魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第111話 深月

「…んー………」

 

 その声は、少年のような少女の声だった。

 小学校高学年か、中学生になりたて程度の成熟度の声は、年相応の悩みの感情が滲んでいた。

 

「正直あんまやりたくねぇんだけど」

 

 声が終わると同時に、風切り音がびゅっと吹いた。そう聞こえたと思った瞬間、鋭い音はぐちゃっという粘着質な破壊音に塗り潰された。

 

「あんたが相手だからな。手を抜くのは悪い気がするし、そんな器用なことはオレには出来ねぇや」

 

 そして再び、先ほどと同じ音が繰り返された。しかし、今度は変化があった。

 

「酷いね、君。私も結構グロリョナ経験豊富だけど、今回は中々酷いよ。理由はさっき聞いたけど、それでもここまでするのは酷いと思う。なんでここまでするんだい?」

 

 その言葉を前に、相手は動きを止めた。

 巨大なハンマーを振りかぶった体勢で、少女は動きを止めた。

 RPGゲームに出てくるような軽装の戦士姿を思わせる風貌は、血と肉と脂で濡れていた。

 背後のハンマーをゆっくりと前に戻して地面に突き立てる。地面は血で覆われ、槌も血肉に塗れている。

 紫色の帽子も赤紫になり、頭の両端から生えた小さな角からは血管の欠片が垂れ下がっている。

 全身に血斑を浮かべた金髪の少女は、困惑の表情をしていた。

 

「…だってあんた、呉キリカだろ?めっちゃ有名な危険人物じゃねえか」

 

「うむ。だから君が雇われて、私を捕獲したんだったよね」

 

 平然と答える呉キリカ。朗らかに笑ってはいるものの、その身体に四肢は無く、肉の断面は挽肉というか粘塊となっていた。

 少女によるハンマーの執拗な殴打によって、現状の呉キリカは完全に制圧されていた。

 キリカの表情に危機感が無いのは、相手の動揺を察して危険性は低いと判断したか。

 或いはどうでもいいのか、または狂っているのか。

 恐らくはその全てだろう。

 相手もそれを察したのか、困惑は呆れに変わった。

 

「うーん、やっぱり会話通じねぇなぁ。あんた、変なクスリでもやってんのか?」

 

 その問い掛けが発せられた瞬間、少しのざわめきが起きた。

 呉キリカと少女の激突はネオマギウスの地下施設の一角を破壊し、瓦礫の山を幾つも作っていた。

 その瓦礫に埋もれたり、または壁面に埋められたり救助活動をしていた一般魔法少女、呉キリカ曰くのネオマギモブ達は少女の言い回しに何かを感じ取っていた。それは共感による親しみに思えた。

 呉キリカも同様であったが、「またかよ」という呆れでもあった。

 

「ところで傭兵」

 

「名前で呼べよ、知ってんだろ?」

 

「ん?傭兵は廃業したの?」

 

「してねぇよ。これでも生き方として気に入ってるから、馬鹿にされたくねぇんだ」

 

「それは失敬。でも私、君の名前は傭兵ってしか知らなくって」

 

「フェリシアだよ。深月フェリシア」

 

 堂々とした口調で少女、深月フェリシアは名前を告げた。

 呉キリカの美しい顔には感心の色が浮かんでいた。

 

「あら、結構きれいなお名前だね。まるでお姫様みたい」

 

「ありがとな。父ちゃんと母ちゃんからもらった名前だよ」

 

 素直な感謝を前に、呉キリカの黄水晶の眼に虚無と狂気以外の感情が映えた。それは真剣な色を帯びていた。

 

「傭兵、提案がある。今すぐこんなことはやめて、ご両親に会いに行ってきなよ。安心しておくれ、治癒魔法はしないでおくから戻ってきたらまた拷問を続けるといい」

 

 キリカの提案に、フェリシアは困ったような苦笑を浮かべた。

 

「そうしてぇのは山々なんだけど、今すぐってのは難しいなぁ。オレの両親、死んじまってるからさぁ」

 

