魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第22話 夜は更けゆく④

「信じられない。全く以て完全に信じられない」

「あぁ、俺もだ」

「こんな難解で厄介で、そして物騒な奴がこの宇宙にいるなんて」

「同感だ。そこだけは気が合うな」

 

 暗い室内では、会話が続いていた。

 淡々としたキリカの口調に対し、ナガレのそれは刺々しさで覆われた思念となっていた。

 

「それでだ友人、さっちんによると中学生女子の経験率はだな」

「さっき聞いた。あと聞きたくねぇって言っただろうが」

 

 そして何時の間にか、話の内容は魔法少女の宝石から年相応な話題へと移り変わっていた。

 魔法少女の謎について興味が無い訳でもないが、ナガレの問いはキリカの主導によるトークの渦に飲まれて消えた。

 

 キリカの話に適当な相槌と、無駄と分かってはいても一応は行う抗議を打ちつつナガレは新しい情報を脳味噌に刻み込んだ。

 プレイアデス、マギウス、そしてソウルジェム。

 前二つはキリカから見ての敵対組織の模様であり、後者は魔法少女の力の源泉。

 どう考えてもこれら全ては、今後の厄介事の原因になる気がしてならない。

 だがそれに漠然とした嫌な予感は抱いてはいても、彼は微塵も恐れていなかった。

 この先に何が待っていようがこれまで通りに真っ向から向かうだけだと、言葉ではなく本能でそう理解していた。

 

「大体の場合、長期休暇の際にコトに及ぶらしい。まぁさっちんの事だから恋愛脳からの妄想だろうがね。

 あぁ、因みに私は清く正しい中学三年生なのでそういった事は一切ない。よかったな友人、また私を題材にした邪な妄想が捗るぞ」

 

 だが呉キリカは彼の意志など露知らず、相変わらずに彼の気を害する話題を振り撒いていた。

 因みに話題がループしており、この話を彼が聞くのはこれで三度目となっていた。

 

「だから興味ねぇっつってんだろ」

「それは私も同じだ。ひょっとして気があるとでも思っているのか?

 これは重症のようだな。噂に聞く調整屋とやらへの通院をお勧めする」

「何だよそれ」

 

 新たな単語にナガレは怪訝な様子を示した。

 黒い魔法少女との会話は一刻も早く切り上げたいが、こういう事がある為に油断ならないのであった。

 

「偉そうな名前の隣町にあるらしい施設というかお店らしいよ。さっき見せたソウルジェムを弄ってもらえるらしい」

「てこたぁ、鍛冶屋みてぇなもんてことか?」

 

 ナガレの脳内には、ソウルジェムが職人によって装飾を手入れされたり、火箸で摘ままれて高温で熱され、槌で叩かれまくる光景が浮かんでいた。

 槌が激突し炎が舞い踊るたびに宝石は輝き、魔法少女の力も増していく。

 ただでさえ強力な存在である魔法少女が更に強化されるという想像図に、ナガレは軽く畏敬を覚えていた。

 但しそれは身に迫る危機感からではなく、随分とアナログで実直な強化方法だなという勝手な感想からのものだった。

 『調整』という言葉からの発想としては間違っていないのかもしれないが、無知とは恐ろしいものである。

 

「で、それと俺に何の関係が?」

「さささささではないが、君の正体は恐らく魔法少女の出来損ないだ」

「てめぇもそれを信じてんのか?」

 

 二人称の変容が表すように、キリカの発言は彼の怒りに火を着けた。

 

「いや全然。興味ないからね」

「話は終わりってこったな。さっさと寝て脳味噌を冷やしやがれ」

「まぁ話は聞こうよ、友人。それが大人への第一歩だ」

「魔法『少女』がぬかしやがる」

 

 口調の刺々しさが増しているのは、言うまでも無く怒りの所為である。

 

「正直言って、さっきはノリで言ったから何も考えていないんだよね」

「俺が言うのもなんだけどよ、てめぇは考えるってコトをしてんのか?」

「ま、百聞は一見に如かずというだろう。詳細は実際に行って確かめ給え。なぁに、これは俗に云う伏線というやつだよ」

 

