魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第107話 まごころからの、いのりをこめて

「んんん…ぁああ、つっかれたぁ」

 

 

 背伸びと欠伸を同時にしながら、紫の魔法少女、カガリはてくてくと歩いていく。

 その背後には鎖が伸び、とぼとぼと歩く銀髪の少女の首輪に繋がれていた。

 鎖が鳴る音に続き、背後からは複数の足音と、からからという車輪の音が鳴った。

 

 

「二葉さん、五十鈴さんが心配なのは分かりますが」

 

『れんちゃんのこと、大事なのは分かるけど』 

 

 

 悪名高き懲罰部隊、マギウス司法局。

 リーダーの天音月夜は仮面の内から、天音月咲は笛から思念の声を発した。

 発声方法は異なっていたが、それぞれ心底からの心配を抱いていた。

 声の対象は、負傷者を乗せたストレッチャーを引く緑髪の姫騎士少女。

 二葉さなは白い仮面を負傷者、双子の発した名前を合わせれば「五十鈴れん」となる少女に向けていた。

 同じく白い仮面を被ったれんは、胸から喉までに長い傷を負っていた。傷口を覆う包帯は赤黒く染まり、れんは時折体を小刻みに揺らして苦痛を示していた。

 しかしそれは、傷の為ではなかった。

 

 

「二葉さん、今はゆっくり休ませてあげるのでございます!」

 

『そうだよさなちゃん!騒音は体に毒だよ!』

 

 

 月咲が騒音と言った存在は、れんの耳にあった。

 装着されたヘッドホンからは、謝罪と悲鳴、そして絶叫に嗚咽が延々と漏れている。

 それらの数は男女を問わずに数十以上。時折「いすず」という言葉も聞こえた。

 ヘッドホンから伸びたコードは、彼女の枕元に置かれた盾形の小物に接続されている。

 それは縮小化させた、二葉さなの盾であり、コードはその内部の音を拾っているのであった。

 所謂リラクゼーションミュージックであり、さなはれんが少しでも安らげるようにと精一杯に尽くしていた。

 

 

「月咲ちゃん、これは」

 

『うん、私たちの負けだね』

 

 

 天音姉妹はさなへの説得を愚行と感じ、涙ぐんだ声と思念を発した。二葉さなの愛情の深さに心を打たれたのである。

 

 

「ねぇねぇ、三浦旭って言ったかな?君たちはいつもこんな感じなのかい?」

 

 

 その後ろを歩くのは新規に加入した聖カンナであり、隣にいる三浦旭は無言で小さく頷き、白い仮面も小さく揺れた。

 揺れたといえば、カンナの首にも揺れるものがあった。

 

 

「いやはや退屈しそうにないねぇ、オリジナルはどう思う?」

 

 

 声を掛けられたのは、眼を抉られ、舌も歯も抜かれて無残な有様となった神那ニコの首だった。

 肉の穴となった目に紐が通され、ネックレスとされている。

 

 

「おっと」

 

 

 不意に進行が止まった。司法局の臨時基地と言われて案内された場所故に、カンナは先の様子が気になった。

 薄暗い回廊の奥に扉が聳えていた。青銅色の扉には錆が浮いている、とカンナは思わなかった。錆にしては、その色が毒々しかったからだ。

 

 

「な、誰でございますか!今日の掃除をおサボりになられた愚か者は!」

 

『月夜ちゃん、当番表見て』

 

 

 怒り交じりの狼狽をする月夜を指摘する月咲。

 壁面には、一か月内の掃除当番表が貼られている。その紙は血飛沫で彩られていた。

 血の奥にある文字が辛うじて読めた。

 今日の担当は他ならぬ月夜であった。

 

 

「そ、そんな…」

 

 

 絶望の声を出す月夜は、力なく地面にへたりこんだ。

 

 

「じ、自害します!」

 

『わわわ!月夜ちゃん!他の人のネタだよそれ!』

 

 

 本気で慌てふためく月夜を、月咲は必死になだめ始めた。

 ハァというため息がカガリの口から漏れた。

 

 

「じゃ、私たちは部屋に戻るね。スズネちゃんを洗いたいし、私らは報告することもないしね」

 

 

 報告?とカンナは首を傾げた。

 未だ狼狽している月夜を放置し、カガリはスズネの首を引っ張って扉の前を後にした。

 

 

『あ、うん、お疲れ様!』

 

「ぐす…夕食は、一時間後で、今日の献立は唐揚げとハンバーグでございます」

 

「乙ぅ~~」

 

 

 鎖を持った手を後ろ手でじゃらじゃらとさせつつカガリは返した。

 振られたことで、鎖がスズネの頬を殴打したがカガリは何の反応も示さなかった。

 スズネが傷付けられるのは嫌だが、自分で痛めつけるのは別らしい。

 鎖での殴打が気に入ったのか、カガリはスズネを鎖で打ちながらその場を後にした。

 スズネの口から溢れた唾液が、回廊の床に透明の点を残していった。

 

 

「新参の私が言うのもあれだけど、これいいの?」

 

「後で私が全部掃除させていただきます。これがせめてもの贖罪なのです」

 

 

 仮面の眼の前を擦りながら、月夜は立ち上がる。

 

