魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第11話 かくて流れ者達は風見野を巡る⑤

買い物を終えて二十分後、両者は廃教会へと戻っていた。

時刻は既に午後の六時を回っている。

 

「で、どうだったよ」

 

ソファに寝転びつつ、魔法少女が問う。

 

「風見野市民体験コースは」

 

嫌味が添付された、棘のある口調だった。

 

「普通の街だな」

 

何時もの通り気にもせずにナガレは返した。

相手よりは幾らか感情が籠った声だった。

この地で生まれたものと、来た者との差であった。

 

「だが見慣れてきたせいかな。結構気に入った」

 

漫画を読みつつ答えたナガレは、口の端を緩やかに歪めていた。

言葉の通り街自体に好意があるのと、

読み終えたそれは読後感がいい作品であったためらしい。

 

「とりあえず今日は平和だったな」

 

平和とは、一瞬だけ垣間見た強者の蹂躙も含められている。

舐めている訳では無く、平和という認識が通常人類のそれではないためだろう。

 

言いつつ漫画を片付け、代わりに新聞紙を取り出した。

肉食動物が、獲物の骨に付着した肉を舐め齧るような視線で新聞を読んでいく。

数か月前に発生した、隣街での市議会議員の自殺に関するゴシップ記事、

動物の遺灰を用いて精妙な絵を描く天才画家の展覧会の告知、

若き天才バイオリニストを襲った悲劇、そして現状についての考察と過去の栄光の記事、

そして、半裸でクッキングをするという筋肉質な男性コックの巨大な写真入りの

特集等が、情報の波となって彼の脳に叩き込まれた。

 

感情を処理するのに数秒、そして理解。

 

「やっぱ訂正。世界ってのは、どこに行ってもロクでもねぇや」

 

世界には喜劇と悲劇と歓喜と悲哀、そして変態で満ちているのだろうかと彼は思った。

何かの死や破滅に思う事は無い訳が無かったが、全く関与の無い他人である以上、

情報としての強弱は、絵面の衝撃さがそのラインを引いていた。

 

「同感」

 

家主から、無気力そうな返答が届いた。

彼女の言うロクでもないとは、彼が先に発したものとは異なっていた。

彼もそれには気付いていたが、彼女の生活に関して何かを言わないのと同じく

今回も黙るに徹していた。

指摘すれば、さぞ激しい戦いとなることは必至であったが、

それを闘争の火種とするほど、彼の心は人間性を捨てていなかった。

 

「ま、それはそれとして」

 

紅髪の家主がゆっくりと起き上がる。

そして紅の瞳で同居者を見つめる。

色としては炎の紅だが、そこに宿る温度は氷点下を下回っている。

 

「今日は死ぬほど退屈だ」

「俺はそうでもなかったかな」

「テメェの感想なんざ知ったこっちゃねぇ」

 

存在を否定する一言は、彼の神経の一角を小突いた。

主に怒りを管轄する部分を。

 

「とりあえずそろそろ飯時だ」

 

怒りの発露を感じつつ、杏子は何事もない風に告げる。

 

「目安は七時にするか?」

 

こちらもまた、相手から放射される魔の力を感じていた。

それでいて、朗らかとさえ言える口調だった。

 

「あぁ。その時間帯は悪くねぇ」

「なら、さっさとやるか」

 

魔法少女と少年が利き腕を伸ばす。

紅の魔力が放出されて槍となり、迎え撃つように黒い異形が召喚される。

斧槍状の異形から黒い波濤が迸る。

黒髪の少年を基点に、異界が形成されていく。

 

家具や家屋は現世に遺し、一対の魔が対峙する。

得物を力強く握ると、両者は刃の瞳で相手を見据えた。

本来の日常に戻る時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

「そっちもな」

 

錆だらけの鉄扉を背に、童話のヒロインに似た魔法少女と、

剣士姿の魔法少女が言葉を投げ合う。

短い遣り取りだったが、口調と声色には柔らかさと温もりがあった。

心から相手を労わってのものだった。

 

「優木の奴も、これで少しは懲りるだろう」

 

剣士姿の魔法少女、朱音麻衣の声の合間に、

 

「ぎゃあ!」「ひんっ!」「あひっ!」「ぎゃんっ!「あはぁあ」

 

という断続的な悲鳴が重なっていた。

更に悲鳴に混じり、生々しい音階の破裂音と何かが弾ける音が生じていた。

それらは、彼女らの背中の奥で生じていた。

何層にも渡る扉の奥から、それらは響いているのだった。

 

