魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「んー………」
あいつと会えなくて寂しいのか、と指摘されたキリカは喉を鳴らした。
喉の震えだけであるというのに、青白い月光を浴びた清水が滴るような美しい音であった。
「その心は?」
「…言うのは嫌だけど、お前」
「成長したね、佐倉杏子」
「……あん?」
「今までだったら私からの問い掛けに言葉詰まらせてたじゃないか。今は少しだけ間が合ったけど、自分の意見を言おうとしてる」
にやついた、それでいて下品な雰囲気は微塵も見せずにキリカは美しい笑みを杏子に向けた。
対する杏子は喉奥で少し唸りを上げた。
会話の主導権を握ろうとしたのに逆に奪われたことが癇に障ったようだ。負けてられるかと杏子は思った。
「話を戻すけど…お前、あいつの子供を産みたいんだろ」
「うん。子孫残したい」
キリカが断言した。
この願望は以前、キリカによって強制的に記憶を共有されたせいで垣間見せられたので杏子の言葉も問い掛けではなく再確認に過ぎなかった。
「それで、その番う相手がいなくなってるから寂しがってるのかなと」
「それは否定しないけど、それがクソゲスアリナに解体されてグロ作品造られたっていう私の悲しい過去と何の関係があるのさ」
「…それはだな」
「じれったいぞ佐倉杏子。面倒だから一気に言い給え」
「…じゃあ言うぞ。お前、あの女に……臓物抉り抜かれたんだろ?」
「うむ。お腹掻っ捌かれて子宮抉られて刃物で切り刻まれてから握り潰されたよ」
言葉を選んだ杏子であったが、キリカはそんな事は何処吹く風で部位名を断言しつつ頷く。
最悪どころではない事象は杏子を嫌悪感に沈ませ、彼女は胃液がせり上がってくる感覚を味わいつつ次の言葉を紡いだ。
「お前が子供を産みたいのって、それされたから生き物…女としての本能が働いたから、とかじゃねえの?」
苦渋の表情で言い終えた杏子を、キリカは拍手で迎えた。
「成程、面白い説だね。ここにクソゲスゴミカスアリナがいたら、君を呉キリカ研究会の副次席としてネオマギウスのナンバー2に指名した可能性があると思われるかもしれない」
豊満な胸を圧し潰しながら腕組をし、眼を閉じながらキリカは頷く。
開いた眼には興味の光が滲み、黄水晶の瞳は話の続きを促していた。
「だからお前、あいつと番いたいって思ったんじゃねえの。壊される前に自分の複製残しとこうってさ」
「妙な言い回しするね。成程、本能からの衝動か」
「ああ。そうでもねぇとお前があいつを好きになる理由が分からねぇ。割と唐突な方向転換だったじゃねえか」
「そう?私は最初の最初を除いて、いや、最初から君や友人とは友好的な関係を築いてたじゃないか」
「お前、それ本気で言ってんの?」
猜疑心の塊となった視線を杏子はキリカに送った。
対するキリカの眼には何が起きているか分からないといった風の光が宿る。
「え、いや、ちょっと佐倉杏子。私は友人を最初っから友人って言ってるじゃないか」
「お前、あたしら殺そうとしてたろ」
「あ、うん。まぁそれには訳があってね。聞く?」
「いやいい。興味ねぇ。話を逸らすな」
「うーん…」
キリカは首を傾げていた。そして思考を開始する。
「(弱ったなぁ…佐倉杏子ってば話が通じなさすぎるよぉ)」
思考の中、キリカは両手で頭を抱えて苦悩していた。
キリカとしては、最初から今に至るまでナガレや杏子と敵対したという自覚は全く無い。
とはいえ態度としてはどうだったかなと思い出を辿ると、確かに常識からちょっと離れていたなと実感していた。
しかしその常識からの乖離というのは、時間を問わずに廃教会に訪問したことが多かったとか事前に来訪の連絡をしておけばよかったという類のものであり、暴力的な事象については特に考えられていなかった。
それでもキリカなりに話をどうにかして進めようと考えていた。
そして閃いた。
「それを、言うならさぁ」
「あ?」
杏子が反応したのを見て、やっぱこいつちょろいなとキリカは思った。
「君の方こそ不自然だろ。友人を保護して同居を許したってのに、つい最近まで一方的に嫌ってたじゃないか。顔見ただけで罵詈雑言を吐いて、すぐ殺そうとしてただろ?」
「………」
話を逸らすな、と言わせないためにキリカは一気に捲し立てた。
言葉を挟む隙間も無く、事実を突きつけられた杏子は沈黙した。
「…色々あったからだよ。ていうか、人を好きになるのに理由が必要か?」
「それだよ」
その声は杏子の顔の前で生じた。
顔同士が薄紙一枚程度の距離を隔てた場所に、キリカが急接近していた。
速度低下は既に無い。それなのに杏子をして、接近の前触れも動きも見えなかった。
キリカの声に伴われた甘い香りが、自分の脳髄を痺れさせて蕩けさせる感覚を杏子は味わった。
「『なんで』『どうして』よりも今の方が大事なのさ」
「…確かにね」
顔を動かさずに杏子は返す。
僅かに唇を動かすだけで、唇同士が触れそうな距離。
キリカも杏子の息を嗅いだ。
歯磨きはちゃんとするようになったんだな、とキリカは思った。
「ま、こんなところで手打ちとしておこうか」
そう言ってキリカは背後に飛んだ。
緩慢で、優雅な動きだった。
「こんな感じで、ちょくちょく暇潰しするのも悪くないと思うよ。俗な言い方をすればコイバナってやつさ」
「…まぁな」
引っ掛かるものがあるが、杏子も話に乗ることにした。
喪失感を少しは埋めてくれるだろうと思ったからだ。
また一方で、話した後で余計に喪失の穴は広がるだろうと思いつつ。
そう思っていると、ふと気になった事があった。
「そういえば、朱音の奴は何やってんだ?」
「ん?ああ…」
キリカが記憶を辿る。
ついでに「こいつ、朱音麻衣の事そう呼ぶんだ。新発見」などと思っていた。
「飢えと渇きが鎮まらないから、ミラーズを練り歩いてコピー魔法少女や魔女に使い魔、あとミラーモンスターっぽい連中を虐殺しに行くんだってさ」
「練り歩いて、ってことはあのチビとバケツ帽子も一緒か」
「よく気付いたね。うん、そうそう。正しい意味での練り歩きだよ。ついでにかごめちゃんも一緒に行くんだって。死の記録が沢山書けるからとかなんとかで」
「落ち着きのねぇ奴らだな」
「全くだよ」
互いにそう言いながら、内心では先を越されたと二人は思っていた。
会話することで自分を宥めてはいたが、何かに破壊衝動を叩きつけたいと思っていたのも事実であったからである。