 笑いながら告げるフェリシア。形は笑みであるが、その表情は血と脂に塗れている以上に陰惨であった。

 しまった、と呉キリカは思った。フェリシアに関する情報は一度頭に入れていたが、他者などどうでもいいとして今の今まで完全に忘れていたのだった。

 

「あ、思い出したって感じのカオだな。そうそう、噂になってたろうから言っておくけど昔オレが火遊びしてたせいで死なせ…いや、殺しちまった」

 

 周囲のネオマギウス構成員もキリカも、フェリシアの告白に対し誰も口を挟まなかった。挟めるわけがない。

 

「それで色々考えたけど、死んで楽になるより生きた方が辛いだろうからってとりあえず生きてるんだ。何言っても言い訳臭いし頭がおかしい奴の戯言だろうけど、死ぬまで生きることにしてんだ」

 

「…そうか」

 

 話を聞き終え、十分に間を置いてからキリカは言った。この少女は常に虚無感と共にあるが、一方で共感性と常識も兼ね備えている。

 端的に言えば優しさを持っているのだが、それゆえにより狂っているようにも思える。

 だが今回は、上手い方向へ進んだようだ。

 呉キリカを見るフェリシアの瞳には驚きと少しの安堵があった。

 

「呉キリカ、あんた案外優しいな。大概の奴はこのあたりでオレが狂ってるとかで攻撃してきたり、なんか諭してくるんだけどさ。ちゃんと聞いてくれたのあんただけだよ」

 

 言いながらフェリシアは周囲を見た。即座にローブの下に隠されたが、刃の残光が見えた。

 フェリシアはそれに対して怒りを覚えず、寧ろその強かさと非情さに好ましさを感じていた。

 

「ん、まぁ人の生き方は自由だからね」

 

 場の空気を察し、キリカが言葉を重ねる。

 危機は脱した、と彼女は思った。であれば、と思考を巡らせる。

 雑談でもするかという思いが浮かんだ。

 

「ところで君、少年漫画が好きなんだっけ?ほら、デカゴン某のファンとか」

 

「あー、悪ぃ。オレ最近その類のは卒業したんだ。もう十三歳だしな」

 

 顔の血脂を拭い、フェリシアが答えた。袖で拭われた後に残ったのは、血と脂で僅かに濡れ光る少女の笑顔。

 

「そろそろ次のステップって感じで、青年誌ってのを読み始めたんだ。あ、つってもエロいのじゃねえぞ。そういうのも載ってるけどそういうのじゃねえ。すげぇ面白い格闘漫画があってさぁ」

 

「なるほどね」

 

 理解を示し、キリカはフェリシアの眼を真っすぐに見た。

 黄水晶と紫の瞳が交差する。この時、互いに何を題材にしているのかが察せた。

 共通の趣味を持つもの達特有の共感性であった。

 

「ちなみに今どうなってんだ?オレが最後に見たのは米軍から追われてる奴が米軍に返されたあたりなんだけど」

 

 フェリシアの言葉にキリカは困惑した。そんなに前から捕獲されてるとは、と思ったが計算が合わない。

 恐らくアリナの封印によって時間の感覚が狂わされてるのだろうと思った。

 脳内でアリナを瞬時に数億回殺してから、キリカはどう伝えるべきか思考する。

 そしてゆっくりと話し始めた。

 話が進むにつれ、フェリシアの表情が困惑に満ちていく。

 そして最後には愕然とした表情となった。

 

「…う、嘘だろ…そんな事が…そんな事が許されていいのか」

 

 フェリシアの表情には昏さがあった。これがもう数段階進むと絶望へと至るのではないかと思われた。

 

「ついでに最近唐突に終わったよ。打ち切りだねあれは」

 

 そこに追い打ちをかけるかのようなキリカの言葉。キリカ自身もその発言の前には迷いを感じていた。

 

「…オレは今度から何を生きがいにすりゃいいんだよ」

 

「大丈夫、すぐに新章始まったから」

 

「おお!」

 

 昏さが消え、代わりに希望の光が差した。絶望から希望への相転移である。

 

「ついでに前作主人公は雑に死んだっぽい」

 

「まぁ、それは…別にいいけど」

 

 悩みつつもフェリシアはそう評した。キリカも頷いた。

 

