魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第12話 風見野事変②

廃ビルを出た後、不仲な両者は一軒のファミリーレストランへと足を運んだ。

どこにでもある、チェーン店の一つであった。

どっかりと腰を降ろした魔法少女は、少年が広げたメニュー表を奪い取り、

接客に向かった若い女性店員へと

 

「ここから」

 

最初のぺージを開き、

 

「ここまで」

 

と、最後のページを示した。

にこやかな笑顔の、恐らくは大学生程度と思われる女性の顔に、

痙攣のようなものが奔った。

胸の名札には「研修中」のプレートが添えられている。

嫌な客に遭遇したものである。

 

困惑する女性の下へ、一対の闇色の光が届いた。

眼差しだと気付き、彼女がそちらへ視線を送ると、静かに頷く黒髪の少年が見えた。

 

「畏まりました」

 

恭しく一礼すると、女性店員はその場を立ち去った。

流れに身を任せる事にしたのだろう。

彼女が知るところではないが、それは二重の意味を孕んでいた。

 

「よく言われてっけど、飲食業界ってのは大変だな」

 

少年のそれは、皮肉と嗜めの言葉だった。

 

「じゃあどうしたらよかったのさ」

「全部って言えば楽だったんじゃね」

「あたしのと何が変わるんだよバカ野郎」

 

会話数が多い訳でもないが、この時点で両者の周囲の席には

重苦しい雰囲気が溢れ始めていた。

そもそもファミレス特有の長椅子と長机を与えられた席だというのに、配置を単純に表せば

 

壁壁壁

 机流

杏机

 

と成っているあたりに、単純ながら隔絶さが表現されていた。

特に会話も無いまま、二分が経過し始めようとしていた。

暇つぶしになればと、杏子は適当に店内を見渡した。

数秒で飽きた。

視点を手前に広げられたメニュー表に落とす過程で、

斜め左にいる相棒もどきが目に入った。

 

「何してんだテメェ」

 

問いの先にいる相棒は、真剣な表情で机の上に広げられたプレートを見ていた。

 

「間違い探し」

 

見れば、お子様向けのメニュー表の裏側には彼の言う間違い探しが記載されていた。

倣うのは癪だったが彼女もそれを一つとり、彼と同じ遊戯に講じ始めた。

更に二分が経過した。

 

「幾つ見つけた?」

「八つ」

 

先に始めていたとはいえ、杏子よりも一つ多い。

なにくそと意気込み、魔法少女は左右の絵を見比べた。

内容は最近のメニューの原料等の詳細についてであったが、

茫洋とした絵柄と相俟って間違いが何処か分かりにくいことこの上無い。

 

ルールなど元々ないが、反則覚悟で魔法を使おうかと思った瞬間、

 

「お待たせしました」

 

快活な店員の声が両者の思考へと割り込んだ。

それまでの解答の全ては、その一言で両者の頭からは吹き飛んでいった。

若干の恨みがましさを宿した眼が、そちらに視線を送る。

途端に、紅と黒の眼は別の色に輝いた。

大量のステーキにパスタ、スープやサラダ等が店員が押してきた皿台の上に乗せられていた。

両者の眼で輝いているのは、獲物を前にした捕食者の欲望の光であった。

 

それは最早、食事というより闘争だった。

ほぼ二口程度でステーキ一枚が平らげられ、

皿に盛られたパスタが飲み物のように呑み込まれていく。

フォークの一刺しが野菜の大半を一気に貫き、直後に口の中へと丸め込まれる。

 

第一陣が瞬殺され、続く第二、第三陣も同様に消耗されていった。

給仕の店員が目を丸くする中、アルコールを除くすべてのメニューが完食されていった。

 

「ごちそうさまでした」

 

両者が発した食物への感謝の声は、思いの外丁寧だった。

このあたりが、彼らを悪人に非ずと表しているのかもしれなかった。

 

魔法少女は、治癒魔法の応用で食物を完全消化していた。

ゆえに体形は変化せず、大量の食物を取り入れたというのに、腹は平坦な状態を保っている。

また対する少年も杏子と同じ様子だった。

こちらは生物として造りが違うとしか思えない。

深く考察するだけ無駄だろう。

 

「そういえばさぁ」

「うん?」

 

再び間違い探しを始めたナガレに、杏子が声を掛けてきた。

食物を摂取すると、多少なりとも性情が落ち着くらしい。

肉食動物、というか肉食恐竜のような連中だった。

 

