魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第14話 闇の想い②

闇の中、黄を帯びた光が迸る。

それは一瞬の明滅を経て、空間を引き裂き何処までも伸びてゆく。

光を遮っていたのは、傷付いた少年の肉体だった。

先に開けられた胸の風穴の隣に、焦げ臭い臭気を昇らせる新たな穴が開いていた。

 

僅かに震えた少年の身体に、更に数条の光が吸い込まれていった。

腕に肩に、右頬や腹に。

 

「お願い…ですからぁ……こんなこと…哀し…すぎます」

 

光の源流たる杖を振るう道化の声と表情には、本心からの悲哀が顕れていた。

青い瞳を宿す眼からは涙の滴が溢れ、道化の挙動に応じて宝石のように宙に零れた。

涙の珠が宙を舞った瞬間、道化の感情に呼応してか、杖から激しい光が生じた。

 

熱された鉄板の上に、水を落とした時のような音が鳴った。

実際のところ、現象としてはその通りだった。

一瞬にして、大量の水分が気化したのである。

更に直後、ごとりという落下音までが生じた。

 

「あ…あぁぁぁぁあああああ!!!」

 

道化の声は、絶望感すら孕んでいた。

闇の中、地面へと落下したのは少年の右腕だった。

肘の辺りで寸断され、その断面は炭化していた。

 

「そんな…そんなぁぁあああ……!!!!!!」

 

絶叫を挙げる道化。

万物を呪うかのような、悲痛極まりない声だった。

涙が滂沱と溢れ、道化の頬を濡らし尽くす。

紛れもない本心からのものであったが、

それ以外の水音が混じっていることを彼の聴覚は捉えていた。

仮初の肉体の高性能さを、彼は思わず呪っていた。

 

道化が雌の部分を大気に晒してからというもの、彼の拘束は一段と強くなっていた。

発動中の洗脳魔法は、不可視ではあったが彼にあるイメージを与えていた。

彼の全身を這う手は、絶え間なく粘液を発しているかのようにぬめぬめとした感触となり、

熱線による傷口には、熱い蛭が穿孔していくような感触が宿り始めた。

その形状が舌であり、更に大きさで考えれば、

手と同様に道化のそれが原形であるという事は、彼の嫌悪感を加速させていた。

身に与えられる感覚としては快感、更に言えば性悦ではあったが、

嫌悪感と怒りがそれらを塗り潰していた。

 

「なんて卑しい魔法少女なんだ」

 

言った彼自身も、明瞭な発音に驚いていた。

右頬を熱が焼いた際、舌の一部は焼き切れていた。

 

ぴたりと、道化の動きが止まった。

悲劇に浸る、ヒロインの動作の最中だった。

涙の川が止み、悲哀の顔が能面のそれとなった。

次の瞬間、能面は悪鬼に変わった。

 

「あなた…ほんっと分からず屋ですねぇ…」

 

唇を震わせ、わなわなとさせつつ道化が語る。

 

「佐倉杏子は喧嘩好きのくたばり損ない、

 そしてあなたは傲慢で呉キリカはバカ、っていうか低脳の蛆虫湧き」

 

前後の二つと異なり、彼の場合は嗜めのような言葉遣いとなっているのは、

曲りなりにも彼を想っているためか。

 

「私の周りには、まともな人はいないんですかねぇ…」

 

彼の右頬の傷口が、俄かに深さを増した。

苦笑によるものだった。

彼の眼の前で境遇を嘆くのは、己が言った他者への評、

その全てを兼ね備えた者だからである。

 

「ま、これで一人は増えるでしょう」

 

道化が再び杖をナガレに向けた。

先端から飛び出したのは、眩いばかりの黄の光。

但しそれに熱は無かった。

代わりに、道化の欲望が満ちていた。

相手を膝下に置き、跪かせ、そして意のままにしたいという、邪な闇の想いが。

 

想いのベースは、よく言えば恋慕、率直に言えば性欲であった。

数体の魔女を犠牲にしてグリーフシードを確保、更に数日間禁欲を行い欲望を高め、

またここ最近の鬱憤を欲望に転化しての邪法が、彼を繭のように覆い尽くした。

 

熱い欲望に合わせ、黄色い繭が光を増した。

繭を構築する、円環を描いて旋回する無数の光を眺めつつ、道化は溜息をついた。

顔だけを見れば、正に恋する乙女の表情だった。

 

道化の左手に、黒い光が吸い込まれていく。

全力魔法を支えるために行使される力の穢れが、手に握られた魔の種に吸われていく。

全ての種を使い果たし、繭が破ける瞬間を道化は待っていた。

道化の胸は、期待に震えていた。

 

自警団長の眼を盗み、試しにそこらのヤンキー上がりと思しき夫婦で試したところ、

小汚いアパートに戻った途端に盛り始めた。

二十代後半といった具合の連中だったが、

その様子はまるで猿のようだったと道化は記憶している。

 

女の嬌声は今も道化の脳裏に貼り付き、それへの興味の源泉となっていた。

命を育む個所が疼き、役割を円滑に果たそうと熱い泥濘を作り出す。

 

ほんの僅かな、一瞬の光の交差でああなるなら、彼は如何なることだろうかと。

緊張と期待が混合する中、道化は想いを描いた。

途端に彼女の顔は淫らに蕩けた。

欲望の繭が限界を迎えて弾けたのは、まさにその瞬間だった。

 

 

 

 


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