 

「さ、気を取り直してご報告に参るのでございます」

 

「はーい、月夜先生」

 

  

 しつもーん、と言いながらカンナが手を上げた。掲げられた手の先には、ニコの首が乗せられている。

 

 

「はい、聖カンナさん。如何いたしましたか?」

 

 

 教師を真似て少し偉そうに、しかし優しい声色で月夜は返した。随分と楽しそうである。

 

 

「君はリーダーなんだろ?それに司法局はマギウスの独立部隊で」

 

『うん、そうだよ。ついでにお子様二匹が大嫌いだから話なんて事後報告で大丈夫』

 

「月咲ちゃん!おガキ様と言うのでございます!マギウスには年少の子達も大勢いるのです!」

 

『あわわ、ごめんなさい月夜ちゃん!そして本部のキッズ達!』

 

 

 月夜が慌てて訂正し月咲も狼狽しながら謝罪する。

 騒がしい職場だった。

 

 

「私達がご報告をするのは、さる高貴な御方にでございます」

 

『そう、私達の救世主、現人神であり女神様!』

 

 

 熱を帯びた声で語る天音姉妹。他の仮面を被った魔法少女らも、同様に頷いている。

 相変わらず盾の中の苦痛の声に苦しむれんも、頑張って首を曲げて同意していた。

 気持ち悪い、とカンナは思った。

 そして月夜の手で扉が開かれた。内部の空気の匂いを嗅いだとき、カンナは顔を僅かに顰めた。

 空気に匂いは無かったが、気配というか重みというか、澱みとでもいうべきものが彼女の感覚を侵したのだった。

 それは、引き千切った首で作った飾りの血臭さえ飲み込むような、狂気の匂い。

 暴虐された魂の慟哭が染みついたような匂いだった。

 

 台の上にれんを残し、五人は中へと入った。

 闇が溜まった部屋であったが、奥の方には光があった。

 天井から伸びた光が、一つの存在を白光で染めている。

 ニコを含む全員が膝を屈め、頭を垂れた。

 

 

「ただいま戻りました…我らが女神、環いろは様」 

 

 

 ニコもそれに倣ったが脳内に疑問が湧いていた。

 

 

「(聖像、ってことだよね。それは分かる。実際めちゃくちゃ綺麗だし)」

 

 

 光に照らされるのは、マギウスの創始者である環いろは。

 その美しい姿が偶像化され、台座の上で安置されている。

 内心を整理すべく、美しい姿を見上げながらカンナは思考を巡らせる。

 

 

「(だけど、なんで水着なんだ?)」

 

 

 カンナの疑問は尤もだろう。

 環いろはの魔法少女服が修道女の趣を持つことは、新参の彼女でも知っていた。

 だが今目の前にあるのは露出度の高い桃色の水着を着て、ガラス製と思しき浮き輪に腰を沈めた桃色髪の美少女の偶像であった。

 美しい、というよりも美しすぎるが、『何故』という疑問が尽きない。

 

 

「(いや…そもそも……)」

 

 

 観察をしていたカンナは、あることに気付いて背筋が冷えた。

 その偶像は精巧に過ぎていた。まるで生命を宿しているかのように。

 

 

「二葉さん、いろは様へ供物を」

 

 

 二葉さなは恭しく立ち上がると、召喚した大盾を開くと偶像の前にある台に並べ始めた。

 月夜の云う処の、『供物』を。

 

 それは海香の、どことも知れぬ潰れた肉片であり。

 それはカオルの右足であり。

 それは里美の顔の皮であり。

 それはサキの炭化した眼鏡と両手だった。

 

 

「偉大なるいろは様。今日も世界から一つの平和が戻りました」

 

 

 膝をつき、両手を組み合わせながら月夜は祈る。

 心の底からの祈りであった。

 

 

「貴女の理想…魔法少女が誰一人、理不尽に悲しまず苦しまず、人として生きられるようになる世界を、これからも我らは目指します」

 

 

 月夜の声には哀切な響きと嗚咽が混じっていた。見れば、仮面の隙間から顎を伝う涙も見える。

 

 

「何処におられるのか、存じませぬし我らは貴女を探しません。ただ……何卒、お健やかに。心穏やかであらせられますよう」

 

 

 そこで祈りの言葉は途絶え、長い間の祈りが続いた。

 膝を突いた床に体温が移り行くころ、魔法少女達の肉の臭気が室内に広がり切ったあたりで、月夜はゆっくりと立ち上がった。

 彼女が頷くと、さなは供物を回収し、盾の中へと放り込んだ。

 盾を開いた際にはやはり絶えない絶望の声が響いた。

 

 

「ではカンナさん、今日はゆっくりお休みください。明日は」

 

 

 そのあたりで、さなは盾を閉じた。

 

 

「神浜監獄への侵攻を開始するのでございます」

 

 

 静寂の中、狂信者の宣告が為された。

 頷いたカンナは、この時二つの確信が持てた。

 一つはマギウス司法局が、少なくともこの部屋にいる面々は使命感に満ち満ちた狂信者達であるということ。

 そしてもう一つ。

 背後に聳える環いろはの偶像は、間違いなく、環いろは本人の肌と肉を素材として造られているという事だった。

 

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