魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「あいつがやってきた事で一番つらかった事?それ聞くって佐倉杏子、君は結構ドSだね」
性癖的にはマゾいくせに、とキリカは付け加えた。
杏子は何も訪ねておらず、黙って聞いている。
真紅の眼の視線の先には、炎の中で燃え行くキリカ達の残骸が映っている。
今喋っているこの美しい悪魔もこういう風にしてやろう、とでも思っているのかもしれない。
「そこまで必死に聞くなら応えよう。とはいえ順位付けはあいつを評価するみたいで嫌だから、今ぱっと思い付いた奴ね」
そう言ってキリカは手を伸ばし、手首から黒い爪を生やした。
普段と異なり、数は一本で形状は歪曲していない直線状の爪だった。
それを用いて、キリカは火種を掻き混ぜ始めた。
自分の肉体から造られた模倣体達の眼窩を爪で貫き、口を横一文字に切り裂いたりと容赦がない。
以前本人が言っていたように、自分以外の自分は全て敵とでも言うように。
「まず拘束した私の首に、薄っすらと切り込みを入れてだね。こう、首の真ん中あたりから真横につつーっと一周させて」
火種の一つでそれを再現しよう、としてキリカは動きを止めた。
爪の切っ先はキリカの複製の首に僅かに埋まったのみだった。
しばしの間、火が弾ける音が続いた。
キリカの複製から滴る脂が燃え、甘い香りが周囲に漂う。
動きが再開されたのは、その芳香が辺りに満ちた時だった。
「で…それから傷口の隙間…肉と皮の間の指先を埋めて、ゆっくりと中に入ってきて…ああ、もうまどろっこしいな」
ちょっと待ってて、と言ってキリカは立ち上がり、背後の堆積物へと向かった。
五メートルほどの高さになるほどに、美しい造形の人体が折り重ねられていた。
アリナ・グレイ作の呉キリカの模倣体達である。
これでもない、あれでもないと言いながら、キリカは自分自身を掻き分けていく。
杏子はこの場から逃げ出したかったが、全身に纏わり付く速度低下からは逃げられそうにないとして大人しくその場で待っていた。
視線を落とし、火種とされているキリカの複製達が燃えるのを見ている。
肉は焼け落ち骨を晒しているものの、それでも美しいと思えてしまう。
アリナが執着する理由がほんの少しだけ、分かったような気がした。
最初にキリカと戦い、そして焼き尽くした際に、杏子も燃え行くキリカを美しいと思ったが故に。
そう自覚している事が、杏子の気力を萎えさせていた。
振り払おうとすれば、速度低下も強引に引き剥がせただろうがどうにもその気にならなかった。
「おまたせ」
「待ってねぇよ」
それでも探し物を終えたキリカの言葉に、そう返す程度には杏子の気力も弱ってはいなかった。
発音した際、杏子は舌と喉奥に渇きを覚えた。
相当に時間が経過していたらしい。
文句の一つも言ってやろうと再び喉を振わせようとした。
だがその気丈さは
「じゃーん」
とおどけた様子で言ったキリカが左右の手で掲げたものを見た時に砕け散った。
「あの変態の力作二つ。とくとご覧あれ」
酷薄な笑みを浮かべるキリカ。
掲げられた両手からはそれぞれ一本ずつの黒爪が伸びていた。
正確には鎖状に連ねられた爪、キリカ曰くの「ドリルワーム」という形状にされた得物である。
本来は敵を内外から切り刻み、見るも無残な姿へと変貌させる殺戮兵器。
それが二つの作品を貫き宙吊りにさせている。
一つは呉キリカであり、もう一つは。
「この変態、私より身長高いってのに案外軽いね。もっと鍛えるか食べるかした方が良さそうな気がする。死ねばいいのに」
この作品を作り上げた存在である、アリナ・グレイであった。
キリカとアリナは共に裸体であり、両者の口からは触手爪の歪曲した先端が抜け出ていた。