「忌憚のない意見ってやつだね。素直でよろしい」

 

 そう言ったキリカに、フェリシアはううんと唸った。槌は地面に突き刺され、今の彼女は両腕を胸の前で組んでいる。

 細い腕の間で締め上げられるようにされた胸元は、体格にしてはやや大きかった。

 私の方が二割増しくらい上かとキリカは値踏みした。ついでに自分の方が身長が二センチほど低い事に関しても何故か優越感を感じていた。

 

「それにしても、あんた本当に呉キリカか?まともすぎんだけどさ」

 

「うむ。私は正真正銘呉キリカだ。まぁ世界線が異なれば多数の呉キリカがいるだろうから、私はこの時間軸と世界線の呉キリカだ」

 

 キリカは大真面目に言い、フェリシアは「そーだな」と返した。会話が成立してはいたが、やはり呉キリカは狂っていると認識したのだろう。

 故にこの存在を呉キリカと断定した。嫌な同定方法もあったものだ。

 

「蒸し返してなんだけど、前にあんたを捕獲した時は狂った叫び声しか挙げてなかったじゃねえか。オレの首も半分くらい引き千切られたし」

 

 細首をぺしぺしと叩くフェリシア。思い出したのか表情には幻痛を感じているような苦痛があった。

 

「だからあんたと会話出来てるってのが信じられねぇんだよ。なぁ、これほんとに現実か?オレ遂におかしくなっちまったのかな?」

 

「君は正常だよ。おかしいのは世界そのものと私の方だよ」

 

 呉キリカは堂々と言った。フェリシアもその意見には同意した。この世界は狂ってるという事例が眼の前におり、更には自分でそれを肯定しているのだから否定する理由がない。そして自分も世界の歪みの一つだと確信していた。

 

「確かに私は変わったね、うん。なにせ好きな人が増えた。そいつのせいで狂わされてる」

 

 言われた言葉をフェリシアは言葉として認識できなかった。

 呉キリカが誰かを、正確には一つの存在を除いて好きになるというか意識するという異常事態が理解出来ないのであった。

 冒涜的でさえあると、フェリシアは思ってしまった。

 それでも疑問は晴らしておこうと、彼女は尋ねることにした。

 

「なんだ、彼氏でも出来たのかよ」

 

 出来るだけ自然を装ってフェリシアは尋ねた。しかし彼女の内面では疑問が渦巻いていた。

 紫の瞳に映る呉キリカの姿は惨殺死体も同然だが、それは呉キリカという存在を引き立てる要素でしかなかった。

 あまりにも美しすぎる故にキリカの主以外に比較対象が思い浮かばず、どんな男もキリカとは不釣り合いに思えてならなかったからだ。

 またそれは美しさ以外に、狂気という面でも同様だった。

 この怪物を手懐けるまたは同調できる存在など想像もつかなかった。

 強引だが近い例が、キリカを監禁して悪逆の限りを尽くしたアリナ・グレイというのがなんとも皮肉に思えた。

 

「残念ながら既にメス付きでね。まぁ愛するのは自由だろ?」

 

 問い掛けであったが確信の確認でもあった。

 この時フェリシアは呉キリカの黄水晶の瞳にゆらめく異様な光を見た。

 欲情の輝きであったが、フェリシアにはその意味は分からなかった。ただ、矢張り呉キリカは異常だという確信が更に募った。

 

「失礼なのは承知で言うけど、そいつヤバそうだな」

 

「うん、よくぶん殴られるよ。何度顔面をグチャグチャにされて、背骨を引き抜かれて内臓を爆裂させられたことか」

 

「化け物」

 

 フェリシアは嫌悪感を堪えて言った。言うまでもなく「化け物」には呉キリカも含まれている。

 また呉キリカの好意対象者が実在の存在であるとも思っていない。空想の産物か、大分盛られた話だろうと思っていた。

 

「そうだね。魔女振り回してるし」

 

「はい?」

 

 本気の意味不明さによりフェリシアはやや間の抜けた声を出した。聞き間違えかと思った。 

 