「一番嫌な役だろうが、リナも頑張るものだ」

 

麻衣の声には、苦笑さと哀愁が入り混じっていた。

 

「罰の基本といえばそうだが、裸の尻を百叩きとは…。

 尤も、時間からして百どころか千は軽く越えているだろうな」

「沙々ちゃん、ちょっと可哀想だね」

「京は優しいな。私には自業自得にしか思えない」

 

京と呼ばれた少女の眼には、悲哀さが宿っていた。

 

「沙々ちゃんも、私達みたいな仲間…ううん、お友達がいればよかったのに」

「…」

「そうしたら、こんな事には…」

「…そうだな」

 

ほんの僅かに隙間を開けて、麻衣は返した。

沈黙の原因は、その「もしも」を道化が巡っていたら、という想像をしたためだった。

何も変わらないだろうな、という自分の結論を麻衣は内心に押し込めつつ、

仲間の優しい言葉を肯定した。

 

「私は皆に会えて、本当によかったと思ってるよ」

「ああ」

 

本心を込めて、剣士は言った。

 

「もしリナ達に出会っていなかったら、私は今の優木と同じ立場となっていたかもしれない」

「そんな…」

「強い奴と戦いたい…それが私の願いだ。自分で云うのもなんだが、ロクなものではない」

 

どこか寂しそうな様子で、剣士は独白を続ける。

赤ずきんを被った小柄な魔法少女は、黙って話を聴く事にした。

だが本心としては、「そんなことないよ」と言いたくて堪らなかった。

 

「正直なところ、魔女相手の戦いには高揚を感じてならない。

 言うなればそれは、悪魔の感情なのだろう」

 

腰に差した剣の柄に、彼女の手は添えられていた。

心の拠り所を求めるように。

 

「私事私欲で災禍をばら撒く魔女や優木と、何処が違うのだろうな」

 

血色の眼は、彼方を見つめているように見えた。

視線の先にあるのは、乱雑に散らばった紙や横倒しになった椅子や机。

倒産した会社組織の残骸は、彼女の内心に自身の行く末を予感させていた。

願いによる闘争の果てに待つものは、破滅にしか思えなかった。

 

「…でも麻衣ちゃんのお陰で、私達は何度も助かったんだよ?」

 

麻衣は夢の亡骸から眼を逸らした。

傍らの、自身よりも十センチは低い小柄な体躯を見つめる。

 

「沙々ちゃんの魔女達に襲われた時も、隣町から来た宝石狩りの魔法少女も…。

 麻衣ちゃんがいたから、皆無事だったんだよ」

 

京の脳裏に、そう過去ではない嘗ての光景が蘇る。

欲望と悪意の権化たちに、薄紫髪の魔法少女は仲間と共に敢然と立ち向かっていった。

血の海を吐き出しつつ、それでも倒れずに邪悪の群れを討ち滅ぼし、または退けた。

鮮血の色を宿した瞳の少女は、京にとって、物語の勇者に等しい存在だった。

 

「それに、あの…」

 

次の言葉を継げようとして、京の唇は停止していた。

 

「斧爪か、群れか?」

 

麻衣からの問いに、京は答えられなかった。

自らの言葉と記憶が、童話少女の心を蝕んでいた。

 

「大丈夫だ」

 

剣士が気丈な言葉を告げた。

それ以外に、彼女が選べる言葉は無かった。

 

「黒い斧爪も強かったが、奴はもういない」

 

麻衣の長い脚が、刃のように鋭く動いた。

音もなく一瞬で距離を詰めると、彼女は長い両手で京の身を抱いた。

 

「そしてあの黒い化け物どもも、今度は斃す」

 

酷薄な宣告とは裏腹に、小柄な体を抱く両手は慈しみで満ちていた。

 

「京もリナも、みんな私が守ってやる」

 

自らに言い聞かせるように、京の耳元で麻衣は囁く。

豊かな胸に触れている少女の眼からは、熱い液体が溢れ始めた。

されど京は嗚咽を噛み殺し、泣き声を発する事を自分自身に許さなかった。

 

気弱な少女が、それでも気丈に振る舞う一方。

鉄扉の奥では、道化の悲鳴が続いていた。

 

 

 












風見野自警団…彼女らもマギレコに参戦してくれないでしょうかね…。
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