絞首刑台に掛けられた罪人と、捌かれようとしている鮟鱇。その両方を合わせたような有様だった。
キリカの眼球は抉られ、両眼は赤黒い孔となっている。
その表情は絶望に沈んだ亡者のそれであったが、対するアリナは同じく眼球を抉られていながら恍惚の極みに達しているかのような笑みを浮かべていた。
「ねぇねぇ佐倉杏子。これらを見て何かに気付かないかな?はいじゃあ今から五を数えるから応えてね。いーちにーのさんしーごーっと」
虫の死体を弄ぶように、掲げた二つを揺らして早口で言い切るキリカであった。
速度低下は今も続いており、杏子は顔を背ける事は出来ずにその陰惨な光景を見せ続けさせられていた。
そして彼女は違和感に気付いた。
その表情を読み取り、キリカは微笑んだ。
「御明察だよ、佐倉杏子。これがさっき言ったグロ作業の成果さ」
杏子の思考が硬直し、そして再び動き出す。
拘束したキリカの首に切り込みを入れ、肉と皮の間に直接指を入れてゆっくりと引き剥がす。
想像するだけで、自分の皮膚の下で無数の蟲が蠢くかのような嫌悪感と痒みに襲われる。
だが、それだけではない。
キリカとアリナから感じた違和感、それは。
「あいつったら、私から剥ぎ取った皮膚を自分の身体に被せたんだよ。それで、私にも同じようにして自分の皮を被せた。嫌がるマギモブ達を脅して、手や刃物で自分の皮膚を引き剥がさせてね。その間ずっと、あいつは笑いくさってたよ」
聞きたくも無いにも程がある、嫌すぎる事象であった。
告げたキリカが、それに対して恐怖感の欠片も見せずにただ過去の事実を語るだけの淡々な口調であるというのも悍ましかった。
恐らく作品を探している間に、過去の恐怖を克服、というかどうでもよくなったのだろう。
そもそも、自分を解体した相手を罵倒しつつも行動を共にできる時点で狂っている。
ここ最近、キリカはまともになってきていた思った杏子だが、それは違うと再認識できた。
双樹達やアリナ・グレイといった規格外の変態達との遭遇で感覚が麻痺していただけであり、こいつも大概に過ぎているのだった。
狂っているとか壊れているとか、そういった定義を無意味にするかのような、既成概念を根本から破壊し尽くす何かである。
「あいつの体温が残っている生皮…あれを肉が剥き出しになった身体に重ねられた時は、もう最悪を超えた最悪の気分だったね。こう言っちゃなんだけど、強姦被害者の気持ちが少し分かった気がするよ」
「…そうか」
実際強姦みたいなもんどころかもっと酷いじゃねえか、と口にしなかったことを、杏子は内心で自分を褒めていた。
何かしらの自己肯定をしなければ、この狂気に耐えられそうになかったからだ。
「あの寒くて痒くて痛くて乾いて潤んだ感触、あれは表現しがたいな。筆舌に尽くしがたいって表現の意味、あの時に分かったよ」
感慨深そうにキリカは言う。
触手の先では、二つの肉体が小さく揺れている。
盆の窪を貫いて口から抜けている触手の先端が振動によって眼窩に至り、更に肉の内側へと穿孔し頭部から抜ける。
そして自重を支えきれなくなり、触手は頭部を切断し肉体が落下する。
キリカとアリナの肉体は共に炎の中に落ち、重なり合いながら燃えていった。
落下の際に触手が乱舞し、二つの肉体は一瞬にして細切れにされていた。
それだからか、二つの肉体はよく燃えた。一気に倍近くに膨れ上がった炎がキリカと杏子を照らす。
「ああ、なるほどな」
杏子が口を開く。
速度低下の重さはあったが、杏子はそれを強引に拭い去っていた。
燃え盛る炎が、彼女の中の紅い魔力と共鳴したのだろうか。
「お前、あいつがいなくて寂しいのか」
呉キリカをじっと見据え、佐倉杏子はそう言い切った。
あいつとはこれまで何度もキリカが使った言葉であるが、指す対象が別であるのは言うまでも無い。