魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第106話 血の交わり

 伸びきった腕の先で握られた鉄拳が標的を打ち抜く。

 柔らかい肌と肉が潰れ、硬い骨が拳の形に砕けてへこむ。

 

 

「この手のコトにも慣れてきたからさ、先手必勝ってやつさ。とりあえずぶん殴っちまえ、だ」

 

 

 腕を戻し、拳を開閉させつつ杏子は言う。手の痺れは三度目で取れた。相手が立ち上がるのもほぼ同時だった。

 十字槍を顕現させて構える杏子。鏡面のように輝く刃に映るのは経年劣化の著しい廃教会の内部。

 そして、対峙する相手の姿。殴打によって破壊された顔面は、既に完全修復されている。

 

 

「ふーん」

 

 

 関心したような声を杏子は上げた。へぇ、と更に続ける。

 

 

「こうやって見てみると」

 

 

 言葉を言い終える間もなく、地面を激震が襲い大気を切り裂くような金属音が鳴り響く。

 放たれた一線を、杏子は槍の柄で受けた。

 柄が受け止めているのは黒銀の刃。巨大な刃渡りを備えた両刃の斧だった。

 斧の中央に開いた穴には、瞳のような球体が浮かんでいた。

 そして、それを携えた者の姿は。

 

 

「あたしって結構可愛いねぇ。なんであいつは抱いてくれねぇんだろうな…ったくよぉ!」

 

 

 悲痛さを湛えた叫びと共に踏み砕いた地面を蹴り、杏子は相手を押し返す。

 軽やかに宙を舞ったのは、真紅のドレスに身を包んだ紅髪の少女。佐倉杏子の姿であった。

 顔も体格も酷似どころか完全に同一。

 ミラーズでさえここまで同じには複製を生み出せない。相手を知り尽くしているからこその相似性。

 異なるのは手に携えた得物と、頭部から生えた二本の角。異界の殺戮兵器を模した装飾がされていることだった。

 得物の名前は牛の魔女。対峙する杏子は魔女の生み出した幻影。

 こうなったのはキリカのせいだが、お礼参りは相手を屍に変えてからでいい。

 

 思考を戦意で漂白し、杏子は飛翔し槍を振るった。

 魔女も迎撃し、空中で火花が散る。衝撃で背後に弾かれた両者は壊れかけの壁を蹴り、再び空中で激突する。

 縦に振られた斧に、杏子は刹那の中で無数の刺突を放った。

 槍穂の弾幕を強引に突破し、縦の斬撃が振り切られる。

 

 

「遅ぇ」

 

 

 横に躱した杏子は嘲りと共に突きを放つ。槍は斧の傍らを抜けた、と見るや大きくしなり、鞭となって牛の魔女を拘束した。

 杏子は素早く手を引き、杏子の義体から得物を奪い取る。義体に驚愕の表情が走るが、杏子はそこに向けて再び拳を叩き込んだ。

 

 

「トロトロしてんじゃねえよ!ウスノロ!!」

 

 

 叫ぶ杏子の顔には、雌獅子のような獰猛さがあった。再びの殴打を見舞い、義体を地面へと打ち付ける。

 廃協会の床板が割れ、破片が頬を切り裂いたが杏子は気にも留めずに義体に馬乗りとなって殴り続けた。

 拳に伝わる感触が柔らかさだけになった時、彼女は義体の首を右手で掴み、残る左手で相手の右肩を荒々しく掴んだ。

 相手が反攻する前に、杏子は右手に力を込めた。

 

 

「死にな、間女」

 

 

 冷たく告げた杏子の頬を、熱い血潮が激しく叩いた。

 義体の首を脊椎ごと一気に引き抜き、最後には頭部を握り潰したのだった。

 

 

「…はぁっ」

 

 

 鉛のような吐息を漏らし、杏子は膝を折った。

 そのまま前へと崩れ落ちかけたが、なんとか堪えた。

 

