魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第104話 聖団と狂気と③

 声にならない悲鳴がみらいの口から溢れ出す。

 灼熱が彼女の口内や喉を焼き、視界も白一色に染め上げられる。

 肉が炭化し骨から剥がれていき、露出した骨も熱に焙られ灰となる。

 その時、既に肉を喪い歯が剥き出しとなったみらいの頬に何かが触れた。

 形は既に崩壊していたが、みらいにはそれが人間の指だと分かった。

 

 

「さ…き……」

 

 

 呟き終えた瞬間、みらいの身体は跳ね飛ばされた。

 崩壊寸前のテディベアから突き出たみらいの肉体は、骨に僅かな肉がこびりついただけという有様であったが一瞬の間に僅かながら眼球の機能が回復していた。

 その眼に映ったのは、突き飛ばされた彼女が出てきた穴が開いたテディベアの姿。その奥で手を伸ばしたサキの姿。

 そしてそれらが眩い光に包まれ、跡形もなく消え失せる瞬間だった。

 絶望の叫びを上げるみらいを、無慈悲な爆風が木っ端のように吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゅぅ…ふひゅ……」

 

 

 湿った呼吸音が間断的に続き、そこに水音が重なる。

 ザクザクと肉が切られ、骨が切断される音だった。

 そして濡れた呼吸音は、朱音麻衣の口から漏れていた。

 舌は根元から切り取られ、口内は血と唾液の混合液で満ち、口の端からは血泡が膨らんでは弾けを繰り返している。

 仰向けにされた朱音麻衣の顔は、その名前のように朱く染まっていた。顔だけではなく、全身が朱色となっている。

 ただ、血に狂った魔法少女である彼女にとって全身を朱に染めているという状態は珍しくはない。

 苛烈な戦闘により自他の血と体液に塗れるのは、日常と言っていいくらいの頻度であった。

 

 ただ、今の彼女の様子はこれまでと異なっていた。

 

 

「朱音麻衣さん、ご加減はいかがでしょうか?」

 

 

 涼やかな、それでいて労りに満ちた声がした。

 声と共に、肉を切り骨を割る音が鳴っている。

 麻衣に声を掛けた少女、常盤ななかは白磁の肌で覆われた細指を麻衣の血で染めていた。

 細い五指は、麻衣の右腕を握っていた。

 切断された肘関節の断面は、細胞の一つ一つが整然とした並びを完全に残した美しい平面を晒していた。

 地面に広がる血潮の湖面にななかは青い着物の膝を下ろし、麻衣の腕を垂直に立てた。

 腕の断面を無数の針が出迎えた。それは、魔力で生み出された剣山だった。

 

 

「ひ…」

 

 

 針が腕を貫いたとき、麻衣の身体が震えた。口から出たものは、紛れもなく悲鳴だった。

 

 

「ああ、随分と実りましたね」

 

 

 呟いたななかの、虚無の闇で満ちた視線の先には多数の剣山が並んでいた。

 それらの針の上には、同数の肉が刺さっていた。

 豊かな膨らみを見せつつ黄色い脂肪層を晒している麻衣の乳房、視神経を針に絡ませ水晶体を垂れさせている赤い瞳。

 鍛えられた筋肉を肌の下に蓄えた腹筋、力強い斬撃を放つ要となる脚。

 それらが切断され、手のひらサイズの剣山に乗るよう分割されてから突き刺されている。

 肉体の部品が大量に消費されていることからも分かるように、今の麻衣は肉と骨の伽藍となっていた。

 剝ぎ取られた皮と肉の奥では、血に濡れた臓物が弱弱しく脈動している。

 

 今の麻衣は両足と右腕を切断され、左目も周囲の肉ごと抉られている。

 首から下、下腹部までの肉が切除されて臓物が晒されていた。

 残った左手も指の全てが切断され、剣山の贄とされている。

 彼女の体に残った肉よりも、切り離された肉の総量の方が既に多くなっている。

 

 

「ですが、まだ」

 

 

