魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第13話 狂潤

「貴女は下がっていなさい、優木」

 

迫りくる真紅の魔法少女を前に、人見リナは自ら歩を進めた。

また言われるより前に、道化は彼女の背後へと隠れていた。

だが不届き者とは逆に、リナに寄り添う小柄な姿があった。

赤ずきんの姿をした魔法少女であった。

 

「京、貴女も無理はしないでください」

 

毅然とした態度の中、同胞へ向ける声は優しげだった。

京と呼ばれた少女も、その声に頷いた。

怯えを隠したものだということに、杏子はすぐに気付いていた。

 

「お美しい友情だな」

 

疾走の最中、杏子は内心でそうごちた。

何故か、自分が悪役にされたような気分となっていた。

 

「くそう、風見野自警団め。我が参謀を人質に取るとは…」

 

背後で生じた狂人の戯言は無視し、杏子が跳躍。

瞬時に槍を下方へ向け、真紅の落雷となってリナへと迫る。

だが接触の寸前、彼女の視界に青白い光が飛び込んだ。

光は杏子の反応を許さずに、その白い肌や紅い衣装へと接触。

その途端、迸った灼熱が彼女の体表で暴れ狂った。

 

「がぁ…っ」

 

痙攣する身を無理矢理動かし、長槍を一閃させる。

青白い蛇のような雷撃の群れを、真紅の牙が刈り取った。

異界の重力に引かれて落下した瞬間、彼女の爪先は地面を蹴った。

二メートルほど上空へと跳んだ直後、杏子の足の爪先で雷撃が渦を巻いていた。

視線を光の根源へと移すと、雷撃の毒蛇の尾はリナの掲げた警棒に吸い込まれていた。

 

「調子に乗るんじゃねぇ!!」

 

滞空状態にて、杏子が槍を更に一閃。

振られた途端、槍は長大な鞭へと変わった。

内部に鎖を奔らせた多節の鞭は、紅の竜の尾となって人見リナの元へと伸びていく。

 

前掛けによって抑え込まれてはいたが、

呉キリカにも匹敵する豊かな胸元へ槍穂が迫ったその瞬間。

リナの左右から、小柄な影が飛び出した。

 

槍穂の着弾による、肉と骨を裂く音は聞こえなかった。

代わりに、金属の悲鳴が木霊した。

リナの胸の前で、杏子の槍は停められていた。

十字の槍穂に、左右から伸びた刃が絡みついていた。

長鋏によく似た形状の鋭角を握るのは、人間の半分程度の大きさの小柄な人型。

 

黒を基調としたレースとフリルを用いた、華美な服装。

ゴシック・アンド・ロリータの特徴を備えたそれを纏っているのは、

生命感の欠けた白目を剥いた、美しい少年と少女の人形だった。

 

黒い裾から生えた幾つもの関節を持った細指が、

その身体にも匹敵する巨大な黒い鋏を握っていた。

左右から掛かる圧力に、杏子の槍は悲鳴を挙げた。

 

舌打ちと共に杏子が手首を反転させ、戒めから槍を振り解く。

多節状態も解除させると、杏子は槍の先端を見た。

 

ナガレとの訓練を経て、段階的に硬度を上げていった魔槍の穂に、

左右からの切り込みが入れられていた。

獲物を取り上げられた双子と思しき人形が、口を半開きにした状態での無表情の貌で

杏子の顔を睨んでいる。

 

「(あの頭巾被りの魔法か…面倒くせぇ)」

 

雷撃のリナと人形遣いの京。

両者ともに、攻防の両方に秀でていると杏子は睨んだ。

道化の方は相変わらずリナの背後に隠れているが、気にしている場合では無かった。

 

「おい、呉キリカ」

「ん、なーに?」

 

苦々しい声で杏子は声を掛けた。

返事はすぐ隣からあった。

何時の間にか、呉キリカは杏子の傍にいた。

神出鬼没な彼女らしいと云えば、そうか。

 

「元はと言えば、テメェが撒いた種だろうが。不本意だけど手伝いやがれ」

 

断腸の想いでの一言だった。

道化は始末する予定だが、その障害の露払いはさせようと彼女は思っていた。

罵詈雑言を控え、正論をぶつけたのもキリカの機嫌を損ねない為であった。

 

「うーーーーん……」

 