 

「くそ……やっぱ調子悪ぃな…」

 

 

 先ほど肉体は治癒された。今は魔女によって引きずり込まれた精神の世界にいる。

 そのせいかそれまで患っていた不調の感覚が蘇っていた。

 色々な事象が重なったことで忘れていたが、少し前には変身能力が異常を来し、挙句には腕の一部が腐り落ちた。

 これもほぼ忘却しかかっていたことだが、そういえばソウルジェムも奪われてから久しい。

 肉体とソウルジェムのリンクの距離は無限長になったようだが、この不調は何かをされているせいかと疑い始めた。

 気にするのが遅すぎると思ったが、本当に色々あったのだから仕方ないと杏子は自身に言い訳をした。

 

 

「…さっさと済ませるか」

 

 

 荒い息を吐き続けながら、杏子は手を強く握った。鞭化させた槍が牛の魔女を圧搾し、悲鳴のような金属音を上げさせながら刃を砕き柄をへし折った。

 最後に斧の中央の眼球を踏み潰す。牛の魔女が崩壊し。黒い瘴気となって立ち昇って消え失せた。

 そのまま数秒待ち、更に十秒ほど待った。

 

 

「ああ………」

 

 

 鋭い痛みが腹から背に抜けた。それは臍のあたりから一気に上昇し、頭頂へと至った。

 

 

「そういう、こと、かよ」

 

 

 杏子の意識はそこで途切れた。

 

 

「がはっ」

 

 

 そしてすぐに戻った。

 全身の痛みと共に。

 空中に投げ出されている杏子の腹が、いや腹から頭頂部までが一線に切り裂かれていた。

 落下した杏子は傷口から血と体液と脳漿を地面にブチ撒けた。

 背中に伝わるのは先ほどまでの廃教会の床面の感触ではなく、青臭い香りを放つ草と土の冷たさ。

 

 

「幻覚…かよ」

 

 

 忌々しく呟き、杏子は血を弾けさせつつ跳ねた。先ほどまでいた空間を、黒銀の斧槍が切り裂き地面を大きく抉り取った。

 全力で負傷箇所を治癒…キリカ曰くの無理矢理に塞いで無理矢理に体を動かして逃げる。

 斧槍を振るい続ける牛の魔女の義体には、頬や肩の掠り傷程度の負傷しかない。

 反撃に移ろうとしたとき、義体の右腕が霞んだ。そう見えた時には、義体の拳が胸の真ん中に着弾していた。

 悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、背中から樹木へと激突する。

 仰ぎ見た真紅の視線の先には、青白い輝きを放ちながら空に浮かぶ月が見えた。

 青い輝きを放つ天体を背後に、杏子の義体が飛翔する。視認した時には既に斧槍が振られていた。

 

 

「な、めるなぁ!」

 

 

 血を吐きながら杏子が刺突を見舞う。

 義体の斬撃は空中で振られたためか、咄嗟ではあったが地に足を着けて放った刺突の方が僅かに威力が上だった。

 与えられたダメージとの差し引きで、双方は背後に飛ばされた。

 だが義体は軽やかに着地したのに対し、杏子は辛うじて転倒を防いでいた。

 そして直後、両者は同時に踏み込んだ。

 これまでの重い一撃を放ち合ってぶつかり合いではなく、斬線が宙を薙ぐ銀光にしか見えない速度での刃の交差を重ね合う。

 

 

「てめ…こんなに」

 

 

 強かったのか、と言おうとしたのだろうか。斬撃が口を掠め、前歯を吹き飛ばした為に言葉は悲鳴に変わった。

 杏子の言葉通り、牛の魔女は強かった。

 斬撃の精度は高く、一撃一撃の威力も重い。杏子の刺突も魔女の義体を削るが、それよりも杏子の肉体が破壊されていく方が早い。

 杏子の一閃が義体の首を掠めた時、義体の一撃は杏子の左太腿を切断していた。

 硬直した杏子へと、斬線の嵐が叩き込まれる。

 切断に至る寸前、薄皮一枚程度を残して杏子の体が縦横に切り刻まれた。

 

