魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「くそったれぇええええ!!!」
「落ち着き給え、佐倉杏子」
「テメェも五月蠅ぇ!やる気ねぇんならどっか行っちまえ!!」
「周りを見なよ。これじゃ何処へも行けないよ」
疾走する黒と真紅の魔法少女。
両者の周囲には、雷撃の毒蛇の群れが広がっていた。
それが時折、彼女らの衣装を掠め、焦げた芳香を大気へと振り撒いた。
悲鳴こそないが、代わりに罵詈雑言とマイペースな発言が交差していく。
リナが操る警棒から生じる雷撃の範囲は広く、
その隙間が少ない為に、両者は並走を余儀なくされていた。
「一発一発の威力は低いが、まるで風みたいに吹いてきやがる」
「ん?雷様と風は、ちょっと違くないかい?」
「比喩って奴だよ。一々突っ込むんじゃねぇ」
切ないなぁと、キリカは哀しげに嘆いた。
当然の如く無視し、ひたすらに雷撃を避けていく。
現状、杏子たちはリナを中心にしての周回移動をさせられる羽目となっていた。
行き先を雷撃に阻まれ、僅かな間隙を縫いつつリナの隙を伺う事しか出来ていない。
戦闘開始から既に五分ほどが経過していたが、
人見リナは魔力のコントロールに秀でた魔法少女であるらしく、
間断なく展開されている雷撃の範囲と力は、全く衰えを見せていない。
こちらの消耗を図っているのだろうと杏子は思った。
今の自分たちの状況は、蜘蛛の巣の上の獲物さながらであるとも。
「お前、甘い物が好きだとか言ってたよな」
「ああ好きだよ。愛とは比べ物にならないけどね」
唐突な問いだったが、キリカはすぐに返答した。
狂気めいた発言は別として、頭の回転は悪くないらしい。
杏子の問い掛けから、キリカは彼女の意図に勘付いていた。
「あいつらをブッ潰すのに協力してくれたら」
「了解!」
杏子が言い終わる前に、黒い奇術師姿が宙高く舞い上がった。
広げられた両手の先で、左右合わせて六振りとなる斧が不吉な赤黒い輝きを放っていた。
だが得物は展開されているが、それは完全な無防備状態でもあった。
「愚かな」
苦痛のような声で出来た一声と共に、リナは警棒を振りかざした。
人体の幅ほどもある雷撃は最早、蛇というよりも天を翔ける竜の胴体に見えた。
天を舞うキリカと地に立つリナの間を、極太の雷撃が繋いでいた。
異界の大気に、脂が焼け焦げる甘い香りが漂った。
「これは…ちょっと…きつい……かな?」
身に雷撃を浴びつつ、キリカは治癒魔法を全開発動。
炭化した肉が次々と再生され、雷撃の結界を強引に突破していく。
抗う魔法少女へと、雷撃が更に殺到。
さながら巨人の腕に捕獲された人間のように、キリカは宙へと固定されていた。
紫電を浴びた眼球が破裂し、一瞬にして赤雑じりの水蒸気の塊へと化けた。
体表を伝う青白い毒蛇達は、黒い魔法少女の耳や口腔、
そして孔となった眼窩や耳孔から体内へと侵入し、彼女の内臓全てを焼け爛らせた。
はらわたが焼け焦げ、心臓が沸騰した血液に孔を開けられ、肺が炭となっていく。
「きひっ」
極限の苦痛の中でキリカが発したものは、狂気の笑みであった。
発狂によるそれではなく、正気の狂気に依るものだった。
「ヴァン…パイア…」
身を焼かれ、魔の雷撃に捕獲され滞空しつつ、キリカが身体を仰け反らす。
喉を駆け上がる炎と共に出されたハスキーボイスが紡ぐ言葉が、
リナに恐怖の光景を思い出させた。
戦場となった廃工場の一角を、完膚なきまでに破壊した魔の牙を。
「ファング!!」
叫びと同時に、出力を挙げた雷の毒蛇の群れは全て、
キリカの両手から生えた魔斧によって、鎌首を飛ばされていた。
先の佐倉杏子の槍と似た状態だったが、あちらと違い、
こちらは斧が触れていない場所の雷撃をも破壊していた。
雷撃の群れが霧散していく様は、空間が断たれたかのようだった。
「リナちゃんっ!」
再び双子の人形が、リナの前に飛び上がる。
だが獲物を求める貪欲な牙は人形が握るハサミを砕き、そして双子の頸を落とした。
仮初の命を失った人形たちを前に、主たる京の顔は蒼白となっていた。
心も恐怖に縛られかけている。
迫り来る死の牙を前に、京は何も出来なかった。
一秒の後には、人形同様に彼女もまた頸を刎ねられる運命にあった。
だが直後、人見リナの拳が京の胸を強かに打った。
絶息の苦痛が京を苛みつつ、衝撃で後方へと弾き飛ばした。
そして掌底を放った左手に神速を宿し、警棒へと舞い戻らせる。
「ぐうぅぅっ!」
両手で握った、紫電を纏う警棒で、リナはヴァンパイアファングを迎撃していた。
若い淑女の顔は苦悶に歪み、自らを噛み砕かんとする牙の圧力に耐えていた。
軍靴の底が結界を割り、膝が地面に堕ち掛ける。
「あぁぁあああ!」
裂帛の叫びが、リナの口腔から噴き上がる。
同時に彼女の得物が眩い光で輝いた。
赤黒と相反する、純白の光であった。
「そう…れっ!」
上品さを伺わせる気合の叫びと共に、リナは警棒を大きく真横に振った。
