魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第17話 垣間見る道化②

球体の闇が弾け、無色の世界に拡がっていく。

雌としての想いを滾らせる相手の記憶の発露を前に、

道化の身体は更に強い光を放った。

 

無明の闇に浮かぶ美しき女神。

うっとりと笑う道化は、自分をそう評した。

 

二十秒が経過した。

道化の手の上にある球体からの、闇の現出は続いている。

 

一分が経った。

変わらず、球体は闇を吐き出している。

 

五分が経過した時、道化は異常さに気が付いた。

球体の大きさは、全く変化していない。

だが、漆黒は際限なく湧き出ている。

 

「え、ちょ」

 

若干の混乱をしつつ、道化は上を見上げた。

右と左を、そして下方と背後に眼を向けた。

 

「……宇宙?」

 

全方位を確認した道化は、そう漏らした。

道化を中心にして拡がった空間は既に、

道化が把握出来るほどの広さに収まっていなかった。

無限に思えるような闇の中、無数の小さな光点が見えた。

視界の先では、束ねられた光点の群れが白色の広大な渦を成していた。

 

首を傾げる事も出来ず、道化は凍り付いたように眼の前の光景を眺めていた。

道化の予想では、彼の私生活の一端、家庭環境や交友関係、

または赤毛雌猿との交情が見られると思っていた。

実際に顕れた光景は、道化の理解を越えていた。

 

「友人君……壮大な夢をお持ちのようで」

 

口調には呆れと愛しさが含まれていた。

愛しさは、幼き者への侮蔑でもある。

 

光を求め、道化は闇の中を飛翔した。

思うだけで、幾らでも速度が出せた。

身を焦がす全能感を感じつつ、道化は光の渦の一つに飛び込んだ。

更に進み、渦を構成する惑星の一つへと道化が向かう。

魔法少女としては最底辺だが、飛び跳ねたり等の超身体能力は備わっている。

現在の飛翔は、その応用の一つと云えた。

 

星の周囲に廻る微細な衛星群を通過し、大気を一気に抜ける。

物理法則の一切を無視し、道化は地表へと降り立った。

着地の反動も破壊も無い、静謐な着地。

自らの行いを、道化は『降臨』としてほくそ笑んだ。

 

道化の姿は裸体であったが、寒さや暑さは一切なかった。

常に快適な温度が身を包み、呼吸さえも必要としていない。

この空間の中、現状の彼女は傍観者ではあるものの、神に等しい存在だった。

物語を読む、読者の立場に近い。

 

道化もそれを理解しているらしく、彼女は支配者の如く傲岸な視線で周囲を見渡した。

太陽と思しき光の下で広がる青い空が見え、荒涼とした大地の連なりが映し出されていた。

大地は途中で、緑へと変わっていた。

生命がいる証拠であった。

即座に、道化はそこへと跳んだ。

特に理由は無く、強いて言えば好奇心からのものだった。

記憶を覗いている筈なのに、理解不能な現象が続く事への逃避でもある。

 

一瞬の後、道化の眼に蠢くものの姿が見えた。

視認した存在を前に、呼吸を行っていないにも関わらず、道化は思わず息を潜めた。

それは巨大な生物だった。

道化の身長が元と同じく百五十センチとすれば、その十倍ほどもある。

建築物や、大型の魔女に匹敵するサイズだった。

 

巨木をねじ合わせたような太い腕に脚、そして蛇腹を見せた胴体。

赤色の鱗に覆われた体表の頂点は、鰐と蜥蜴を合わせたような貌。

ぱっくりと開いた口の中には、無数の鋭角がひしめいていた。

それらの大きさは、道化の掌ほどもあった。

恐竜という単語が道化の脳裏に閃いた。

人類以前に地球に覇を成した巨大生物の威容に、その異形は似ていた。

 

だが、その貌にある眼球は二つでは無かった。

感情を宿さない真円の眼は、左右合わせて八つもあった。

その配置は整ったものではなく、横長の顔の顎や頬、狭い額や首の付け根など、

ばらばらにも程がある場所に点在していた。

 

更に三本指の先端に爪を備えた腕は胴体に沿って八本も並び、

それらは絶え間なく、もぞもぞと蠢いている。

計十六本の腕が動く様は、巨大な百足を思わせた。

 

異形の竜は、細長い口吻を天に向かって突き出した。

牙が並ぶ口が開かれる。

牙の先には光をもたらす白い太陽。

天を喰らうかのようだった。

 

その時、竜に注がれる光に翳りが射した。

瞬時に竜は跳んだ。

道化は気付いていなかったが、

巨体にも関わらず、竜の身のこなしは魔法少女にも劣っていなかった。

直後、暗がりに光が炸裂した。

 

「え、何が」

 

傍観者である道化の疑問は、更なる疑問に塗り潰された。

光の根源に、巨大な何かが立っていた。

異形の竜が吠えた。

無数の釘が、鉄板にぶち当たったかのような声だった。

 

咆哮を受け止めるように、立ち昇る白煙の中に巨大な影が聳えていた。

海のような青色をしたそれは、人間のような姿をしていた。

だが肌の表面には甲虫の背中を思わせる光沢があり、

脂に濡れているような輝きを放っていた。

 

幾房もの強靭な肉が密集した手足に、甲殻のような腹筋が貼り付いた腹が見えた。

くびれを見せた腰から下には、黒々とした体毛が密集している。

 

その反対側である、肉体の頂点。

巌のような顔には群青色の二つの鋭い目が嵌められ、人の唇に似た造形をした口元からは、

上と下から突き出た二本の牙の交差が見えた。

そして最後に、冷たい炎の色を宿した眼の真上である額には、

天を射抜くように伸びた一本の巨大な角が生えていた。

 

「…鬼?」

 

竜が再び吠えた。

鬼もまた吠えた。

前者は無数の金属音、後者は腐れた泥濘が掻き回されるような水音。

外見も含め、明らかに通常の生物から逸脱した存在であった。

似たような存在を、道化は知っていた。

魔女である。

 

だがその一方で、異形たちと魔女との明確な違いを、道化は感じていた。

魔女も生物であり、血が通い、体内には臓物が据えられている。

とは言えその外見は大体の物が戯画的な容姿であり、

現実離れした存在として彼女らの日常に君臨している。

 

だが眼の前の異形たちは、身から発する生命感が段違いに高かった。

現実離れした存在ではあるが、紛れもない現実だと、

無言で雄弁に物語るほどの生の生々しさを、異形たちは放っていた。

 

傍観者の困惑など文字通り露ほども知らずに、異形たちが激突した。













長くなりそうなので、読みやすい程度の長さにすべく少し区切ります。
(来週中には残りも書き上げる予定です)

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