魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第103話 聖団

 休日の昼下がり、場所はあすなろ市の一角にある優雅な造形の建物。

 普段であれば、そこは大勢の人々が集う場所であったが本日の来館者は六名の少女達のみだった。

 その場所の名は「アンジェリカベアーズ」。

 集う面々の名は「プレイアデス聖団」。あすなろで活動する、六人の魔法少女達。

 周囲に並ぶ無数のテディベア達に見守られるようにして、広い室内の中央で円を描いて並んでいた。

 

 

「現状を確認しましょう」

 

 

 口火を切ったのは白を基調とした、修道女を思わせる衣装の少女。御崎海香である。

 

 

「今朝、かずみが…ミチルが機能を停止したわ」

 

 

 ほかの五人は沈黙でその言葉を迎えた。

 照明を落とされた薄暗い室内の闇は、一層の濃さを増したようだった。

 

 

「詳しく…教えて」

 

 

 少しの間をおいてから、乗馬服を思わせる衣装の少女が言った。

 声の震えを嚙み殺しての声であったが、その震えは仕留めきるには至っておらず、声に含まれた動揺には誰もが気付いていた。

 

 

「そうだよ海香。カオルも、サキの質問にちゃんと教えて」

 

 

 乗馬服の少女、浅海サキの言葉に追従するような発言をしたのは、露出度が極めて高い衣装を纏った少女。

 視線の先にいるのは白とオレンジの、体に張り付いた運動服然とした衣装をした少女、牧カオルであり、攻撃的な視線で彼女を睨む桃色服の少女は若葉みらいという名前であった。

 

 

「みらいちゃん、今は二人の話を黙って聞きましょう」

 

 

 今にも海香とカオルに嚙みつきそうな、獰猛な意思を隠そうともしないみらいを窘めたのは宇佐木里美。

 胸元を大胆に開いたドレスに、猫耳を思わせるヘッドセットが印象的な少女だった。

 落ち着いた声が効いたのか、みらいも唸り声を喉の震わせ程度に鎮めた。

 

 

「………」

 

 

 それらの様子を、神那ニコは黙って見つめていた。

 普段は額に乗せられている飛行眼鏡が着用されているのは、精神的な動揺の表れか。

 

 

「今朝がた…朝練帰りに、いつもみたいにかずみが…ミチルが朝食を作ってくれてたんだ」

 

「取り分けて、いただきますって手を合わせた瞬間に」

 

「こうなっちゃった、ってワケだねぇ」

 

 

 カオルと海香が語り、ニコが引き継いだ。

 伸ばした手の先で、細長の透明な円柱が出現した。

 魔力で生成された長さ三十センチほどのそれの中身は液体で満たされ、その中で人形大の大きさの裸体の少女が眠っていた。

 二人の話の通りに、二つの手のひらは重なり合う寸前で停止している。

 

 

「完璧、だったはずじゃ?」

 

 

 必死という言葉が似合いそうな、サキの声だった。

 口を食いしばったみらいの、歯がきしむ音が声に続いた。

 しかしどうも、みらいの反応は眠り姫への義憤というよりも、サキに向けられている感が強い。

 事実そのとおりであり、みらいはサキが悲しんでいることに悲しみ、彼女にそんな感情を与えている相手に対して怒っていた。

 その矛先は、先に言葉を紡いだ三人である。

 

 

「脱走したかずみシリーズのNo.13…このミチルの双子のかずみは、ミチルが持つはずだった魔女の因子の大半を肩代わりした」

 

 

 水中の少女を眺めながら、ニコは淡々と呟いた。

 

 

「だからこの子は、魔女でも魔法少女でもなく人間として生きていた。生きていけるはずだった」

 

 

 海香が俯き、嘆きを発する。

 カオルは言葉を発せず、垂れさがらせた腕の先の拳を握りしめていた。床から発せられる水音は、指先が掌の皮膚を突き破った出血によるものだった。

 指の先は皮膚を貫き、肉を穿孔して骨に触れた。

 

 

「で、また失敗しちゃったと」

 

 

 声は控えめだが、みらいはギロリとした睨みを効かせ弁明をする三人を見据えた。

 みらいの声には、小さな破砕音が続いていた。カオルの力に骨が耐え切れずに圧壊したのだった。

 