「牛の魔女ってやつだよ。デカい斧みたいなの。それをアドベント兼ソードベント兼ストライクベント兼ファイナルベントとして振り回してる。あ、たまに盾にもしてるからガードベントも追加で。ついでに合体もしてたからユナイトベントも追加ね。ううむ、改めて考えると滅茶苦茶だなあいつ」

 

「そっかぁ…」

 

 フェリシアは自分の脳が理解を拒んでいる事を感じた。そしてやはり世界は狂っていると再確信した。

 

「牛の魔女…あの化け物か。オレ、昔あいつに殺されかけたんだよなぁ…手足をバラバラにされてさ。腹も抉られてはらわた引きずり出されたんだよ。あんときは死ぬかと思った。実際、父ちゃんと母ちゃんの姿も見た気がする。まぁオレの妄想だろうけどさ」

 

「それはおつらい」

 

「で結局、あいつがオレの腕とハラワタのどっちを喰おうか迷ってる間に芋虫みたいに這って逃げるしか出来なかったんだ。あれ多分、逃がしてくれたんだろうな。よっぽどオレは美味かったらしいや」

 

 過去を思い返すことで、その苦痛によりフェリシアは今の正気を実感した。

 狂気に立ち向かえる余裕が僅かに出てきた。

 

「で、なんだよそいつ。あんたの想い人は二次創作のオリジナル主人公かなにかか?」

 

「多分そう、部分的にそう。あと同じ世界の存在じゃない」

 

「トダーとどっちが強いかな」

 

「蟹とガイには勝てるんじゃないかな。喰らった感じからするとパンチ力のAPは1200くらいあるよ。多分本気出せば4500くらいは出せると思う」

 

 中身の無い会話の最中、フェリシアは強烈な不快感を覚えた。情報の連想により、脳裏に一つの姿が浮かんでいた。

 

「悪い。ちょっと嫌な奴を思い出しちまった」

 

「双樹?」

 

 即座に反応するキリカ。察しの良さにフェリシアは思わずきっと睨んだ。

 

「名前出すなよ…あいつらは本気で嫌なんだ。マギウスに誘ったのを本気で後悔してるよ」

 

 フェリシアの言葉にキリカは眼を細めた。

 聞き捨てならない情報であるからだ。

 

「前はあいつらもあんまり強くなかったんだ。でも『崇高な使命があるのに』とか言って自分らの弱さを銀色の犀怪獣みたいなソフビに話しかけてるのを見て…ああ、あの時点で放っておけばよかったんだろうけどさぁ。なんか心に刺さっちまってマギウス入らねぇ?って言っちまったんだよ」

 

 フェリシアは嘆く。キリカにもその様子が容易に想像できていた。

 

「そしたらあんな変態を超えた変態とは思わなくってさ。一応蒐集してる連中は外道共や危険な奴らばっかりだって言うけどよ…それでも…」

 

 フェリシアの声には罪悪感で満ちていた。あの怪物を生み出した一因が自分にもあると思っているのだろう。

 キリカも言葉を掛けなかった。どう言おうか分からなかったし、自分も被害者であるからだ。

 とはいえ沈黙も気分が悪かったので、また声を掛けることにした。

 

「嫌いなのがあいつらっていうんなら、逆に好きな魔法少女はいるのかい?友達とかさ」

 

「んー…正直関わりたくねぇ奴らの方が多いかな。特にあいつら、まぎうすしほうきょく?だったかな。役人気取りの拷問狂いのやべー奴ら。あれきっとアレだぜ。サド看守目指してるんだよ。立場的には放り込む方だけど」

 

「神浜監獄って施設もあるんだったなぁ。無駄に施設多くて草生えるよ」

 

「特に二葉さなって奴は最悪だぜ。なんせあいつの盾の中には」

 

 そこまで言ったところでフェリシアは口を閉ざした。周囲から感じる視線に、恐怖を色濃く感じたためだった。

 マギウス司法局の名は恐怖の象徴であり、軽々しく出すものではないと彼女は感じた。

 

「ここらでやめとくよ。なんかあったよな、『何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ』っていう漫画のセリフ」

 

「で、好きなのはいるの?」

 

