魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第22話 夜は更けゆく③

「つまりだ、友人。

 私の学園生活は中々に退屈で且つ興味深くクソ如何でもいいのだよ」

 

思念によるキリカの話を、ナガレは半ば聞いていなかった。

彼の頭の中を占めていたのは、もうそろそろ寝たいなという睡眠欲と、

あいつ何処行ったんだろという腐れ縁の殺戮兵器への思いであった。

因みに、前者が思考の九割を占めていた。

欲求に素直といえばそうだが、あんまりでもある。

 

この辺りは自らが駆る最強の兵器が、一方で最悪の敵でもあるという事が

多少なりとも起因しているのだろう。

彼とて悩みの一つや二つはあるのであった。

例えそれが常人の感覚に換算すれば、

「いつも使う自販機で、好きな銘柄の珈琲が無かったらどうしようか?」

程度のものだったとしても。

 

放置するのは危険な代物だとは思っているが、現状では発見しても邪魔なだけである。

三分割したら余計に幅が伸び、通常時でも教会内には入らない。

仮に入ったとする光景を彼は思い浮かべた。

シンプルだが凶悪な外見と相俟って、邪神の偶像にしか思えなかった。

(実際のところ、邪神は比喩表現ではなく紛れもない事実である)

 

そもそもこの状況が、彼のこれまでの戦記からしても異常に過ぎていた。

紛い物としか思えない肉体に精神を押し込められ、

魔法少女なる存在と延々と戦わされている。

 

後者はまだしもとして、軟弱にも思える外見が気に喰わない。

紛い物に違いないとは思いつつも、紛れもない自分であるという確信もまた、

彼の苛立ちを促進させた。

そのせいか、感覚がマヒしているのかもしれなかった。

鈍感とも云うのだが。

 

「意外と楽しんでるみてぇだな」

 

聞き流しも飽きたのか、ナガレが返事をした。

その頃には既に頭が切り替わり、それまでの苛立ちや物騒な存在の事など

忘却の彼方に消えていた。

 

「話を聞いていないようだな友人。私はさっちんの恋愛脳に悩まされる日々を送っている」

「初耳だな。誰だよそいつ」

「なんだ友人。今度はさっちんに欲情したのか?」

「だから、誰だよ」

「さっちんはさっちんだ。綽名の由来は恋愛脳だから。どうだ友人、満足か?」

「いいから黙れよ。さっさと寝ろ」

「その手には乗らないぞ友人。私を朱音麻衣と同じと思わない事だ」

「俺に分かるように言いやがれ」

「質問は許可していない。私に対する全ての要求を完全に拒否する」

「何かの台詞か?」

「いや、私のオリジナルだ。著作権料は君の命×無量大数」

「流石にそんなにはいねぇな…多分」

「何を言っているんだ?」

「こっちの話だ」

 

微妙に噛み合わない会話が、無音のままに延々と続いていく。

キリカが泣き止むのには、相当の時間が要された。

彼の感覚では二時間は説得していたような気がしていた。

何が決め手と為ったのかは不明だが、ある時を境にキリカは泣き止んでいた。

そして代わりに、彼女主導による世間話が開催された。

ナガレは後悔した。

隙を突いて頭部を殴打し、黒い災厄を気絶させるという選択肢を持たなかったことを。

 

「分かってはいたが、君の云う事は意味不明だな」

「そいつはそっくり返してやらぁ」

「全く、君と話していると疲れる。折角浄化したソウルジェムも濁ってしまう」

「…『ソウルジェム』?」

 

初耳の単語だった。

美しい響きであるが、同時に彼はその言葉の並びに禍々しい気配を感じた。

 

「君は莫迦か?さっき自分で浄化していただろう。

 伏線回収もロクに出来ないのか?それで本当に主人公のつもりか?」

 

発言者のキリカは呆れた声を出した。

極力無視し、ナガレは言葉の意味を脳内で検索に掛ける。

 

「『ソウル』ってな…『命』って意味だっけか?」

「『魂』だよ、このおバカ。

 ついでに『ジェム』は『宝石』だよ。よかったな友人、また一つ賢くなったね」

 

彼としては大真面目だったが、それだけにキリカは呆れ切っていた。

 

「大丈夫なのか、それ」

「大丈夫という言い方がなんか童貞臭いな。まぁ面倒事も無くは無いが、結構便利だ」

 

闇の中でむくりと起き上がり、キリカは左腕を伸ばした。

ナガレの視力は闇の中でも鮮明に魔法少女の姿を捉えていたが、

彼の視線が注視するのは細い左腕の先端であった。

中指の中央で、闇よりも深い紫色の光が灯る。

キリカの手が反転し、掌の上に光が移る。

 

光が得た輪郭は、装飾をされた卵型の丸い宝石。

だがその装飾は、檻のような枷にも見えた。

まるで、何かを閉じ込めているような。

杏子のものを見た時もそうだったが、彼にはそう思えてならなかった。

 

「私が既に実践しているが、これが輝く限り魔法少女の力は尽きない。

 ある種の無敵という奴だ」

「例外はいるみてぇだけどな」

 

ナガレの口調は憎々し気であった。

自分を熱線で穴だらけにし、腹筋に淫らな液を擦り付けた道化の事を思い出しているのだろう。

 

「治癒にしてもそうだ。魔力があれば幾らでも回復できる。

 ある意味魔法少女とは『肉の檻から切り離された存在』とも云う」

 

魔法少女の不死性についての解に、彼の驚きは少なかった。

この辺りは異形と戦い慣れている為だろう。

『肉の檻から切り離された』。

その表現が、妙にしっくりときていたせいもあった。

洒落た事言うなとばかりに、思わず関心したほどだった。

 

「てこたぁ、そいつがお前らの弱点か」

 

彼は率直に聞いた。

別に威嚇しようとした訳ではない。

前々から思ってはいたが、いい機会だから聞いておこうと思ったのである。

 

「友人、もう少し考えて発言し給え」

「悪ぃな、口が悪いのは生まれつきでよ」

「何を言っている?私は『そんな事聞かなくても分かるだろ?』と続ける積もりだったのだが」

 

そのでっかい口は放射能を喰う為だけにあるのか?と、

キリカはよく分からない罵倒を繋げた。

反論しようとしたが、あながち間違っていない気がしたために彼は口を閉じた。

が、直ぐに開いた。

今度は自らが問う為に。

 

「何で俺にそいつを教えた」

 

問い掛けではあったが、糾弾のような口調だった。

自ら命を曝け出すに等しい行為に、舐められていると感じたのだろう。

闇色の眼に乗せられた殺気に等しい視線に、キリカは首を傾げた。

 

「話が尽きたからに決まってるだろう。私はボキャ損なんだ」

「あぁ、だと思った」

 

言いつつ、ナガレは改めて呉キリカという存在がよく分からなくなった。

だが理解したら不味い存在というのには比較的慣れていたので、

まぁいいかと無理矢理に納得させた。

思考を整理していく中で、キリカが言った『ソウルジェム』なる存在を思い返す。

キリカの言葉が真実であるなら、これが魔法少女の弱点であり力の源であるらしいと。

 

「炉心みてぇだな」

 

と、ナガレは思った。

そしてこちらも大概だが、『魂』の『宝石』という存在もまた、嫌な予感がしてならないとも。


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