魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「ラ・ベスティアアアアア!!」
瀕死のサキを抱えた、自身も傷だらけのみらいが叫ぶ。
彼女の全身から迸った魔力は散乱した瓦礫に触れると、手のひら大のテディベアへと姿を変えた。
生まれた瞬間、テディベア達はすぐ近くの者たち同士と抱き合った。
触れた部分が癒着し、瞬時に体積を倍加させる。それが一瞬の間に無数に連鎖していった。
「あ、やっと出したか切り札。オリジナルも見なよ、チビスケが頑張ってるよ」
首からぶら下げたニコの首へと、カンナは語りかけた。
抉られた両目に紐を通され、残酷なネックレスとされたニコは答えない。
マギウス司法局の面々も追撃の手を止め、変貌を見守っていた。
水平だった視線が上方へと向かっていく。
「ふあぁあ…まだ終わらないの?」
欠伸をしながらそう言ったのは、瓦礫に腰掛けているカガリであった。
座りながら、スズネの汚れた衣服を魔法で掃除し、乱れた髪を丁寧に直している。
そんな、スズネ以外には無関心な態度を一貫させるカガリであったが
「あらま。そういうの使うって、話には聞いてたけど」
みらいが放った魔法には、わずかな興味を持ったようだった。
「リファーレェェェ!!」
その声はみらいのものだった。
だがしかし、それを放ったのは見上げるほどに巨大な体躯をした大熊だった。
腕も足も胴も太く、直立した猛獣の体長は十五メートルは下らない。
「でっか…」
「あー、うん。私が知るのよりも二割増しくらいはあるかなこれ」
感想を述べながら、司法局達が後退する。
鋭い五本の爪を備えた腕のリーチより下がれば、一先ずは初撃は免れる。
そう思っていたが、
『あ、ヤバいよあれ!』
危機感を滲ませた声がした。
それを発したものも人の口ではなかった。それは、天音月夜の手に携えられた笛から聞こえた。
「月咲ちゃん、どうしたのでございますか?」
『距離とっちゃ不味いよ!あれ、多分…』
天音姉妹の声を、光と灼熱が覆い隠した。
赤く染まった、血色の月のような光だった。
「ふぁ、はは、はは、はぁあは、はあああああ!!」
それは喘鳴であり、苦鳴であり、悲鳴であり、そして歓喜の叫びと嬌声だった。
髪も衣服も鮮血でたっぷりと濡れている。少し力を込めて絞れば際限なく朱色の雫が溢れそうだった。
朱音麻衣という名の魔法少女は、その名の通りの朱色に染まっていた。
そして全身を血で覆いながらも一片の血脂もつかずに銀の光を保っている刃を振るい、際限なく殺到する魔法少女のコピー達を切り伏せていく。
斬撃の合間には拳や蹴りが炸裂し、魔法少女の上半身は落下した果実のように砕け、腕や足は細枝が鎌で刈り取られるかのように切り落とされる。
少し前までは、朱音麻衣はコピー魔法少女達の物量に押されて負傷していた。
だが今は完全にコピー達を圧倒していた。
神速で駆け抜けながら振られる斬撃の速さはコピー達の反応速度を上回り、一太刀で十数体を両断した。
倒れる前のコピーを踏みつけて飛翔し、少女たちが見上げるよりも速く空中で斬撃を見舞う。
何もない空間で振るった虚空の刃はしかし、その斬線が向かう先に立つ少女たちを切り刻んでいた。
空間を超えての不可視の斬撃を前に、数十条の血の滝が吹き上がる。
「はぁはははははははははは」
その只中に着地し、麻衣は身を震わせて、喉を仰け反らせながら哄笑した。
自分に似合わないと思いつつも、肺腑の底から沸き上がった歓喜を抑えることはできなかった。
笑いながら無造作に刃を振るった。
切断と貫通はほぼ同時だった。
笑い声を止めて、麻衣は愛刀を見た。
視認と同時に、麻衣は再び笑い始めた。
果てしなく、比喩ではなく事実として果てしなく広がる鮮血の湖面の上で麻衣は笑っていた。
鼻孔を刺すのは酸鼻な潮の香りに、麻衣は赤い塩湖のようだと思った。
その湖面に映る自分の姿はひどく汚れ切っており、吐き気すら催した。
だがそんな自分の今の姿が、たまらなく愛おしかった。
人は誰でも、血と体液に塗れて生まれる。
自分の今の姿は、まさにそれに近いと思えたからだった。
異常な考えなのは分かるが、衝動が理性を押しのける。
複数の感情と欲望の波が体の奥底や魂の奥から突き上げ、自分の心身を染めていく。
狂おしいほどの情愛と、殺戮、破壊本能。その感情の先に、黒髪の少年の姿が浮かんでは消える。
殺しあって、愛し合いたい。
自分が知る中では愛憎という言葉が近いのだろうが、言葉にすること自体が無意味に思える。
だから笑おう。
こみあげてくる感情のままに。
哄笑による体の震えによって、愛刀もまた揺れていた。
そこには三つの首が串刺しにされていた。
赤ずきんを被った栗毛の少女と、軍人風の帽子を被った少女、そして小さな王冠のような髪細工を頂いた少女。
大切な二人の友人と、先ほどから二人に随伴している魔法少女の記録人の三人である。
最後の一人はともかくとして、先の二人の複製を葬って歓喜に至る自分の心が、自分で自分を切り刻みたいほどに憎かった。
しかしそれでも笑ってしまう自分が滑稽で、さらに笑えてしまうのだった。
救いようがない、そう思ったときに麻衣はぴたりと笑いを止めた。
自分の声以外のも音が静かに耳朶を打っていた。
それは足音と、何かを引きずる音だった。
「おや」
薄暗い異界の中、麻衣の視線の奥からその声は来た。
声に次いで、その姿も露わとなった。
「貴女も、花摘みの最中でしたか?」
髪も和服風の衣装も、青の色に染まった少女だった。発せられた声も水のように澄んでいた。
一方で、肌は陶磁器のように白い。
そこまで見たところで、麻衣の意識は沸騰した。
口からは声にならない声が、咆哮が放たれていた。
麻衣の朱色の眼は、青と白の少女が握った刃に向けられていた。
切っ先を下に向けられた刃には、三つの首が串刺しにされていた。それらは、麻衣の刃に突き刺さっているものと同じ形をしていた。
その断面から溢れるのは、異界の魔力によって生み出された紛い物の血液ではなかった。
それは、つまり。
刃が貫いている三体の紛い物を切断しながら、神速の刃が煌めいた。