 

「て…め…ぇ」

 

 

 刻まれた声帯と舌で、杏子は辛うじて声を出す。

 今の杏子の肉体は例えるなら骰子状に切った肉を重ねられているような状態だった。

 少し小突けば全身が崩壊するに違いなく、杏子は肉体の崩壊に必死に耐えていた。

 槍を杖にして立つ杏子の意識は、怒りに満ちていた。

 やろうと思えば今頃完全に細切れに出来ているところを、敢えて中途半端な破壊に留めたことに。

 

 その杏子の胸に、義体の手がそっと触れた。そして優し気な手つきから一転し、杏子の控えめな大きさの胸を荒々しく揉み潰した。

 比喩ではなく、刻まれた肉が潰されながら掴み取られ、肉の内側の肋骨や肺の一部までもが無残に引き千切られた。

 杏子が必死に悲鳴を堪えている目の前で、掴み取られた骨と肉と内臓の混ぜ物を義体はまるで果実でも食むように口に含んだ。

 自分の肉を頬張る自分の姿に、杏子は吐き気を堪え切れなかった。体内で蠕動した胃袋が弾け、傷口や刻まれた食道から血色の胃液が溢れ出す。

 そんな杏子を気にも留めずに、義体は美味そうに杏子を味わっていた。口から溢れた血雫を、桃色の舌がちろりと舐める。

 

 だが血を舐め取った直後、義体の口は鮮血で溢れた。それは杏子のものではなく、自らの血であった。

 義体の胸を、真紅の槍斧が貫いていた。

 

 

「弄んでる、暇があったら…」

 

 

 全身を染める血の色が、傷口から溢れ出す炎によって蒸発していく。消えゆく血は真紅の衣となって、杏子の体を覆う。

 

 

「さっさと、殺すんだったなぁああ!!!!」

 

 

 中華風の趣を持つ衣を纏った杏子が、炎のような叫びを上げる。

 槍斧を一気に突き刺し、牛の魔女が反撃するよりも早く引き抜き斬撃を見舞う。

 義体の四肢が切断され、首も半ばまで槍穂が埋まる。

 不調により封印されていたドッペルが解放され、彼女の身に纏われていた。

 義体から鮮血が吹き上がり、今度は杏子の体を深紅に染まる。

 

 

「ぐぅっ…」

 

 

 だがそこで、杏子に限界が来た。魂の現身を強引に引き出した反動は尋常ではなく、纏ったばかりの衣が光となって粉砕し、杏子は通常の姿へと戻った。

 そこへ、四肢を喪った義体が激突した。苦痛の叫びを上げて押し倒された杏子の喉へ、義体は牙を突き立てた。

 再び杏子の肉が喰らわれ、血が啜られる。杏子を押し倒したまま、義体は杏子を貪る。

 四肢の断面へと切断された手足が這い、傷口へと接合すると手足は悪夢のように癒着した。

 機能を戻した手で杏子の頭を押さえ、義体はさらに杏子を貪り喰らう。

 だが。

 

 

「舐めるんじゃ、ねぇ!!」

 

 

 咆哮を上げた杏子が、今度は義体の肩へと嚙みついた。肩の関節を一噛みで砕き、咀嚼し、飲み込む。

 苦痛の呻きを漏らした義体の頬へと、杏子は容赦なく牙を突き立てた。

 報復として、義体は杏子の背の肉を剝ぎ取る。その反撃は杏子による眼球の抉り出しだった。

 

 

「上…等だ…てめ、え、ごらぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

 声にならない叫びを上げながら、二人の杏子は手足を絡め合い、互いの肉を喰らい続けた。

 

 

 

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