魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「それではカンナさん、ご夕食が出来ましたらご連絡させていただきます」
『今日はハンバーグと唐揚げ、そしてみんな大好きなカレーだよ!』
「文句はないけど、男子な献立だねぇ」
崇拝対象への報告後、カンナは一室へと案内された。
広い部屋の中には品の良い調度品に棚類に冷蔵庫、水場や手洗い場まで完備されている。快適そうな部屋だった。
その一室の扉を挟んで、天音月夜及び月咲と聖カンナは会話をしていた。
相変わらず、カンナの首には彼女のオリジナルであるニコの首が下げられている。
異臭がし始めてきたため、先ほど消臭剤を掛けられており、濡れているせいで魚にでも突かれた溺死体のような有様となっていた。
「だ、駄目でございましたか!?はわわ、それでは今から献立を考え直すのでございます!ああ、カガリさんにも連絡をしないと、それに狩りに出てる旭さんにはお魚を釣ってきてくださいと」
『月夜ちゃん落ち着いて!文句はないって言ってるよ!』
「うん。カレー大好きだしハンバーグと唐揚げも最高。キャンプみたいで楽しそうだよ」
狼狽する月夜を月咲がなだめ、カンナがフォローする。
月夜はやっと落ち着き、コホンと一息を吐いた。クールな指導者を演じているのだろうが、新参者から見てもとっくの昔に手遅れである。
「ではカンナさん。また後ほど」
『冷蔵庫の中の飲み物は自由に飲んでいいからね!でも飲みすぎには気を付けて!』
「うん、了解了解。またね、お二人さん」
ばいばいと、双方で手を振り、月夜は頭を下げて扉を閉めて出ていった。
扉の前でカンナはしばらく待った。二分程度経ってから、彼女は与えられた個室を眺めた。
魔力を帯びた視線を室内に巡らせる。
「…カメラとかの類は無いか。探査魔法もなし、と」
言い終えると、左手をパチンと鳴らした。指を起点に魔力が迸り、室内を魔力の膜が包む。
「これで接近にはすぐ気付けるし、目立たない波長にしたからバレないだろう。多分」
そう言うとカンナは、備え付けられた作業机の上に防水シートを敷き、その上にニコの首を置いた。
更にその奥に、小さな鞄を設置する。革製の鞄の中から、幾つかの硬質な音が鳴った。
「さて、と。一仕事するか」
カンナは黒い両袖を肘まで引くと、魔力を使って金属の箱を呼ぶ出した。
開くと中からいくつかの段がせり上がり、各段には金属の刃や杭、更には裁縫道具が据えられている。
そのうちの一つを無造作に手にすると、カンナはニコの頭へと手を伸ばした。
部屋の明かりで輝く銀の刃が、赤黒く変色したニコの血肉に突き立てられる。
幾重にも膜が貼られたような、白濁とした視界が広がる。聞こえる音は波打ち、鼓膜が揺れる不快さでそれが音として認識されている。
やがて視界は色を取り戻し、耳鳴りも沈静していった。
そして、正常に戻った感覚器官が捉えたものは。
「やぁやぁオリジナル。私の姿は見えて、そして声は聞こえるかい?」
自らと同じ顔、同じ声。されど異なる存在である聖カンナ。
その言葉の通り、オリジナルであるニコは目を見開いていた。
口を開閉させるが、僅かに空気が揺れるばかり。
「ああ、ごめんごめん」
カンナは既に血まみれになっている両手をニコの喉に触れた。
肉の断面へと指を入れ、ぐちゅぐちゅと新鮮な肉を弄る。
指先からは血と肉が弾け、ニコの顔には苦痛が顔に刻まれる。そして口からは火のような悲鳴が溢れた。
「よし、直った」
ふぅっとカンナは息を吐く。
その発音に、首だけのニコは驚愕を覚えた。その趣には、安堵の色があったからだ。
今のニコは、首の断面以外の傷が完全に修復されていた。歯も全て埋め込まれ、舌も繋がっていて不便が無い。
「それでだね、オリジナル。話を」
「すまなかった」
カンナの声を遮り、ニコは謝罪した。
言葉だけでは済まないのは分かっている。殺されても文句は言えないし、実際首だけにされて今まさにその状態である。
ん…とカンナは言葉を濁した。少しの間、沈黙が二人を繋いだ。
「もういいよ、オリジナル…いや……聖カンナ」
「な…」
想像もしていなかった言葉を、ニコは聞いた。
彼女が願いで生み出した複製体は、頭さえ下げていた。