 

「これから、どうするつもりだ」

 

 

 サキもまた言葉を続けた。静かだが、沈黙を許さないという意思が込められていた。

 

 

「眠り姫を目覚めさせる。なんとしてでもだ」

 

 

 ニコはそう断言した。それ以外の返事など口にできず、そして誰もが聞きたくなかった。

 

 

「ところで、なのだけど」

 

 

 少し間を置き、里美が口を開いた。

 全員の視線が彼女へと向かった。

 その様子に一瞬里美は怯んだが、このまま黙るのも空気が悪いとして覚悟を決めた。

 

 

「今聞くことなのかは、ちょっと悪いかもだけど…今回のかずみちゃんが、上手くいったのはどうしてなの…?」

 

 

 みらいとサキは、一斉にニコと海香とカオルを見た。

 かずみの蘇生に携わっているのは主にこの三人だからである。

 

 

「それは、さっき言った双子で造ったからでもあるよ」

 

「…からでも?」

 

 

 ニコの言い回しにサキは妙なものを感じた。ニコもそのつもりで言っていた。

 

 

「かずみの命は魔女の力で維持している。でもそれだと、生命力の差で人間としての部分が負ける」

 

 

 言い終えると、ニコはポケットから何かを取り出した。

 それは小さな瓶であった。

 

 

「だから、人間としての生命力を補った。これを使ってね」

 

 

 左右に軽く振られた小瓶の中では、液体に浸った眼球が揺れている。

 異常な光景だが、それを見る面々の視線に恐怖の色はない。

 あるのは、黒い瞳の眼球に対する疑問である。

 

 

「それ、何?眼ん玉なのは分かるけど」

 

 

 苛立ちを込めてみらいが問う。結論を先延ばしにされ、長い話に付き合わされていることが本当に嫌なのだろう。

 

 

「双樹さんらが持って帰ってきた生体サンプルだよ。本人らは綺麗な宝石ってことで喜んでたけど、解析したらいろいろと興味深くてね」

 

「…なるほど」

 

「アイツか……!!」

 

 

 サキには察しがつき、みらいはその瞳の色を思い出した。交戦した相手だからである。

 美しいが、禍々しい渦を巻いた瞳は肉体から離れた後もまったくとして変わっていない。

 

 

「きもちわる」

 

 

 みらいは吐き捨てた。同時に悪寒が背中に走る。

 

 

「っておいおいおいおい、ちょっと待て」

 

「かずみに……ミチルに……」

 

 

 みらいは狼狽し、サキの眼光には困惑と怒りが滲む。

 

 

「うむ。これから得られたデータは、大分役に立ったと思えるよ」

 

 

 ニコは前に進みながらそう言った。

 おそらく、いや、確実にサキからの報復が来るだろうと予測していた。

 なので位置を前にずらし、報復の余波から海香とカオルを遠ざける事にしたのだった。

 なんの罪滅ぼしにもならず、さらには報復の対象には残りの二人も入っているだろうと思ってはいたが。

 

 だがその時、闇が下りた室内に一筋の光が差した。

 ギイイという軋み音が、全員の耳朶に届いた。

 報復への一歩を踏み出そうとしていたサキは動きを止めた。

 サキを止めるか自分も加わるかで悩んでいたみらいは光と音の先を見た。同時に、みらいの脳裏には疑問が渦巻いていた。

 

 アンジェリカベアーズには今、施設全体に認識阻害の魔法を掛けている。

 通る人々には、さらには大半の魔法少女にもこの建物を認識できず、扉も開けることはできなくしている筈であった。

 それが今、開いている。

 そんな事が出来るのは、並外れた力の魔法少女でなければありえない。

 思いつく対象は多くはないが、そのどれもがろくでもない連中ばかりだった。ろくでもない、という表現では到底足りず、どれであっても「最悪」という言葉が似あう怪物どもしか思い当たらない。

 

 

 

 

 

「お邪魔しますでございます」

 

 

 その声を聞いたプレイアデスの面々は言葉を失い、呼吸さえも途絶した。 

 特徴的な丁寧な喋り方は、その者が最悪の中の最悪であると示していた。

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