 残念そうな呟きと共に、麻衣の腹腔へとななかの手が伸びた。

 血泡を飛ばしながら、麻衣が呼吸音で叫びを上げた。叫ばなければ気が触れてしまう、そう麻衣は苦痛による真紅で染まった視界と思考で思った。

 

 

「とても良い色艶です。美しい」

 

 

 丁寧な手つきで神経と血管を取り除きつつ、ななかは麻衣の肝臓を取り出した。

 大事そうに両手で抱え、剣山の上にそっと置く。

 滑らかな内臓の表面に針が通り、血と体液が滲む。続いてななかは麻衣の胸を漁り、麻衣の乳房の脂で濡れた右肺を取り出した。

 胃袋が引き千切られ、下腹部で畳まれた大腸に胃液が降りかかり酸鼻な臭気が漂う。

 既に苦痛の喘ぎも弱弱しくなった麻衣であったが、ななかの眼球なき視線の先に気が付いたとき、残された一つの瞳に最大級の恐怖が浮かんだ。

 視線の先は、下腹部より更に下であった。

 

 

「ぁぁっ、がぁっ!」

 

 

 舌なき口から絶叫が放たれる。強引に体を動かし、膝の断面で地面を蹴って跳ね上がる。

 残された魔力で刃を生み出し、口で柄を噛み斬撃を見舞う。

 最後の力を以て放った技であったが、それはななかを掠りもしなかった。

 麻衣の肉を用いて生け花に勤しむななかの傍らを、斬線が空しく薙いだ。

 

 

「朱音麻衣さん…いかが、なされたのですか?」

 

 

 蛍光色の青い髪を揺らしながら、明らかな動揺の色を滲ませてななかは尋ねた。

 自らの所業が何一つ、というよりも今何をしているのかも認識していないかのような様子だった。

 ただ心の底から、ななかは麻衣を心配していた。

 ななかの問いかけに応える代わりに、麻衣の体は地面に落下し、自らの血と体液の中に沈んだ。 

 俯せとなった麻衣を、ななかの虚無の眼が見つめていた。

 

 

「おや……まだ、これほどにも」

 

 

 背中や尻に首筋。彼女から剥ぎ取れる素材は、まだ豊富に残っていた。

 麻衣へと向けて手を伸ばすななか。その背後で、陽炎のような揺らめきが生じていた。

 揺らめきの輪郭は麻衣が放った斬撃の線をなぞっていた。

 その気配を察したななかが振り返った瞬間、眩い閃光が彼女を覆った。

 閃光は、麻衣の斬撃の跡から発せられていた。

 麻衣の固有魔法を乗せた斬撃が別の空間を繋ぎ、そちらで発生した高熱が転移しななかを直撃したのであった。

 閃光の中でななかの肌が焦げ付き、毛髪が燃え上がった。

 

 

「この火力……ああ……大庭さんを思い出します」

 

 

 全身を焼かれながらも、ななかの声は氷のように涼しかった。

 

 

「ああ、そうでした。大庭さん、今頃は寂しがっているはずですね」

 

 

 言い終えると、閃光が真横に二つに裂けた。

 そこから更に分割され、最後には嘘のように消え失せた。

 

 

「おや」

 

 

 全身を焼け爛れさせたななかは、自らの負傷に苦痛の欠片も見せずに首を傾げた。

 視線の先には、円形に開いた空間の裂け目があった。

 その中で、ローブを纏った銀髪の少女が倒れている姿が見えた。

 胸が切り裂かれ、血が滔滔と流れ出している。

 その傍らで、白い仮面を被った少女がななかに顔を向けていた。

 

 

「天音の姉妹の方々、お久しぶりです」

 

「常盤ななか、貴女は次の獲物でございます」

 

 

 二人の魔法少女の声が交差する。

 互いの声が交わされると同時に、空間の裂け目が消えた。

 高熱により、周囲には暴風が吹き荒れていた。

 麻衣の肉で作られた生け花は全てが焼け、麻衣自身の姿もその場から消え失せていた。

 

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