魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第98話 一時間前⑤

 黒を帯びた桃色が閃光の如く勢いで疾駆する。

 それに向けて真紅が迫り、携えた十字槍を神速の速さで突き出す。

 手ごたえは無いが、真紅の口には笑みが浮かんだ。

 

 

「はっ、何度も喰らってるんだ。今回は掠りも」

 

 

 紡ぎかけの言葉は、口腔から溢れた赤黒い液体で遮られた。

 左腕は少し前から欠損しているが、先に破壊された右腕や身体の治療は済ませていた。

 それらが再び、環いろはの手によって破壊されていた。

 槍を握る指から肘の辺りまでが赤黒い粘塊となって落下し、右胸から右脇腹にかけても同様に皮膚が融解し骨と内臓を覗かせた。

 傷口から血と膿を吐き出しつつ倒れた杏子を、黒い風が包み込む。

 

 

「やぁ佐倉杏子。身を以て鬼龍おじさんの真似をするとは…おめでとう、君はもう立派なマネモブになった」

 

「長ぇんだよ」

 

 

 疾駆する呉キリカに抱えられながら、血泡と共に杏子は返した。

 

 

「ちょっと痛むよ」

 

 

 そう言うとキリカは、杏子の右胸へと美しい手を捻じ込んだ。

 声にならない悲鳴が杏子の喉を震わせたが、歯にヒビが入るほどに食い縛られ、口内から声が出る事は無かった。

 

 

「はい、終わり」

 

 

 声と共に手が抜かれる。白い手袋は杏子の傷口から溢れた血と体液と膿に塗れていた。

 手を振って手袋を廃すると、すぐに魔法で新品が生成される。

 そして杏子の傷口も綺麗に塞がっていた。僅かな疼痛があったが、それもすぐに消えた。

 

 

「お前…治癒魔法が上手だな」

 

「まぁね。ちょっと人体の構造を勉強してたからかな」

 

 

 得意げに言うキリカに対し、杏子は露骨に顔を顰めた。

 キリカの勉強と治癒魔法が上手な理由が、確実に妊娠するためのものであり、胎児がどうやって胎内で育まれるかの応用であると知っているからだ。

 

 

「普段の治癒魔法はあれだ。壊れた玩具の破損部位をボンドとか接着剤で着けた感じ。とりま動くし外見は直ってるけど、根本が解決してない」

 

 

 抱えていた杏子を放り投げつつキリカは語る。

 着地した瞬間に杏子は走り、キリカと並んで疾駆する。

 

 

「その点、私は勉強の成果とかを発揮して壊れてる原因までちゃんと治しているのだよ。感謝し給え」

 

「あいよ、今度何か奢ってやる。ついでにあいつもちゃちゃっと仕留めてくれねぇか?」

 

 

 視線の先には、結界の中を縦横無尽に移動している環いろはの後ろ姿が見えた。

 走っている間にも距離は見る間に開く。異常に過ぎる速度であった。

 

 

「それが出来ないから困ってるんじゃないか。状況説明をすると、自分達はあの桃色ピンクちゃんに蹴散らされては治し蹴散らされては治しを繰り返している」

 

「あたしらはヒャッハーって突っ込んでって負けるザコキャラかよ」

 

「なんだろうねこのクソ展開」

 

 

 喉奥で杏子が唸る。なんでこんな奴と仲良く会話してるんだろうという思いも幾分か含まれていた。

 

 

「じゃああれだ。状況打破するのに、なんか切り札でも使えよ」

 

「切り札?」

 

 

 首を傾げるキリカ。何言ってるんだコイツ、という感情を隠しもしない視線を杏子に送っている。

 

 

「その右眼の眼帯は飾りかってんだよ」

 

「え、これただの眼帯なんだけど。というか切り札と眼帯の何を比較しようって言うの?脈絡がイミフなんだけど」

 

「その眼帯外したら時間止められるとかなんとかねぇのかよ」

 

「うーん」

 

 

 可憐な声でキリカは唸る。杏子の言葉の意図が全く理解できていないしする気も無いのだった。

 それでも話を打ち切る気にはならなかったので、会話を続けることを選んだ。

 こいつ友達いないからな、という憐れみからのものだった。

 

 

「時間停止系は創作物とかでもたまにあるけど、反動とかのリスクとか、強過ぎると不味いからって技は兎も角本体がクソザコってことがあるからなぁ。そもそも主役向けの能力じゃないし」

 

「じゃあお前にぴったりじゃねぇか。どう見ても外見的に悪役だろ。そもそもお前、速度低下の魔法っていうけど具体的にどんな範囲でどんな効果なのかが分かりにくいんだよ」

 

「なんでディスるのさ…まぁ事実だからしょうがないけど」

 

「あん?」

 

 

 疾走を続けつつ、杏子は怪訝な表情となった。

 

 

「私は基本的に、速度低下の魔法を気分で使ってるからね。正直自分でもよく分からない。割とふわついた感覚でやってる」

 

 

