魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
美しい旋律が緩やかに流れる。
物悲しい音は、隣り合わせに繋げられた笛から奏でられていた。
それは葬送の調べであった。
「最初は驚かされましたが」
『初手でウチらを仕留めそこなったのが失敗だったね』
「ねー」
『ねー』
笛を奏でつつ、天音月夜は仮面越しにそう言った。笛もまた吹かれつつ、どこからともなく声を紡いでいる。
言い終えると再び二人は演奏に戻った。
二人の前には、巨大な物体が聳えていた。
「はーいスズネちゃん、特等席で綺麗な花火を見ましょうね」
鎖をじゃらんと鳴らしつつ、カガリは言った。語尾の最後に音符のマークが付きそうな、嘲りを孕んだ上機嫌さだった。
瓦礫に腰掛ける傍らには、新品同然の張りと白さとなった私服を纏ったスズネがいる。
相変わらず彼女の首には鎖付きの首輪が嵌り、口からは唾液が垂れ流されている。
新しくなったシャツをさっそく唾液で汚しながら、彼女の虚無の眼はただ前を見ていた。
「は…ぁ…は……ぁ」
少女、みらいの喘鳴に重低音が重なる。
みらいの声は、巨大な熊の口から零れていた。
大型車一台が優に入るくらいの巨大な口からは、喘鳴と血が絶え間なく流れる。
牙は大半が折られ、左頬も大きく削れて内部の赤い綿を晒している。
太い両腕は肩から外れて地面に落ち、足も膝の半ばから先が無い。
更に背中には所狭しと鎖付きの鈎爪が突き刺さり、大熊を地面に縫い留めている。
大熊から少し離れた場所には、緑髪の少女が立っていた。
構えた大盾の内側で、地面から伸びた一本の鎖を握っている。それが大熊を拘束する無数の鎖の末端らしかった。
完全に詰みの状況の中、大熊の顔は動いた。
「怪物…どもめ」
言い終えると、大熊の口から血の濁流が放たれた。
内部で大熊を捜査しているみらいもまた、凄惨な有様となっているのだろう。
「ははははは、見なよオリジナル。チビッ子ったらまだ頑張ってるよ」
指を差して笑いながらカンナは言う。
引き千切られた生首となり、ネックレスとなってカンナの首に下げられているニコからの反応はない。
舌に釘で突き刺された眼球や首の断面からの血も、既に乾ききっている。
それは時の経過と、この虐殺の終わりが近いことを示していた。
カンナの笑い声が止むと同時に、笛の音も絶えた。
「では、仕上げをお願いするのでございます」
笛から口を離し、月夜は背後を見た。
そこには、並んで立つ二人の少女がいた。
一人は手に杖を携えた、銀髪のローブ姿の少女。
もう一人は浅葱色の軍服姿の少女。
軍服の少女は手に持った猟銃を宙へと放った。
投擲と同時に、少女の輪郭が変貌した。
足元に蟠っていた影が這い上がり、少女の全身を影が覆う。
覆い尽くした瞬間に膨張し、奇怪な姿を形作った。
異界の色に彩られた、異形の砦とでもいうべきか。
しかしその姿は、形を成した瞬間に崩れ去った。
頂点から下方まで、縦一直線に走った斬撃によって。
それを放ったのは、銀髪の少女。
手に持っていた杖からは大鎌が生え、軍服の少女が生み出した感情の現身を切断していた。
二つに分かれた巨影の間に、先ほど投擲した猟銃が落下しつつあった。
感情の現身は溶け崩れ、流れる影となって自らの得物へと殺到する。
猟銃に影が纏わりつき、銃身が大幅に巨大化した。
主を取り込み、猟銃から対戦車ライフルへと姿を変えた巨銃を、銀髪の少女の華奢な指が支えた。
その肩が震えたと見えた瞬間、ローブと、そして血と肉が弾けた。
血染めとなった銀髪の少女の両肩からは、人の背骨と肋骨を合わせたような異形の骨が飛び出していた。
それ自体が少女の身長よりも巨大な両肩の骨同士の間では、白色の雷光が迸っている。
光の間にある少女の髪や、仮面で覆われていない耳や首などの肉が熱で焼け、異臭を立ち昇らせた。
それに対し少女は何の痛痒の様子も呻き声の一つも上げず、同朋が変異した重火器を持ち、その引き金に指を掛けている。
軍服の少女が得物を投擲してから今に至るまで、僅かに二秒。
引き金を引くまでに掛かる時間は、その数十分の一にも満たなかった。
両肩の骨から発せられる雷撃が重火器へと吸い込まれ、魔の弾丸と化して放たれる。
弾けた弾丸は雷撃を纏った熱線となって解き放たれ、みらいの大熊へと殺到した。
「舐めるなァ!!!」
みらいの叫び。それと同時に、開かれた大熊の口からは血色の熱線が放出された。
赤く染まった月を思わせる、恐ろしい色合いのそれはマギウス司法局二人の魔力と真っ向から噛み合った。
高熱と閃光が吹き荒れたが、誰一人としてその場を動かなかった。
ただカガリだけが
「ちょっとさぁ、そこの二人。遊んでないでさっさと仕留めなよ」
頬を膨らませ、退屈そうにそう言った。
互いの高熱に肉と服を焙られながら、銀髪の少女はかすかに頷いた。
「…ちゃん」
仮面の内側で、そんな声が呟かれた。
その途端、銃の機関部の真上に桃色の光が霞んだ。霞が消えた後には、照準器が追加されていた。
それはどこか、手持ちの鏡のようにも見えた。
鏡の表面が波打つと、鏡面で輝く桃色の光が収束。
銃口から吐き出される破壊の本流へと絡みつく。
光が絡んだ瞬間、破壊の奔流は数倍にも太さを増した。
みらいが驚愕するよりも、彼女が声を発するよりも早く、その光は大熊の輪郭を覆い尽くしていた。