 ベッドの上でえへんと豊かな胸を張り、キリカは自信ありげに応えた。

 上手いことを言った積もりらしい。

 つきかけた溜息を喉奥に押し込めつつ、ナガレは返事を送った。

 

「お前、ホントに脳味噌あるのか?」

「友人、それはさっき見ただろう?」

 

 うぐ、とナガレは言葉を詰まらせた。

 割れた頭蓋から破裂した脳をちらりと見せながら、血塗れの顔で朗らかに笑う魔法少女の姿を思い出したのだった。

 

「じゃあもう少し考えて物言えよ。妙にシモの話題を振りやがって。恥ずかしいとか思わねぇのか?」

「はぁ?何で私が君に話し掛ける事程度の些事如きで長考しなければならないんだ?

 君は狂ったドクサイシャにでもなった積りか?世界は君を中心に回っているとでも?」

「嫌な例えをすんじゃねぇよ、バカ野郎。縁起でもねぇ」

「野郎だと?おいおい友人、遂に性別の見境さえ無くなったのか?まぁ、そういった事は私は口を挟む気はないが」

「お前と話してるとアレだな、なんか自分の人間性ってやつが再確認できてくる」

「そういえば話が変わるが、友人の入ってる布団はこの前さささささが入っていたやつだね」

「…洗ったんだろうな?」

「相変わらずスケベだな君は。ちゃんとお洗濯したに決まってるだろう」

 

 憤然と告げるキリカ。

 その発言に、ナガレは無意識に嗅覚を働かせた。

 これは一種の危機反応からによるものであり、彼の生存能力を高めている原因の一つであったが、鼻孔から空気を吸った瞬間に彼の脳裏に淫らに笑う道化の姿が浮かび上がった。

 少年の顔が一瞬苦々しく歪み、そして戻った。

 弱味を見せまいとしたのだったが、その一瞬はキリカによって補足されていた。

 

「友人、我慢は身体に悪いぞ。『欲望なんて解き放て』と、懐かしい歌も云っている」

「お前、どういう意味で言ってるのか分かってんのか?」

「清らかな乙女にそれを云わせる積りか。君は中々の策略家だな」

「中身はどうあれ俺を友達扱いしてくれてるから言ってやるが、野郎相手にそういう事ばっか言ってるとロクでもねぇ事になんぞ」

「加減が分からないんだよ。初めて言葉を交わした際に言っただろう?『人生経験及び対人経験値の少なさ故と思って諦めて呉』と」

「つまり俺は実験台か」

「まぁそういう事だな。今後ともよろしくね、友人」

「あぁ。長い付き合いになりそうだな」

 

 噛み合う事の少ない両者の会話だが、この時は奇跡的に会話が成り立っていた。

 それが例え前者はどうでもいいような口調であり、後者は皮肉っぽい言い方であったとしても。

 

 思念を交わし終えると、彼は頃合いだと思った。

 キリカからの追撃トークも無く、寝るならばこれが最後のチャンスに思えた。

 魔法少女との会話は彼の精神に多少の疲労を与えたが、彼はそれを含めて悪くない気分だった。

 新しい事柄の幾つかを断片的にだが知ることが出来、またキリカとの会話を一種の戦闘と捉えていたためだろう。

 だがとはいえ疲労は溜まるものであり、生物である以上多少の休息は必要だった。

 先程魔法少女が消耗を回復したように、自分もまた休むべきだろうと思っていた。

 眼を閉じようとした刹那、闇色の瞳に白い光が差した。

 そして彼は気付いた。

 カーテンの隙間から入り込む光が、その強さを増していることに。

 

「朝だな」

 

 彼は思念ではなく声でそう言った。

 少女に似た声は、苦々しさと疲労で出来ているかのようだった。

 

「光あれ。そして邪な友人に滅びを」

 

 仰向けになったまま、広げた両手を天井へと伸ばしキリカが言った。

 敬虔な修道女が発した、祈りの言葉のような美しい声で。

 

「ほざきやがれ。この吸血魔法少女が」

 

 対するナガレの声は、キリカが評した『邪』というものが似合うような、飢えた獣の唸り声のような音であった。









会話が多い回となりました。

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