 ふざけた言葉であったが真面目な表情でキリカは言った。本心だと杏子は分かった。

 ついでに、この表情を写真で撮ったら良い値で売れそうだなと思った。

 キリカの事は気に喰わないが、外見の美しさだけは認めている。

 

 

「しかし成程。切り札か…ふむ、ちょっと考えとくよ。ありがとね、佐倉杏子」

 

「…ああ、役に立ったんなら幸い……あ」

 

 

 杏子は言葉を途切れさせた。

 標的としていた存在の背が、一瞬の間に視界から消え失せている。

 キリカも気付いたが、その時には既に目の前に迫っていた。伸ばされた細い両腕の先には、五指を広げた繊手があった。

 右手は杏子を、左手はキリカの顔の側面を目指していた。正確には、外耳を。

 

 

「え、ちょ、これは鼓爆」

 

 

 言葉に出さずに思った時に、頭蓋の中を衝撃が迸った。

 掌底が耳を襲い、外耳を粉砕し鼓膜を粉砕し、更には頭蓋を破壊した。

 杏子とキリカの頭部は一瞬にして赤黒い微塵と化した。

 そして同時に、残る胴体が消滅した。

 環いろはの両眼の無数の複眼が蠢いた。それは、驚きによるものだったのだろうか。

 

 

「魔法ってな、こうやって使うんだよ。分かったか、後輩」

 

「あー、そういえば私は魔法少女歴一年以下のビギナーだったね。その設定忘れてたよ」

 

「少しは黙れ。永遠でも構わないぞ」

 

 

 三つの声がほぼ同時に、環いろはの意識の中に入り込む。

 そして景色が変貌した。

 杏子とキリカに外傷は無く、朱音麻衣も加わり環いろはを囲んでいた。

 杏子が発動させた幻惑魔法は、マギウスの創始者とされた魔法少女さえ欺いていた。

 三者が手にした槍に斧爪に刃が、環いろはの身体に突き立てられた。 

 

 肉を貫く音が響く。

 そして口からは苦鳴と鮮血が溢れた。

 一つではなく、三つの口から。

 

 

「な…」

 

 

 同じ響きを孕んだ声は、杏子と麻衣とキリカの口から発せられていた。

 キリカは杏子へと斧爪を、杏子は麻衣へと十字槍を、麻衣はキリカへと刃を。

 それぞれの胸に突き立てていた。

 得物の着弾の瞬間、環いろはは身を捩ってそれぞれの武具の切っ先を逸らしていた。

 黒茶色のインナーが僅かに切れた程度で、肉体は全くの無傷。

 三人の眼は驚愕に見開かれていた。

 

 

「嘘だろ、これ、弾丸滑り」

 

 

 そう言ったキリカの頭部へと、環いろはの右手による殴打が見舞われた。

 キリカは自分の頭部が爆ぜ割れる、血膿となって溶解する場面を夢想した。

 残る左手は、麻衣と杏子を横薙ぎにすべく一閃を見舞っていた。

 手の軌道からして、二人の上半身は分断されるに違いなかった。

 

 

「wait!!」

 

「させるか!!」

 

 

 二つの咆哮が轟く。

 環いろはの無数の複眼が二つの対象を見た。

 その瞬間には、彼女の身体を二種の衝撃が襲っていた。

 一つは打撃、もう一つは斬撃。

 

 

「しゃぁっ!」

 

 

 魔女帽子にどこかハロウィンの趣を思わせる衣装を纏ったアリナは、いろはの顔面に右膝による蹴りを叩き込んでいた。

 獲物に襲い掛かる、毒蛇のような一撃だった。

 そしてもう一撃、ナガレによる斧槍の斬撃は三人の得物が交差する場所を巧みに裂けて、いろはへと命中している。

 アリナの蹴りは技術による回避を許さず、ナガレの斬撃はいろはの体術を捻じ伏せる技術で放たれていた。

 顔面からは鮮血が噴き上がり、斬撃が叩き込まれた胴体からも滝のように血が溢れる。

 一瞬の動きが止まった隙に、ナガレは杏子と麻衣を抱えて退避した。

 

 同様に、アリナもキリカを抱えて後退する。

 離れた時には、環いろはからの出血は止まっていた。

 破壊した部分も傷口がすうと消え、衣装も完全に復元される。

 対してナガレとアリナは既に満身創痍に近かった。

 ナガレは右眼が潰れ、両手の指先まで血で染まり切っている。

 アリナは左眼が潰れるどころか顔の半分近くが抉られ、骨と肉の断面を晒している。

 

 環いろは一人に対し五人がかりで、先にナガレとアリナが瀕死になり、治癒の間に杏子とキリカと麻衣が戦いを挑む。

 その三人が戦闘が継続出来なくなれば、今度はナガレとアリナが立ち向かう。

 この繰り返しが既に三度は繰り返されている。

 ナガレとアリナの組み合わせなら、いろはとある程度渡り合える。

 だが異常な回復力と単純な強さの前に、圧されているのが事実だった。

 今はまだ戦闘が続けられるが、それが何時まで持つかは分からない。

 状況の打破が急務であった。

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