「テメェはよく色んなもん造ってるけど、あんなのどこで覚えたのさ?」

「お前の言う鉄塔猫をいじってたら覚えた」

「またアイツか」

 

杏子が若干、苦々しい表情を見せた。

自分でも何故そう思うのか分からないといった様子だった。

ちなみに例の紙は今、彼女のホットパンツの尻ポケットの中で畳まれている。

 

「あと、昔の仲間に機械いじりを教わった事があったな」

「あー、そういや前にほざいてたな」

 

少し前に斬り合った後、暇だったからという理由で聞いた、ような気がしていた。

 

「で、屑かデブのどっちなんだい?」

 

身も蓋もない言葉に、流石にナガレも言葉に詰まった。

間違い探しを一旦保留し、杏子に向き直る。

 

「せめて気障ったらしい悪人面って言えよ」

「テメェの方がひでぇ言い方だって、気付いてる?」

 

彼としてはフォローのつもりだったようだ。

どちらが悪印象かは、聞くものの感性によるだろう。

 

「ってか屑はねぇだろ、流石によぉ」

「人間の顔面を爪で引っ掻いてくる奴が、まともだとは思えないね」

 

返答に困り、ナガレは苦笑した。

尚、彼は杏子に仲間や過去の事を話す際、一部をぼかして話していた。

後々の面倒を危惧しての事である。

彼が持ち得ていた、杏子が言う処の「鉄塔猫」とその力の根源は厄介事に過ぎていた。

 

その一つが、杏子に『屑』と吐き捨てられた仲間の詳細である。

一応、「引っ掻く」というのは間違ってはいなかった。

だが実際は反抗してきた部下の眼を潰し耳を千切り飛ばした挙句、

無力化したそいつを顔面と上半身の一部が半液状化するまで笑いながら殴り続けた、

というのが彼の知る仲間の悪行というか凶行の一つだった。

 

「あと名前が気に入らねぇ。なんか偉そう」

 

彼がロクでもない思い出を、軽く引きつつ思っていた最中、杏子がそう評した。

相棒の名前は記憶していないというのに、そいつのは覚えているらしい。

だが杏子の評価は彼の笑いのツボを刺激したらしく、ナガレは思わず吹き出していた。

 

「違ぇねえ」

 

後半の部分に同意しつつ、彼は笑いを保ったまま言った。

自分の本名にも当てはまるなとも、思いながら。

 

 

十数分後、ナガレはレジの前に並んでいた。

結局間違い探しは相棒とのやむを得ない共同作業を行ったものの、

最後の一つが見つからなかった。

次回のリベンジとし、それまでに変わらないようにと彼は願った。

 

そしてその一方、若干の苛立ちを覚えていた。

間違い探しに敗北したためではなく、会計が混んでいることに。

レジは四人ほど先にあるのだが、妙にまごついているらしい。

時折舌打ちと、ため息の声が前の方から生じていた。

彼は少しだけ身を横にずらした。

停滞の原因たる不届き物を、一目見てやろうかと。

 

白いシャツと、ピンク色のスカートを履いた、黒髪の少女の背中が見えた。

その瞬間、彼の背中に一筋の炎が奔った。

恐怖による寒気ではなく、体が闘争へと移行するための熱の発生だった。

 

「まだ並んでんのか、何やって」

 

相棒をレジに並ばせ、適当な場所に背を預けていた杏子が彼の下へと歩みを運ぶ。

そして、彼同様の反応を見せていた。

 

「あっ」

 

レジ前の少女は、財布から一枚の硬貨を落とした。

それは数人の前を通り過ぎ、ナガレの前で停まった。

手早く拾い上げ、彼は前を向いた。

 

一瞬の合間に、先程まではそこにいなかった人物が彼の前に立っていた。

そいつの黄水晶の瞳が、彼の闇色の瞳を出迎えた。

 

「あ、友人。久しぶり」

 

レジの前に長蛇の列を作っていた黒髪の少女は、限りなく朗らかに微笑んでいた。

災厄との再会だった。








久々のご登場です。
ファミレスといえば、アラサーマミさんでは商業誌以前だと
マミさんが杏子さんとゆまにファミレスで食事を奢るという話がありましたな。
…マミさんの机が二束三文(商業誌版より)に等しい金額で売られるという悲しい話でもありましたが。

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