「私の名前は神那ニコでいい。君は元の名を名乗るべきだ」
「何故だ」
疑問は自然と口から出た。
「私も、あの未来を見た」
二人の脳裏に思い浮かぶのは、それぞれの破滅の場面。
ニコは魔女化を促され、カンナは三人の魔法少女に切り札を屠られ、最後に僅かの救いを得てから命を終えた。
「だから、もういい。君の首を引き千切ったあたりで、もう私の復讐心は音を上げた」
「しかし」
「もういい。もう、いいんだ」
真っすぐとニコを見て、カンナは言い切った。
ニコは頷くことも、眼を逸らすことも出来なかった。選択肢などなく、ニコはカンナの謝罪を受け入れざるを得なかった。
「…では、君に問おう」
「ニコとは呼ばないのかい。聖カンナ」
「選択肢を私に譲ってくれるのなら、君はカンナだ。私はニコでいい」
二人の間で、二人だけにしか共有できない苦悩が流れた。だがやがて、片割れが口を開いた。
黒い衣装の少女の方が。
「分かったよ、神那ニコ」
「ありがとう、聖カンナ」
互いに頷く。納得はしたが、痛みを伴う決断だった。
「では改めて問おう。君は、私たちの」
「味方だ」
力強くカンナは言い切った。
「信じてはもらえないだろうけどね」
「いや……信じるよ」
「尋ねるが、何故?」
「私は生きている。それに、海香達も」
ニコは頭の後ろから発せられる魔力の群れに気が付いていた。
机の上に置かれた袋に入っているのは、海香、カオル、里美、そしてサキのソウルジェムだった。
「チビッ子も多分大丈夫だ。熱線の最中にいたサキのソウルジェムも上手く外したくらいだからね」
「君が頼んだんだね。私たちを殺すなって」
「ああ。つまり、手引きしたのも私だ」
「お陰で助かった。ありがとう」
「例には及ばない。それとひと段落したら、私の事は殺してもらっても構わない」
「駄目だ。絶対に死なせない」
「調子が戻ってきたね。安心したよ」
やり取りを重ねる両者。
会話の中で、ニコはカンナの言葉が真実であると確信を持った。
味方だと言われただけでは信じきれなかった、自分の心が苦しかった。
しかし今は、苦痛に浸る余裕が無い。
「だが、大丈夫なのかい?内通している事がバレたら」
「残念ながら、私では連中には無力だね。連中の拷問を受けてから、複製魔法少女のサンプルとして血の一滴まで搾られるだろうさ」
「君が、無力か」
「ああ、ラスボスなのに情けない。もしも今プレイアデスの全員が健在で、仮にヒュアデスの暁を生み出したとしても一人を相討ちに……いや、この考えはよそう」
「…確かに、奴らの強さは異常だ。魔法少女を狩ってきた私達で、少しは腕が立つと思っていたが…歯が立たなかった。奇襲を受けたとはいえ、一人も討ち取れなかった。君の戦力分析は恐らく正しい。あいつら相手ならヒュアデスは単なるデカい的か拷問し甲斐のある玩具だよ」
言い終えたニコの顔には疲労感が堆積していた。
首だけの状態でも、魔法により呼吸と発音に問題は無かったが、疲労の原因はマギウス司法局が考えれば考えるほど異常な存在だからである。
異常と言えば、一つ疑問がある。
「手引きしたと言ったね」
「うむ」
「奴ら、君の存在を知っていたのか?美国嬢のデータは渡していないはずだぞ?」
「何故か分からないのだが、私の事を認識していた。それで復讐を果たさないかと誘われたのさ」
そう言って、カンナはソウルジェムの入った袋を見た。
カンナにそれを預けたのは「好きにしろ」ということなのだろう。
謎は解けず、また更に疑問があった。
「もう一つ。あいつら、私たちを襲ったのはレクリエーションだとか言ってたけど、実際は別の理由もあるんじゃないのか」
「その通りだ。奴らはかずみのデータを欲していた」
ニコの脳裏に納得と疑問が浮かぶ。
「何故だ?そりゃ確かに研究材料としては魅力的だろうが…いや、だからか。でも、しかし…」
考えてみるが、異常な組織の中でも特に異常な部隊の異常な連中による行動なので思考自体が無意味に思える。
だがそれでも、考えるのをやめるわけにはいかなかった。
「ああ、そうだね。人造魔法少女に執着する理由が、上手く言葉に出来ないけれどよく分からない。分からない事だらけさ」
カンナの嘆きに、ニコも重い息を吐く。だが、物語は続いている。
約束されていた終焉を乗り越えても、残酷な物語を進める必要があるのであった。