万物を切り裂く筈の吸血の牙は、遂に獲物の首へと至ることは無く、
大きく横に逸らされていった。
肉の代わりということだろうか、矛先を失った牙は結界の地面に激突し、
深々と、そして長々とした傷を結界に刻み込んだ。
底部を抉られた結界は自重を支えきれずに破綻し、干ばつした大地のように砕き割られた。
破壊の傍らには、肩で息をしつつも二本の脚で大地に立つリナがいた。
一撃で風景を一変させる必殺技を、自警団長はほぼ単身で耐え切ったのであった。
「…なんて、馬鹿力」
魔の戒めを抜け、墜落しつつキリカは呟いた。
治癒と雷撃の勝負は、五分五分といった処のようだった。
彼女の全身には、生焼けと健常が等間隔で生じていた。
「もう雷撃はこりごりだ。後は君が遣って呉給え」
不死身の怪物の言葉を前に、リナが背後を振り返りつつ雷撃を放った。
警棒の先に、雷撃の白光に照らされる真紅の魔法少女の顔があった。
接触の寸前で、杏子の首が傾いた。
虚空を飛び去る雷撃の傍の杏子の眼には、嘲弄が宿っていた。
ただ逃げ回っていただけではなく、杏子は雷撃のパターンを頭に叩き込んでいたのだった。
風見野最強の魔法少女。
嘗てリナの先輩となった魔法少女は、佐倉杏子をそう評していた。
ふと生じた強者への恐怖。
そして以前から調べていた、風見野最強と称される魔法少女の過去。
自らを構築する正義の意思が、後者に対して反応を示していることを、
リナは自覚していた。
だが既に戦端は開かれ、槍と雷が振るわれている。
悩むという行為は、この時に於いて、限りなく贅沢なものとなっていた。
「行きますよ、佐倉杏子!」
迷いを振り切るように、リナは佐倉杏子との決戦へ臨んだ。
「寝言言ってんじゃねぇ、バケツ女ぁぁ!!」
真紅と、純白の交差が始まった。
「ひっ…」
治癒魔法による白煙が、キリカの全身から立ち昇る。
乾ききった髪が色艶を取り戻し、炭化した肌の下から美麗な白い肌が現れる。
赤黒い孔となった眼窩を押し広げ、黄水晶の瞳を宿した眼球が蘇っていく。
悪夢のような美しさを前に、京は悲鳴を挙げていた。
「其処のお嬢さん、卑しき私めと遊びませんか?」
朗らかに笑う呉キリカ。
一層の怯えを見せる佐木京。
主を守るべく、双子の人形が聳え立つ。
再生をしたということなのか。両者の首には縫い包みのような縫合痕が刻まれていた。
怯える主を一瞥し、両者は前方へと突撃する。
再生したばかりの黄水晶の瞳を爛と輝かせながら、キリカは両手に得物を生やした。
完全再生する前に相手を葬り去るべく、双子の守護者達は黒い魔法少女へと躍り掛かった。
雷撃は杏子の髪を焦がし、露出した肩を貫いていたが、リナ自身も負傷を負っていた。
直ぐに離せたものの、槍穂が右掌を貫通し、一閃が鼻先を掠め、
柄の部分による打突が脇腹に喰い込んだ。
最後のそれによる内臓破裂は治癒したが、他は血を流すままにさせていた。
燃費がいい魔法とは云え、治癒との併用は負担が大きすぎるのであった。
「麻衣、そちらは」
杏子の嵐のような斬撃と突きの連打を雷撃と体術で捌きながら、
リナは麻衣へと思念を送った。
救援の要請ではなく、純粋な心配からであった。
自分の近くを離れた京は既に、黒い魔法少女との戦闘に突入している様子が伺えた。
先程の雷撃が痛打となっている為か、双子の人形と魔法少女は互角の戦いを繰り広げていた。
「よそ見してんじゃねぇ!」
「其方こそ!」
麻衣からの返答が来る前に、杏子の槍が飛来した。
雷撃を放ち、紅の槍を迎え撃つ。
振り回される槍に、雷撃が蛇の群れとなって絡みつく。
槍を毒蛇達が伝うより早く、杏子は得物を手放した。
そして空となった両手を拳に変え、リナの顔面へと撃ち放った。
「ぐっ…」
防御に回した警棒が打ち上げられ、がら空きとなった頬を杏子の右拳が掠めた。
皮膚が裂けて鮮血が飛び、鋭い痛みが頬骨が砕けた事を訴えていた。
「お返しです!」
返礼に、リナは裏拳を放った。
杏子の放った正拳突きの衝撃を、逆に利用しての一撃だった。
「がっ…!」
自らが相手に与えた損傷と同じものを、杏子もまた受けていた。
互いに痛みを与えたまま、両者は一歩後退した。
そして再び前へと踏み込む。
その時には既に、両者の手にはそれぞれの得物が握られていた。
「うぉぉおおおおおおおお!!!!!!」
咆哮と共に、杏子が槍を振り回す。
その姿に、リナは暴れ狂う紅の竜の姿を見た。
「佐倉…杏子ぉぉおおおお!!!!!!」
暴竜の名を叫びながら、リナも雷撃を迸らせた。
紅と白光が乱舞となり、結界に衝撃が奔っていく。
物理的な破壊のみに限らず、大気もまた狂わんばかりの殺気に満ち溢れていく。
その発生源の一つは、先程リナが思念を送った場所であった。
其処からは、濃密な殺気と共に絶え間ない剣戟の音が生じていた。
思うところがあって、話のタイトルを変更させていただきました。
元ネタは新ゲの主人公の曲からです(どう考えても敵方の曲にしか思えない曲名ですな)。