長い唸り声が、キリカの細首から鳴っていた。

秀麗な顎に手を当て、美しい顔に苦悩の皺を浮かばせている。

如何にも「悩んでいる」という姿だった。

 

無防備な姿を前に、杏子の苛立ちが募っていった。

考える必要があるのかと、声を大にして叫びたかった。

杏子が苦悩していると、キリカは決心したように眼を見開いた。

 

「嫌だ」

 

豊かな胸の前で腕を組み、キリカはきっぱりと言い放った。

妙に男らしい口調で分かった。

友人と呼ぶ存在の物真似であると。

杏子がキリカに斬りかかった瞬間、リナの雷撃が両者を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「呉キリカの友人、ということでいいのかな」

「一応な。本人がほざいてたが、覚えやすいから『友人』だそうだ」

 

戦場の片隅で、黒髪の少年と薄紫髪の少女剣士が対峙していた。

 

「なるほど。君も大変のようだな」

「まぁな」

 

両者の口調は、何故か穏やかだった。

そこに、真紅の魔法少女の怒りの咆哮が両者の耳に届いた。

頃合いだとでもいうように。

 

「参る」

 

剣士が駆けた。

そして踏み出すと同時に、腰に差した刀を一気に引き抜いた。

銀の光が円弧を描き、少年の元へと飛来する。

瞬きを数十分割するほどの、刹那の中での一閃だった。

光の果てで、美しい音色が鳴った。

 

「…漫画やアニメでよくある、月並みな言い方だとは思うが」

「構わねぇ、言いな」

 

両刃の刀と黒い斧を合間に挟み、戦士と剣士が言葉を交わす。

 

「君は人間か?」

「他に何だってんだよ」

 

言葉の終わりと共に、両者は身を背後に引いた。

半分は自分の力で、もう半分は相手の力に押し遣られて。

 

「そうか」

 

再び距離が生じた時、麻衣の血色の眼に理解の色が宿った。

 

「あの場所に、君もいたのだな」

「ゲーセンの事か」

 

ナガレの言葉に、麻衣は頷いた。

そして美しい鍔鳴りを響かせつつ、刀を鞘へと戻した。

鞘の長さは、刀のそれより短くそして細かった。

便利だなと、彼は羨ましさを感じていた。

 

「余計なお世話だったろうな」

 

武器を格納した相手に合わせたか、彼もまた背に斧を仕舞った。

不可思議な様子に、麻衣は「これが佐倉杏子の魔法か」と思った。

当たり前だが、誤解であると彼女が気付くはずもない。

 

「あぁ、その通りだ」

「だろうな」

 

毅然とした言い回しを、彼は心地よくさえ感じた。

 

「ところで、何故助けた?」

「理由なんざいるかよ」

 

本心からだと、麻衣は思った。

声を発した少年の闇色の眼に、彼女は強い意志の光を見た。

 

「君は悪人ではないらしいな」

「どうだかな。こう見えても結構恨まれてんだ」

 

自嘲を交え、ナガレは応えた。

自らを恨む存在の数を、ぼんやりと彼は思い浮かべた。

すぐに無駄だと悟った。

 

「それなら私もだ。暴力沙汰で病院送りにした奴は二桁を下らない」

「どうせ正当防衛だろ」

「何故そう思う?」

「お前さんも、悪い奴には思えねぇ」

 

受けた麻衣の顔に、苦笑が宿る。

だが幾分か、身体の険が解れたようだった。

麻衣自身も、肩に圧し掛かっていた重圧が軽減していくのを感じていた。

 

「ありがとう。最近少し疲れていたせいかな、褒められて嬉しいよ」

「そりゃよかったけどよ、自分で言っててなんだけど、褒めた言葉って感じでもねぇだろ」

「確かにな」

 

やり取りに笑みの成分を感じたか、少年と少女剣士の顔には微笑が浮かんでいた。

傍から見たら、仲のいいクラスメイトにでも見えただろう。

両者の会話は、自然体で出来ていた。

気の合うところがあるんだろうなと、麻衣は眼の前の少年に対してそう思った。

 

「さて…そろそろ続きといこうか」

 

次の時間は教室の移動だったな。

学校生活で例えるなら、そんな自然な口調であった。

 

「あぁ」

 

軽く頷く少年もまた同様だった。

 

そして、両者は刃を抜き放った。

 

 











激突開始です。
また彼の敵の数は、原作を鑑みると最低でも80億はいそうです(虚無戦記より)。

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