 喰い気味に呉キリカは尋ねる。気になる、というよりも自分が情報開示をしたのだから対価を示せという意味合いが強い。

 フェリシアもそう思い、自分の考えを述べる事にした。

 

「オレが好きな、というか目標にしてる人なら一人いるぜ。会った事はなくて、噂とかだけなんだけどさ」

 

 少し恥ずかし気にフェリシアは口にし始めた。

 誰だろうかとキリカは想いを馳せたが、すぐに無駄と悟った。

 魔法少女にろくな奴はおらず、どいつもこいつも血に飢えた美しい殺戮人形だと思っている。

 例外は二例であり、一例は自分の主。そしてもう一つは環いろはである。

 後者だろうなと思い、キリカは予測の幅の狭さから欠伸をしそうになっていた。

 

「そいつ、いや、その人の名前は」

 

 そう語るフェリシアの顔は輝いて見えた。

 その様子にキリカはこれは確定だなと判断して欠伸を噛み殺した。

 二例のうちの前者に違いなく、フェリシアは自分の同志だと認識したのである。

 基本的に欲望に忠実で考えが浅はかで、物理的にも頭に蛆が涌いているような魔法少女という生きたゾンビ共の中でも少しはマシなのがいるのだなと感動すら覚えていた。

 さぁ、あの美しい名前を唱えよと呉キリカは期待に胸を高鳴らせた。

 

「おい、そこのチビスケ」

 

 場の空気を絶ち割るような、昏い声が届いた。

 

「そんなのでも一応あたしの仲間なんだ。それ以上、手ぇ出すってんならあたしが相手になってやる」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その声の元へと、その場の全員の視線が向かった。押し殺した悲鳴が連鎖した。

 声の持ち主は、紅い髪の少女だった。

 だが姿が変貌していた。本来は紅いドレスは黒く染まり、胸は大きくはだけて腹部も露出している。

 普段から短いスカートに至ってはそれ自体が喪失し、下着一枚だけとなっている。

 だが眼を引くのは、胸の中央から腹部にまで至る血色の模様だった。

 亀裂のように広がるそれは、金属の光沢を帯びた流血に見えた。

 

 そして少女の右肩には、巨大な両刃の斧が掛けられている。

 魅入る魔法少女達は、そこから尋常ではない魔力を感じた。

 接近すら把握出来なかったということは、強力な隠蔽魔法を持っているという証明でもあった。

 もしも相手がその気だったのなら、この場の全員は警戒する間もなく首を撥ねられていただろう、ということが容易に想像できた。

 だが魔法少女達が真に恐怖したのは異様となった風体でも、牛の魔女とされる強大な魔女に対してではない。

 その魔女と姿の持ち主の少女の顔が、あまりにも虚無に満ちていて凄惨極まりなかったためだった。

 全ての希望を喪失したかのような表情の悲惨さと、それでいて、またはそうであるからこそ息を呑むほどに美しいと思える表情と顔の造形に、魔法少女達は畏怖を覚えていたのだった。

 

「あ…」

 

 その中で場違いな声が生じた。

 

「あああ!ああああ!!!!」

 

 声の発生源は深月フェリシア。

 震えた声には恐怖が滲む。だがそれは畏敬の嗚咽であった。

 

「さ、佐倉杏子!?風見野の佐倉杏子だよな!?本物だよな!?オレ、神浜の魔法少女の深月フェリシアっていうんだ!あんたに比べたらまだまだ新米魔法少女だけどさ!オレ、あんたに憧れてるんだ!唐突にこんなこと言われても困るだろうけどさ!逢えて光栄だぜ!!」

 

 一気に捲し立てるフェリシアを前に、佐倉杏子は立ち尽くしていた。

 表情は全くとして変わらない。

 ただ血と肉で出来た虚無の像としてその場に立っている。

 対してフェリシアは歓喜の声を出し続けている。佐倉杏子の今の異常な状態など目に入ってはいない、のではなく、その全てを認識して受け入れているのであった。

 呉キリカは声を掛けようかと思ったが、結局は沈黙を守った。

 今この状況で掛ける言葉など、宇宙の何処にも存在しない。

 

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