

 

 

 そう言って杏子は右手の指をパチンと鳴らした。

 その音に乗り、幻惑魔法がかごめに届いた。

 現実の世界に折り重なるように、彼女の視界には杏子の思考が映っていた。

 そこには二人の佐倉杏子がいた。

 魔法少女姿をした二人の杏子は、身体を重ね合っていた。仰向けに倒れた杏子の腰に、もう一人の杏子が腰を置いて跨っている。

 だがそれを愛を求めての肉体の交差ではなかった。

 重なっている側の杏子は、もう一人の自分の首を左手で掴み、残る右手で殴打を見舞い続けていた。

 

 既に倒れている杏子の顔面は崩壊し、肉と骨の淵の奥に砕けた脳髄が血に沈む異形の器となっていた。

 残っている下顎に杏子は手を掛けた。歯を全て喪い、歯茎の肉が骨にこびり付いた状態となった顎は、一気に下に引かれた。

 皮と衣装が引き裂かれて肉が捲れ、既に折れている肋骨と薄い腹筋が露わにされた。

 下腹部の辺りで肉を千切り、顎下からの皮を杏子は投げ捨てた。

 それは古びた椅子に激突し、古い木目の床に落ちた。

 かごめは漸く、ここが廃教会の中だと気付いた。

 その間にも、杏子は自分自身を壊していく。

 

 両手で腹筋を剥ぎ取り、内臓を粘度のようにこね回して引き摺り出す。

 紅い空洞となった腹の中、最後に残った肉の袋を両手で握り潰した。

 生命を育むための器官は、無意味な肉片となって飛散した。

 破片を顔に受ける加害者の杏子は、全くとして平静な表情だった。

 十分に睡眠をとってからの、朝の目覚めを迎えたかのような。

 

 

「別に楽しい考えでもないけど、あたしはあたし自身を死ねばいい存在としか思えないからなぁ」

 

 

 当然のことを再確認するかのような杏子の言葉。

 言い終えると同時にかごめの幻想は消えた。

 かごめの息が途絶し肩が震えだす。

 死の記録人とまで、他の魔法少女から囁かれている佐鳥かごめは恐怖の虜になっていた。

 彼女にとって、佐倉杏子とは人の姿をした紅蓮の闇だった。

 自らを焼き尽くすまで燃え続けることをやめはしない、破滅の衝動に支配された闇の篝火。

 

 

「馬鹿が」

 

 

 その炎の揺らぎが、ふと止まった。

 人の姿をした炎に見えていた佐倉杏子の姿が、人間の姿に戻っていた。

 佐鳥かごめは、そんな幻視を見た。

 そして、彼女は声の主を探した。それは佐倉杏子も同様だった。

 二人の視線の先に、椅子に座る少年の姿が見えた。

 美しい少女と、雄々しい男の容姿を矛盾なく備えた少年だった。

 

 

「馬鹿が、って言ったんだよ。可哀想な自分を早口で語りやがって。人を怖がらせて悦に浸ってんじゃねぇよ、バァカ」

 

 

 呆れた口調でナガレは言う。

 直後に、かごめは紅蓮の炎を見た。黒い闇の奥から噴き上がったのは、絶望を焼き尽くす怒りであった。

 それは、佐倉杏子の内から生じていた。

 

 

「なぁぁがれぇぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 灼熱の怒りが言葉となって、佐倉杏子の口から放たれた。

 空気が焼け焦がされる音と共に槍が見舞われ、断罪を示すような十字の穂先が迷うことなく彼の首へと向かう。

 

 

 

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